第25話 新たな出会いによって新たな考えを身に着けました。
ギド工房へとやってきた花。この2週間、防具としては使ってきた手甲だが、攻撃には一回も使えなかった。当然である、殴っただけで相手を殺害する手甲などクラスメイトとの授業や修行で使えるわけがない。幸いにも、そのおかげもあって魔力を流さないように調整する技術はとてもうまくなった。普段は防具として使い、攻撃するときには魔力を流さないようにするのだ。
その様子をギドに見せたところ、ギドは感心するばかりであった。
「凄いじゃねぇか。完全に使いこなしてるな。」
「違います。使いこなさないわけにはいかなかっただけです。」
「なんにせよ、そこまで装備になれたんだったら、もうほんちゃんのやつを作ってもいいな。」
「その前にひとつどうしても作ってほしい機能があります。」
「なんだよ。結構いい設計だったのに、何が不満なんだよ?」
「攻撃が発動しないようにする機構を組み込んでください。」
「やっぱいるか?」
「そりゃいるでしょう。使っててよくわかりました。私にとって、あれは切り札にするべきであって、そうそう頼るものじゃないです。」
「そっか。わかったよ。そっちはなんとかする。」
そこからは実験と話し合いの時間となった。まず、どのくらい花が魔力を制御できるのか、それによってどの程度まで魔力を受け止められたら防具として使えるのかが決まる。つまり、それを計ることでどんな機構を組み込めるかの判断をすることになった。
まず、前回は簡単にぶっ壊してしまった聖騎士用の手甲をつけてみる。
「それじゃあ、それを壊さないように魔力を流してみろ。」
「はい、わかりました。」
魔力を流してはみるが、今までとは違いゆっくりと流して大丈夫なラインを見極めてみる。しかし、そううまくいくものではない。わずかに魔力を強めだした途端に魔力が吸収されるような感覚があり手甲に魔力がどんどん通おうとしてしまう。
ギギギ・・・・
手甲がきしむ音が響き渡る。
「だめだな。止めろ。」
「はい・・・」
「うーん、やっぱりそううまくはいかねえな。」
「そうですね。それができるならそもそもあんな装備である必要がありません。」
「まあ、実際にはミスリルならこれほど魔力はすんなり流れない。ただ、その分貯める魔力も大きいからやばくなったときに扱いきれない可能性はあがる。」
「でも、攻撃するときに魔力を切っていたら、いざというときに危険ですよね。」
「そりゃ、そうだろうなぁ。そうなったら、とりあえずは使えるようにするしかねえな。」
「なにか考えがあるんですか?」
「ああ、要するにハナが使いこなせればいいんだから、それだけできるようにする。」
ギドが考えた新しい手甲には魔力を受け止めてため込む鉱石を一つはめ込むそうだ。これに放出するはずだった魔力をガンガンに溜めていく。そうすれば、とりあえずは攻撃に使わなくても問題なくなる。
「でも、その魔力はどうするんですか?」
「限界が来たら放出するしかない。それは任意で出来るようにする。ただ、普段使うくらいならため込み切れるくらいのものにしておけば、徐々に勝手に霧散していく。」
「なるほど、それなら長時間使い続けてしまったときにだけ、どこかで放出してしまえば・・・」
「それで後はずっと同じように防具としては使えるだろう。ただ、まあ、わかりやすい難点はある。」
「それはいったい?」
「攻撃が任意のタイミングではできねえし、調節のしようもない。ある程度魔力がたまらないと放出できないし、溜めた魔力は全ぶっぱだろうな。」
「・・・あの、その場合の威力ってどうなるんでしょう?」
「さあな?とりあえずは空に向けて撃つようにだけいっておく。」
それについては花も納得である。これで使いやすい防具ができたらなにせ助かるので、やってもらうことにした。
「ただ、その場合はちょっと追加の報酬はもらうぞ。その為の鉱石も安いものじゃない。大型魔道道具用の相当良いやつを使わないとすぐに貯まり切ってしまうだろうしな。」
「了解です。それはこちらもなんとかします。」
「じゃあ、そういうことで制作にかかるぜ。そうだな、来月くらいにまた来てくれ。その頃には完成前の調整品までは持っていく。」
「はい、楽しみにしています!」
こうして、花は花専用装備の作成を本格化させていったのである。
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翌日、授業前に修練場へ寄った花。これも特に理由がない限りは大体日課にするようになった。この修行場なら周りにも迷惑かけないし、広さ的にも色々なことができる。そして、大概は先客にアイリスがいるのがいつものことなんだが、今日は様子が違った。
修行場ではアイリスともう一人が激しく模擬戦を繰り広げていたのだ。
アイリスは相変わらずのヒットアンドアウェイ戦術ではあるが、相手はそれを避けるのではなく受け流していた。それはつまり、アイリスの速度を完全に捉えている証拠である。しかも、捉えているだけではなくそれに対応する技術があるということだ。
「凄くきれいな動き・・・」
「えっと、誰でしょうか?」
「ああ、あれがハナハナ。新しいクラスメイトっていってたやつ。」
「おお、そうでしたか!」
どうやら二人は相当に集中力を高めていたようではあるが、花の接近には気が付いたようである。そういう訓練も積んでいるのかもしれない。花に気が付いた二人は花の元へと寄ってきた。
「私はリニアといいます。特別任務にて聖騎士として外で働いておりまして、昨日までは聖騎士国の外にいました。これからよろしくお願いします!」
「ご丁寧にありがとうございます。私は花といいます。スカウトされて2週間ほど前からこの学校に通わせていただいています。」
「はい!アイリスさんに聞いています。これからは私も一緒に修行させていただきますのでよろしくお願いいたします。」
「それじゃあ、アイリスとじゃなくて二人で模擬戦やってみたら?」
「おお!それはいいですね。」
「いいんですか?それでは、お願いいたします。」
アイリスと交代して花が舞台へと上がる。なにか合図があったわけではないが、自然に二人の間に緊張感が生まれていき、試合の幕が上がった。
最初に仕掛けたのはリニアの方だった。細身の直刀サーベルを使っていたアイリスやアゼリアとは違い、しっかりした長剣を両手持ちのスタイルのリニア。しかし、その速度はアイリス以下アゼリア以上となかなかのものである。
そして、とてつもなく鋭い剣の振り。この振りの速さこそがアイリスの突きすらもいなしていた秘密といえるだろう。ただ、花を驚かせたのは速さや振りではなかった。動きがまるで読めたものではないのだ。
つかみどころがない。規則的に突いて、離れてという動きの最適化ともまた違う。めちゃくちゃのようにも見えるが、花の動きをもってしても全く追いつくことすらできない。花はなんとかして受けながら、反撃の機会を探しているが、どのタイミングで離れるか、仕掛けてくるかも読み切れない。
「おりゃああ!!」
それどころか武器を持っているのにゼロ距離まで攻め込んでくることすらある。どうみても、花にとって有利な行動なのだが、それを捌ききれない。投げてやろうと組もうとするとそれができない距離を瞬間的にとられてしまう。
(なんだろう、何かが違う・・・)
花はどうしても動きが読み切れないことに焦っていた。その焦りをつくというつもりはないのかもしれないがリニアは止まらない。先ほどまでの落ち着いた動きとはうってかわってという感じである。
「うーん、ハナハナはこういうの苦手だったか。」
どうやらアイリスには花が苦戦している理由に気が付いたらしい。しかし、当の本人は全く気が付いていないようだ。逆に攻め込もうとした動きも見せていたが、動きの速さではリニアが上で花は追いつくことができない。
魔力集中はできるようになってきているが、それを使ってもアイリスやアゼリア、それにリニアのような速さには到達できそうにない。どうやら魔力の集中をさせてもどういう風に強化が起こるかは結構個人差があるようなのだ。花は多少のパワーアップや回復力は絶大な向上は見られるが、スピードの変化がほとんど得られなかった。
それからもリニアの嵐のような攻めをただただ受け流す花。それを見ていたアイリスがついにしびれを切らした。
「あーもう、ハナハナ!リニアは勝つために最善を尽くしている。ハナハナはちゃんと最善を尽くしてるの?」
突然の叱咤激励に驚いた花ではあるが、この状況での言葉であるならば、それはおそらくアドバイスであろう。その意味をちゃんと考える花。その間もずっとリニアの攻撃は止まらない。そして、リニアがまたしても距離を詰めてくる。
そのタイミングで今度は体当たりをぶつけてみる花。今度も避けられるかと思ったが、リニアは同じように体当たりをぶつけてきた。体当たりの衝撃で両者は大きくはじけ飛ぶ。花としてはリニアの狙いにのってしまったと焦ったが、リニア自体も対処できていなかった。
「あいたたた・・・これは思った以上のパワーでした。さすがですね!」
「それはどうもありがとうございます。」
なるほど、花はリニアのことをちょっと誤解していたようだ。それならそれでやりようがある。花はやっと自分が戦いにくかった理由に気が付いた。
起き上がったリニアはまたしても突撃してくる。それに対して花も突撃する。見えないほどの振りの速さの剣が花を真っ二つにするかと思いきや、さらに奥に突っ込んだ花。肩口に剣を握った拳状のリニアの手が直撃するが、お構いなしでリニアを殴りに行く。
そして、ようやくリニアへと届く拳。だが、それにひるむこともなくリニアはショルダーチャージをかましてきて、花もまた吹き飛ばされた。そして、今度こそ剣が直撃しそうになる。ここは花も剣の軌道を読んでいた。手甲でちゃんと受け流し、それと同時に回し蹴りにいく。
蹴りはリニアへとめり込んだが、リニアはそのまま受け止め、その一撃を耐えてくる。そして、足をつかみ、片手で剣を持ち直し花へと打ち下ろしてきた。手甲で受けようとする花だが、掴まれていた足を引っ張られる形で体制を崩されてしまい、受け止め損ねてしまう。
直撃する瞬間に花は魔力を全身から放出し、リニアを吹き飛ばす。剣は強引に振り下ろされたが放出した魔力によって剣は当たっても花に大きなダメージはなかった。そして、花はその隙を逃さずに拳をリニアの腹へとめり込ませる。これにて模擬戦は決着となった。
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「ふう、負けちゃいましたね。」
「良い経験になりました。ありがとうございます。」
「正直に言うけどさ、ハナハナはもっと雑に戦うことも覚えた方が良いよ。私やアゼリーが綺麗に戦うのは攻撃を受けるとまずいから。でも、リニアっちやハナハナはそうじゃない。攻撃なんてくらってもなんとかなるときは受けてしまえば良い。」
花がリニアとの戦いでうまくかみ合わなかったのはそこである。花はリニアの行動は自分が旨く戦うためにあるんだとは思っていた。それはそれで正しかったのではあるが、リニアにとってはただ自分の攻撃をねじ込むために強引に突っ込んでいただけでしかない。それがリニアのスタイルなので、それは仕方ない。そもそもリニアも回復能力にも長けているため、それでなんとかしてきたのだ。
ただ、その考えは花には全くなかった。攻撃は食らってはいけないものだと考えていたし、食らって強引に押し切るなんてことはかっこ悪いとさえ思っていた。でも、そうじゃない。そうではないのだ。本気で命を懸けた戦いをするときには耐えられる攻撃なら食らってもいい。それで勝ちが生まれるのであればそれでいいのだ。
アイリスやアゼリアといった面々はたしかに攻撃を避けていた。それは攻撃を食らうことが危険であったに過ぎない。実際に、リオはこちらの決められると思う一撃も軽々しく受け止めて行動していた。そうだ、あれも今の花なら同じようなこともできる。
「本当に学ぶことって色々あるんですね。」
「そりゃそうですよ。私たち、まだまだ若いですからね!」
リニアは負けても楽しそうだ。そうだな、これくらい前向きにいこうと考えを改めたのであった。




