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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【怪物と呼ばれた少女、神の願いを聞き世界を救うために異世界へ渡り英雄となる】 第1部 第3章 聖騎士学校の特別試験
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第37話 ゴブリンの集落にいってみました。

 ゴブリンの集落が確認された場所についてはリブがちゃんと知っていたため、そこまで行くのは難しい道のりではなかった。途中に警報を伝えるような魔法道具も設置されていたが、わざわざリブが用意して持ってきた荷物の中にそれらを無効化して突破できるものがあったため、それらにも一切に引っかかるようなことも起きなかった。


(本当に準備万端ですね。)


 感心してリブの様子を眺めていると、いきなり返事が返ってきた。


「用意周到に感じているのかもしれんが、そこまで大げさな話じゃない。こういう任務が多いから、いつも魔法道具は多めにもってきているというだけだ。」

「それでも凄いと思います。私は回復薬などの薬や携帯食量くらいしか用意しませんでした。」

「それだけでも持ってきているのなら御の字だ。学校の見習いは手ぶらで任務先で仕入れればいいと考えているものも多いぞ。」


 それも場合によっては良いことだろう。荷物を運ぶのは量が多いほど大変になる。しかし、多くの危険な実習にいっているクラスのトップ組であるあの3人は持っていくことを勧めてくれたのだ。


「友達が教えてくれたんです。聖騎士が呼ばれるような先ではそういった物資は貴重になりがちだからって。」

「良い友人だな。そうだ、補充できるものはその場で補充すれば良いさ。でも、最後の手段としての道具は先に持っていくべきだ。それを想像できない学生は多い。」


 そういうことを学ぶのもサポートが貰える学生の時ならではなのかもしれない。逆に、自分がそういう立場になったときはしっかりと学生をサポートしないといけないということも覚えておこうと花は思った。


---


 ゴブリンの集落への道のりは本当に順調そのものであった。人間の騎士たちが仕掛けたのであろういくつかの警戒用の魔法道具が設置されているものの、逆に気になるのはゴブリン側の警戒にあたるものが何一つ見当たらないままだったことがリブには少し気になり始めていた。


「いくらなんでも周りに気配を感じなさすぎる。そもそもこんな広範囲に人間が仕掛けた魔法道具があったらゴブリンたちも引っかかるだろう。」

「ゴブリンの動きを把握する目的があるという可能性は?」

「この魔法道具だとそこまで精密にわからない。動物か人型かくらいは判断できるが、これじゃあなにかが引っかかったら一々確認にくることになるぞ。引っかかったのが侵入者なのかゴブリンなのか判断できない。」

「じゃあ、ゴブリンはほとんど活動していないということですか?」

「それもあり得ないだろう。1000人もいる集落なら食料集めにゴブリンたちは奔走しているはずだ。」

「でも、現実としてここまで近寄っても全然気配を感じませんよ?」

「騎士たちが入ってきたことで隠れている可能性もあるな。」

「そうなると、ゴブリンたちにはそれを感知する力があるということになりますが。」

「あまり油断できないかもしれないな。少し警戒心をあげていこう。」

「了解しました。」


 それからさらにしばらく進むと、ゴブリンの集落が見えてきた。その間にも一度もゴブリンや騎士に遭遇することはなかったことでリブはもう集落はそこにはないのではないか、ということも疑っていたのだが、情報通りの場所にその集落は今もちゃんとあった。


「逃げている可能性も考えたが、それもないのか。」

「状況がよくわかりませんね。」

「ああ、だが、ここまで来た以上はゴブリンたちに接触する以外に道はない。来るときにも言ったが、最悪の場合は俺を囮にして良い。気にせずに逃げろ。その方がお互いに生存確率があがる。」


 なるほど、最初はリブが犠牲になろうという話かと考えていたが、リブ一人なら逃げたり隠れることもできるという自信の表れだろう。そうなったら、たしかに花が足手まといになる。


「基本的には戦わないぞ。友好的に情報を集める。おそらくだが、人間よりかはゴブリンの方が嘘はつかない。まあ、あくまでも経験上は、だがな。」


 二人は集落の入り口と思われる簡易的な門へ続く道に降り立った。この時点でさすがにゴブリンたちには気が付かれたようで、ざわざわと騒ぎが起き始めていた。その騒ぎを気にせずに二人は集落へと進んでいくが、途中で警備のものなのか武装したゴブリンたちが道をふさいでくる。


「お前たち、この先には俺たちの集落がある。すまないが、用事がないなら引き返してもらいたい。」


 この時点でここのゴブリンは敵性亜人の要件をほぼ満たしていない。敵性亜人は問答無用で人間を敵視している場合に成立する。特にゴブリンの場合は言葉をほとんどしゃべることもない、原始的なゴブリン種族がそれに該当していて、普通に話しかけてくるようなゴブリンは敵性とは認められないことが多い。


「すまないが、ここの調査に来ている。話ができる代表者にあわせてもらいたい。」


 そういって、リブが頭を下げる。その様子にゴブリンたちは少々驚いたようではあるが、その答えは二人の望んだものではなかった。


「すまないが、その願いに応えることはできない。正体不明の者を集落には招き入れられない。」

「そんな交渉なんてせずにやっちまえば良いじゃねーか!」


 ゴブリンたちの奥から大きな声がする。どうやら後からやってきたゴブリンはこちらと交戦するつもりのようだ。


「無駄な戦いをする必要はないだろう。」

「何言ってんだ。調査なんかに来たってことは俺の強さをなめているってことさ。ちょうどいいじゃねーか。こいつら調査を任されるくらいのやつなんだろ。死体を送り返してやれば、やつらも条件を飲むかもしれねぇ。」

「馬鹿なことを。大体お前は・・・」


 何が起きたのかわからなかった。交渉していた大柄なゴブリンは突然地面へと倒れてしまったのだ。


「おいおい、人間たちが隊長様をやっちまったぜ。戦うしかないよな!」

「なにを言ってるんだ。お前が、がはっ!」


 止めようとしたゴブリンがまたしても倒れる。どうやら、目の前のゴブリンはどうしても二人と戦いたいらしい。


「どうしましょうか?」

「戦うしかない流れだな。」


 リブが花の前に出る。どうやらリブは戦うしかないと判断したようだ。それに対して相手のゴブリンも前に出てくる。他のゴブリンたちも止めるのはあきらめてしまったようで、倒れた仲間たちを担いでここから離れていく。


「じゃあ戦うってことで良いんだな。悪いが俺たちのために死んでくれや。」

「ああ、戦うしかないようだ。」

「そうかい!全力でいかせてもらうぜ!」


 ゴブリンの戦士が気合を込めると想像を絶するような魔力を吹き出してきた。魔力の量だけならこの間戦ったドラゴンよりも上かもしれない。


「なるほど、これが聖騎士が呼ばれた理由か。ハナ、事情は把握できた。一度撤退するぞ。」

「おいおい、逃げられると思うなよ!」


 巨大な魔力の塊が上空から広範囲で二人に押し寄せる。これ程の量の魔力を一気に放出するのも普通ではできない技術だ。あのゴブリンが相当異常な個体であることはこれで明白だった。


「全力で離れて、少しでも攻撃を回避するぞ!走れ!」

「必要ありません!」


 万が一に備えて準備しておいて良かった。ハナは脅しにも使えるかもしれないと、手甲に魔力を充填しておいたのだ。


「魔力正拳!!」


 上空にある魔力の塊に向かって放出された花の魔力。普通ならばとんでもない魔力ではあるが、その魔力は上空の魔力の塊には遠く及んでいない。


「そんなちっぽけな魔力で何するつもりだよ。」

「当然、その魔力を打ち破ります。」

「はっはっは!魔力が自慢か?俺がいなかったら良い線いっているんだろうけど、そんな魔力じゃ・・・」


 魔力正拳はなんの抵抗もなく上空の魔力を貫通し、バラバラに打ち砕いてしまった。


「は?」

「悪いな。隙は逃さない。」


 自分の魔力が打ち砕かれたことを受け止められなかったゴブリンは隙だらけとなっていた。リブは状況を瞬時に理解し、相手を無力化したのだった。


「凄いな。とんでもない魔力とは聞いていたが、あれを打ち破るか。」

「とんでもない魔力ではありましたが、あれは大きく広げて出しすぎですね。」

「一点突破なら魔力量に差があっても打ち砕けると判断したか。良い判断だった。」


 相手のゴブリンの放出した魔力は花よりもかなり大きかったといえる。しかし、二人が逃げられないように広く大きな魔力を球体状にしたものであったため、中身の密度が低かった。対して、花の魔力正拳は魔力の無駄がないように熟練の鍛冶師ギドが調整に調整を重ねた代物である。その威力は比べるにも値しないほどのものであったのだ。


「お、おい!あいつ負けちまったぞ!」

「どうするんだ!これじゃあ、また奴隷生活だぞ。」


 遠くから状況を見ていたゴブリンたちが騒ぎ出した。その様子にもいち早く動いたのはリブである。


「おい!こちらにこれ以上戦いをする意思はない!事情を説明できるものを連れてこい!こちらは集落には入らない!!」


 まず相手に敵対の意思がないことを伝え、こちらの要望を的確に伝える。この指示に逆らえる要素はゴブリン側にはなかった。


「す、すぐに連れてくる!待っていてください!」

「了解した。それと、こいつを連れていけ!」


 そういって、戦ったゴブリンをゴブリンたちへと引き渡した。受け取ったゴブリンたちは急いで集落に入っていき、監視なのか動けないだけなのか、幾ばくかの数のゴブリンたちはそのままで二人の様子をうかがっていた。


「これでどうなりますかね?」

「状況は一部把握できた。聖騎士が呼ばれたのはあのゴブリンがこの領地の騎士では討伐できないからだ。あれほどの監視用の魔法道具が森に仕掛けられていたのも、あのゴブリンを恐れてのもので、侵入者を入れないためのものではないだろうな。」

「そうなると、裏の事情とかはないのでしょうか?」

「いや、そんなわけはない。それならちゃんと説明を入れた上で早急に聖騎士を呼ぶだろう。あまり大人数の聖騎士が来てはまずい理由があるからだ。つまり、この案件は確実に領主側に隠しているまずい何かがある。」

「ゴブリンたちはそれを知っているのでしょうか。」

「知っているさ。だから、危険な相手として問答無用で討伐させたかったんだろうな。ゴブリンが森にいなかったのも騎士たちで討伐しているんだ。そうやってゴブリン側も強硬姿勢になるように仕向けていたんだ。」

「ああ、そこまで考えているんですね。」

「と、いっても当たっているかは良いところ7割だ。」


 リブはこういう情報収集の専門家なのかもしれない。花はリブの冷静な分析力にずっと感心していた。


 しばらく待つと、数人の少し歳をとったゴブリンたちが慌てた様子で二人の元へとやってきた。


「お、お待たせしました。お二人がゴーグのやつを圧倒したという人間ですか?」

「あの凄い魔力のゴブリンのことならそうだ。ただ、圧倒したの俺というよりもこっちのハナだ。ハナ、少しだけ魔力を解放して見せてくれるか?」


 最近は周りの人を驚かせないようにきちんと魔力を抑えている。その訓練はかなりしっかりやったので、気を抜いていても魔力を漏らしてしまうようなことはなくなった。


 そして、その分振れ幅が大きくなったことで、威嚇にて魔力を解放したときの魔力は鋭さを増していた。


「「「うわあああああああ!!!」」」


 ゴブリンたちは一瞬でパニックになった。集落の方でも大きな物音が鳴り響き、遠巻きに覗いていたゴブリンたちは一目散に逃げ出した。おそらくだが、本能的な恐怖に打ち勝てなかったのだろう。


 そして、目の前の歳を取ったゴブリンたちは二人の目の前で目を開いたままで気絶していた。


「ハナ、やりすぎだな。本当に加減ができないんだな。」

「あー、いえ、ここは本気を見せるのが良いのかと思いました。」

「・・・まあ、それも一理あるな。ただ、これで少し足止めは確定だ。」


 目の前のゴブリンたちをとりあえず横にはしてやった。しかし、慌てふためくゴブリンたちには声をかける方が混乱しそうだったので、もうそのまま自然に落ち着くのを待つしかなかった。


「集落の中でもトラブルになっていないと良いがな。」

「先ほどのゴーグとかいうゴブリンも魔力は大きかったので、そこまで混乱していないと思いたいです。」

「楽観的な観測だな。それに時間を取られるとそいつが復活する。」

「あ、そうですね。すみません、考え無しでした。」


 反省する花を横目にリブは、全く違うことを考えていた。これほどの魔力が2回放出されたら、人間側に観測されてしまったのではないか、ということを。

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