表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【怪物と呼ばれた少女、神の願いを聞き世界を救うために異世界へ渡り英雄となる】 第1部 第1章 女神にスカウトされて異世界へといきます。
52/90

第1話 桜花とはこういう女性なのです。

 桜花さくらはなは普通ではなかった。


 早くに両親を亡くし、唯一の親戚である祖父に引き取られた花は子供のころからずっと格闘技を教わって育った。別に最強を目指していたわけでもなければ、護衛の手段を求めていたわけでもない。長年続く格闘技の道場主であった祖父とのコミュニケーションがこんなものしかなかっただけのことだった。


 ただ、ここで幸運だったこともある。花は格闘技が嫌いではなかった。強さにそれほどの興味はなくとも、うまくできることは嬉しかった。祖父は褒めてくれるし、上達すること自体は嬉しいことであった。花はどんどんと祖父の技術を習得し、高校生に上がるころには祖父と真剣に立ち会っても花が負けることはほとんどなくなった。


 そして、ここで不運だったこともある。花には格闘技の才能がありすぎた。他の道場との交流試合に臨んでも、花は負けなしだった。男性だとか、大人だとか、大きいだとか、経験が豊富だとか、そんなもの花の前にはなんの意味もない。どんな相手であろうとも、学生で女性の花に勝てる者はいなかった。


 その結果、花は異端であった。高校までは空手部に所属していたが、大会でも負け知らず。そして、大学に上がった花は総合格闘技を扱っている部があるという大学にわざわざ進学するも、そこでも完全に浮いてしまっていた。本気で何年も総合格闘技をやってきた先輩たちがまるで歯が立たないのだから。それからも花は勝ち続けた。


 大学2年の大会の時についに花は誰とも戦えなくなってしまった。大会に出場しても負け知らずの花とは誰も戦ってくれなくなった。大会に出たとしても、相手の選手は全員棄権してしまう。別に避けられていたわけでもない、嫌われていたわけでもない。ただ、どうやっても勝てない相手と戦おうとするもの好きがいなかっただけのことだ。それから花は畏怖を込めて『怪物』と評されるようになった。


 とはいえ、花は孤独というわけではなかった。別に友達がいないわけでもないし、総合格闘技部のみんなとは普通に練習もした。一つだけ不満があるとするならば、それは全力で戦える相手がいないことだけだ。せっかく上達した技術も披露する相手もいないとなったら、面白いことは何もないのだ。しかし、それも後2年の我慢だと思っていた。祖父はあまり乗り気ではなかったが、どうしても戦う相手が欲しいならプロになればいいのだ。そうまでするかは悩んでいたが、どうしてもならそういう選択肢がある。それは花もわかっていた。


 だから、花は今目の前にいる女神の願いに簡単に『はい』とは返事ができなかった。


---


 最近の花の悩みは、ただ一つ。普通に戦えるような相手が欲しいことだ。以前はよくじいちゃんに相手をしてもらっていたが、最近ではその機会もない。どうやら、身体の調子が悪いようだ。無理もない、もうかなりの歳だし、若いころからずっと修行修行で生きてきたと言っていた。身体にそろそろがたが来てもおかしくないのだろう。


(かといって、大会に出てもどうせ棄権されちゃうでしょうし・・・)


 怪物と呼ばれ始めたのは去年の大会からだっただろうか。別に悪口を言われているわけじゃないのはわかっている。人は自分の努力が無駄になるのを認められないのだ。だから、花は特別なんだ、ということを印象付けしたかっただけなのだろう。それは花も理解できていた。


(だからって、女の子に怪物ってつけるのはどうなのでしょう。)


 花は少しだけ自分の見た目が好きではなかった。180cmを超える身長に男性よりも逞しい身体。これに関しては毎日の鍛錬の成果でもあるので、受け入れるしかないものの、花だって女性である。やはり、より美しくありたいとは願ってしまうのだ。


(ないものねだりしてても仕方ありませんね。)


 そんなどうしようもないことを考えながら今日もトレーニングに勤しんでいた時のことであった。祖父の訃報が飛び込んできたのは。


 すぐに病院にかけつけた花ではあったが、祖父は既に亡くなっていた。医者からの話を聞くと、祖父の身体はボロボロの状態であり、普通ならとっくに病院で入院生活していないといけないレベルだったらしい。


「いったいどれだけやせ我慢していたのでしょうか・・・」

「おそらくですが、少しでもあなたと一緒に生活していたかったんだと思いますよ。」

「そうなんでしょうか。でも、そう思うことにいたします。」


 それからすぐに簡単な葬儀を行った。親戚がいないことは知っているし、近所づきあいがそれほど盛んだったわけでもない。数人しかいない道場の門下生とわずかな近所の住民が手を合わせに来る程度で、花一人でもなんの問題もなく、葬儀は終わった。


 こうして、花はある意味ではひとりぼっちとなってしまった。


 ただ、別に花は本当にひとりぼっちということはなかった。花は別にそこまでストイックな生活をしているわけではないからだ。休みの日に遊びに行く友達もいれば、花に憧れて教えを乞う総合格闘技部の仲間も多い。最近では、プロへスカウトしようと声をかけてくれる人も増え、そちらの顔も広くなっていた。基本的にとても真面目で穏やかな性格の花は人には好かれるタイプだったのだ。


 だからこそ、花はこれからの生活をどうしようかを真剣に悩んでいた。祖父はプロの道に進むことに反対していた。まあ、そんなつもりで孫に格闘技を教えていたわけじゃないからだろう。しかし、これからはお金を稼ぐことも考えていかないといけなくなってしまった。そうなると、ほぼ大会にも出る意味がなくなった大学に固執する意味は薄く感じる。その一方で、歓迎してくれている仲間もいるのが事実。そう考えると花はなかなか答えが出せなかった。


 そんな花の考えを全く予想だにしなかったものが遮ってくる。縁側で空を見ながら今後のことを考えていた花の目の前に現れたのは外国人と思われる美しい女性だ。ブラウンの長い髪をしていて、綺麗な黄色の瞳をしている。


 最初、花は祖父の知り合いなのかと考えた。もう葬儀は終わってしまっているものの、別れのあいさつに来てくれた人がいたのかもと思ったのだ。庭に勝手に入ってきているのは気になるが、外国人だしそういったマナーが違うのかもと花は勝手に解釈した。


「あの、祖父のお知り合いの方でしょうか?」

「いいえ、私が用事があるのはあなたの方です、桜花さん。」

「私ですか?」


 自分の知り合いにこんな女性はいなかったはずだ。もしかしたら、プロのスカウトだろうか?外国にも自分のことを知っている人がいるとは思えなかったが、思いつくのはそれくらいしかなかった。


「実は、あなたをスカウトに来たんです。」


 やはりスカウトのようだ。それにしてもタイミングが悪い人だ。外国の方のようだし、祖父が亡くなったという事情を知らずに来てしまったのだろう。祖父のことを理由に断ってしまうかとも頭によぎったが、ここで花の真面目なところが発揮されてしまった。


(事情も知らなかったとしたら、話も聞かずに追い返すのは外国からわざわざ来た方に失礼かもしれませんね。)


「そういうお話でしたか。それでは、まずはお話だけお聞きしたいと思います。」

「それはよかったわ。それじゃあ、今からちょっと驚くことが続くとは思うけれど、最後まで話を聞いてくれると助かります。」


 ここからは本当に花にとっては驚きの連続であった。


 さっきまで、家の庭先にいたはずの花はいつの間にか神殿の中にいた。神殿、でいいのかはわからないが、花にはそうとしか見えなかった。突然の出来事に花は理解が全く及んでいない。


「これはいったいなにがあったのですか!?」

「驚かせてしまって申し訳ありません。あのままあそこで話を続けるわけにはいかないので、場所を移させてもらいました。」

「ば、場所を移したとはいったいどういうことでしょう?」

「それを説明する前に、まずは自己紹介をさせていただきますね。私は地の女神。地球とは違う世界を統治している神の一人となります。」

「神様ですか・・・」


 普通の人ならば、何を言っているんだろう?となるところではあるが、花は普通にその言葉を信じていた。これは花が真面目な性格ということもあるのだが、そもそもいきなり別の場所にワープした状況を冷静に考えた結果でもあった。目の前の人物が特殊な方法で自分を運んだ、よりも、神だからなんでもあり、の方が受け入れやすかったということだ。


「すぐには納得できないところもありますが、とりあえずそれを信じて話を進めます。それでその神様が私になんの用事でしょうか?」

「先ほども少し話しましたが、スカウトをしたいのです。」

「ああ、そういえば、そうおっしゃっていましたね。スカウトとは、どういうことでしょうか。」

「あなたに私の世界に来てほしいってことよ。つまり、異世界へと来てもらえないかなっていうお願いです。」

「い、異世界ですか!」


 花は格闘技だけをやっていたような少女ではない。普通に友達とも遊ぶし、漫画やアニメを見ることもある。ただ、そこまで詳しい方ではなかった。しかし、さすがに流行りものとして、異世界へと渡る、あるいは生まれ変わるという話があることは知っていた。ただ、それが自分のことになるとさすがの花もパニックになっていた。


「いや、普通に考えて、断るでしょう。突然、異世界に来てくれませんか?と言われて、はいと答える方はいないですよ。」

「そうなのでしょうが、あなたの場合は特別なのです。」

「私が特別とはいったい?」

「あなたには異世界で生きていくのに素晴らしい才能があるからです。」


 女神の語る花の才能。花は自分に異世界で新たに習得できる何かがあるのだとばかり思っていたが、話はそういうことではなかった。


「花さん、あなたにはとてつもない魔力が内包されています。それが、あなたが地球ですごい格闘家になれている理由でもあるのです。」

「魔力・・・ですか。それが私の格闘技とどう関わると言うのです?」


 女神によると、花には普通の人の何十倍という魔力があるらしい。異世界ではどんな人間も魔力によって身体を無意識に強化しており、それが普通。そのため、そもそも魔力を全く使えない世界である地球からその異世界へと渡ったものは基本的には身体能力がかなり強化されるとのことだ。


「しかし、それも個人差が生まれます。地球では全く役に立たない魔力ではありますが、その内包量には個人差があるからですね。」

「なるほど。つまり地球ではわからなかったけど、私には異世界だと凄い才能があった、ということですね。」

「はい、普通ならそうなのですが、花さんの場合はそれだけではありません。余りにも高い魔力を持っているために、本来は使うことができない強化を地球でも行えてしまっているのです。」


 その言葉に花はある意味で納得できた。たしかに毎日毎日鍛錬はしている。しかし、自分の力が余りにも他の人とは違うことを疑問に持ったことがあったからだ。そういう裏があるんだ、とはっきりいってもらったほうがむしろ花としては納得できる展開であった。


「つまり、私はある意味不正を働いている・・・ということになるのですね。」

「そういう言い方はよくないとは思いますが、そういう風にいうこともできますね。」


 思わぬところで知ってしまった自分の力の秘密に花はショックを受けていた。しかし、それでもいきなり異世界へと行こうとはさすがに思えない。


「正直に言ってしまうと、それを聞いた以上は格闘技で生活をしていくわけにはいかないだろうなとは思います。しかし、それだけで異世界に行こうとは思えません。」

「そうでしょうね。それはあなたが悪いわけではありませんから。それでここからが本当に伝えないといけないことになります。」


 ここで花は、ああなるほどとなった。ここまでは花がスカウトされた理由であって、そもそもどうして女神が他の世界から自分の世界にスカウトをしているのかという理由がない。


「あなたには回りくどいことをいうよりもはっきり伝えた方がいいと思うので、はっきりいいます。あなたに行ってほしい世界は、後数百年でおそらく滅ぶことになります。」

「滅ぶ?」

「はい、これ以上は詳しく伝えることが許されていないので、教えることができませんが、何もしないままでしたら数百年で滅びます。私はどうにかして、その運命を変えたいと考えているのです。」


 これはいきなり壮大な話になったなと花は少し身構えるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ