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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【怪物と呼ばれた少女、神の願いを聞き世界を救うために異世界へ渡り英雄となる】 第1部 第2章 勇者にスカウトされて聖騎士になります。
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第21話 久しぶりに燃える戦いをしました。

 戦いは膠着状態に陥っていた。速度では相手の方が上なのは事実だろう。しかし、どうやら経験ということでいうなら花が一枚上手をいっていた。


(おそらくは、彼女は魔物や危険な野生動物の相手が主な仕事だからでしょうね。)


 逆に地球には人対人の一対一しかない。そういう読み合いは花の方が遥かに上をいっていたということだ。


 相手の女生徒はヒットアンドアウェイを徹底的に守っている。花が少しでも甘い動きをするとそこを狙って一突きを狙ってくるのだ。


「はあ!!」


 またしても鋭い突きが飛んでくる。その動きは本当に飛んでくるという表現がぴったりなほどに早い。しかし、花も徐々に慣れてはきていた。


(このタイミングで潜り込む!)


 今までは、突きの後に女生徒は動きを止めていた。だから、ここを狙うことが最善策だと考え、花は剣が振り下ろされる前提で、それを受ける準備をしつつ間合いを詰める。


 だが、その瞬間に女生徒は既にそこにいなかった。咄嗟に横に飛びのくと、今まで花がいたところへと次の突きが突き刺さる。


「なんと!この突きを避けるなんて!!」


 そういいつつも女生徒はそこからすぐに離脱していた。辛うじて躱しただけの花にとってはその場で追撃が来なかったのは幸運だったが、相手も追撃を考えている余裕はなかったというのが本音だろう。


「凄いですね。まんまと引っかかりました。」

「それでも避ける動きが間に合うなんてどういう身体能力なんですかー。ずるいですよ!」

「そうですね、本当にそうです。同じ身体能力があるなら、私はとっくに負けているでしょうね。」

「・・・なんですか、その潔さは。私、まだ馬鹿にされてます?」

「いいえ、本当にすごいと思っています。ぞくぞくしますよ。」

 

 それは紛れもない花の本心だろう。その証拠に花の顔は満面の笑顔だったのだから。


「おわわわ・・・な、なんですか、その顔は!」

「ああ、すみません。こういう戦いが実に久しぶりでして。そうですね・・・そう、興奮が抑えられないのです。」


 怪物と呼ばれ、花に挑もうとする人がいなくなった地球。それから、異世界に来てもなかなかなかった真剣勝負。自分と近い実力のものと熱い戦いに花は興奮していたのだ。


「な、なんですかね。このバトルジャンキーは。本当にこんな人が聖騎士になるんですか・・・」

「ああ、もちろん分別はありますよ。ただ、今は戦いを楽しんでも良いところでしょう?」

「良くない、良くない。何を相手に向かってそんなことを言ってるんですか?頭おかしいんですかね、まったく。」


 花はこの時点で相手の女生徒をなめるようなことは全くなかった。むしろ、その技量に感心しっぱなしである。花はあの突きが普通ではないことに気が付いている。おそらくだが、毎日毎日、何年もの間、練習し続けた結果であることを見抜いている。それは自分もそうだから。


 この世界に来ても毎日、おじいちゃんから教わった基礎練習は数時間に渡りこなしている。そうするのが当たり前であり、それをしているからこそこの身体は応えてくれる。それを知っているから。それがわかっているから、あの突きがそういう信頼の元に放たれている奥義だとわかる。


(彼女は私と同じ。同類の匂いがする!)


 まあ、これについては若干誤解もあるのだが、それについてわかるのはまだ先の話だ。


 試合自体は既にかなりの時間が経過していた。それを見ていた校長がジェミーに声をかける。


「あの・・・転入生の実力は十分にわかりましたので、この辺で終わりにしてはいかがでしょうか?」

「ああ、私もそう思っていた。あの二人が嘘をついていないことも、ハナが戦士として素晴らしい気概を持っていることもわかった。だが、おかげで止められなくなった。」

「と、おっしゃいますと?」

「ここで止めたら、私は後でハナに恨まれることになるだろう。そもそもアイリスも途中で止めて納得しないだろう。」

「それはそうかもしれませんね。」


 正直、ジェミーは自分が失敗したことには気が付いていた。もっと、適当な相手をぶつけて問題なかった。最もやってはいけない組み合わせをぶつけてしまったことを後悔していた。


 花とアイリスの戦いは膠着しているようにも見えているが、実態はそうでもないところまで来ていた。お互いに相手の技量、強み、能力を把握する段階に来てしまっているからだ。


 攻防自体は花にアイリスが突っ込むだけのシンプルなものに見える。ただ、アイリスからすればこれがい最も勝率が高いと判断したうえでの行動だ。そして、花が見せた咄嗟の動きからゼロ距離になって対処する手段がなければ、自分があっさり敗北するであろうことは理解していた。


(近寄るとやばいセンサーがびんびんに反応しますねぇ。魔力も私と比べても何倍も多いかもしれない。なんなんですか、こんな化け物が一体どこにいたっていうんですか。)


 もちろん花も状況は理解している。執拗にインに入れてこない動きはその状態の対処が困難であることを如実に語っている。つまりゼロ距離になってしまえば、対処できる自信はあった。


(後は、どうやって入り込むか・・・方法は二つ思いついていますが、一つは使いたくありませんね。)


 その使いたくない方法とは手甲の魔力放出を利用することだ。遠距離攻撃を使えるということを相手は考えていないため、隙を作れる可能性は高い。むしろ、魔力放出だけで決着がつくことすらあり得る。でも、それは実力で勝ったことにはならないだろう。


 つまり、花にとれる手段は実質一つしかなかった。その手段のために花は動き回るのをやめた。動き回っている状態は突きの起動を決めさせづらくさせるためには必須ではあったのだが、花はそれをやめてしまった。


「どういうつもりか知りませんけど」


 聞き取れたのはそこまでだった。その言葉の続きを発しながらアイリスは突っ込んできたからだ。狙いすました、今までで最速の突きだった。だが、それを花は手甲ではじき返した。


 剣ごと手を上に弾かれてアイリスの体制が崩れてしまう。しかし、アイリスもただやられるわけではない。その状態でも、後ろへと飛び退いた。そして、その動きにぴったり合わせて花がついてきた。


「うっそでしょ!」

「はあぁ!!」


 まだ弾きあげられた腕をつかみ、横腹へと拳を打ち込む。鎧どおしと呼ばれるこの突きによってアイリスは一撃で気絶した。


---


 気絶したアイリスを抱えたジェミーはそのまま彼女を連れて去っていった。


「ハナ、見事だった。そして、すまない。私は君の実力を疑って試してしまった。本当に申し訳ない。」


 去っていく前に花に深々と頭を下げるジェミー。その様子に、花はあわあわと返事をする。


「いえ、私自身も自分の実力がわかっていないので、むしろ助かりました。」

「そうか、それなら良かったよ。これからは聖騎士になるために頑張ってくれ。わからないことがあったら、私にも聞いてくれ。同じ女性として、あの二人以上に手助けできることもあるだろう。」

「わかりました。ありがとうございます!」


 こうして、花も頭を深く下げて、ジェミーとアイリスを見送ったのであった。


---


 アイリスが目覚めたのは学校の保健室だった。起き上がった時に、すぐにわかった。自分が負けたのだということを。


「あー、もう!なんで負けるの!!」

「そうだな。あえて言うなら、君は努力をしすぎたというところだろうか。」


 その声にびっくりして振り向くアイリス。ジェミーは自分のわがままでアイリスが怪我をしてもなんだったので、起き上がるまでちゃんと見守っていたのであった。


「それよりもどこか痛むところとかはないか?ちゃんと治療はしておいたが・・・」

「大丈夫ですよ!それよりもあの子はなんなんですか。すっごい魔力を秘めているのにそれを全然使ってこなかった。私の事、馬鹿にしてるんですかね?」

「アイリス、その答えは君が一番わかっているだろう。」


 ジェミーも、そしてアイリスもその答えはわかっていた。だから、アイリスはむーとむくれながらもジェミーに答えを示す。


「わかっていますよ!そんな魔力でのごり押しよりもあの戦い方が強いからに決まっています。」

「その通りだ。正直、あそこまでとはよもや思わなかった。あれほどの魔力があるなら、もっと豪気にふるまうものだと勝手に思っていた。」

「あの子の動きは本当に綺麗でした。たぶん、いえ、確実に毎日死に物狂いで鍛錬した結果です。そうじゃないなら、あんな動き出来るわけがないです。」

「そうだな、君の突きと同じだ。そして、だからこそ君は負けた。」


 首をかしげるアイリス。アイリスの突きはこの学校どころか、聖騎士でも避けれるものはほとんどいない。まさに必殺といえる一撃である。それは、アイリスが10年以上の歳月をかけて毎日磨いてきた技術の結晶であり、努力の賜物であった。それが、努力故に負けたといわれても納得できるはずがない。


「よくわからないか?ハナは君が『もっとも美しく完璧な突きを、もっとも効果的な場所にしか打ってこない』ということに気が付いたんだ。」

「どういうことです?」

「君自信が気が付いていなかったか。アイリス、君の突きは同じ場所へ同じフォームで同じ威力で打ち込まれていた。無意識なのだとしたらそれはそれで恐ろしいな。」

「そりゃあ、それがもっとも効率が良いなら誰だってそうするでしょう。」

「そんなわけがあるか。同じように打っているつもりでも、普通は理想から外れた部分がある。だが、君の突きはそれが全くなかった。だから、ハナは完璧にはじき返すことができたんだ。」

「私が上手に打ちすぎたってことですか?」

「ああ、そして彼女もまた同じ失敗をしたことがあるんだろう。」

「そんな馬鹿げた経験することあります?」

「そうじゃないなら、閃くわけがないさ。彼女の師匠は凄い人なのだろうな・・・」


 まだ納得ができていない様子アイリスではあったが、どうやら後遺症などはなさそうなのを見て、ジェミーはとりあえず安心するのであった。


---


「それでは、同じ場所に同じタイミングで来ていることに気が付いたからなんとかなったというのですか?」

「はい、あの威力の突きだったら刃を落としている模擬刀でも歯の面を弾こうとしたら手甲が破壊されていたでしょう。でも、同じ突きしかしてこなかったので、これなら弾き飛ばせるかもしれないと考えました。」

「いやはや、もはや何を言っているのか理解できません。いや、理解というかなんというかですよ。」


 あれから花は学校長と帰りの道を共にしていた。学校長は明日からどういう流れになるかということや、学校での暮らし方を説明しないといけなかった。全ての説明が終わり、後は帰る段階になったのだが、その際に先ほどの模擬戦について聞きたいということで帰りの道をついてきたのである。一応、緊急時に呼びに来るため家の場所は確認が必要なので、それも兼ねてということになり一緒に帰ることにしたのだ。


「それにしても聖騎士の見習いにもあれほどの使い手がいるなんて驚きました。」

「私は冒険者や国仕えの騎士じゃないのにハナさんほどの使い手いることの方に驚いていますけどね。その動きは一朝一夕で出来るものじゃない。一体どれほどの鍛錬を積んでいるのか・・・」


 実際、花はこの世界に来る前にトレーニングしてもらった神の修行での基礎訓練も毎日欠かしていない。それによって自分の身体をイメージ通りに動かせるようになっている。先ほどもいったが地球のころにやっていた基礎トレーニングも一切欠かしたことはない。そちらはもうあまり意味はないのかもしれないが、祖父から毎日続けるようにと言われたことを愚直に守っていたのだ。


「そうですね。毎日続ける、それが一番大事ってことだと思います。あのアイリスさんという方の突きも毎日磨き上げた技術の結晶でした。あまりにも美しく、正直なところあれを打ち破りたくはないと思うほどでした。」

「はっはっは。それはアイリスさんに直接いってあげてください。彼女もきっと喜びます。彼女とは同じクラスになるでしょうから。」

「そうなんですか。それは楽しみです。あ、そこが私の借りたおうちです。」

「おっと、つきましたか。それでは、記録して帰ります。明日は初日なので、遅れないように来てくださいね。」

「はい!今日は色々とありがとうございました。」


 花は明日からの生活にワクワクしていた。これからは切磋琢磨できる相手ができるんだ。それが目的ではないことは理解してはいる。それでも、花は自分の中の感情を抑えきることはできていなかった。

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