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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【怪物と呼ばれた少女、神の願いを聞き世界を救うために異世界へ渡り英雄となる】 第1部 第2章 勇者にスカウトされて聖騎士になります。
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第22話 最上級クラスの意味を知りました。

 朝の基礎訓練を終えた花は汗を流すために風呂を沸かすことにした。この世界でも風呂が割とメジャーだったのは非常にありがたかった。実際、こういう異世界では風呂は贅沢品になることは花もなんとなく読んだ漫画で知識としては持っていたのだが、この世界では割と普通に風呂の文化があった。


 それを可能にしているのは魔法道具のおかげだ。魔法道具は魔力を流すと誰でも同じ効果を引き出せる道具である。例えば、風呂を沸かすのであれば、水を生み出す魔法道具と温度を上げる魔法道具を使えばいい。料理に使う魔法道具や生活になじんだ魔法道具も多い。


 例えば、地図の魔法道具なんかは有名どころだ。各町の地図は立体モニターの形で見ることができるものが全ての街にあり、冒険者ギルドや街の案内所で重宝されている。他にも野生動物避けの結界は街の発展や村の警備にも役に立っている。このようにこの世界では様々なところに魔法道具はなじんでいるのだ。


 難点としては普通の人はそれらをあまり多用すると魔力が切れてしまうため、多くは使えないというのが普通であった。ただ、魔力お化けの花からすればそんなデメリットはあってないようなもの。風呂を沸かすのもお茶の子さいさいである。


「ふむ、私はもっと生活用の魔法道具をそろえて良いかもしれませんね。お金に余裕ができたら探しに行ってみましょう。」


 そういえば、聖騎士学校での生活中は本当にお金は自分で稼ぐしかないのだろうか?そのあたりのことを機能確認するのを忘れたなと考えつつ、花は汗を洗い流すのであった。


---


 準備を整えた花は昨日は追い返されかけた正門へとやってくる。そこには昨日と同じ門番の方が待っていた。どうしようかとも思ったが時間もない。少々気まずいが、それはそれで仕方のないことだ。なにせ、自分で覚悟してやったことなのだから、受け入れる以外に方法はない。


「あの、おはようございます。」

「ああ、おはよ・・・お、おはようございます!!」


 門番の聖騎士は90度の綺麗なお辞儀を見せてくれた。


「き、昨日は大変な無礼を働き申し訳ありませんでした!」

「あ、あの!気にしないでください。あなたはちゃんと仕事をしていただけです。頭をあげてください。」

「いえ、昨日のことは後で勇者リオ様からお聞きしました。この程度のことでは許されないとはわかっています。」


(いったいリオさんはどんな話をしたんですか!)


 それからも謝ろうとする門番と止めようとする花の攻防は続いたのだが、それを終わらせる人物がそこへやってくる。


「いったい何をやっているのかね?」

「学校長!すみません、おまたせしました。」

「いや、まだ約束の時間の前です。騒がしい声が聞こえたので様子を見に来ただけですよ。その子はまだ学校の生徒です。正規の聖騎士がそんな頭を下げていては示しがつかないでしょう。」

「はあ・・・しかしですね。」

「お互いに悪いところがあって謝りあっている。それで良いでしょう。」

「わ、わかりました。それでは、この件はこれで終わりにします。」

「それでは、ハナくん。行きましょう。」

「はい。あの・・・門番さん、謝ってくれてありがとうございました。私も気が楽になりましたよ。」

「ああ、そういってもらえると助かるよ。これからはよろしく。」


 最後には手を振ってくれた門番の聖騎士を見て、花は心が軽くなったのであった。


---


 学校長と一緒に学校長の部屋に行くと、そこには30歳くらいの男性が待っていた。見た目としてはおとなしそうな感じではあるが、体つきは結構がっしりしている感じである。


「紹介しましょう。最上級クラス担当のドロイド先生です。先生ではありますが、現役の聖騎士でもあります。」

「君が最上級クラスに入るハナさんだね。これからよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」


 現役の聖騎士がクラスを担当していることに驚いたが、これについては程なくして謎が解ける。ドロイドに連れられて花は最上級クラスへと案内された。部屋の中には30人程の生徒が待機していた。中はそれなりにガヤガヤとしており、雰囲気でいうなら花が知っている学校とそん色はあまりないように思えた。ただひとつだけ違うとするなら、年齢には結構なばらつきがあるように見えたことくらいだろうか。


「みんな、お待たせ。今日は良いお知らせがあるぞ。このクラスに転入生が来た。名前はハナさん。膨大な魔力を持っていたためにそれを制御するために山の奥で修業していたということで、少々常識には疎い。だが、礼節はしっかりしているので、そこは大丈夫だと思う。これから仲良くしてやってほしい。」


 その紹介にクラス中が一層騒がしくなった。最初は転入生が単純に珍しいのかとも思ったが、この反応は何か違うものを感じる。


「ドロイド先生、ひとつよろしいでしょうか。最上級クラスに転入生など前代未聞の事態だと思いますが、それを判断したのはいったいどなたなのでしょう?」


 紫がかった黒髪の男子生徒が小馬鹿にしたような感じでドロイド先生に質問を投げかける。この生徒の態度こそ気にはなるものの、他の生徒が質問を制止しないところを見ると、全員がそれは疑問だったようである。


「勇者リオ様、そして豪傑バルゴ様の両名からの推薦だ。さらに、神速ジェミー様が試験をしての合格を出している。それでも異議を唱えるのであれば、正式に申し立ててみると良い。絶対に通らないとは思うけどね。」

「なるほど、それはまた豪華な面々ですこと。どうしてそんなすごい方たちが彼女を推薦することになったのでしょうか?」

「単純に実力があるからだね。それに聖騎士として恥ずかしくない正義感と行動力をリオ様は評価していたそうだよ。」

「なるほど、そこまでおっしゃるのであれば僕は構いません。どうも不躾な質問をして申し訳ありませんでした。」

「アンファーくんは納得してくれたようだが、他のみんなはどうだろうか?」


 アンファーと呼ばれた男子生徒は一応は花に頭を下げていったが、その様子を見ていた花はとても不快だった。地球でもこういうタイプはいた。ずっと無敵だった花は、連勝がいかさまではないかと良く疑われていた。そして、アンファーのようなタイプはそれが『いかさまではないと確信しているのにわざわざ疑っているようなことを言ってくる』のだ。その様子がとても不快だった。正直、花には理解できない人種だと言えた。


「はっきり言って良いのでしたら、私は納得はできません。聖騎士の最上級クラスになるということがそんな簡単に決められて良いのかと感じます。」

「アゼリアさんはとても真面目だからそう思うのは仕方ないね。でも、ハナさんが最上級クラスに入れてくれと頼んだわけじゃない。リオ様やバルゴ様がそれが相応しいと判断したんだよ?」

「そう、それが納得できないのです。どれほどの戦果を挙げたとしても、独断でそれを決めた事実が納得できないのです。」

「本当に君は真面目だね。」

「ドロイド先生こそわかっているのですか?最上級クラスに入るということはほぼ聖騎士になったということと同義なのですよ。」

「そうなのですか?」

「そんなことも知らなかったんですか。」

「申し訳ありませんが、私は常識に疎いものですから。」


 そこからはドロイド先生が代わりに説明してくれた。聖騎士学校は一年ごとに昇格試験があり、それを突破することで上級生になっていく。そして、最後には最上級クラスを経て、正式な聖騎士になるのだが、最上級クラスに入ったということは後1年で卒業が決まったとほぼ同義となるそうだ。つまり、最後の一年は聖騎士として活動するための知識を学ぶ期間になる。そのため聖騎士学校では実質卒業試験といえるのは最上級クラスへの昇格試験ともいわれていた。


 だからこそ、この最上級クラスへの転入はあり得ないことなのだ。必死になって試験を突破したものたちからすればたまったものではないのだろう。クラスの面々は年齢がバラバラだったのも試験の突破にかかった歳月が違うからだ。花は知らず知らずのうちにその尊厳をおろそかにする行動をとってしまっていたのである。


「知らないこととはいえ、それは大変申し訳ありませんでした。」

「ハナさんが謝ることじゃないよ。学園側、ひいては聖騎士側がそうしたいと思ってやったことだからね。」

「いえ、そういうことでしたら、みなさんに納得していただきたいです。」

「納得してもらいたいってどうするつもりなんだい?」

「私は実力を認められて、聖騎士学校へ連れてきてもらいました。でしたら、実力を見せるのがなによりでしょう。」

「それはつまり・・・私たちを倒せると言っていると判断してもいいのでしょうか?」


 先ほどまでの怒りは花に向けられたものではなかった。あくまでも現状への不満ということだったのだろう。しかし、アゼリアの怒りは今度は明確に花に向けられた。そうなるであろうことは花も理解はしていた。


「倒せるかはわかりません。でも、倒さないと納得してもらえないなら倒しましょう。それをしなければリオさんやバルゴさんに顔向けできません。」

「うーん、そんな必要もないんだけど・・・でもせっかくだからそうしようか。じゃあ、今日の授業は予定を変更して模擬戦にしよう。それじゃあ、修練場に移動だ。」


---


 話し合いの結果、花はとりあえず戦いたいというものとは全員と戦うことになった。ドロイド先生は止めたのだが、そうでもしないとみなは納得しないと花は判断した。いうなれば、これが花にとっての試験というところだろう。


 最初はアゼリアが来ると思っていたのだが、どうやらアゼリアはすぐには戦わないらしい。少し離れたところで、様子をうかがっている。その傍らには昨日戦ったアイリスがいることから何かしらの情報共有でもしているのだろうと花は推測した。


「ねえ、さっきはどうして何も言わなかったの?アイリスさんが一番文句言うと思っていたわ。」

「ノーコメント。」

「普段だったら絶対に真っ先に戦いに行くのに、今日は一体どうしたの?本当に大丈夫?」

「だからノーコメントだってば。」


 実際に二人が交わしていた会話は実はこの程度のものであった。しかし、花にはそれを知る術はない。自分の戦い方を唯一しっているアイリスから情報が洩れている前提で、花は最初から手の内を隠さずに行こうと決めた。


「それじゃあ、最初は俺が挑もう。準備はいいのかな?」


 最初に修練場の舞台にあがってきたのはかなりガタイの良い男であった。大型の両手剣を持っていることからパワータイプだろうと予想される。


「はい、大丈夫です。はじめましょう。」

「あー、ちなみにハナさんは武器を持たない。そういうスタイルだから遠慮しなくていいからね。よーし、それじゃスタート!」

「おおおりゃあ!」


 対戦相手の男はいきなり正面から突っ込んできた。大型の両手剣を持っているとは思えないほどの速度であり、さすがは最上級クラスの生徒といったところだろう。そして、そのままの勢いで花にめがけて両手剣を振り下ろしてきた。


ゴオォン!


 爆音と共に土煙が広がる。重たいその一撃は舞台を勝ち割り、その衝撃は舞台の外まで響くほどのものだ。そして、土煙が収まったところで倒れているのは対戦相手の男の方であった。花は振り下ろしてきた一撃のパワーを利用し、相手の体を横倒しにして地面へと叩きつけたのだ。対戦相手の力はたしかに凄いものではあったのだろうが、勇者と呼ばれるリオとは比べ物にならず、昨日戦ったアイリスにすら全く及んでいないものであった。


「あの・・・大丈夫ですか?えっと、そういえば勝利条件って決めていませんでしたが、これはどうしたらいいのでしょう。」

「あー、ハナさんの勝ちとします。」


 周りからざわざわとした様子の声が聞こえる。「いったいなにをしたのだろう?」「どうやって相手を倒したんだ?」という声が多いようではあるが、中には違った感想を持っている者もいた。


「なあ、彼女一体何をしたんだ?」

「さあ?僕みたいな落ちこぼれには到底わからないね。」

「おいおい、そうはいうけど、お前分析能力はピカイチだろうが。うーん、俺も戦ってみるか。」


 アンファーはごまかしていたが、ある程度の推察はできていた。


(当然のことだろうけど魔力が高いってことは身体能力が高いってことだ。つまり、武器なんか使わなくてもその魔力で強化された肉体こそが至高の武器となる。何をしたのかはわからないが油断ならないね。)


 ここから花の無双が始まるのであった。

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