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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【怪物と呼ばれた少女、神の願いを聞き世界を救うために異世界へ渡り英雄となる】 第1部 第2章 勇者にスカウトされて聖騎士になります。
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第19話 大問題を解決して、大問題を起こしました。

 花は自分の威嚇によって野生動物たちが奥から飛び出した可能性について説明した。たしかに、花がいっていた階層によくいる野生動物たちが多く目撃されていたこと、さらに花が侵入したという時間と照らし合わせてもその可能性が十分にあり得ることから、まずは花の主張を聞いてみることになった。


「ふむ、そうすると君がした威嚇とやらで野生動物たちが入り口側へと逃げてきたということかな。」

「実際にそうなのかはわかりませんが、その可能性はあるかと。」

「そんなことでこのような事態になるのだろうか。にわかには信じがたいな。」

「それでは、実際にやってみましょう。」


 そう、普通に信じてもらえないだろうことは花にもわかっていた。そうなったら、逆に入り口側から威嚇をして、野生動物を奥に押し戻すのを見てもらった方が早いだろう。それに、周りの人たちへの影響も見てみたいと考えた。


 花が魔力を放ち、周りに威嚇をかける。周りの人たちはもちろん威嚇をすると聞かされている。しかし、そうであったとしても周りいた人たちは抑えきれぬ寒気に声をあげるものを少なくなかった。


「な、なるほど。野生動物たちがパニックを起こしても仕方ないかもしれん。」

「私自身も教わってから初めて使ったので効果が理解できていませんでした。」


 それから花は鉱山内部へと戻り、見つけた野生動物たちをかたっぱしから退治し続けた。隠れていても野生動物を見つけるのは簡単だった。魔力視があるからだ。何も気にしてなければ見つけられないが、気にしていればいくらだって見つけられた。


 退治することについてはもちろん罪悪感も大きかった。花が失敗しなかったら人間を襲ったりしない動物たちだって当然いたはずだ。それをわかっている花としては申し訳ないとは思いつつも、野生動物たちを退治して回った。花にはそうする以外の選択肢が用意されてなかったからだ。


 ここで野生動物を退治しないのであれば、それはただのエゴだ。花はこの鉱山で生活の稼ぎを行っている人たちがいることを理解している。その人たちの生活を脅かしたのは花であり、その責任があるのだ。


(地球では生き物を殺さなくても生きていける。でも、この世界では命を奪わずには生きていけない。)


 この経験は花にとって大きなものになった。結局、人間は自分たちを守ることを優先しなければいけないのだ。命を奪わずに解決することはとんでもなく難しい。それを身に染みて理解した。


 その後、冒険者たちの回復を待って鉱山内部を調査しなおしたが、野生動物たちはどこにも見当たらず、どうやら鉱山内部の問題はほぼ解決できたと判断された。さらにいうと、冒険者たちからの目撃情報から、最近起こっていた鉱夫や冒険者が襲われる事件の犯人はこのミスリルリザードの可能性が高く、そちらの方もこれにて解決するかもしれないとのことだ。


「結果的にいうと、こちらは助かったと言える事態ではある。」

「でも、私のミスですね。申し訳ありません。」

「うーん、それについてはあまり攻めることもできない。君が故意にやったというのであれば問題なのだろうが、あくまでも君がやったのは自衛のために野生動物たちを追い払っただけだからな。」

「そういっていただけると助かるのですが・・・」


 しかし、花は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。今回はたまたま大きな怪我人も出なかったが、もしかしたらとんでもない事態になるところだったのだ。このトラブルはこの後花にとって残念な結果をもたらすことになる。


---


「それでこのミスリルリザードを持ってきたってわけか。」

「はい、他に退治した獲物は迷惑をかけたということで鉱山へ渡してきました。」

「うーん、そこまでしなくても良いとは思うが、それで気持ちに整理がつけられたっていうなら、それで良いだろう。」


 それから花はギド工房へと戻ってきていた。店主のギドに今日あったことを説明していたわけだが、それも仕方ない。工房に大量のミスリル、さらにミスリルリザードも持ってきたのだから。


「まあ、素材が集められたっていうならこっちはそれで良いんだ。ただ、俺の教えた技術でそんなトラブルになるとは思ってもみなかった。俺が使ってもそんなことにはならねぇからな。」

「やはり、魔力が大きいというのは良いことだけではないですね。」

「なにいってんだ。良いことじゃねーか。うまく使えば、その一帯で厄介事を起こしている野生動物を根こそぎ追い出したりできるかもしれねえ。」

「なるほど、たしかにこうなるってわかっているなら使い方もあるということですね。」

「ハナの場合は力の使い方を知らないとだめだろうが、それでもそれは才能だ。大切に育てていけ。」

「わかりました!」


 うんうん、とうなずくギド。そして、話は本来の花の装備についてのものへと移っていった。


「それで試作品なんだが、こんな風になった。」


 店の奥から持ってきたのは二つの手甲。見た感じはごく普通の手甲ではあるが、ギドの表情を見るにどうやら普通ではなさそうだ。


「大体はイメージ通りに作れたぜ。こいつに魔力を込めて殴ればハナの魔力ならすげえことになるはずだ。」


 少し興奮した様子のギドではあったが、それだけ自信作なのだろう。ギドの提案で店の裏にある試し切り用のスペースへと案内された。


「この目標を魔力を込めて軽く殴ってくれ。本当に軽くあてるくらいのつもりで良いぞ。」

「わかりました。」


 手甲を付けた花は手甲に魔力を流してみる。すると、以前の手甲とは違い魔力が中にはとどまっていない感じを受けた。


「あの・・・魔力が流れているには流れているのですが・・・」

「そのまま通り過ぎている感じがするだろ?それで良い。というか、そうじゃないと強度が無理なんだよ。」

「では、この状態で良いんですね。じゃあ、試しますよ。」

「おう、ほんとに軽くいけよ。」


 花は木で出来た人形である目標を軽くそのまま小突いてみた。


どおん!!


 鈍い感じはするがそれでもそれなりに大きな音が響き、人形は木っ端みじんとなっていた。


「・・・あの?」

「おう、それがその手甲の効果だ。拳の先の方へ魔力を流していくようにしてある。だが、そこに魔力の流れを邪魔するもんがあるとそこへ魔力が一気に集中する。」

「要するに拳の先が何かに当たると一気に魔力が爆発するという感じでしょうか。」

「理解が早くて助かるぜ。」

「これって人に当てたらどうなるんでしょう?」

「ハナの魔力なら一般人はその人形と同じで木っ端みじんだな。」

「です・・・よね。」

「もちろんだが、防具としても使えるぞ。魔力は十分に流れているからな。」

「そ、そうですか・・・」


 花としては、もはやそこはどうでもよくなっていた。少しでも防具を付けた方がいいと思ってやってきたのに、結果としてはさらに攻撃力をあげることになったというわけのわからない状況である。


「それと、そいつは実はとんでもなく効率が悪い仕様になってる。」

「それはどういう意味でしょう?」

「ああ、まずハナは装備に慣れないといけねえ。そこで丈夫さを重視した素材で作ってある。その分魔力はかなり流しにくい素材なんだよ。だけど、それがハナにはありがたいことになる。迂闊に魔力を流しすぎて破壊するリスクが減るだろう。」

「つまり、いきなりミスリルで作るとミスリルすらも破壊しかねないということでしょうか。」

「そうだな、ミスリルは安い素材じゃねえし、そっちの方が良いだろうと思ってな。まずはそれを壊さないように使いこなせるようになってくれ。その間にこっちは時間がかかるミスリルの加工を進めておくからよ。」

「あの・・・具体的にはどうなったら良いのでしょう?」

「そうだな。50日くらい使っても壊れなかったら大丈夫だろ。もし、途中で壊れたら修理もしてやる。ただ、あんまり頻繁に壊れるならそもそもの改良を考える。」

「わかりました。それじゃあ、それでお願いします。」

「まあ、金は要らんが、その代わり趣味みたいなものになる。だから、忙しくなった時は手伝えんかもしれんがな。」

「私にとってはそれで十分にありがたいので大丈夫です。いろいろとありがとうございました。」

「おう、じゃあ、そいつをしっかり試してみてくれ。」


 花はこの時に一つ気が付いていないことがあった。手甲の攻撃力はすさまじいものである、ということは気が付いていた。しかし、それが魔力を流しにくい素材で流れている魔力ですらあの威力になる、ということには気が付いていなかった。


---


 翌日、どっと疲れた一日も終わり、花は本来の目的である聖騎士への入隊の為に聖騎士の管理区へと向かっていた。この管理区の中には聖騎士団の詰め所や聖騎士の見習いの為の聖騎士学校、その他にも聖騎士の運営を管理する聖騎士中央管理局などがある。聖騎士にとって重要な部分を担う場所であることから、この管理区への入場はかなり制限されている。そのせいもあるのだろうが、花はいきなり困ったことになっていた。


「あの、ですからリオさんかバルゴさんに取り次いでもらえばわかりますので。」

「はいはい、もういいから。こっちも仕事が忙しいんだ。悪いけど、これ以上ここで騒ぐなら捕縛させてもらうことになるよ?」


 花としては少々予想外の事態である。紹介状を見せれば中に入れると聞いていたのでそのとおりにしたのだが、中を読んだ門番が花のことを信じてくれないのだ。これについては二つの事情が絡んでいた。


 ひとつ、リオやバルゴが紹介状など書いたことがなかったこと。最上級の聖騎士である二人がわざわざスカウトをするということが今までになく、紹介状を持ってきた人がどうなるのかという知識が二人にも乏しかった。そのため、事前に紹介状を持ってくるものがいるということを門番へわざわざ連絡しておくということを思いついてすらいなかった。


 ふたつ、本来であればすぐに紹介者のリオやバルゴに確認がいくべきなのだが、最上級の聖騎士である二人はとてつもなく忙しい。そのため、門番が確認のために通信機に呼び出すことすらはばかられてしまったということだ。普通の聖騎士ならばすぐに確認が行われるが、二人はそういう立場ではなかった。


 しかし、ここで何もできないで帰るわけにもいかない花。こうなったらどうにか中にいるであろう二人に気が付いてもらう以外にはない。その方法はなにかないだろうか?


(思いつく方法があるにはありますが・・・)


 それをここで使うとどうなるのかは想像に難くない。そのため、使わずに済むなら他の方法で解決したい。


「おい、いつまでここにいるつもりだ!」


 しかし、それを考える時間すらも与えられなかった花はやむを得ず、思いついた方法を試すことにした。


「はあ!!!」


 花は魔力を全開にして威嚇をおこなった。もはや、これしか思いつく方法がなかったからだ。


「ひい!!!!」


 先ほどまで横柄な態度だった門番の聖騎士が腰を抜かして後ずさりしていく。それと同時に門番の通信機が鳴り響いた。


「おい!正門何があった?とんでもない魔力放出を計測したが?」

「あ、あ、あ・・・」


 門番の聖騎士はまともに口をきくことすらできない状態だった。花はその様子を見るとため息をついて、通信機を奪い取った。


「すみません、リオさんとバルゴさんからの紹介状を持って正門へと来たのですが、取り次いでいただけないようでしたので、少々手荒い手段を使いました。お二人に取り次いで事情を聴いてください。花が来た、とお伝えいただけたらわかるかと。」

「その必要はない。すぐに迎えに行く。」

「バルゴさん!そこにいたんですか?」


 通信機の向こうから聞こえてきたのはバルゴの声だ。どうやら花の魔力に気が付いてくれたのだろう。


「いや、今の魔力はハナだろうと通信機に急いできた。リオは団長のところへ行った。」

「すみません、驚かせてしまいましたか?」

「ああ、パニックだな。リオは事情説明に走った。」

「すみません、紹介状を渡しても取り次いでもらえなかったもので。」

「それはこちらの落ち度だな。すまん。」


 どうやら事情は理解してもらえたようだ。手荒い手段にはなってしまったがよかったと胸をなでおろしている花ではあったが


「だが、これはやりすぎだ。団長から説教されるのは覚悟しておけ。」


 そこまで世の中うまくいくものでもないようであった。

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