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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第一章 死んでしまって、異世界へ
9/90

第八話 裏技を教わる

すみませんが、七話を少々手直ししました。


その関係で更新が少し遅れます。

 次の日の朝、サラーサの街の冒険者ギルドは死屍累々の大惨事であった。ありとあらゆるところに転がる二日酔い、あるいは現在進行形でべろんべろんの冒険者たち。


 冒険者ギルド内にあるこの食堂では、たしかにこういった馬鹿騒ぎは多い。そのため、普段であればこういった状況は結構歓迎されるムードすらある。食堂は儲かるし、この酒におぼれた冒険者たちは神官たちの良い儲けになるからだ。つまり回復魔法の練習としてもこういった飲んだくれ達は役に立つということであった。


 しかし、今回『も』わけが違った。


 昨日も似たようなものではあったが、今回はその被害者はざっと見たところ1.5倍というところである。街中の神官たちは全て緊急招集され、さながら戦時中の野外診療所のような鬼気迫る状況になっていた。


 そんな中で風雅とミアはリーナに呼び出されていた。事情を聞くためではあるが、ある意味ここまでくると尋問に近いテンションである。


「それで、どうしてこんなことになったの?私、昨日も注意したわよね。無理やり冒険者にお酒を飲ませないようにっていったでしょう。」


 リーナは相当におかんむりだった。神官たちへの依頼料だけでもとんでもない金額である。しかし、これだけなら酔っぱらった冒険者たちからいずれ返してもらうことも可能なので、それほどの問題ではない。すぐに支払えないような冒険者がいたとしても、身分証に契約を入れる事で後の回収はほぼ約束されたようなものであるからだ。


 問題なのは冒険者ギルドで二日も続けて、街の神官を収拾しないといけないほどの大騒ぎを許したという失態の方であった。これは冒険者たち全体の評判すらも落としかねない緊急事態であり、冒険者ギルドの管理能力がうまく働いていないのではないかという疑念を起こさせるに十分なものだからだ。


 しかし、その騒ぎを起こした張本人たちは不思議そうにその騒動を眺めていた。


「おいしくお酒を飲んでいただけなのに、不思議な事もあるんですね。」

「そうなのよ。私も昨日おんなじことを思ったわ。」

「るっせえ!ばーか!!お前らいい加減にしやがれ!!」


 リーナさんはおかしくなっていた。


「それとガリューはどうしたのよ!!あいつがいたら少しはましだったでしょうが!!」

「あの・・・ガリューさんでしたら、仮眠室で休んでいるみたいですよ。」


 リーナがぐるっと振り返り、職員を見つけると、すぐさまその職員の元へと走っていった。そして、凄い剣幕でなにかを頼むと、職員はすぐに走り出していった。どうやらガリューが呼び出されたらしい。


「それで、なにか申し開きはあるのかしら?」

「いや、そうはいうけどさ。昨日はちゃんとセーブしたわよ。ノリでも誰かに飲ませることを強要したりしなかったし、飲めないなら飲まなくて良いっていったわよ。」


 リーナがぐるっと振り返り、他の冒険者から聞き取りをやっていた職員に目線を移す。ひいっ!という声があがったが、冷静さを取り戻した職員が報告する。


「はい、確かにそれは事実です。昨日は一昨日のようにフーガさんが強要して飲ませたということはなかったようです。ただ・・・」

「ただ、なによ。」


---


 冒険者の多くはもう限界であった。しかし、真ん中で飲み続ける女性が声を上げる。


「私はまだまだ飲むけどー!あんたたちはもう無理だっていうんだったら飲まなくていーわよ。まぁ、私は飲むんだけどー。はーはっは!!ぐびぐび・・・・・」


 冒険者たちは思った。こんな若い女にあおられて飲まないという選択肢があるだろうかと!!


---


「といったことがあったようです。」


 リーナは風雅に向き直った。しかし、風雅としてはそれは納得できるものではない。だって、飲むなってちゃんと言ったのに。風雅としてはわけがわからなかった。


「いや、だからちゃんと止めたわ。止めてるでしょ?」


 風雅は報告した職員に助けを求めた。すると、しばらく悩んでいたようだが職員はため息を一息ついてから答えた。


「はい、たしかに一昨日とは違い、フーガさんは止めていたけどみんな飲み続けていた、と多くの方が証言しています。ここまでくると自己判断で暴走したとしかいえないかと。」

「そんな正論は聞いてないの!!どうにかして、こいつらに非があることにしろ!」

「い、いえ。それは余りにも。」


 リーナさんはおかしくなっていた。


「それじゃあ、もう一人の方はどうだったのよ?」

「あ、はい。ミアさんの方はもっと問題ありませんね。」

「問題はあるのよ!!見てわからない?」


 リーナは神官たちが忙しそう・・・死にもの狂いで働いている様子を指さして部下にきれていた。しかし、ミアの行動は本当に何の問題もなかった。


「確かに問題は起きているのですが、ミアさんは本当にただマイペースにお酒を飲んでいただけとのことです。」

「いやいやいや、それだったらこんなんにならないでしょ。」


 これについては多くの冒険者が証言をしてくれていた。ミアはただお酒を飲んでいただけだった。おかしかったのは周りの冒険者の方である。風雅には勝てないと悟った若干冷静だった冒険者たちはミアの元へと殺到した。それはミアがお酒を飲むときは一人じゃなくてみんなと飲みたいという風雅と近い感性の持ち主であり、お酒を飲んでいるときはおどおどした自分が出てこないのでコミュニケーションの機会としてミア自身もそれを望んでいたからである。


 余談ではあるが、ミアが風雅のパーティーに加わりたかったもう一つの理由がお酒であった。ミアも相当に飲む方であり、風雅同様に誰かと飲みたいタイプだったのだ。だから、ミアは風雅とお友達になりたかったこともあり、風雅たちのパーティーへ入りたいと希望したのだった。


 話を戻すが、風雅の様子を見ていた冒険者たちからするとミアは天使に見えた。優しく微笑み、お酌をしてくれて、気分が悪くなったら心配してくれて、潰れた人には毛布を借りてきてくれる。だめな男たちはわざわざ酔いつぶれて介抱してもらおうとさえ考えてしまったほどである。


 そんな思いを知っているわけではないが、ミアはまじめな性格ゆえに多くの冒険者のために介抱を続けた。しかし、ミアも酔っぱらいな上に、飲み続けている冒険者たちがミアに早く戻って一緒に飲もうと誘うため、徐々にミアの介抱は雑になっていき、今朝の惨事を生んだのである。


「最後まで面倒見なかったんじゃあこいつが悪いってことでしょ。」

「いえ、それがちゃんと職員に言伝していたようです。『私そろそろ酔っぱらうので後のことはお願いしますね。』と言われた職員がいたようです。」

「よし、そいつクビな。」

「リーナ様、食堂で冒険者が飲み過ぎで倒れたとしても介抱しなくても良いと決めたのはリーナ様です。」

「くっそう!どいつもこいつも私に逆らいやがって!!!」


 しつこいようだがリーナさんはおかしくなっていた。


 結局多くの冒険者や職員からの聞き込み、そして二人の証言を合わせても今回の件はどう考えても二人に何か罰則を与えられるようなことはなく、晴れて無罪放免・・・というわけにもいかなかった。


「とりあえず、二人はしばらくの間、冒険者ギルドの食堂での飲酒を禁じます。よろしいですね?」

「えー、横暴じゃんかー。」

「だまれ小娘!!」


 リーナは食堂にいた全員が振り向くほどの大声で風雅を怒鳴りつけた。しかし、ここで思わぬ展開となる。


「いや、だまれねーな。それは規則に違反する行為だ。」

「ああん!誰だ、私の決定に文句をつけるのは。」

「俺だよ。冒険者ギルドの施設は使用にちゃんと規則がある。それは悪い事だけじゃねえ。今回は二人とも問題を呼び起こす行動はあったものの、問題行動そのものがあったわけじゃない。そうだよな?」


 ガリューである。職員に起こされたガリューがついに取り調べの場へとやってきたのだ。そして、ガリューが聴取を取って来ていた職員へと確認する。


「はい、結果をまとめるとそうなると思います。」

「で、あればだ。冒険者ギルド側に二人の食堂の使用を止める権利がない。知っているとは思うが、冒険者ギルドには後ろめたい過去を持った奴も多い。そういう連中にもちゃんと解放された施設が冒険者ギルドだろう。そのために決めた規則をギルド長が破るのか?」

「ぐむむ・・・・・」

「これ以上は恥の上塗りだと思うがな。」

「うわーん!!お前らなんか大嫌いだー!!」


 リーナは泣きながら去っていった。その様子を見ていたギルドの職員はみんなリーナを追いかけていったが、三人はあっけにとられていた。


「なんか俺、悪い事しちまったか?」

「いや、いーんでない?」

「良くは無いと思いますが・・・その、ガリューさんは正しい事を言っていたと思います。」


---


 それから三人は一時解散となった。昨日は夜の仕事だったし、今日はゆっくり休もうとなったのである。


 風雅は家に帰ると、さすがにちょっと疲れも出たのでベッドで休むことにした。風雅だって仕事、飲み会、さらには取り調べに近い事情聴取と続き、思った以上に疲労していたのだ。


 どのくらい休んだのかはわからないが、次に風雅が目覚めると・・・目の前に風の女神様がいた。


「あんたなにやってんの?」

「それはこっちの台詞です。風雅さんはなにをやってるんですか。」

「・・・新生活?」

「そっちじゃありません。酒場でのことです。」

「おいおい、女神さんまで私にお酒を飲むなっていうのかい?」

 

 風雅はやれやれだぜというポーズを見せた。そして、はっきりと言い放った。


「酒を飲まない私は私じゃないんだよ!!」

「いや、そんな力強く宣言されても・・・」


 さて、今回風の女神が風雅の夢見に立ったのは他でもない。風雅の酒癖の悪さがあんまりだということを他の女神から突っ込まれたのでアフターサービスとしてやってきたのだ。


「それで、私にどうしろっていうのよ。」

「風雅さんにどうこうするのは無理なので、仲間になったミアさんにフォローしてもらいます。」


 なるほど、彼女もお酒が好きだし、一緒のパーティーともなれば、ほとんどの場合で一緒に飲むことになるだろう。しかし、一体どうしろというのだろうか?風雅は頭を傾げていた。


「実はあなた達が発動させている魔法ですが、一つ裏技があるんですよ。今回は特別にそれを伝授しちゃいます。」

「ほうほう・・・つまりはその裏技を使うと水の魔法使いなら、酒場のトラブルを回避できるわけだ。」

「さすがですねぇ。そういうことです。」


 魔法とは女神たちが想像した魔力の放出方法を人間が模倣するもの。なぜこんな形になっているのかというと、一種の安全装置のようなものだからである。女神たちが作った魔法は女神たちが制御できるように考えられている。だから、暴発したりする危険がないのだ。


 要するに、女神たちがちゃんと確かめて使えるとわかったものだけが、人間たちに使用の許可が下りる。だからこそ、魔法は女神が作ったものだけしか発動しない。そういう風に大神様が世界を調節したのだ。


 しかし、この魔法実は少々ならば魔力の込め方で調整できてしまう。これこそが女神が知っている裏技なのだ。


「例えばですけど、風の刃も作り出すときのイメージ一つで変わりますよ。鋭く早くをイメージすれば風が鋭くなりますが、当然もろくなるのでそもそも硬いものには歯が立たなくなります。」

「そういうときは逆に強い刃をイメージすると太く作れるから硬いものは砕けるけど速度が落ちたりするわけね。」

「そういうことです。ちなみにあまりにもかけ離れたイメージをすると魔法は安全装置で発動しなくなります。」

「要は、魔法の本来の効果を逸脱しなければ良いってことでしょ。」

「そうそう、そういう感じです。」


 その後の説明の補足によると、これが出来るのも加護持ちじゃないとほとんど無理だということだ。それで一般的じゃないんだなと風雅は納得した。


 そして最後に聞いておかないといけないことがある。これを聞き忘れたら何の意味もない。


「それで、これを使うとどうやって酒場のトラブルが解決出来るのよ?」

「あ、そうでしたね。水の初期魔法に『水の生成』っていうのがあります。ま、シンプルにいうと飲んでも大丈夫な綺麗な水を作り出すだけの魔法ですね。これに酔い覚ましの効果をイメージして作ってもらってください。」


 水の魔法に薬すらも作る魔法があるのは風雅も知っていた。ガリューに有名な魔法は教えてもらったのだが、その中にどんな状態異常も治せる水を作り出せるものがあったのだ。しかし、風雅にはとある疑問があった。


「それって結構難しい魔法って聞いたんだけど、そうでもないわけ?」

「そんなことありませんよ。水の生成くらいなら誰でも出来ると思います。」

「そうじゃないわ。彼女がきいているのは『奇跡の水』のことよ。あれは何が原因かわからないような本当に危険なときに使う魔法よ。効率も悪いし、普通は使わないわ。」


 そこには青い髪の綺麗なお姉さんが立っていた。

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