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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【怪物と呼ばれた少女、神の願いを聞き世界を救うために異世界へ渡り英雄となる】 第1部 第3章 聖騎士学校の特別試験
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第39話 リブさんは連れていかれました。

 ゴブリンの集落に向かってきた騎士はざっと見て、100人どころではない数である。この領地がどのくらいの騎士を置いているのかはわからないが、それなりの割合の騎士を連れてきているのは明白だった。


 先頭を進んでいた騎士が二人に気が付いたようで、いったん進行はそこで停止した。その後、奥からゆっくりと豪華な鎧に身を包んだ騎士がやってきた。


「どうやら、あなたたちがここにいた厄介なゴブリンを退治してくれたのかな?ここの領主に代わってお礼をさせていただく。」

「お礼はありがたいのだが、それよりもここの領主に聞きたいことが出来た。申し訳ないが、領主と話をさせてもらいたい。」


 その言葉に相手の騎士はふむ、と唸ってから返事をしてきた。


「どうやらなにかゴブリンたちから聞かされたようですね。ここにいるゴブリンたちは人間の元から逃げ出したゴブリンたちなのです。それで知恵を付けてしまったようで、平気で嘘をつき人を騙すのです。お二人が何を聞いたのかはわかりませんが、早々にゴブリンたちを退治することがこの領地の平和に繋がります。どうか、ご理解ください。」

「それは無理だ。今回の仕事はこの領地でのゴブリンたちの扱いについてを調査することも目的としている。明らかに違反であるという情報をゴブリンたちから聞いた以上は確かめる義務がある。」

「もちろん、そちらの誤解につきましては領主様より説明させていただきますとも。しかし、その前に危険な因子を排除しないといけません。それが我々の仕事なのです。」

「そういうわけにはいかない。あのゴブリンたちは証人となりえる。まずは話を聞いてからしか攻撃は認められない。」

「・・・どうやら納得いただけないようですね。仕方ありません。」


 騎士が合図をすると、周りから凄い数の魔力が一斉に高まっていく。


「申し訳ありませんが、お二人には勝てそうにありませんので、こちらも策を用意しております。」

「リブさん!どうしますか?」


 おそらくだが、これは魔法による遠距離攻撃だ。花のイメージでは騎士は接近戦を仕掛けてくるものだと思っていた。なので、この集落の入り口さえ守れたら、なんとかなるとばかり考えていた。まあ、リブはそうでもなかったのだが。


「問題ない、想定内だ。」

「え?」


 ゴブリンの集落へと降り注ぐ魔法。どうやら炎の魔法による遠距離攻撃のようである。かなりの大きさの火の玉が集落へと襲い掛かるものの、その火の玉は集落の上空にて魔力の壁に防がれてしまう。


「結界ですか。なんとも用意周到ですね。でも、それも所詮は急ごしらえでしょう。いつまで持つのでしょうか?」

「3日でも持つだろうな。最上級の魔法道具を持ってきている。」

「な、なんだと!」


 第一陣の魔法は全て着弾したようではあるが、たしかに結界は全く揺らぎを見せなかった。実際に3日持つのかはわからないが、あながち嘘というわけでもなさそうに感じる。


「ハナ、遠距離攻撃してきた魔法使いの位置はこの魔法道具に記録されている。排除してきてくれ。ここはこっちで受け持つ。」

「えっと・・・」

「大丈夫だ、他の準備も万端だ。」

「わかりました!」


 本当は花はもっとちゃんと考えるべきである。しかし、ここはもうリブの言うことを信じて行動した方が良いと判断した。リブはこの状況を予想し、ちゃんと準備をしてきていた。集落を守る事態になることもリブにとっては想定済みの事態なのだ。だとしたら、自分が迷ってなにかを邪魔するよりかは、リブの望むことをこなした方が良い。それが今の仕事だと花は考えた。


「お、おい、待ってくれ!」


 あっという間にいなくなった花に対して、騎士は引き留めようとしたようだが花は聞く耳を持たなかった。すぐに見えないほどのところまでいってしまった。それを見た、相手の騎士は魔法道具に向かって叫ぶ。


「魔法部隊!作戦中止だ!今すぐに警戒態勢をとるんだ!」

「は?隊長どうしました?」

「聖騎士が一人、魔法部隊の制圧に向かった!警戒するんだ!」

「りょ、了解しました!」「了解です!」「りょうか・・・警戒してどうにかなるとでも思っているんですか?」

「な、なんだと!」


 通信用の魔法道具から聞こえてきたのは花の声だった。どうやらすでに一つ目の部隊を制圧したようだ。


「こうなってはもう魔法によってゴブリンたちだけを倒すことは無理のようですね。」

「そうだな、ここを突破するか?」

「それも対策してありそうですね。」

「当然だな。そして、こちらは手加減しないことを示すために魔法部隊は制圧させてもらう。」

「死人は出ないようにしてもらえると助かる。」

「花はそこまで残忍じゃないさ。だから、ここにいてもらっても困る。」


 その言葉の意味を聞こうとした騎士ではあったが、聞くまでもなかった。リブの瞳は恐ろしいほどに冷たく、目的を果たすために自分たちを殺すことなぞなんの障害にも考えていないことを騎士は察するに余りあった。


「あの娘に感謝しないといけないのだろうか?」

「ああ、こっちとしては指揮官以外を本当は全滅させたかった。そうすれば、どうであれ領主は引きずり出せる。」

「・・・領主様と話ができるように案内しましょう。」

「少なくとも愚かではない指揮官のようで安心した。」

「私たちで勝てなかったゴブリンを圧倒した相手に正攻法では挑めんよ。」

「・・・意外だな、もっと強引な手に出てくるかと思っていた。」


 こうして集落での戦いはほとんど何もなく静かに終わったのであった。


---


 隠れていた、6つの魔法部隊を壊滅させて戻ってきた花。どういう展開になったのかについてリブに尋ねると、リブだけが領主が待つという領主の屋敷まで行くことになったということだった。しかも、花には集落を守るために残っていた欲しいというのがリブからの要請である。


「え、一人で行くんですか?」

「ああ、結界はあるが、それだけは不十分だ。結界を破る魔法道具もある。いざという事態に一人は残ってもらうしかない。だから、この事態は一人での解決は難しかった。」

「・・・なにか隠してませんか?」

「説明が必要ならしても良い。ただ、聞かなかった方が良いかもしれない。」

「それじゃあ、ざっくりとお願いします。」

「常人には見せるには少々刺激の強い魔法道具を使用する。」

「あの・・・無茶苦茶するつもりじゃないですよね?」

「ああ、おそらくだが、死人は出ない。その段階はもうこないだろう。」

「来る予定があったんですか?」

「うん?ゴブリンが本当に悪事を働く敵性亜人なら全滅させたよ。」

「なるほど、そういう意味でしたか。」


 当たり前だがそういう意味だけではない。騎士隊長が領主への取次ぎを拒否するようなら、遠慮なくリブはそう言うまで追い詰めたことだろう。しかし、領主へ案内してもらえるということなので、もうその必要はない。そういうことである。


「そうだ、暇ならあのゴブリンに稽古でもつけてやるといい。きっと君にとっても良い学びがあるだろう。」

「わかりました。こちらも修行になりそうですしね。」

「いや、君がゴーグから学ぶことはなさそうだけどね。でも、戦っているうちに学ぶことはたぶんある。」


 リブの言っていることはよくわからなかったが、花はとりあえず指示に従うことにした。あの魔力なら自分が迂闊にやりすぎてしまっても死んだりはしないだろう。実際、先ほどの魔法部隊の制圧も少々やり過ぎてしまったところがあった。相手が死ななかったのはよく訓練された部隊だったからで、花は手加減を少々失敗していた。


 それについてはリブからも不思議がられていた。相手の魔力も使える魔法も把握しているのだから、危険度はわかっているとリブは考えていたからだ。しかし、花は見事に失敗した。


「じゃあ、俺は行ってくる。後は任せてくれ。」

「はい、心配する必要もないのかもしれませんが、お気をつけて。」


 リブは騎士たちと一緒に領主へと会いに街へと行ってしまった。残された花は早速集落へと戻っていくと、そこにはゴーグが待ち構えていた。


「おい!人間の女!俺ともう一回勝負しろ!」

「良いですよ。ちょうどあなたに・・・」

「おおおらあああ!!」


 花の返事も待たずにゴーグが襲い掛かってきた。しかし、こうやってみるとゴーグの動きは無駄だらけだ。そもそも、ゴーグほどの魔力があるなら、あんなに勢いつけて振りかぶって殴りに来る意味すらない。当てることだけ考えればそれだけで絶対に強いのだから。


「それではだめですね。」

「な、なんだと!」


 とんでもない魔力を込められたストレートをあっさりとかわし、そのまま一本背負いで地面にたたきつける。ただ、これが余りダメージにはならないだろうことはわかっている。魔力が高いものは魔力によって耐久力もあがるし、回復力もあがる。正直、地球では威力を期待できる投げがこの世界ではそうもいかない。ただ、そのおかげで全くというくらい対策されていないというメリットが生まれているのだが。


「いってえ!!」


 普通なら痛いで済まない速度で叩きつけたにも関わらず予想通りほとんどダメージは受けていないようだ。そこで、しっかりと花は追撃をいれておく。


「ぐっは!!」


 どてっぱらに下段突きをしっかり入れておいた。もんどりうつゴーグ。しばらくは立ち上がっては来ないだろう。投げはこの世界ではダメージにこそならないが対策があまりされておらず、状態を崩す技としてなら十分な効果がある。実際に、あのリオにすら投げは通じていた。


「そのままで聞いてください。というか、そんな状態じゃないと話すら聞いてくれないようですので。」

「な、なんだよ・・・」

「あなたは私とよく似ています。魔力だけとても多く、それをうまく活かせていない。」

「魔力はちゃんと使えている。一緒にするな。」

「そうです、才能だけならあなたの方が格段に上ですね。それはあの凄い量の魔力を一気に放出できることからも明白です。」

「そうだ・・・俺は誰にも負けねぇ。」

「魔力の量も私より多そうです。なのに、あなたは今そこで寝転んでいます。」


 その言葉にゴーグは何も言い返せない。実際問題、何度も手も足も出せずにやられているのだから、いくらなんでも花にはなにか自分を超えるものがあるんだということは理解できていた。


「なんかずるいことをしてるのか?」

「いえ、そうではありません。その方法を今からあなたに少しでも教えようと思います。」


 ゴーグの言葉は普通に聞くなら失礼な物言いだろう。しかし、花は理解していた。ゴブリンにとってはこれが本気の戦い方であり、魔力が多い方は絶対に勝つというのが当たり前なのだ。だから、それで勝てないなら何か花がずるいことをしているとしか思えない。自分でもおかしいとは思いながらも、考えた末に出てきたのがその言葉だったというだけだ。だから、花はその言葉を花のことを理解しようとし始めてくれたのだ、そう判断した。


「な、なんでそんなことを教えてくれるんだよ。金とか、お前が欲しそうなものなんて持ってないぞ。」

「別に私が教えたいだけだから、何も要りませんよ。あなたがゴブリンを守ろうとしたこと自体は素晴らしいことです。なので、私は私の技術を教えてあげたいなって思っただけです。」

「そんな人間がいるのか・・・」


 ゴーグからしたら花の言葉は意味が分からなかった。これについては花もよくなかった。この世界では、自分が持っている知識や技術は他人にそう簡単には教えないのが通例だ。魚の取り方を教えれば一生食べ物に困らないという例え話があるが、逆にいうなら魚の取り方を教えてしまったら自分が魚を売る機会を失いかねない、この世界ではそう考える人が圧倒的に多いのだ。


 これは技術の更新が起こりにくくなるために悪手ではあるのだが、この世界ではそこまでのことを考えて技術交換をしようとするものはいなかったのだ。


「ほんとに教えてくれるのか?」

「ええ、ただもしも良かったら一つだけ約束してほしいことはあります。」

「なんだよ。結局はなんかしないとだめなのかよ。」

「それを自分が悪いと思うことには使わないでください。どれだけ追い詰められたとしても、自分が納得できないことには使わないようにしてください。約束できますか?」


 余りにもわけがわからない条件に困惑したゴーグではあったが、まっすぐにゴーグを見つめる花が真剣であることを感じ取っていた。


「わかった。約束するよ。」

「それでは時間も短いですが、できるだけ教えます。逆に短い時間で出来るだけ教われるようにしっかりと集中してください。」

「わかった。早速始めてくれ。」


 立ち上がったゴーグは花に頭を下げるのであった。

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