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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【怪物と呼ばれた少女、神の願いを聞き世界を救うために異世界へ渡り英雄となる】 第1部 第3章 聖騎士学校の特別試験
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第36話 移動手段はめちゃくちゃでした

 大体の説明をしてもらった後、それからはそれほどの時間はかからずに目的地に着いた。ある意味では、リブの予測は正しく、この時間は必要だったといえるだろう。


 たどり着いた場所には聖騎士もたくさんいたが、他にも多くの人が待っていた。ぱっとみると、かなり警備のしっかりしている軍事拠点のような雰囲気ではある。入口でも身分の確認が念入りに行われていた。一つ疑問なのはなぜか花だけが確認されたことである。


(リブさんはこの施設をよく利用しているのでしょうか?)


 そんなことを考えながら進んでいくが、この施設にはぱっと見ではあるが、乗り物の類は見当たらなかった。


「ここで乗り物を乗り換えるんですよね?」

「あー、いやあれは乗り物とは言わないかもしれない。」

「えっと?移動手段があるんですよね?」

「ああ、移動手段はある。こっちだ。」


 任務のための荷物も積んでいるため馬車のまま施設の中を進む。そうすると、巨大な装置が置いてある広場へとたどり着いた。


「リブ様、お疲れ様です。」

「いや移動くらいでは疲れていないよ。準備はどうだろうか?」

「ははっ、そういう意味ではありませんよ。はい、準備はできています。」

「そうか、二つの意味ですまない。」

「大丈夫ですよ。それで、今日は見習いと一緒にということでしたが、大丈夫なのですか?」

「安全性には問題ないだろう。そのために何度もテストにつきあっているんだ。」

「えっと、そういう意味じゃなかったんですが・・・あの、説明とか受けてますか?」


 少し不安げな表情で花に話しかけてくる男。その意味が花にはよくわかっていなかった。


「ここに移動手段があって、それで遠くへ移動することは聞いてますよ。」

「そ、そうですか。それだとだいぶ勘違いが起きてそうですが、ここまできたらもう頑張ってもらうしかありません。」

「どういうことでしょうか?」

「あれが、その移動手段です。」


 男が指さした先には広場の中心に置いてある巨大な装置があった。しかし、あれはどうみても移動手段ではないように思える。


「あれは武器ではないのですか?」

「見ての通りで元々は大砲です。それを緊急移動手段としてテストしているものになりますね。」


 花は話がよく理解できなかった。どちらかというなら、理解するのを頭が拒んでいたのだろう。それを理解するということは自分が大砲で発射されるのではないか、という可能性にいきついてしまうからだ。


「もしかしてとは思いますが、私はあれで撃ちだされたりするのでしょうか?」

「そうだ、安全性も機能面も問題ない。既に20回は使っている。」

「一応、使用するには魔力量や単独での生存能力などが配慮はされます。不時着してしまう可能性はまだありますので。」


 不時着の可能性があるということはその場合に対処できないといけないということになる。不時着の際に自信の魔力によって着陸用の魔法道具を展開できるだけの魔力がまずは必須らしい。さらに、その後場合によっては危険地域に落ちてしまうなどもあり得る。そうなれば、生存できるだけの戦闘力が必要になるというわけだ。


 それを聞いて、花は少しだけ、おやっ?となった。そうなると、この実習は自分しか受けられなかったのではないだろうか。


「リブさん。これって私しか実習にこれなかったのではないですか?」

「ああ、そうだな。バルゴからの推薦だ。」


 大砲の準備している間に聞かせてもらったのだが、どうやらこの案件は急ぎ解決するべきという派閥と放置しても良い案件だという派閥に分かれていたというのだ。


「今回行く地域ではゴブリンを労働力として使役している。これに関して大きな問題だと考えるものと大した問題ではないと考えるもので2極化している状態だ。」

「普通に考えたら問題のように思いますが。」

「だが、その地域ではかなり昔からゴブリンを使役していて、それが当たり前なんだよ。逆にいうと、一定数のゴブリンは労働が必要だが、問題なく生きられる状況ではある。」

「そう聞くと反対派の意見もわかりますね。」

「そうだろ。だけど、実際の現場を見るとそうも言ってられない。はっきりいうが、ゴブリンは相当ひどい扱いをされている。そして、あまりにも長い年月それが続いたため、それが当たり前になってしまっている。」


 長い年月ずっとそうだったからきっとうまくいっている、そんな考えが正しいとは限らない。そんな現実があるのだと花は理解した。


「しかも、今まではその地域のみの話だったため問題は起こらなかった。しかし、移動する手段が豊富となり、交通が良くなってくると、今までは僻地だったその地域も他の地域との交流が始まった。そうなったら、問題は目に見えてくる。」

「そうか、常識にずれがあるから。」

「そうだ、だからこそ私はこの問題は早急に解決するべきだと考えた。今回の騒ぎはそのためにはとても大きなチャンスといえるだろう。」

「そんな事情があったんですか。」

「まあ、それでなんとか一人でも乗りこむつもりだったんだが、さすがに許可が下りなかった。そこで、どうにかならないかと動いたところ、誰か一人でもサポート役がいるなら行ってよいと許可を貰った。しかし、この移動手段に適応している者がみつからなくてな。片っ端から声をかけていったところ、バルゴが、君を推薦してくれたというわけだ。」

「あー、そうなんですね。」


 つまりドロイドは行かなくてもいいとか言っていたが、行かせる気満々だったんだろう。最悪、事情を説明されたら行くしかないだろうし、そこまで考えていたのはわかっている。花はドロイドがしたたかな人間であることに気が付き始めていたからだ。


「ただ、もしもここまでの道中で連れていくべき相手ではないと判断したら中止もあった。あの馬車での話は君を知るための時間というのが本音だ。」

「なるほど。そんな意味もあったんですね。」


 リブは想像よりも上位の騎士なのではないかと花が思い始めたのはこのあたりからであった。


「最終調整も終わりましたので、いつでも大丈夫です!」

「ふむ、話も終わってちょうどいいな。よし、いこう。」

「はい、わかりました。」


 花としては、学ぶことも多そうではあるし、結果的には来てよかったなと納得したのであった。


---


 緊急移動用発射砲台。全体を保護する魔法道具に包まれた状態で、人間や物資を撃ちだせるという移動および運搬用装置。まず全体を包み込む魔法道具の障壁で発射および移動中の衝撃を緩和する。そして発射は膨大な魔力によって凄い速度で撃ちだされるというわけではない。それだと中の人や物が耐えるのが難しい。実際には膨大な魔力によって空に一時的なレールを作り出し、その上を加速しながら進んでいく。魔力のレールや障壁には認識されづらくなる魔法道具の効果も付与されており、移動の間は攻撃されにくくはなっているのだが、どうしても移動中にレールおよび移動させているものが攻撃を受けるリスクがある。そのため安定的な使用は絶望的であり、緊急時にのみ、条件を満たしたものだけが使えるという移動および運搬手段になってしまっている。


「緊急時はその魔法道具に魔力を注ぎ込んでください。絶対、とはいいませんが高確率でダメージすら受けずに着地できます。ただ、かなりの魔力量が必要になりますので、注意してください。」

「それはおそらくですが、問題ありません。」

「こちらもそうは聞いていますが、注意事項ですので。それと、移動中は徐々に加速します。最高速度は相当なものになりますので、覚悟しておいてください。」

「わかりました。」


 装置の中に入ると、球体上のバリアのようなものに覆われた。これが、障壁の魔法道具になるのだろう。


「それでは発射20秒前!魔力の充填開始します!」


 外では多くの聖騎士たちが装置へと魔力を充填し始めていた。それに伴い装置内では複雑な魔力が渦巻いていた。


「発射5秒前!・・・3、2、1。発射!!」


 花の目の前に渦巻いていた魔力はらせん状に伸びていき、レールを形成していった。それが見えた直後には花は既に撃ちだされていた。


 花はそこから不思議な体験をする。最初は加速していくことが外の景色で何となく感じ取れていた。しかし、一定以上の速度になるともう周りの景色を認識することができなかった。


(これは一体、どれほどの速度が出ているのでしょう!)


---


 移動完了までにどのくらいの時間がかかったのかはわからない。しかし、その間信じられないくらいの速度で移動しているという緊張感でずっと緊張していた花は既に疲れ果てていた。実際に移動自体はなんの問題も起こることなく終了し、無事に目標だった草原に到着はしていた。だが、そんなことは関係なく花は疲れ果ててしまっていたのだ。


 申し訳ない気持ちもあったのだが、花は休ませてもらえるようにリブにお願いした。それを聞いたリブは驚くこともなく、すぐにテントを準備してくれた。


「ふむ、やはりそうなるか。どうやら、魔力量でもそれは改善しないらしいな。興味深いデータだ。」

「申し訳ありません。私のせいで貴重な時間を使ってしまって。」

「いや、この移動に耐えられるだけでアドバンテージは大きい。そもそも今日はこのままここで休むだろうという予定になっている。」

「そうだったんですか?」

「ああ、すでに説明が済んでいることが大半ではあるが、本当はここで打ち合わせできていないことを詰める予定だったからな。今の段階だと後は、この後どう動く予定なのかという相談だ。」


 確かに、目的や考え方などはかなり話ができているが、よく考えるとどのように動いていく予定なのかは全然話せていなかった。気分が悪く動けそうにない花としてはありがたい限りである。


「ここからは相談にもなる。あくまでも俺はこう動きたいというものだ。俺はゴブリンが確認されたところへ向かいたいと考えている。そのため、着地場所もそこへ向かいやすいようにしてもらった。」

「普通でしたら、まずは領主や騎士たちに話を聞きに行くべきだと思いますが・・・」


 普通は、という言い方をしたが、本来であれば絶対にそう動くべきだということはわかっている。だが、その状況でリブがこの選択をしたということは理由があるのだ。


 正直なところ、もうこの時点でリブは普通の聖騎士ではないだろう。こんな無茶苦茶な移動手段を何度も使っているという事実。さらにバルゴに相談が気軽にできるような人物であるということもそのことを裏付けているといえるだろう。


 そんなリブがそう動くということならば、そこには理由があるはず。花はまずリブの話を聞くことにした。


「俺は今回の状況を今後ないようなチャンスだと思っている。本来であれば、ゴブリンの大量発生くらいなら、聖騎士に通報なんてされずに、この地域内で処理されていてもおかしくない。それがわざわざ通報されたということは、この状況をなんとかしたいものがこの地域にいると思っている。」


 たしかに、その可能性はある。しかし、それでどうして先にゴブリンのところへいくのだろうか。


「問題は、それが誰なのかがわからないということだ。迂闊に領地に先に行き情報を得てしまうと、それが先入観になりかねない。だとしたら、まず接触するべきはゴブリンだと考えた。」

「なるほど、それは一理ありますね。」


 納得できる理由ではある。しかし、その行動には問題はないのだろうか。おそらく相談をという形をとっている以上はリブは花の意見を聞きたいはずである。まずは問題点がないかをしっかりと考えた。


「そのゴブリンの集落が誰かに作られたものではない、つまり本当に危険なものという可能性は?」

「なくはない。この辺りではゴブリンは人と一緒に生活しているのが当たり前だ。その中でも知恵を持ったゴブリンが脱走したりして、集落を作るのに一役買っているのであれば、その可能性もある。ゴブリンは平均値は低いが、ポテンシャルはそれなりにあることがわかっているからな。」

「そちらの対処法はどうしましょうか?」

「可能性の高さで考えると対処が要るかは微妙だが、最悪の場合には俺が囮になる。君はなんとしても逃げ切って危険性を領主に報告してくれ。」

「わかりました。」

「他には何かあるか?」


 可能性でいうととても低くは感じる。だが、一応の危険性として伝えてみる。


「この流れが全てここの領主の狙いだとしたら、という可能性は?」

「・・・なるほど。それは考えなかった。良い着眼点だ。」


 本当に何かの偶然で通報されたのなら良い。しかし、聖騎士を呼ぶことに意味があるとしたら、それはかなり危険な状況に利用されていることを意味する。


「やはりまずはゴブリンに会いに行くのが良さそうだな。」

「そうですね、それが良いと思います。」


 二人は納得したうえで次の行動を決めることができた。このときくらいからお互いに二人は良い仕事ができそうだなと感じ取っていたという。

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