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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【怪物と呼ばれた少女、神の願いを聞き世界を救うために異世界へ渡り英雄となる】 第1部 第1章 女神にスカウトされて異世界へといきます。
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第12話 思いがけない力がありました。

 向かい合う花とリオ。リオは防具は盾も含めてしっかり持っているが、武器はそこら辺にあった木の棒をいつもの剣の長さにそろえただけのものとなっている。これに関してはいつもの剣では怪我をさせるというか最悪死亡させる可能性があるからである。一方、花はいつもどおりに素手で防具もつけていない。これについてはリオから最低限の防具は身に着けるべきであることは言われた。しかし、ここでも問題が発生する。領主の館に置いてある装備では花が装備しても役に立たなかったのだ。


 魔力を全く通さないような最下級装備であるなら、その防具の硬さ分の防御力は得られただろう。しかし、領主の館にあるような装備は魔力を通しての強化前提の装備である。身に着けるだけで花の魔力からの干渉を受けて、防具はその魔力に耐えきれず粉々になった。やむを得ず、今回は防具を身に着けることを諦めた花ではあったが、これについてはまた後ほど考える必要を感じてはいた。


 向き合う二人、仕掛けたのは花だ。一足にて間合いを詰めた花はそのまま下から拳をリオの腹へとめがけて打ち上げる。


がいいいいぃぃぃん!!


 金属音が響き、盾でその拳を受け止めるリオではあったが、狙いはこの拳でそのまま倒すことではない。


「重い!これは・・・」


 そのままわずかに持ち上げられる形となったリオ。なんとか間合いを取りたかったが、持ち上げられたことによってそのタイミングを奪われてしまう。やむを得ず、剣の塚頭に当たる部分を花へと振り下ろすが、それは花の読みどおりであった。


「せいや!!」


 振り下ろされた腕を取っての一本背負い。


どごおおぉん!!


 受け身も取れず地面へと叩きつけられるリオ。投げという文化がほとんどないため受け身が取れないのも仕方ないのだが、それにしても戦闘経験が豊富な聖騎士としては何もできずに叩きつけられたのは少々不覚ではある。


 その隙を逃さずに行動した花。できるだけ早く、できるだけ重く。流れるような動きで下段突きを倒れたリオへと打ち込みにいく。


ごおぉん!


 先ほどよりかは抑えられたとはいえ、大きな音が鳴り響く。そして、花は後頭部を打撃され、前へと倒れこんだ。花には何をされたのか全く分からない。ただ、拳は地面にめり込んでおり、後頭部はずきずきと痛む。そして、目の前にはリオの姿はない。


 起き上がり慌てて振り向くと、そこには折れた木の棒を持ったリオが立っていた。


「あの体制からカウンターを決めたのですか・・・」

「ごめん、あんまりにも本気の攻めにあまり手加減できなかった。あれくらいの勢いで打ち込まないと避けられそうに感じたんだ。」

「いえ、それは構いません。大丈夫です。」


 後頭部の痛みはやはりリオによるものだった。周りには砕け散った木の棒のかけらが散乱している。


「あの、私は一体どうやって攻撃されたのですか?」

「え、いやー、ごめん。わかんない。」

「私にも何が起きたのかさっぱりでした・・・」


 どうやら、外から見ていたルリィたちにも何が起きたのかわからないようだ。


「寝そべった状態から飛び上がり君の頭に棒を打ちおろした。ただそれだけだ。」


 物凄く当たり前のことではあるが、そんなわけはないと思っていた解答をバルゴがしてくれた。


「あの状態からそんな動きが可能なのですか?」

「可能だ。俺でもできる。」

「そう・・・なのですね。」

「それでどうしようか?今ので終わりでもこっちは構わないけれど、もう少し続けるかい?」

「もう少しお願いします。」

「わかった。バルゴ木の棒の代わりを取ってくれ。」


---


 それから模擬戦は続いた。10戦やって花は10連敗を喫した。気が付くと一撃を決められてしまっているのだ。しかも、その一撃は頭部に直撃されるため、言い訳のしようがない。


 動きに全く対応できないわけではない。実際、打撃が全部避けられるというようなことはない。たしかに盾によって防がれてはしまうが、攻撃が触れることすらないわけではなかった。それに、投げであれば何度かはちゃんと決まっていた。


 そう次に疑問なのはあれだけの勢いで投げを決めているにも関わらず、リオは一度もダメージを受けているような素振りがない。そのため追撃が間に合うと思うタイミングでも簡単に次の攻撃を避けられてしまうのだ。


 そして何よりも疑問なのは試合を決める一撃は一度も認識すらできていないことである。そう、最後の一撃はどれもこれも何をされたのかすらわからないのだ。もしかしたら、そもそもの動きが違いすぎるのかもしれないとも思う。ただ、それなら、最初から圧倒されるだけであって、こんな風にしばらくは戦いあってから決められる理由が思いつかない。


「あの・・・もしかして私って相手になっていませんか?」

「いや、そんなことはないよ。たぶん油断したら普通にやられると思ってる。だから、全く油断できてない。そして、かなり良いトレーニングにもなってる。だから、こんなに長い時間つきあっているんだよ。」

「それなら良いのですが・・・」

「うーん、それじゃあ、もうさすがに次で最後にしようか。僕は正面からまっすぐ突っ込んで君の頭を狙うから、それを防げたら君の勝ちってことでどうかな?」


 模擬戦を始める前ならどうかと思う物言いではある。しかし、今はまるで意味が違う。花が捉えることができなかった動きを正面から見せてくれる、そういっているのだ。


「お願いします!!」

「うん、君は本当に頭が良い子なんだね。じゃあ、構えて。」


 お互いの距離は10メートルというところで構えあった。この距離であれば、どれほど速い動きであろうともさすがに何かしらは感知できる。花はその自信があった。


 何が起きたのかは結局わからなかった。しかし、リオの姿は突然にして見えなくなった。目を外したわけではない。目に写らないほどの速度で移動したとしか思えない。ただ、そんな思考を巡らせる時間は花にはない。


 振り下ろされた一撃を花はなんとか避ける。そう、攻撃は頭に振り下ろされることだけはわかっているのだ。死に物狂いで頭を横にずらし木の棒を避ける。目の前には驚いた顔のリオを捉えることができた。素早くリオの腹へと拳を振りぬく花。しかし、花の拳はリオには届かなかった。


ぱあん!


 振り下ろされたはずの木の棒は花の下顎を捕らえ、リオの意識は脳震盪にて途切れてしまう。花の完全なる敗北であった。


「ハナ!!」

「大丈夫だよ。たぶん、脳震盪だ。ちょうど攻撃が下顎に入ってしまったんだ。申し訳ない。」


 倒れこんだ花を抱え、リオがギャラリーの元へと戻ってくる。


「領主様、申し訳ありません。少しやり過ぎてしまいました。余りにも前途が有望な若者を見て、稽古をつけたくなりまして。その結果がこれです。」

「いや、ハナくんが望んでいたことのようだし、これが目的だろう。大丈夫だ、こちらで起きるまでは面倒を見よう。」

「ありがとうございます。それではお願いします。」


 使用人たちに抱きかかえられて花は連れていかれた。領主もそれについていき、冒険者の二人は街へと戻るといって去っていった。そして、リオとバルゴだけがそこに残っていた。


「バルゴはどう感じた?」

「おそらくだが、まともな魔力集中を行っていない。」

「そうだよね。でも、修行自体はとんでもないレベルでやっているとは思うんだ。」

「だろうな。特に対人戦闘に特化した素手での戦闘技術は人外のレベルだ。」

「うん、ただ魔力を応用した戦闘方法を全く使えていない。おそらくだけど、あの魔力量だから、それでごり押し出来ていたんだろう。」

「獣のような強さだった。」

「それはちょっと失礼だけど、ある意味では本当にそんな感じだね。魔力を使って戦うことはできているんだ。でも、それを全く応用できてない。」

「例えるならば人型のドラゴンだな。」

「だからこそ、僕は彼女が聖騎士になってくれたらきっと化けると思うんだけどな。」

「それは同感だ。これ以上を求めるなら彼女は聖騎士やそういった技術を持つものに弟子入りするしかないだろう。」

「だよね。任務が終わったら本格的に誘ってみようか。」

「ああ、そうしよう。」


 こうして、花はこの世界で初めての敗北を喫してしまうのであった。


---


 花が目覚めたのはどこか知らない場所だった。状況は理解できている。リオとの模擬戦で意識が途切れてしまった。おそらくは、攻撃を受けて気を失ってしまったのだろう。そうなると、ここはどこかの医療施設か何かだろうか。いや、それにしては建物がきれいすぎるような気がした。


「あ、ハナさん。目が覚めたんですね。」


 声をかけてきたのはリディアであった。そうか、ここはまだ領主の館だったのかと花は理解した。


「すみません、ご迷惑をおかけしました。」

「いえいえ、気にしないでください。道中にハナさんに助けてもらった分を考えたら、このくらいなんてことはありません。」

「いえ、そちらはちゃんと依頼料を貰っていますので。」

「そうですか?それでもハナさんのおかげで安心できる旅でしたから。目が覚めたことを伝えてきますね。今日はもう遅いので泊まっていってください。お食事も準備させていますから。」

「それは重ねて申し訳ありません。ありがとうございます。」


 リディアは外にいる使用人に花が起きたことを伝えに行ってくれた。そして、その間に花は最後のリオとの攻防を思い出していた。


(最後の瞬間、あの魔力の光がおそらくはリオさんが私を圧倒した秘密。)


 そう最期の瞬間に花はリオの身体から出ていた魔力の光が異様な重さを放っていたことを感じ取っていた。重いといっても実際に重さを感じたわけじゃない。元々聖騎士の二人が身にまとっていた魔力は重い雰囲気を纏っていたが、それが何倍にも色濃く感じられたという話だ。


 さらに、最後の最後、花が避けた木の棒およびそれを持っていた腕にはもっと重い魔力の光が見えていた。ここで花は一つの推察をする。


(おそらくですが、魔力はただ身体に流せば強化できるというのとは別の使い方があるのでしょうね。私はそれを知らなかった。)


 そう花は勘違いしていた。女神がつけてくれた修行がこの世界の全ての技術であるという保証なんてない。女神はあくまでもこの世界で生きていくために必要な修行と知識をくれただけだ。そのことをもっとちゃんと理解しておくべきだったのだ。


(そもそもの話、この魔力視も魔力を使った技術でしょうからね。)


 そう、なんの気なしに使えるようなレベルになっている魔力視ではあるが、これも普通に魔法で身体を強化しているのとは別の技術である。それに気が付いていればリオとの模擬戦中に新しい対処法が思いついたかもしれない。


(そう、例えばこの魔力視。習得できない人もいるようでしたし、これをもっと極めたら動きを捉えることもできたかもしれない。)


 そうして、目の周りにもっと魔力を集中するイメージを強めてみる。そうすると、妙な感覚が目にあるのがわかってきた。このままじゃ、だめだ。そう感じた花はその違和感を押さえるようにしつつ、目の周りの魔力を強くしていく。


 すると、ふと違和感が消失した。そしていままでとは確実になにかが違う感じがする。


「あの、どうかしましたか?」


 声をかけてきたのは戻ってきたリディアだ。その姿を見ると今までと同じように魔力は見えている。しかし、今までとは違うものが一つだけ見えいていた。右胸に妙な黒っぽい魔力が集まっていることに気が付いたのだ。


 そのとき、花は何も深いことを考えていなかった。


「リディアさん、ちょっとごめんなさい。」


 そういって、自信の魔力で右胸にある黒っぽい魔力を散らしてしまう。なんとなく不死化した魔物にある悪い魔力のような印象を受けたので、取ってしまった方が良いと感じたからだった。


「えっ!ハナさん何をしたんですか!?」

「あっ、すみません。ちょっとおかしな魔力が見えたものでつい。」


 しまった、花は本当に考え無しに行動していたことに気が付いた。起きて間もなく行動したこともあったし、なんとなく新しい力を感じたことでそれを試してみたくなってしまった。花は血の気が引く思いであった。


「リディアさん!大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ!何をしてくれたんですか?全然苦しくなくなりました!」

「苦しくなくなった・・・あの、病気の話ですか?」

「そうですよ!こんなに大声を出しても苦しくない!すごいです!」


 思いがけず花はリディアの病気を治療してしまったのである。

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