第七話 3人目の仲間
神官の女性はミアと名乗った。そして、とりあえず仲間にするかどうかを判断するための話を聞くために冒険者ギルドへと三人は戻っていた。
「はい、ではミアさんの採用試験を始めたいと思います。」
「は、はい。頑張ります。」
「なあ、このよくわからない面接はほんとに必要か?」
なぜかミアは会社の面接スタイルで二人の前に座らされていた。勿論、発案したのは風雅ではあるが、意味があるかと聞かれれば、ノリでやっているだけなので、当然ながらノーである。
「では、まずなぜ私たちのパーティーに入りたいと思ったのですか?」
「無視かよ。あーはいはい、もう突っ込みませんよ。だからチョップはやめろ。」
「えっとですね。あえていうなら、そういうところなんです。」
風雅とガリューは頭を捻った。この様子のどこだろうか?二人は顔を見合わせてしまった。そして同時にミアへとかけた言葉は奇しくも同じ一言であった。
「「えっと、もしかしてあんた変な子?」」
「ち、違います。あの・・・ですね。お二人は女の人と男の人なのに、こう・・・対等っていうのかな。そういう感じじゃないですか。それがいいなぁって。」
それから少し話を聞き進めたところ、ミアがこれまで入ったパーティーのことを聞き出すことが出来た。
最初は女性だけのパーティーに入ろうとしたそうだ。しかし、それほど社交性のない引っ込み思案なミアは姦しい女性のノリについていけず、徐々に孤立。結果的には他に良いメンバーが見つかったということで、クビに近い形で追い出されてしまったらしい。
次は男性三人のパーティーに入れてもらったそうなのだが、今度は三人ともがミアを守ろうとしてしまい、ミアにはやることがない。これではだめだと思い、なんとかしようと頑張っては見たものの、結局三人はミアを下に見ていたようで、いつまでも姫プレイ状態が止まらなかったそうだ。最終的には離脱するしかなくなってしまった。
そして、最後のパーティーも男性三人だったそうだが、今度は別の問題が発生。三人の男はミアに恋愛感情を持つようになってしまう。しばらくはそれでもなんとかしていたそうだが、最終的には仲違いしてしまい、パーティー自体が空中分解になってしまい解散。
「屑どものオンパレードね!」
「そうはいっても、これは結構あるあるだから笑えねぇなあ。」
「あるあるなんですかい?ガリューさんよ。」
ガリュー曰く、女性パーティーでは三人に一人が合流するパターンはうまくいきづらい。なぜなら三人の状態で、既にそのパーティーの雰囲気は出来上がっているのだから。最後の一人はよっぽど馬があわないと無理になることが多いらしい。
男性パーティー三人に女性が混ざるのもトラブルになる典型ということだった。女性を取り合いになるという後者のパターンは特に多く、解散にまでいくケースも珍しくない。
「前者もよく聞くな。そのまま入ってなくて正解だ。そういうパーティーは全滅するケースがすげー多いみたいだからな。」
「そ、そうだったんですね。」
「ここまでの話を要約すると、私たちが男性一人、女性一人の組み合わせだから入ってみたいと思った。そういことでオーケー?」
「はい、そうですね。えっと・・・ほんとはもう一つ理由があるんですけど。そっちは・・・出来れば秘密にしたいです・・・」
「言いたくないなら別に聞かないわよ。ガリューもいいでしょ?」
「いいんじゃねえか?そもそも選べるほどの余裕もないんだし、とっとと実戦で腕前見た方が良いんじゃねえかと思っているくらいだし。おっと、わかったわかった。だから、腕をそっとおろせ。」
「よろしい。それでは続けます。」
振り上げられたチョップはまたしても振り下ろされることはなかった。超余談ではあるが、ガリューはついに風雅の流れをつかむことに成功していたのだ。
「あなたの趣味、あるいはこれまでに力を入れてきたことはなんですか?」
ガリューはその質問になんの意味があるのかはわかっていなかった。もしかしたら、面接っぽいことを聞きたいだけではないだろうか?なんてことも思ったが、そうであったとしても止めると不機嫌になるのは目に見えていたので、めんどくさくなって止めなかった。
「えっと、暇なときにやっている事という意味でしたら、聖神様へ祈りを捧げる事・・・でしょうか。」
「なるほど、大変興味深いですね。」
この後もよくわからない質問は続く。まぁ、結果はどう答えようとも一緒で、夜に一仕事用意できたので、そのときのミアの実力で決めようという話が二人の間ではついていた。要するに、これ自体がほとんど悪ふざけの茶番ではあったが、なんとなくガリューも見てる分には楽しかったので、しばらくこの様子を見て楽しもうかなと割り切ることにしたのであった。
---
「さあ、やってきました。共同墓地!」
「この辺に人はいないだろうとは思うけど、一応真夜中なんだ。あんまり騒ぎ立てないようにしようぜ。後で、怒られても嫌だし。昨日の誰かさんのせいで今日も散々怒られたんだからな。」
「まあ、迷惑な人がいるものね。」
「いや、おめーのことだよ!!」
「知ってる。それは知ってて棚に上げてるの。」
風雅は真顔だった。ミアは二人の様子を見てクスクスと笑っていた。なるほど、こういう雰囲気が前のパーティーにはなかったのだろう。ミアが妙におどおどしているのも、これまでのパーティーに原因があるのかもしれないなと二人とも思い始めていた。
というのも、半日一緒にいただけで、ミアはかなり二人にうち解けていたのだ。喋るのは少々たどたどしいものの、最初にあったときのようなおっかなびっくりな感じはほとんどなくなっていた。
「それで、フーガは悪霊系の魔物の倒し方は知ってんのか?」
「残念ながら知らないわね。」
「そうか、本当に残念だな。」
「大丈夫よ。だって、これはミアのための試験なんだから。」
二人としては実はもうミアを仲間に加えることはほぼ決めていた。正直、断る理由が見つからなかったからである。闘技大会に参加する事も了承しているし、性格的にも問題は見つからない。少々気が弱いところはあるが、二人がおせおせなので、むしろありがたいと思うくらいである。
しかし、そうはいっても肝心の問題が残っている。そう、それはミアの実力であった。全く冒険者に向いていないようなら、いくらなんでも連れて回るわけにもいかない。
そこで、二人は安全性の高い依頼の中から、墓地の悪霊を祓うという仕事を受けてきて、これの解決をミアを中心にやってみるという実技試験を行うことにしたのだ。
この依頼は本来は街にいる神官たちが請け負うのだが、なぜか今日はほとんどの神官が魔力を使い果たしてしまうという謎の現象が起きてしまった。そこで、普通なら依頼にならない程度のものではあるが、急遽ギルドへ仕事として頼まれのである。
街の中なので、逃げる事も容易。なぜなら悪霊は墓地からは簡単には出てこないのだから。さらにいうなら失敗してもほぼリスクなし。今日の分が片付かなかったとしても一日くらいならどうということはない。すぐに悪霊が街に出てくることはないし、翌日の神官さんが少々大変程度で済む。神官のミアの能力を見るにはもってこいの依頼だった。
そうして、しばらく墓地を三人で進んでいると、悪霊たちがやっと出てきた。神官さんたちが毎日ちゃんとお仕事をしてくれていることもあるし、そもそもここは街の中にあるちゃんとした墓地なので、悪霊は強くないし少なめである。だから、そもそも見つけるのに時間がかかってしまった。
「さあ、ミア!あの悪霊をばしっと退治しちゃうのよ!」
「は、はい。頑張ります。」
ミアが悪霊たちが集まっている方へとずずいっと進む。そして・・・しばらくにらみ合いが続いた。
「あの・・・悪霊ってどうやって退治するんですかね?」
「おめーも知らねえのかよ!いや、今までどうやって神官として働いてきたんだよ。」
そう聞くと、ミアは頭をこてんと捻った。それを見て二人も首を捻った。
「私・・・神官じゃありませんけど・・・」
「「なんだって?」」
二人は綺麗にハモった。
「えっと、聞かれなかったので答えませんでしたが、私、職業は魔法使いで、分類はブルーマジシャンです・・・」
「じゃあなんで神官服着てんの?」
「い、家が代々神官の家系でして、この服に愛着があるといいますか・・・」
「水の女神様の洗礼を聖神様のローブにしてもらってんのか?」
「いえ!そんなこと依頼できるわけありません。私、加護持ちなので、服装は特に縛りがないんです。」
二人はお互いを見つめ合って、しばらくしてから納得した。そういえば、私(俺)たちもそうだわ、と。
「高位の悪霊となれば神官必須だが、このくらいなら俺達の魔法でも消し去れるはずだ。」
そういうと今度はミアが驚いていた。
「あの・・・お二人も魔法が使えるのに、その恰好ということは、もしかしてですが・・・」
「そうよー。私はグリーンの加護付き。ガリューはレッドの加護付きよん。」
「ええ!お二人は違う分類のマジシャンなのにパーティーを組んでいるんですか?」
「あぁ、結構楽しいもんだぜ。」
「そ、そうなんですね。私、魔法使いは違う系列の魔法使いとは組まないものだと思ってました。」
「俺と同じだな。俺も今まではそう思っていた。」
「いーじゃないの。細かい事は置いておきましょ。それよりも、こうなったら総力戦でいくわよ。ミアもついてきなさい!」
「わ、わかりました。精一杯頑張ります。」
さて、頑張るとは言ったものの、悪霊の魔物は神官で浄化するのが基本である。武器で倒すよりかは可能性があるものの魔法使い三人ではどうしたものか。
「ねえ、普通に魔法当てれば倒せるものなの?」
「まぁ、そうなんだが、普通の魔物とは違うな。傷をつけるというよりも魔力自体をぶち当てて消滅させるって感じだ。」
「要すると風の刃じゃ無理ってことにならない?」
「ちょっと厳しいかもな。とりあえずはこんな感じだ。ほらよ!!」
ガリューの手のひらから炎がぶわっと放たれる。基礎中の基礎魔法である『炎の生成』を使ったのだ。炎は一体の悪霊を包み込むとそれを逃がさぬようにまとわりつく。そしてしばらくすると悪霊は炎の中からすうっと消えていった。
「まぁ、基本はこんな感じになるな。威力は大したことなくてもいい。ある程度の時間魔力を当て続けてかき消すんだ。」
「あんなコントロールまだできません!」
「うーん、そうか。まぁ、まだ魔法覚えてすぐだもんな。風ならそうだな・・・竜巻の魔法かなんかで包み込むとかいいんじゃねえか?」
「でも、練習してないから詠唱から考えることになるわよ?」
「ここの悪霊はほとんど手も出してこないしいけるだろ。」
「それもそうね。じゃあやってみるわ。」
風雅はイメージした。竜巻・・・竜巻・・・いや、竜巻ほど強くなくてもいいわ。そう相手をちょっと拘束出来ればいいんだから・・・つむじ風?そうね、もっとこうただ風がぐるぐるとした・・・
「風を渦を巻き壁を作れ。『風の壁』」
当たり前ではあるが、本来は防御に使う魔法ではある。しかし、魔力を当て続けるという目的にはこれ以上適した初級の魔法はなかったかもしれない。悪霊の周りを包んだ風の壁は悪霊を逃がさずに消滅させた。
「やったわ!」
「お、なかなかいいじゃねーか。」
「ねぇ、ミアも見てた?」
そう言って振り向くとそっちではミアが悪霊をばんばんと退治していた。ミアはただ初級魔法を『水弾』を悪霊に向かってぶつけているだけなのだが、たった一発で悪霊は消滅してしまうのだ。
「えーい。えーい。」
二人とも疑問には思ったが、ミアはなにか特別なことをしている様子はない。しかし、このミアの活躍があって、この仕事は神官がいるつもりでたてた予定通りに終わらせることが出来たのであった。
---
仕事を終えた三人は、冒険者ギルドの食堂へ来ていた。まぁ、毎度のことではあるが、今日もここで食事をしていこうと考えたわけである。
というのも、この冒険者ギルドの食堂はかなりお安い設定になっているからだ。冒険者しか利用できないが、冒険者のために値段設定がかなり優遇されており、特に冒険者なりたての初心者たちにはありがたい場所になっている。
「ということで、ミアは私たちのパーティーに正式に加入する事になりました!」
「よろしくお願いいたします。」
「おう、よろしく。」
「ということで、飲むぞー!!」
「おう、ほどほどにしてくれ。無理だとはわかってるけど。」
昨日何があったのかを知っている冒険者は多かった。新人の女性冒険者が他の冒険者たちをお酒で返り討ちにし、死屍累々の状態まで追い込んだことを。しかし、どんな冒険者なのかという情報まではなかなか知られていなかったことが第二の悲劇を作り出す。なにせ、昨日巻き込まれた冒険者はまだこの食堂へ来られるほど回復していなかったため、今日の食堂にいた冒険者は風雅のことを認識できなかったのだ。
そして、それが新たなる惨劇を生むことになるのだった。




