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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【怪物と呼ばれた少女、神の願いを聞き世界を救うために異世界へ渡り英雄となる】 第1部 第3章 聖騎士学校の特別試験
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第38話 ゴブリンから話を聞きました。

 あれから日が暮れるほどの時間が経って、ようやくゴブリンたちは落ち着きを取り戻し、歳を取ったゴブリンたちも意識を取り戻した。そして、それと同時にゴーグというあの魔力お化けのゴブリンも起き上がってきた。


「おい!もう一回勝負だ!!」

「すみませんが、あなたの相手をしにきたわけではないので。」

「ふざけてんじゃねぇぞ!」


 今度は魔力を込めた拳で花へと襲い掛かってきたが、その動きは素人そのものであった。花はその拳を軽くいなし、後頭部へと手刀を叩き込んだ。


「がはっ!」


 またしてもすぐにゴーグは気を失う羽目になったのであった。その様子を見ていたゴブリンたちは完全に二人に対しての戦意を失ったようである。二人は集落の中へと案内してもらうことになった。


---


 結局二人は集落の中央に位置する大きな広場へと連れてこられた。そこには集落中のゴブリンたちが勢ぞろいしているようで、二人の動向にどれほどの注目が集まっているのかを感じ取れた。


「まず、お二人は領主の命令でここに来られたのでしょうか?」

「違う。要請自体は受けたが、ここに来たのは独自の判断だ。この領地では一体何が起こっているのかを説明してほしい。嘘をつかないのはむしろ人間よりもゴブリンだと判断している。」


 その言葉にゴブリンたちはざわつき始めた。どうやら、リブの反応は相当意外なものであったのだろう。


「うーむ、にわかには信じられませんが、もはや我々はその言葉を信じるしか生き延びる可能性はありません。それでは少し長くなりますが、話を聞いてもらえますでしょうか。」

「ああ、ゆっくりでいい。しっかりと話してくれ。」


 そもそもこの集落についての話から始まった。この集落は元々は領主が作った表に出せないゴブリンを増やすための施設だったという。


「この辺りではゴブリンには人権はありません。ただの便利な労働力です。しかし、本来はゴブリンを保護しているという名目になっている。だから、過度な労働でゴブリンが減ってしまうとおかしなことになってしまう。」

「なるほど、ここはその人数を調整するためにあるわけか。」

「はい、そのために普通は人に発見されないように騎士たちがこの辺りの森を監視しています。」


 つまり、あの監視用の魔法道具は後からつけられたのではなく、そもそもこの集落について監視する目的でついていたのだ。外から来るものを見つけ、ここから逃げるものも見つける。そのための装置だったということになる。


「その状況を我々は受け入れて生きていました。まあ、たしかにひどい状況ではあります。しかし、ゴブリンはそもそもこの世界には祝福されていない。」

「それは違う。そんな生き物はいない。」


 リブはそんなことはないと断言した。その様子に驚いていたのはむしろゴブリンたちであった。


「別に慰めで言っているわけじゃない。本当に必要ないものは生まれない。ゴブリンたちだって普通に生きていて良いに決まっている。」

「そうですね、そのとおりです。しかし、我々は状況を受け入れていました。もうずっとそうしていましたし、少なくとも種族としてこの地でゴブリンが途絶えることはないとそう思っていました。」


 これ自体はあきらめているからというわけではない。他の地域で生きるゴブリンは実際に生きるだけで必死だということも少なくない。ゴブリンは自由ではある、しかしその分危険と共に生きているような種族なのだ。


「違うな。今はゴブリンも人間がいる街の近くに集落を作り、平等な立場で労働力を提供し金銭を貰って生活するものも増えている。そういう関係を作り始めている。」

「はい、どうやらゴーグもそういうゴブリンたちを知っているようで、ここのゴブリンと人間の関係は異常だと言っていました。」

「あ、ゴーグというあのゴブリンはここの集落のゴブリンではないんですね。」

「それはそうだろう。あんなのがいたら、もっと前から問題になっていたはずだ。つまり、あれが今回の騒動の火種でまちがいない。」


 ゴブリンたちに聞いたのになぜかリブから返事が返ってきた。


「状況はほぼほぼ理解できた。そもそもこの領地で行われている違法行為を是正して、ゴブリンに人権を勝ち取る。」

「あの・・・差し出がましいようですが、そんな決定を勝手にしても大丈夫なのですか?本来はゴブリンを討伐に、という名目で呼ばれたのに。」

「討伐・・・やはりそうなりますか。あの領主にとって従わないゴブリンに用などありませんからな。」


 どうやらゴブリンたちがやたらと警戒していたのはこの事態を把握していたからのようである。花の勝手な印象ではあるが、ここのゴブリンたちは相当に賢い気がする。ゴブリンとは会話も成立しないほどの知能しか持っていないものも多いと聞いていたが、ここのゴブリンたちを見ていると人間と変わらないし、もしかしたらもっと慈悲深く、思慮深いかもしれない、そんな風に花には思えたのだ。


 そんなゴブリンたちの様子を無視して、リブは普通に話を続けている。リブはリブで本当に何者なんだ?という感じすらある。


「正直に言ってしまうと、普通は団長に相談するべき案件だろうな。」

「それを勝手に判断するんですね。」

「ああ、どうせ正攻法は領主が握りつぶすだろう。お願いするだけ無駄だ。」

「それはそれでだめだと思いますけど。」


 これについては花が正しい。聖騎士には一定の権限があるものの、なにをしてもよいわけでもない。


「勝手をするわけじゃない。こっちの権限を使える状況にする。」

「・・・あの、こういう事案をなんとかするのに慣れてますか?」

「ああ、それも見越して団長も頼んできたんだろう。」


 なるほど、聖騎士の団長であるアーリエは清濁を織り交ぜても事態を解決するタイプだった。濁の部分を任されているのがリブなのであろう。そして、今回実習に連れてこられたのはそういうことを学ぶということもあるのだと、花は理解した。


「おそらくだが、そう時間もかからずに騎士たちがやってくるはずだ。この集落は十中八九、監視されている状態だろう。脅威であったはずのゴーグを倒せる聖騎士が来ていることがわかれば、騎士を総動員してこの集落を潰しに来る。」

「そ、そんな・・・いえ、こうなるときが来るかもしれないとはわかっていました。私たちの行動は人間様の怒りを買ったのです。」

「人間はそんな大層なものじゃない。どこまでも奴隷根性が染みついているな。ゴーグが強引に俺たちに喧嘩を売った意味が今ならわかるよ。」


 リブはむしろゴブリンたちの考え方の方に飽きれ始めていた。しかし、それでも見捨てようとは思わないようだ。


「そのとき、騎士の相手はこっちでする。してほしいことができたら、大声で指示するから、聞き逃さないようにだけ頼む。最悪、ここでは暮らせなくなっても、命は助けられるようにはする。」

「本当ですか!それが何より助かります。」

「ハナ、君はどうする?ここからは通常の聖騎士の仕事を逸脱する。君がどうするかは君が選べ。」


 突然の質問に花はすぐには答えられなかった。たしかに、それはそうだ。だが、この状況でそんな質問が来るなどとは思っていない。こちらに、そんな決定権はなく、リブの指示のままに動くものだと勝手に考えていた。しかし、リブはちゃんと花を仕事仲間の平等な間柄の相手として見ていたのだ。なので、ちゃんと花にどうするかを選ばせてくれたのだ。


「私はリブさんを信じて行動します。」

「そうか、ありがとう。そうしてくれると助かる。」


 明らかにほっとした様子のリブを見て、なんとかできるからどっちでも良いではなかったことがうかがえた。


「はっきりいっておく、俺の考えだとこのまま進むと騎士との戦闘になる。その覚悟はあるか?」

「はい、それも仕方ないのであれば。」

「ちなみに人間との戦いはしたことあるか?」

「それなりの力を持った冒険者たちを制圧したことがあります。」

「そうか・・・そのときは死者は出していないな?」

「はい、大丈夫です。」

「それなら、そのときくらいの感じで戦ってもらえば良いだろう。そのときはちゃんと手加減できたのか?」

「あ、はい。あきらかに格下でしたので、そこは問題ありませんでした。」


 その受け答えに少々感じるところがあったリブではあるが、今はそっちのことを考えている場合でもない。リブはゴブリンに指示を出す。


「とりあえず、こちらとしてお願いしたいのは何があってもゴーグをこっちに来させるな。そうだな・・・人間たちが勝手に争っているから、とでも言って説得してくれ。はっきりいって、ゴーグを恐れている人間たちなら俺たち二人で制圧できる。ゴーグが来たら死者が出て厄介なことになるかもしれない。」

「わ、わかりました。何としても必ず。」

「それでいい。ハナ、それじゃあここからはちょっと大変なことになるがよろしく頼む。」

「わかりました。精一杯頑張ります。」


 元気のよい花の返事にリブも笑顔で返した。こうして、人間たちとの戦いが始まろうとしていた。


---


 おおよそはリブの予想通りの展開が待っていた。騎士たちはかなりの数を引き連れて、ゴブリンの集落へとやってきていた。このくらいまで近寄ってきてくれれば、一人一人はそれほど大きな魔力でなくても、二人にとって感知するのはわけがない作業であった。


「思った以上の数が来ているかもしれないな。これは俺たちを無視する気かもしれない。」

「問答無用でゴブリンの制圧に来るってことです?」

「ああ、どうせ俺たちは巻き込まれても死なないと思った、とでもいえばいい。先手を打ちたいが、この集落から離れすぎてもまずい。」

「打つ手なし・・・ですか。」

「いや、それでも気構えを整えておくのはいい。はっきりいっておくぞ、もしも相手がこちらも無視してゴブリンを撃とうとしたなら手加減するな。相手は殺されないとわかったら、数で制圧してくる可能性もある。俺はその場合はゴブリンの命の方が重いと判断する。」

「私は・・・どちらの命が重いとかの判断はしたくないです。」


 ここにきての明確な花の否定。その返事にリブは少し驚きつつもにっこりと笑顔になった。


「そうだ、それでいい。意見ははっきり伝えてくれ。そうしないと、ベストな戦略が取れない。もやもやしたままで今君が返事をしていたのなら大変なことになっていただろう。」

「そ、そうでしょうか?」

「ああ、君がもしも私の殺人に嫌悪感を抱き、君が俺を止めようとしたら最悪の事態になる。ゴブリンは惨殺され、そのことを俺も君も後悔する。得をするのはくだらない領主だけだ。」


 リアルにあり得そうだと、花は感じた。たしかにここで中途半端な返事をしていても、何十人も手加減なく殺すリブを見たら、思わず止めてしまうかもしれない。花はまだ人が死ぬところは見たことがない。衝動的な行動をとる可能性は全然普通にあり得た。


「ハナ、今回は君の意見を採用しできるだけ殺さないようにする。ただ、最悪司令官クラスは殺すしかないかもしれない。それだけで部隊は士気が落ちる。判断をしてくれるものもおらず、圧倒的な力を見せつけられたら戦意を失う兵は多い。」

「はい、それで構いません。」


 これはリブなりの最大限の譲歩であることは明確である。それならば、これ以上のわがままはお互いの信頼関係を失いかねない。


「一つだけ言っておくが、今回は俺と君、二人しかいない。だからこそ、お互いの意見は対等であるべきだと俺は考える。だが、多くの場合は責任を取る側の意見が採用される。だから、君の意見は通らないこともある。そこは覚えておいてくれ。」

「はい、それは当然だと思います。」


 むしろ、今も意見が通っているのがおかしいとすら花は感じている。なので、リブの言い分はとてもよくわかっている。


「まあ、そうはいっても実際には君の意見はそれなりに重要視されるだろうけどな。それくらいの力はある。ただ、その力で無理に意見を通していると反感を買う。ここぞというときだけにしておけ。そして、行動には一貫性をもっておくんだ。そうすれば、そういうやつだとみんながわかる。無理なことを言われることも減る。」

「リブさんの経験談ですか?」


 その言葉を聞いたリブは非常にバツが悪そうに頭をかいていた。


「俺はそれでも無理を言われているような気もするが・・・まあ自由な判断はさせてもらえるような案件が多くなったかもな。」

「ふふっ、それならそういう案件を任せる人なんだって思われてますね。」

「そうだな、そうなんだろうな。さて、来たぞ。打ち合わせはここまでのようだ。気を引き締めていくぞ。」

「はい!」


 もう二人には見えるくらいの距離まで騎士たちは迫ってきていた。

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