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その傘をはずして  作者: L.Y
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(7)

 歩くん。卒業おめでとうございます。


 私は今、施設の部屋でこの手紙を書いています。

 あなたがこの手紙を読んでいる頃は、きっともうすぐ桜の花も芽吹く季節なのでしょう。できることなら、みんなでお花見に行きたかったですね。


 伊織ちゃんが初めてあなたを連れてきた日のことはよく覚えています。あなたも伊織ちゃんも、実に白々しい演技をしていましたよね。


 とってつけたような二人の掛け合いはすごくぎこちなく、まるでできの悪い漫才を見ているようでした。だからあなたと伊織ちゃんが、本当は恋人同士ではないということにも、最初から気付いていました。


 私の前で顔を引きつらせて笑うあなた達を見て、とても心が痛みました。でもそれは、決してあなたたちに嘘をつかれたからという理由ではなく、私が吐いた弱音で伊織ちゃんのことを追い込んでしまったことに対する罪悪感から生まれた痛みでした。


 あなたと伊織ちゃんがあまりにも一生懸命だったから、いつしか私も二人の嘘の関係を指摘することができませんでした。


 でも時が経つにつれ、あなたたちは少しずつお互いのことを分かり合おうとしていきました。最初は嘘の関係だった二人の距離がどんどん縮んでいき、いつしか二人は本物の恋人同士のように変化していったのです。


 居間で勉強をしていたり、台所で皿洗いをしていたり、真央ちゃんが買ってきたアイスを二人で仲良く食べている光景は、私の心に生きる希望を与えてくれました。


 先日の結婚式で、伊織ちゃんのことを幸せにすると誓った時のあなたの言葉に、嘘はなかったと思います。


 もちろん、その想いに答えた伊織ちゃんも同様です。でも私がいなくなった時、きっと二人の間には何らかの障害が発生するでしょう。そのことがきっかけで二人の関係が破たんしてしまうのは、とても悲しいことです。


 私はもう、十分に幸せです。何も迷う必要はないのです。今度はあなた達が幸せを見つける番です。



 歩くん。今、あなたの気持ちはどこにありますか。この半年間で、あなたの中の伊織ちゃんは、どんな存在になりましたか。


 あなたも伊織ちゃんも、周りのことばかりを気にして、自分の気持ちをおざなりにしてはいませんか。自分に自信が持てなくて、心に重たい蓋をかぶせてはいませんか。


 もうとっくに気付いているのでしょう。自分の本当の気持ちに。今こそ、その真実の気持ちに向き合う時ではないでしょうか。


 例えるならば、あなた達はずっと傘を差し続けているのです。雨が止んでいることに気付いているのに、いつかまた降ってくる雨におびえ、体をすっぽりと隠す大きな傘の中で、ずっと視界を狭め続けているのです。


 だから、その傘をはずして。


 そして、空を見上げてごらん。きっとあなた達が見る世界は、晴れ渡っているから。

 その燦燦と輝く太陽の下で、伊織ちゃんの隣にあなたがいてくれたら、私は嬉しい。

 

 そしてできることなら、右手に傘を持って、空いた左手で伊織ちゃんの手を握ってあげてほしい。


 長い人生の中で、通り雨は幾度となく降るでしょう。その時は、あなたが持っている傘の中で寄り添って、また雨が上がったら、晴れ渡る空の下を二人で歩いていけばいい。


 水たまりの前で立ち止まったっていい。いっそのこと傘を放り出して、ずぶ濡れになっても構わない。

 あなた達ならきっと、そんな苦難さえも楽しんで乗り越えていけると、そう信じています。


 とんだおせっかいだったかもしれないけれど、これが私にできる最後の応援です。

 だからこれからのことは、歩くん自身で決めてください。


 歩くんの未来に、幸多からんことを願っています。



 

                                       雅田 椿


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