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その傘をはずして  作者: L.Y
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(6)

 努力の甲斐あって、大学にはなんとか合格できた。


 両親に報告をした後、大学の構内にあるベンチに腰掛けてSelに電話を掛けた。電話を受けたのは伊織で、駅でのことがあったせいか受話器越しに気まずい空気が流れた。


 しかし僕が合格の旨を伝えると大仰に喜んでくれて、興奮しているのか、現在接客中の真央さんに無理やり電話を変わってくれた。真央さんも仕事中だったためあまり話しをすることはできなかったが、伊織同様に僕の新たなる門出を祝福してくれた。


 合格発表後は仮契約していた物件を本契約するために、大学から直接不動産屋に向かった。その不動産屋は全国展開しており、地元の支店の担当者に事前に連絡をしてもらっていたのだ。


 いくつかの書類を受け取った後、不動産会社の社員に駅まで送ってもらい、そのままとんぼ返りした。 最寄り駅に着いたのは夜で、自宅にはすでに両親が帰ってきており、久しぶりに家族水入らずでうなぎを食べに行った。食事の最中、伊織とはうまくいっているのかと聞かれたが適当にはぐらかしておいた。


 次の日、真央さんから電話があった。三人で、大学の合格祝いをしようという誘いだった。僕も出発前に一度はお守りのことや、今までお世話になったことのお礼が言いたいと思っていた。


 しかしあいにく、僕は月の半ば過ぎまで予定が詰まっていた。これから部屋の片付けや荷造りを行い、尚且つ一人暮らしに必要な備品などを買いそろえなければならない。この町に住む親戚達にも顔を出すように言われており、マンションも数日後に入居することが出来るため、来週末は家族で旅行がてらマンションに赴き、家電類を購入するという計画も立てていた。


『それじゃあせめて、歩くんの時間がある時に店に来て。渡したいものがあるから』


 必ずよ、と真央さんは語尾を強めて言うと電話を切った。


******


 出発の日が一週間前に迫ってきたその日、僕はSelへと赴いた。三月も残り十日ほどとなり、朝夕の冷え込みが徐々に薄れ、日差しは暖かくなっていた。


 昼過ぎに着いた店内には真央さんしかいなかった。伊織は今日休みをもらっているらしい。


「いらっしゃい。とりあえず座って」


 促されるまま、僕はソファに腰掛けた。出されたハーブティとお茶菓子をつまみながら、僕は改めて大学を合格したことを報告し、お守りのお礼を言った。隣に腰掛けた真央さんは満足そうに頷いて、どういたしまして、と言った。


「それで、いつ出発するの?」

「来週の月曜日です」

「何時ごろ?」

「三時の便で出るつもりです。昼までは両親と一緒にいようと思って」

「ご両親も寂しくなるわね。もうあと一週間しかないものね……」


 真央さんは憂いを帯びた瞳で言うと、ハーブティを一口飲んで立ち上がった。


「ちょっと待っててね」


 真央さんは一度カウンターに戻り、棚の中からな小さな紙袋を取り出すと、それをガラステーブルに置いた。その小袋は真っ白で光沢があり、袋の中心に何かのブランドの名前が滑らかな筆記体で書かれてあった。


「どうぞ」


 差し出されたそれを、恐縮しながら受け取った。中身を見るように言われたので取り出すと正方形の小包が入っていた。


 包装紙をゆっくりとはがすと、紺色の化粧箱が現れ、中を開くと高級感のある腕時計が入っていた。色は銀色で全体的に簡素な造りだが、よく見ると十二個の文字盤の色がすべて違うなどの遊び心もあり、どんな場面でも合わせやすそうな形だった。


「こんな高価なもの、頂けないです」


 僕が遠慮がちに言うと、真央さんが、違うの、と言った。


「それはおばあちゃんからのプレゼントよ」

「……おばあちゃんから?」


 真央さんは頷くと、おばあちゃんと交わした約束について話してくれた。


「あの結婚式が終わった後、実は一度だけおばあちゃんと外出したの」


 その日おばあちゃんと真央さんは、街のショッピングモールにこの時計を買いに行ったそうだ。その外出の件は伊織にも言っていないらしい。


「おばあちゃんはきっと、自分の死期を悟っていたのね。私に最後のお願いって言って、この時計とあるものを託したの」

「あるもの?」


 真央さんは頷くと、上着のポケットから一枚の封筒を取り出した。封筒には楷書体で「月島歩様」と書かれてあった。きちんと糊付けされており、裏面に「雅田椿」と書かれてあった。


「卒業してちゃんと進路が決まってから、この時計と手紙を渡してほしいって頼まれていたの。もちろん、私はその手紙に何が書いてあるのかは知らないわ」


 そして真央さんはゆっくりと立ち上がり、カウンターから財布を取り出して言った。


「私はこれからお昼ご飯を食べに行くから、もしもあなたが良かったら、ここで読んでもいいわよ」


 そう言い残して、真央さんはドアの向こうに休憩中の札を取り付け、店を出て行った。ドアが閉められた後、僕は一度深呼吸して、ゆっくりと封を切った。中には三つ折りになった便せんが入っていた。


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