第27話 これは嫌がらせなのでは、と思いました。
いい感じに話がまとまりそうなところへ横やりを入れるアンファー。しかし、話を聞くとその理由も納得できなくもない感じではあった。
「それは特別扱いが過ぎるといったのです。なぜなら、ハナさんが実技実習が初めてなのは彼女がその能力があると判断されて、この最上級クラスへいきなり転入してしまったからです。それが初めてだからという理由でサポートを受けるというのはおかしな話でしょう?」
そういわれるとそうとも思える。最上級クラスの生徒と同じことができるという前提だからこそ花はこのクラスへの転入が許されているわけだ。そうであるならば、アンファーの言うことも一概に言いがかりとも言い難い。
「でも、初めての実習であることはちゃんと考慮するべき事象なんじゃないかな?」
「そうかもしれませんね。ただ、それは本来であれば簡単な実習へ回されること、がそれにあたるはずです。どうやら、ハナさんにはご自身で特別実習を任された理由に心当たりもある様子。それでしたら、その責任をご自身で取るのも聖騎士としての責務なのではないでしょうか?」
「うーん、そう言われたら、そういう感じにも思えるなぁ。」
どうしたものだろうかとドロイドも考えてしまう。実際に正論を言っているのはアンファーだ。だから、ここで対処を間違えると花が一層特別扱いになってしまう。
「構いませんよ。別に、私は自分でなんとかします。」
「いいのかい?簡単そうに言うけど結構大変だよ?」
「ドロイド先生に迷惑をかけるわけにはいきません。それに、アンファーさんのおっしゃることは間違っていません。」
「ご理解いただきとても嬉しく思います。」
「あー、ただ、もう一人の特別実習はアンファーくんだよ。」
「おや、そうでしたか。いえ、私の成績は常にギリギリですので、それもあり得るでしょう。わかりました。頑張らせていただきますよ。」
「もちろんだけど、ハナさんにあんなことを言ったんだから、今回は君は一人で挑むんだよね?」
「おや、これは手厳しい。わかりました。私も一応先輩です。それでなんとかさせていただきましょう。」
アンファーはニコニコしながら答える。どうやら、一人でもなんとかする自信があるのはアンファーも同じようであった。
「なにあいつ。すっごいむかつくんですけど。」
「アイリスさん、さすがに面と向かってそういうことはいっちゃだめですよ。」
「だって、せっかくリニアが手伝うって言ってたのにさー。」
「それなら、アイリスさんがアンファーを納得させるしかないけど・・・できる?」
「できるわけないでしょ!」
「そんな自信満々に言われても・・・」
アイリスはぷりぷりと怒っていたが、どうしようもないことはみんなわかっていた。ただ、ここで流れを壊すものが現れる。
「そうですか。それじゃあ、ハナさん。明日はどこでいつ集合にしましょう?」
「リニアさん、僕たちの話を聞いていましたか?あなたはハナさんを手伝ってはいけないんですよ?」
「はい?どうしてそうなるのですか?」
「ですから、ハナさんが特別扱いになるからと伝えたでしょう。」
「はい!それは聞いていました。でも、それで私が手伝えないことにはなりませんよね?」
「・・・どういう意味でしょうか?」
まるで理解できないという感じのアンファー。ようやく表情にちょっとイラつきが見えてきた感じがある。しかし、まだ冷静にリニアとの会話を続けようとはしている様子だった。
「要するに、私が学校の実技実習としてはついていけなくなった、というだけでしょう?そうだとすれば、私は明日からお休みになるだけなので、友達を手伝いたいと思います!私の評価にはならないのは残念ですが、ハナさんは初めての実習ですからね。どーんとお任せください。」
そのリニアの言葉に全員が言葉を失った。たしかに、そう受け取ることもできる。そう、アンファーの主張はとても正しい。学校側がサポートとして、リニアの同行を認めて実習するのであれば、それはおかしいことになる。でも、リニアが休みに勝手に手伝うのは止めようがない。なにせ、実習は現地の協力者を頼むことは普通だし、場合によっては正規の聖騎士と同行する場合もある。なにも一人で絶対に成し遂げる必要なんてものはなく、決められた目標をどうにかして達成さえすればいいのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください。つまり、リニアさんはなんの得もないのにハナさんの実習を手伝おうというのですか?」
「アンファーさんも案外頭悪いことを言うんですね。友達を助けるのに得とか損を考える人はいませんよ?何を言っているんです?」
その言葉にもはやアンファーは反論できる言葉を持っていなかった。その様子を見ていたドロイドはうんうんと頷いてこう続けた。
「よーし、それじゃあ、この件はここまで。アンファーくん、君はとても賢いが今回はリニアさんの勝ちだね。」
少々納得がいかない様子ではあったが、反論できる言葉がないアンファーはふうっと息を吐きだし、いつもの笑顔に戻った。
「どうやらそのようですね。これは一本取られてしまいました。お騒がせして申し訳ありません。」
一体何が勝ちだったのだろう?と首をひねるリニアに花やアイリスたちは大笑いしてしまうのであった。
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翌日、花とリニアは冒険者ギルドへとやってきていた。そう、ここは聖騎士国の冒険者ギルドだ。
「はい!それではここで依頼を探しましょう。」
「あの・・・二人でも依頼を受けられるのですか?」
「それは大丈夫です。この特別実習はちゃんと聖騎士国からの通達があり、例外的に4人でなくても依頼を受けられるようになっています。」
「なるほど、そういうことなんですね。」
特別実習、その正体とは聖騎士国の冒険者ギルドのお手伝いとなる。というのも、聖騎士国の冒険者ギルドは閑古鳥が鳴いている状態なのだ。聖騎士国は当然ではあるが、聖騎士たちがいる。そのため、普通の国よりも国の周りの治安はかなりよく、危険な野生動物も聖騎士たちが基本的には駆除してしまう。このせいで、聖騎士国の冒険者ギルドには厄介な依頼で、尚且つ、聖騎士に依頼できない程度の支払いの悪い依頼がやってくることになってしまうのだ。
結果として、危険度の割にうまみの少ない仕事しかなく、聖騎士国の冒険者ギルドは普通の冒険者がいない状態になっている。ただ、それでも冒険者ギルドには仕事の依頼は来るのだ。だから、その手助けのためにこのような特別実習が行われることになっているというわけだ。
この特別実習が厳しいのはここまでの状況を聞いただけでも想像に難くないとは思うが、クリア条件はさらに相当厳しい。1週間で一定の金額を稼いでこないといけないのだ。そのため、効率の良い依頼があればいいが、聖騎士国の冒険者ギルドではそういう依頼は取り合いになるので、そうそう簡単に受けることなどできはしない。
要するに、この実習では効率の悪い依頼をなんとかして数をこなし、お金を稼いでいくしかない。
「それにしても相変わらず碌な依頼はないですね。」
「そもそも全然依頼がないように感じますが?」
「うーん、たしかにこんなに少ないのは異常事態ですね。すみませーん!」
リニアは受付にいたお嬢さんを捕まえてきて事情を聞いてみた。そうすると、意外な答えが返ってくる。
「今朝一番に聖騎士見習いの方がもう一人いらして、依頼は根こそぎ持っていきました。一人でこなせるとは到底思えない量でしたが、聖騎士見習いの方が来た場合には依頼は断らない決まりですので、全部お願いいたしました。」
「アンファーさんですね。どうやら数をこなしてなんとかする手段に出たようです。いやー、さすがですね。」
「そ、そうでしょうかね?」
花はアンファーのあの態度を見ると、こちらに対する嫌がらせなのではないかと思ったが、どうやらリニアはそんな風には考えなかったようだ。
「しかし、そうなると困りますね。なんとか大きなお金が稼げる依頼は残っていないのでしょうか?」
「難易度を度外視していいのでしたら、一つだけ残っています。」
「おお、それは助かりますね。一体どんな依頼でしょうか?」
「それが・・・おそらくはドラゴンの討伐という依頼でして。」
「おそらくとはどういう意味でしょうか?」
依頼書を見せてもらったところ、どうやらドラゴン種ではないか?という痕跡が見つかり、調査を含めての依頼、ということであった。見つけた場合には討伐も依頼内容に含まれているので、たしかに討伐までいければこの依頼一つでも特別実習がクリアーできてしまう。
「では、これにしましょう。」
「あの、大丈夫なのでしょうか?」
「だめなら、怒られましょう。どのみち、ここから他の依頼が来るのを待つのは無理です。普段なら、塩漬けの依頼をこなしていくだけで十分ですが、それが一個もないんですから。」
それを聞くとますますアンファーがわざとそうしたとしか思えない。ただ、選択肢もないし、自分たちの実力であれば油断さえしなければドラゴン種でも討伐も可能そうには思えた。
「わかりました。ここはそれでいきましょう。」
「あの・・・本当に大丈夫ですか?ドラゴン種の討伐があり得るんですよ?」
「平気です。むしろ、そういう案件をなんとかするのがこの実習の目的でしょうし。」
その言葉を信じてくれたのか、それともただ決まりでそうなっているからなのか、受付のお嬢さんは依頼の契約を済ませてくれた。こうして、二人はドラゴンの討伐へと向かうことになったのだ。
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遡ること数時間前、アンファーは冒険者ギルドに一番乗りしていた。あの二人の能力を考えるのであれば、塩漬けになっている難易度と報酬が釣り合っていない案件を強引にクリアし続けるだけで、なんとかしてしまうことはわかっている。それでは面白くない。
そこでアンファーはすぐに行動に出た。とりあえず、依頼が出されたのが古く、ずっと残っているような塩漬けの案件を全部引き受けた。もちろん、このまま自分ひとりでこれをこなすことなどできはしない。
自分で出来ないことは人にやってもらえばいい。それがアンファーのモットーの一つである。
すぐにアンファーは依頼内容の精査に入る。案件が塩漬けになってしまう理由はいくつかあり、それをその理由事にまとめなおしたのだ。
まず、依頼内容に対して報酬が安すぎる案件。これは簡単に片づけられる。依頼料をアンファーの方で追加してしまえばそれで済む。アンファーは得意の話術を使って、これらの案件を次々に他の冒険者たちへと押し付けていった。
次に、依頼内容が曖昧な案件。これは調査依頼に多く、何かあった場合には追加報酬を設定してある。ただ、こういった案件は場合によって未知の脅威と遭遇するリスクがあり、冒険者には嫌がられるのだ。そこでアンファーは依頼内容の最低条件を見極め、それだけの満たせばよいという形で依頼をかけなおした。調査が目的なのだから、そこにいってその証拠だけ取ってくればいい。脅威と遭遇しても逃げて良いとはっきりされているなら、受けてくれるものいる。ま、その後がどうなるかはわかったものではないが、それはアンファーには関係ないのだ。こうして、この手の依頼も全て他の冒険者へと押し付けていった。
最後に残ったのは本当に実力がものをいうために誰も受けなかった依頼である。
「これについては・・・まあ、ある程度慎重にいってあげましょうか。」
依頼達成のみを考えたら、もっと楽にできるのだろうが、さすがに死人を出すと聖騎士学校の評価でもよくないだろうし、無意味な恨みを買うことになる。アンファーにとってはそれは避けたいところだった。結果として、アンファーは金に糸目を付けぬ方法で腕利きを集めた。任務を達成できる腕利きは一応いる。聖騎士国の冒険者のほとんどは聖騎士になれなかったものたちだ。その中には腕は良いが問題があって聖騎士になれなかったものもいる。だから、依頼料さえ高くすればそういうものたちを集めることは容易なのだ。
最後にアンファーの手元には普通には達成が不可能そうな案件が三つほど残っていた。
「うーん、このくらいなら自分でやりましょうか。目的は果たせそうでしたし、少しくらいは働いておきましょう。」
このアンファーの行動の本当の狙いがわかるのは、花とリニアが戻ってきたときになるのであった。




