第16話 聖騎士国へとやってきました。
花とリオとバルゴ、この三人でサボルの街から聖騎士国へと戻ることになった。他の補佐役としてついてきていた女性たちは昨日のうちに既に戻ってしまったらしい。
「あの、サボルの街から聖騎士国へはどのくらいかかるのですか?」
「結構距離があるよ。何のトラブルもないなら丸二日くらいで到着できるかな。」
「二日でつけるくらいならそれほどの距離はないのではないでしょうか?」
「いや、列車を使うからね。列車で丸二日は相当の距離だよ。」
魔道列車、おそらくだがこの世界で最も大きな革命をもたらした魔法道具である。ものとしては地球にある列車とほとんど変わらない。レールを引き、その上のみを走れる列車を運行しているというものだ。違いとしては、レールや列車に魔法の力が使われており、魔力によって走ることができる。さらに、レールも列車を強力に補助するように作られているため、列車の脱線はまず起こらないし、そのおかげで列車の速度も地球のものよりもかなり高い速度を出せるようになっている。
「大きな街と大きな街はこの列車で繋がっているから、むしろ遠い距離だけど、移動にかかる時間は少なくて済むんだよ。」
「なるほど、便利なものですね。物資を運ぶのにも重宝しそうです。」
「そのとおり、おかげで流通の面も格段に進歩したね。本当にこれを発明したティー商会は凄いところだよ。」
「ああ、元々は流通のために開発されたんですね。」
「うん、そうみたい。その後に人も運ぶようになったんだ。」
「へぇー。そうだ、この世界には空を飛ぶ乗り物はないんですか?」
たしかに地球でも列車は流通や人の移動の手段としてはメジャーである。しかし、長距離の移動といえば地球では飛行機だ。飛行機はなくとも飛行船ならこの世界でも十分に作れるだろう。さらに魔力を使えば、その性能を大きく引き上げる可能性もある。そのため、現実的にあり得そうだと思って花は聞いてみたのだが、その答えは花の予想とは違うものであった。
「技術的には作られたことがあるらしいんだけど、実用化はされなかったね。」
「あ、そうなんですか。ちょっと意外です、便利そうなのに。」
「ハナ、元々列車も人を運ぶものではなかった理由はわかるか?」
突然のバルゴからの質問に花は少し考えてみる。おそらくだが、この列車の話は空を飛ぶ乗り物が実用化されていない理由が関わっているのだろう。バルゴは無駄なことは言わないタイプだということはこの短い付き合いでも十分にわかっている。
この世界は地球とは違うところが多い。そこにおそらくだがこの質問の答えが隠されているのだろう。そうなると真っ先に思いつく問題はこれしかない。
「安全性の問題がある・・・とかでしょうか。」
「そうだ。列車はその問題をある程度解消してから人を乗せるようになった。」
元々は列車など維持できるわけがないとされていた。それはレールを守る難しさを指摘されていたからだ。この世界には強力な野生生物が多い。それが場合によっては魔物化すらする状況で人がずっと常駐できない施設を守ることは不可能だと考えられた。
「それをティー商会はやってのけた。」
まずレール自体に基本的な防衛機能を設置、これにより弱い生物はレールに近寄ることがなくなった。次に、レールの一定範囲事に防衛用、および修復技術を持ったスタッフの常駐。レールが攻撃された場合にはすぐに待機している施設へと知らせがくるようになっている。そして、すぐに現場へと向かい修復およびレールを傷つけた野生生物が駆除されるようになった。
「それを続けていくと野生動物たちは理解する。レールを傷つけると人間が襲ってくるのだと。」
「そうして徐々にそもそもレールを襲う生き物が減ってくる。そのタイミングで人も運ぶようになっていったんですね。」
「そのとおりだ。」
「簡単なように思うけど、もちろんすごい大変なことだよ。そもそもこのレールの維持にかかる魔力自体が相当なもので、最初にティー商会が列車の維持に失敗していたら、ティー商会は破綻するほどの事業だったはずだ。」
「さて、それじゃあどうして飛行する乗り物が実用化されないかはわかったか?」
「あ、そうか。元々はそっちの疑問でしたね。ええと、維持できないからということでしょうか。」
「少し違うな。安全が保障できるようにならないからだ。」
この世界には空にも危険な生き物は多い。そのため、物資や人を大量に運ぶような大きな飛行船を作ってしまえば、それに対して攻撃してくる生き物は多い。それを絶対に撃退できる保障があるのであれば、問題はないだろうがそんなことはわからない。空ではどんな生き物が襲ってくるのか予想できないからだ。
「しかし、列車はある程度は予想できる。陸を進む生き物はその環境によって道を遮られるからだ。そのため、予想外の出来事が起きにくい。一度ある程度の安全を確保してしまえば、後は最低限の予想外に自体に対応する護衛だけで安全をほぼ保障できる。」
「実際、列車も一番大変なのはレールのルートを選定することみたいだよ。できるだけそもそもが安全なところを選ばないといけないからね。」
「なるほど、ありがとうございます。大変勉強になりました。」
「どういたしまして。それじゃあ、そろそろ出発の時間になるし、行こうか。」
こうして、花たちは列車にて聖騎士国へと向かうことになった。
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その後、列車での旅は快適そのものであった。本当に危険は全くといっていいほどになく、地球の列車とほとんど変わらないほどの快適さである。こうしてあっという間に聖騎士国へと3人はたどり着くことができた。
「それじゃあ、僕たちは先に騎士団へと戻る。こっちの準備もあるから、ハナくんは明日の朝に聖騎士団へと来てもらえるかな。」
「はい、わかりました。」
「これが紹介状ね。これを門番に見せてもらえば僕に連絡が来ることになってるから。」
「あの・・・私はその後何をするんでしょうか?」
「ああ、たぶんその日は説明を受けるだけだよ。ただ、後日には試験がある。その試験に合格すれば聖騎士見習いとして聖騎士学校への転入が認められるって感じかな。」
「学校・・・そこで聖騎士について教えてもらえるんですか?」
「聖騎士についてっていうか、聖騎士に必要なことを教えてもらえるっていうべきかな。戦闘技術だけじゃあ聖騎士にはなれないからね。」
「ハナはむしろ苦戦するのはそっちだろう。」
「いえ、どんなことでも頑張ります。」
花はそのときのバルゴの言葉の意味を正しく理解できていなかった。バルゴは花の正義感を疑ったことはない。むしろ、強すぎる正義感を憂いていたのだ。
「とりあえずハナくんはこの街でどこか拠点となる場所を見つけておいてくれ。まずは宿に泊まるでも良いし、家を見つけて借りても良いと思うよ。ハナくんなら学校への入学試験に落ちないだろうし。学校には特待生用の寮はあるけど、多くの生徒は家を借りて通学しているからね。」
「わかりました。それじゃあ、今日はそのために動きます。」
「うん、それじゃあ、また明日ね。」
「色々とありがとうございました。」
リオとバルゴと別れた後、花はどうするのかを悩んでいた。家を探すのでもいいが、すぐに納得できる家は見つけられるのだろうか。そう思うと、まずはお金がかかっても宿をとって、家を探していくのが現実的だろう。こうして、花は街の案内所へと向かうことにしたのであった。
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街の案内所にて宿を探していると伝えたのだが、担当してくれた案内所の女性によるとすぐに宿は見つからなかったらしい。
「え、ないんですか?」
「はい、聖騎士国は観光地としても人気ですので、今日来てすぐに宿が欲しいとなってもとれないことも多いんです。」
「そうですか・・・困りましたね。多少金額が高くても泊れるところはありませんか?」
正直なところ、花はすでに結構な蓄えができていた。サボルの街のギルドマスターが旅立つ餞別と依頼を受けることができない状態にしてしまったことへ謝罪を込めて、かなりの金額の報酬を出してくれたおかげである。無駄遣いはできないが、背に腹は代えられないと判断した。
「かなりの高級宿ならあるかもしれませんが、少々高い程度のところではすぐには見つからないかと思います。」
「それでは、仕方ありません。どこか借りられる家はありませんか?」
「えっ、あ、はい。聖騎士国で長期滞在されるご予定だったのですか?」
「ええ、すぐに家を探すよりかはまずは宿を探そうと思ったのですが、それでしたら家を探す方が良いなと。」
「うーん、どちらかというなら、そっちの方が難しいかもしれません。聖騎士国は安全性も高く、鉄道が走っていることから利便性も高いんです。」
「つまり人気のある土地というわけですか。」
「はい、それに信用できる人にしか家を売ったり、貸したりしたくないという方も多く、そちらも探すのはすぐにはなかなかうまくいかないと思います。」
「だとしたら、逆に信頼があれば借りられるところはあるかもしれないんですね?」
「はい、そうですけど・・・なにかつてでもあるのですか?」
「ええ、知り合いに聖騎士国へと連れてきてもらったので、そちらに頼んでみます。」
「その方は聖騎士でしょうか?それでしたら、こちらで今問い合わせ入れて話を進められないか聞いてみますよ。」
「あー、どうしましょう。」
正直なところ、ここの返答は結構悩んだ。たぶん、今は立て込んでいるだろうし、連絡を取るのも悪いかなというのもあった。さらにいうなら、勇者の知り合いといって信じてもらえるのだろうか?という疑問もある。
「あの・・・どうかしましたか?」
「それでは、お願いしましょうか。」
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「そいつは俺たちが連れてきた。間違いない、困っているなら俺からの紹介で探してくれ。」
「は、はひ!わかりました!」
「ハナ、悪いな。そこまで頭が回らなかった。」
「いえ、わざわざありがとうございます。」
「じゃあな。」
通信機が切れると、案内所の女性が崩れ落ちた。
「あの・・・本当にお知り合いだったんですね。びっくりしました。」
「ですから、嘘なんていわないと何度も説明しましたよ。」
「そ、そうですね。いや、これは私の責任ですね。あー、ほんとに寿命が縮むほど緊張しました。」
そう、案内所の女性は話を信じてくれなかった。それもそうだろう。勇者と豪傑の知り合いだ、なんて言われても信じる方がどうかしている。
「そこまでいうなら本当に聖騎士団へ問合せしますよ。何か問題があったら責任取ってもらいますからね。」
ということで連絡してもらったのだが、結果としてはすぐにバルゴが通信に出てくれて、今に至るというわけだ。
「あの・・・そうなるとお姉さんは聖騎士にスカウトされたんです?あの二人に?」
「えっと、内緒にしてほしいですが、そういうことです。」
「そ、それはなんとしても物件を探します。ちょっと上司にも報告してなんとかしますので、少しお待ちください。」
「あの、時間がかかりそうなら、今日の宿だけでも用意していただければ助かりますので、そんなにあせらないでください。」
「わかりました。それでは、どうしますか?ここで待っていていただいてもいいですが、街でも見に行きますか?」
「時間がかかるなら、そうしましょうか。ここで待っていても仕方ありませんし。」
「それでは夕方に戻ってきてください。」
「わかりました。そうだ、どこかお勧めの場所とかはありますか?」
「そうですね、お姉さんは武器も防具も持っていないようですので、そういったものを探しに行くというのはどうでしょうか?」
なるほど、たしかにこの聖騎士国であれば花にも装備できる防具があるかもしれない。別に武器は要らないが拳を守るようなものがあれば、それはそれで役に立つだろう。
「では、そうします。」
「それでは、案内所でおすすめのところを何軒か書き出しますね。案内所からの紹介状もつけます。」
「至れり尽くせりで申し訳ないです。」
「いえいえー、あのお二人のお知り合いなら当然です。」
こう思うとあの二人との出会いは宝だったなとかみしめる。そして、今更ながら手合わせしたいってなんという願いをいったものだなと考える花なのであった。




