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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【怪物と呼ばれた少女、神の願いを聞き世界を救うために異世界へ渡り英雄となる】 第1部 第1章 女神にスカウトされて異世界へといきます。
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第11話 娘の護衛は無事に終わりました。

 花たちがこの道を通った翌日のこと、鎧に身を包んだ騎士が二人、同じ道をすごい速度で進んでいた。


「なあ、なんかこの道って綺麗じゃないか?」

「ああ、そうだな。」

「ちゃんと死体を処理した後もいくつもあったし、ここを通った人はちゃんと気が付いたってことかな。」

「ああ、だろうな。」

「だったら、この道は楽して進めそうだな。早いところ領主の娘に合流できそうだ。」


 二人はこの街道に放置された死体を掃除する役割も任されていた。普通ならば、人が整備している街道に獣は寄り付くことはない。なぜなら、そうすれば人に退治されることになると理解しているからである。


 しかし、今はそうはならない獣もいる。ランドドラゴンによって住処から押し出された獣には獲物が取れず空腹に耐えきれないもの、または街道が危険な場所であることを理解できていないものも多い。そのため、ランドドラゴンが暴れている地域の近くの街道では獣に襲われることが頻発していた。


 それに拍車をかけるのが、死体の放置だ。平常時ならばなんの問題もないこの行為だが、今はとても大きな問題を起こす可能性がある。そう死体の放置は空腹の獣にとってはありがたいごちそうにしかなりえない。さらに、そういったことが続けば、街道へと近寄る獣はより増えていってしまう。しかも、これに関しては仮にランドドラゴンの脅威が収まった後にも問題として残る可能性すらある。


 その危険性に気が付いたこの国の騎士団はすぐに街道沿いに獣を死体を放置することをしばらくの間は禁止するお触れを出した。それがちょうど花たちが出発した直後のことである。タイミング的にはよくなかったが、幸いにもその危険性に花が気が付いたことにより、この街道の死体は花たちが全部処理して進んでいた。そのため、この街道は綺麗になっていたのだ。


「気が付いたのは領主の娘さんの護衛を任された冒険者なのかな?だったら、この先も見に行く手間が省けるんだけど。」

「わからん。だが、その可能性は高い。」

「そうだよね。なにせまずは合流しないといけないよね。」


 二人にはもう護衛を任された冒険者が昨日の夜に領主の娘のいる療養所がある街にたどり着き、今日の朝にはそっちを出発している情報が来ている。この街道はその街とサボルの街を繋いでいるものであるため、護衛を任された冒険者が死体を処理してくれているのであれば、もうこの先に進む意味もなくなるということになる。


 そもそもこの仕事は本来であれば、この二人がやるような仕事ではないのだ。領主がどうしても娘の避難が終わるまではランドドラゴンとは戦わないでほしいというので、それを待つくらいならできることをやっておこうとなり、頼まれたのがこの街道の死体処理だっただけだ。二人の速度なら療養所のある街まで行って戻ってくるのも余裕だろうし、最後は娘の護衛に合流して帰ってくるように頼まれた。


 こうして順調に街道を駆けていく二人だが、前方から大きな音が聞こえてくる。


「前で何かが戦っている。」

「みたいだね。もしかしたら、領主の娘さんの可能性もある。急ごう!」

「ああ、了解だ。」


 駆けだした二人の目に写ったのは巨大な山猫。どうみても普通のサイズではない。それと戦っているのは一人の女性だ。どういう状況なのかはわからないが、女性が危険なことはすぐにわかった。女性は素手で防具もつけていなかったからだ。武器や防具を飛ばされたのか、あるいは後衛職なのか。どちらにしても目に見えた危険な状態であると二人は判断した。


「無理はするな!!こちらでなんとかする!!!」


 まずは女性に逃げるように指示をしなくては。そう思い叫んだその時だった。


「せいやあ!!!」


 女性の掌底が巨大な山猫の顎を捕らえる。その一撃で、巨大な山猫は地面から浮かび上がるほどの衝撃を受けていた。そして、その首が反動で戻ってくるその時に合わせて、女性の回し蹴りが頬へとめり込んだ。そして、巨大な山猫は十数メートル吹き飛ばされて、そのまま動かなくなった。そして、それと同時に二人は女性の前へとたどり着いたのであった。


「あー、どうやら余計なお世話だったみたいだね。」

「いえ、ご心配ありがとうございます。」


 落ち着いて周りを見ると、少し離れたところに馬車が見えた。そして、その周りには騎士が二人馬車を守っている。どうやら、当たりだろう。


「僕は聖騎士のリオ。領主からの依頼を受けて、この街道の様子を見に来たんだ。君たちは領主の娘の護衛を任された冒険者であっているかな?」

「あ、はい。そのとおりです。私は冒険者の花と申します。」

「悪いんだけど、いくつか話を聞かせてもらえるかな?」


---


 合流した二人は聖騎士であるという。名前は礼儀正しい方の彼がリオ。口数が少ない方の彼がバルゴというそうだ。


「それではお二人は街道の死体処理を任されてきたのですね。しかし、この先は全て処理して進んできましたので、必要はないかと思います。」

「ハナのアイデアでむしろ街道のわきに残っていたやつも全部処理して進んだんだ。むこうで死体を置かないでくれってお知らせ見て、やった!って気分だったよ。」

「そうでしたか。それは助かります。領主の娘さんは無事ですか?」

「はい、領主の娘さんでしたら、その馬車の中にいらっしゃいます。」


 突然現れた騎士たちにルリィやアララも馬車から出てきたが、聖騎士であると確認が取れると、状況の説明に加わってくれた。


「バルゴどうする?これならこのまま護衛に合流したら大丈夫かな?」

「問題ないだろう。嘘をついている様子もない。」

「そうだよね。それじゃあ、あの大きな魔物を処理したら一緒にサボルの街へと向かおう。」

「あれは魔物なのですか?」


 その素っ頓狂な言葉にリオは思わず吹き出した。


「はっはっは!そうかそれすらもわからなかったんだね。いやー、あんなに豪快に退治するものだから知っているのかと思っていたよ。あれは巨大化した魔物だね。」

「そうでしたか。いや、すごい獣がいるものだなとは思いました。」

「いや、ハナ。さすがに私たちでもそれはわかっていたぞ。」

「ふむ、そういう知識もちゃんと学んでおかないとだめですね。」

「知識というよりも常識に近い気もしますが・・・」


 そんな風に笑いあっている三人を残し、リオとバルゴは魔物の死体の処理のために離れていった。


「彼女はちょっと変わり者みたいだね。でも、凄い腕前だ。」

「聖騎士の隊長クラスより上かもしれん。」

「そうだね、なんの武器もなしにあんなことができるのは二つ名持ちくらいかもしれない。こういっちゃ悪いけど、残りの二人とは比べ物にならないくらいの凄さを感じるよ。」

「気が付いているか?」

「もちろん。とんでもない魔力を秘めていることだろ。量だけでいうなら僕を上回っているかもしれない。」

「怪物だな。」

「女性に怪物は酷くないかい?さて、それじゃあさっさと死体を片付けちゃおう。」


 こうして、魔物の処理を終わらせた一行はサボルの街へ向かう旅路へと戻るのであった。


---


 それからは何のトラブルもなくサボルの街へとたどり着くことができた。実際には何度か獣の襲撃はあったものの、花一人でも楽勝だったのが、さらに二人とんでもない腕前の護衛が増えたのだから、何もあろうはずがなかった。


 サボルの街につくと、そのまま領主の屋敷へと向かった一行。そして領主の屋敷に到着するなり、すぐに領主様が娘を出迎えに降りてきた。


「リディ!!無事だったかい?」

「お父さん、ええ、この人たちのおかげでなんの問題もないわ。」

「そうか、思っていたよりもずっと早くて安心したよ。道中は何もなかったのかい?」

「いえ、獣の襲撃も多かったし、一回だけ魔物も出たわ。その時はとても怖かった。」

「なんだと!ああ、聖騎士の二人を向かわせていて本当に良かった。」

「違うわ、お父さん。退治してくれたのはハナさんよ。本当にすごかったんだから。」

「ハナ?ああ、最近話題になっているとギルドマスターがお勧めしてくれた冒険者だったか。そうか、なにせ無事で良かったよ。ゆっくり休んで少しでも体を労わっておくれ。」

「ええ、わかったわ。みなさん、守ってくれてありがとうございました。特にハナさんにはお世話になりました。」


 そういって、花に手を振る領主の娘リディア。その様子に花も手を振り返した。それを確認するとリディアはメイドたちに連れられて部屋を後にした。


「今回の護衛任務、わがままばかりいって本当に済まない。快く引き受けてくれた冒険者も無理な依頼に応えてくれた聖騎士の二人も本当にありがとう。」


 領主は深々と頭を下げる。


「いえ、これはこの仕事の範疇と呼べるものです。それに街道の掃除も先に気が付いてくれたハナさんのおかげでだいぶ楽をさせていただいています。」

「おお、そうなのかね。君は本当に優秀なのだね。」

「そういわれると少し違うと思います。私はみなさんが持っている常識がなかったから、気が付いただけで、そちらは私の手柄というのは少し違うかと。」


 これに関しては実際にそういって過言ではない。冒険者や騎士からすれば街道のわきに要らない獣の死体は置いていくのが常識だ。それを全く知らないからこそ今回は人よりも柔軟な発想ができただけのことだ。


「ふむ、君は謙虚なんだね。まあいいさ、それでもなにか君には特別なお礼をしたいんだが、何か私にしてほしいことはないかな?他の二人と区別してしまうようで申し訳ないのだが、なにかしてあげたいのだ。」

「それに関しては私たちは気にしていただかなくても構いません。」

「たしかに、ハナのおかげで楽させてもらっているしな。依頼料で十分すぎるほどだよ。」


 ルリィとアララからしてもそれは別に構わないということらしい。先んじてそういわれてしまうと、ここで断るのもなにか違うと花は感じていた。しかし、ここで追加の報酬をねだるのは意地汚いだろう。そうなると・・・一つだけやってみたいことはあるにはあるのだが。


「あの、不躾なお願いごとでもよろしいでしょうか?」

「ああ、そこまで無茶なことじゃないのであればいいとも。とりあえず言ってみてくれ。」

「では、そちらのリオさんと模擬戦をやらせていただけませんか?」

「僕と?」


 一番驚いたのはリオであった。


---


 領主の案内で周りに何もない広い場所へと移動した一行。こんな頼み事でいいのかい?と何度も領主からは聞かれたが、花が一番やってみたいのはこれしかなかった。


(あの二人、今まで見てきたどの魔物とも獣とも違う。)


 花が女神からの修行で体験した多くの敵との戦い。その中で様々な相手を見てきたわけではあるが、聖騎士の二人はそのどれとも違う恐ろしさを放っていた。


 花は魔力視によって相手の魔力を光のような形で捉えている。魔力が多ければ多いほどその光は強く感じるのだが、不思議とまぶしいとは感じないようにはなっているため戦いに支障がでることない。しかし、ドラゴンなど一部の獣は目が眩むかのように感じるほどの光を放っていた。


 その光の強さでいうならば、目の前の聖騎士はそれほどではないのかもしれない。しかし、聖騎士の二人は魔力の光は見たこともない雰囲気なのだ。あえて言うのであれば重い。魔力というものがよくわからない花にとってはその違いが何を意味するのかはわからない。ただ、異様には感じることができた。そして、道中での二人の技量を見て思ったのだ。この二人は自分なんかよりも遥かに強い存在のなのかもしれない、と。


 そうだとすれば、この機会は絶対に逃せない。もしかしたらより強くなるための絶好のチャンスかもしれないからだ。ただ、なんの理由もなくいきなり手合わせをお願いするのはさすがの花でもできなかった。しかし、このようなチャンスが来たのであればお願いしたいことなど、これしかなかったのだ。


 そして逆にリオとしても花の実力はちょっと興味があった。それに花のおかげで仕事は早く片付いているし、その時間を花のために使うのは問題ないと判断した。そうして、花のお願いを聞くことにしたリオは花との模擬戦を受けてくれたのだ。


「リオ、油断するな。だが、怪我はさせるな。」

「さらっと無茶なこと言うね。でも、わかっているよ。任せてくれ。」

「それならいい。」


 しかし、バルゴのいうことももっともであった。花の魔力量のおかしさはリオもバルゴも感じ取っていた。油断すれば逆にこちらが大きな怪我を負うこともあり得る。かといって全力でいって花に大きな怪我をさせてしまったら領主から何を言われるかわかったものではない。


「それじゃあ、ハナさん。お互いに怪我はないようにだけ注意しよう。」

「わかりました。それではよろしくお願いします!」


 こうして、花と聖騎士リオとの模擬戦が始まった。

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