第五話 仕事も終わって、次の目標
ここまでは零時に投稿しておりましたが、投稿直後には読みにくい時間であり、更新する小説も多いことから、次回からは午後六時に更新させていただきます。次回は八日の午後六時に投稿します。
無事に初仕事が終わり、二人は昨日と同じく冒険者ギルドにある食堂で夕ご飯をとっていた。別にここでなくとも良かったのだが、風雅の我が侭によりここになった。
「ほらよ、お待たせ。」
「いよっ、待ってました。」
風雅が待っていたのはガリューの料理である。仕事中にも聞いていたが、ガリューの趣味は料理。せっかくビッグチキンが取れたので、風雅がだだをこねたところ、ガリューが一品作ってくれることになったのだ。
「ただのもも焼きを随分気に入っていたみたいだったから、近い感じのもんにしたぞ。」
「うっお、うまそー。いっただっきまーす!!」
ガリューが作って来たのはもも肉の香草焼き。ただ塩コショウ味付けして焼き上げただけの昼に食べたやつに比べれば何倍も手間がかかっている。そして、風雅にとってはそのもも焼きですらとても美味だったのだ。つまり・・・こいつはとんでもなくうまかった。
「これは我慢できん!酒!酒をもてーい!!」
「ほいほい。っていってもあんまり飲みすぎるなよ。介抱するのはごめんだ。」
「ダイジョブ、ダイジョブ。ワタシ、トテモオサケツヨイ。」
「なんで片言になるんだよ。ほんとにしらねぇからな。」
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しばらく飲み食いした二人ではあったが、風雅はその間に情報収集は欠かさなかった。なんでもガリューは今結構お金に困っているらしい。
「結構良い腕してるのにお金ないんだ。」
「ああ。なかなか新人で良い仲間が見つからなくてな。」
「そんだけ腕があるなら新人じゃなくても入れてくれるパーティーとかないの?例えばさ、パーティーから冒険者を引退する人がでた、とかさ。」
風雅は若干端折ったが、この世界のルールを考えれば当然だがパーティーは固定メンバーである。四人でしか受ける仕事はないのだから、既存のパーティーは四人が基本だろう。場合によってはオブザーバーがいるかもしれないが、そこまでの余裕がある冒険者は少ないと風雅は考えていた。
だとしても、冒険者は危険な仕事だ。命を落とすこともあれば、身の危険を案じ引退する者だっているだろう。剣もそれなりで火の魔法が使える。ガリューはそこそこ美味しい物件なのではないのだろうか?風雅はそう考えたわけである。
「それがよ・・・俺らはすぐに他の冒険者とは組めないそうなんだ。」
「うーん?どゆことよ。」
「冒険者がランク分けされているのは知ってるだろ。普通はFからAだ。まぁ、特別な功績を残した場合は永久AランクであるSランクがあるが、普通は6段階だよな。」
「うん、そうね。」
補足しておくが、勿論サラーサの街に来て2日目の風雅はそんなことは知らない。知らないが、とりあえず話を合わせておいた。
「だけどよ、サラーサの街では新人への配慮として、最初の一年は見習いランクであるGっていうのになるんだとよ。」
風雅としてはこの時点ではまだ頭の中はハテナマークだった。ランクがGになるからどうなるというのだろう。
「見習いだと何があるわけ?」
「ああ、それを説明しないとわからないわな。悪い、悪い。」
冒険者とはそもそもどういうものなのか。魔物を討伐したり、ダンジョンを攻略する事で生計を立てる人、といってしまえばそれまでではある。しかし、この世界では冒険者には無条件で許可がおりることがあり、それにより魔物の討伐やダンジョンの攻略が可能になるのだ。
それは、危険区域への立ち入りである。基本的には大きな街へとつながる道はどこも整備されている。そして、その周りでは魔物は国が管理する騎士たちが全てのほぼ全ての討伐を行っており、ほとんど魔物は出てこないようになっているのだ。
また、小さくても村として登録されている場所であれば、その周りも同じように魔物が排除されたセーフティーゾーンとなっている。もちろん、普通の町やサラーサのような大型の街でも、それは同様である。
つまり、冒険者の仕事はこの領域の外で、自由に活動しても良いよ、という許可があって初めてまともに仕事になるのだ。安全が確保されている地域の中は基本的には騎士に通報すれば討伐は対処してもらえるし、仕事になるのは少々厄介な採取クエストくらいになる。
「それが見習いのGランクじゃ危険区域には立ち入れないそうだ。」
「それじゃ仕事ないじゃん。」
「だから、貧乏なんだよ。最低限、食い物と宿代は稼がないと死んじまう。でも、Gランクはそれすらかなり厳しいのが現状だな。」
「そっかぁ、じゃあ一年はまともに冒険者できないのか・・・」
風雅はかなりがっかりしていた。たしかに安全は必要だろう。サラーサの街の冒険者ギルドは特に新人育成に力を入れていると聞いた。つまり、それを配慮しての訓練期間なのだ。もしかしたら、一年くらいですぐに引退する冒険者が多いとかもあるのかもしれない。だとしたら、二重の意味でこの期間は必須だということだ。
「あー、すぐに冒険者になれると思ったのになー。加護があるのにこれじゃあ流石に無理ね。」
「・・・なぁ、フーガはすぐに冒険者になりたいのか?」
「うん。あ、別にお金には困ってないわよ。ただ、魔法が使えて、才能があるなら、すぐに冒険にいってみたかったっていうだけの我が侭。ルール破るほどの気持ちはないわよ?」
「なら、ルール通りならやりたいってことでいいんだな。それなら俺と一緒に後二人の仲間を探して、闘技大会に出てみようぜ。」
「闘技大会?」
「あぁ、Eランク冒険者パーティーまで限定の闘技大会が八日後におこなわれるんだ。そこで良い成績を残せればいきなりFランクの冒険者からスタートできる。」
「ふむ、ガリュー君。それ、もっと詳しく教えてくれたまへ。」
最初は誰でもGランクからスタートでは本当に実力のある新人には勿体ない。そこで、二ヶ月に一度くらいのペースでFランクからスタートできるチャンスが与えられているのだ。その直近のチャンスが八日後の闘技大会というわけである。
「Eランクまでっていうが実際にはほぼFランクしか出ないルーキー戦ってとこだな。」
「それでどうしたらFランクから始められるの?」
「三位に入賞するか審査員に認められるかのどっちかだったかな。」
「確実なのは三位に入賞か・・・」
「まぁ、出来なかったらそれはそれでいいと俺は思ってる。そんときはやっぱり見習い期間が必要だったんだなって納得できるしな。」
「それもそうね。よしっ、じゃあ仲間を探して挑戦してみましょ。」
「おっ、さすが良いノリしてるな。よしっ!それじゃあ、明日から仲間を探してみようぜ。」
「よーし、それじゃあ今日は・・・飲むかー!!」
「いや、俺はあんまり飲めねえよ。」
「なーによ、つまんないわねー。」
二人が闘技大会への出場で合意し、盛り上がっているところで、二人に声をかける人が現れた。
「あの・・・ガリューさん。ちょっとよろしいですか?」
「おう、なにかようか?・・・って勝手に注ぐんじゃねえ!いや、今はこっちから話しかけられてるから!」
「うるせー!私の酒が飲めんのかー!」
「あ、あの、ガリューさん?」
「あ、はいはい。わかったから、ちょっと待ってろ!な、逃げねえから。少しなら付き合うから。よーし、そうだ。大人しく待ってろ。・・・それでどうした?」
「いえ、実は先ほどのガリューさんが作られたビッグチキンの料理があまりにも美味しそうだということで、欲しがるお客様が多くてですね・・・よろしかったら、代金はお支払いしますので、皆さんに振る舞っていただくことはできないでしょうか?」
「儲かりそうだし、こっちとしては別「だめです!」に構わな・・・」
「ガリューは私のお酒の相手をするのでだめですー!」
ガリューは思った。こいつ酒飲ませるとめんどくせぇ!!!と、心から思った。思ったので、早々にキッチンへと逃げ出した。
「あの・・・お連れ様が騒いでいらっしゃいますがいいんですか?」
「ほっとけ。どうせ甘えてるだけだ。そこまで分別がないやつじゃない。」
風雅が必死に引き留めたのにガリューは行ってしまった。風雅はお酒好きではあるが、一人で飲むよりかはみんなでわいわい飲むのが好きなのだ。ぶすーっとしていたら、他の客から声をかけられた。
「なあ、お嬢さん。良かったら、俺達と一緒に飲もうぜ。あんな薄情な奴は置いといてよ。」
「えっ!いいの!やったあ、よろしくお願いしまーす。」
その風雅を誘った冒険者は後に語る。あんな言葉・・・かけなければ良かったってね。
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料理を頼まれたガリューは続々とビッグチキンの料理を作り上げていた。材料は勿論買い取りしてもらったし、調理の腕前も見込んで、そちらもかなりの代金を貰えるということで、ガリューは張り切って料理をしていた。
サラーサの街にきてからは極貧生活だったため、碌に趣味である料理も出来ず、久しぶりに思う存分料理が出来てガリューは上機嫌だった。そんなときに、悲報は飛び込んできた。
「ガリューさん!!大変なんです!すぐにホールへ来てください!」
「なんだあ?客からクレームでもきてんのか?」
「いえいえ、料理の評判はばっちりです。たまにでいいんで、また手伝いに来てほしいくらいです。」
「それは良かった。」
「じゃなくて!すぐに来てください。」
状況がよくわからないまま、ウェイターにホールへと連れてこられたガリューが見たものは、地獄絵図であった。
地面やテーブルへと倒れ込む多くの冒険者。最初見た時は毒物を疑ったガリューであったが、近づいていったらその原因に気が付いた。
「って、酒くっせえ!」
「そうなんですよ。冒険者のみなさんがみんな飲み過ぎで倒れてしまって。」
「なんでまたこんなになるまで飲んだんだ?こいつらはいつもこんなんか?」
「いえ・・・原因はあちらです・・・」
そういってウェイターが指さす先には多くの人が集まっていて、真ん中から聞いたことのあるでかい声が聞こえていた。
「あーん?私の酒が飲めないっていうの?」
「い、いえ、そういうわけでは・・・ただ、ちょっともう飲み過ぎてましてですね・・・」
「あんたらがいったんだよね。私がつぶれるまで付き合ってくれるって。そうだったわよね?」
「えっと・・・なんかそんなこと言っちゃったような?」
「いったわよ!いったいった。だから、一緒に飲んでんでしょ。ほーら、飲みなさいよ。あ、私が飲まないと思っているんだ。そーでしょ。飲む飲む。ぐびっぐびっぐびっ!ぷはー!!ほら、飲んだわよ。ほら、あんたも飲みなさいよ。」
コップを持った男は周りに助けを求めているようだが、皆が目をそらす。
「か、神よ!!ぐびっぐびっぐびっ!・・・きゅうっ!」
バターン!
男は限界を超えたようでぶっ倒れた。
ピンポンパンポーン!!
「火の女神!この世界ではアルコールハラスメントやパワーハラスメントって概念がないの!だから、風雅のあの行動は合法!合法なのよ!風雅がいた地球ではアウトだから良い子のみんなは絶対に真似しちゃいけないけれでも、異世界では合法なの!アンダスタン!?」
「うん、あたしも地球もこの世界も担当しているしもちろん知ってるよ。」
「そう、それならいいんだけど、唐突にそれを説明しないといけないような気がしたの。」
「風の女神・・・あんたついにボケ始めたの?」
「ボケてませんよ!まだピッチピッチの乙女ですよ。」
「あっ!今度は横にいた男捕まえて一緒に一気飲みを始めたぞ。あいつ面白いね。」
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風雅に相席を進めた男たちにはそこまでではないが確かに下心はあった。しかし、その代償はあり得ない程高くついたのだ。風雅は次のターゲットにロックオンしていた。
「ねぇ、あなたはお酒強いって自慢してたわよね?」
「いえ!俺なんてあねさんの足元にも及びません!だ、だから助け・・・」
「私は私より弱いかとか聞いてないの。お酒強いって自慢してたわよねって聞いてるの。」
「し、したこともあったかもしれないようなそうでもないような。」
「よしっ!じゃあ、一気しよう。大丈夫、私も一緒だから。」
「いや、その酒は一気に飲めるような度数じゃあ・・・あ、あねさん聞いてます?あねさん!?ぐむっ!」
「ほーら、みんな掛け声ー!」
ピンポンパンポーン!!
「火の女神!この世界ではアルコール中毒になっても、大神様、あっちの世界では聖神様と呼ばれる我らが母の力を借りた魔法を使える神官がいるから平気なのよ。風雅が元々いた地球では命に関わるけれども回復魔法があれば安心なの!だから、あの一気飲みは合法!合法なのよ!オーケー!?」
「いや、だから知ってるけど。どうしたの?風の女神ほんとに大丈夫?」
「大丈夫よ!でもなぜか、なんかわからないけど叫んでおかないといけない気がしたの。」
「そうなの、大変ね。」
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ちなみに、この一晩の出来事は、後に『ウワバミの狂乱』の最初の一回として、とても有名な話になる。そして、サラーサの街に訪れる多くの冒険者を震え上がらせる伝説、ウワバミの狂乱は今後とんでもない進化を遂げていくのだが、それはまだ先の話であった。