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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第三章 騒乱の街サラーサ
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第四十九話 魔人戦、最終局面

 グリエラの二つの術とその攻略法が分かった今、後の問題はガリューをどうやって正気に戻すのか、ということだけになった。ガリューはグリエラよりも厄介そうな魔人をすでにあっさりとやっつけており、ガリューの戦闘力はここにいる全員の考えの遥か上にあったことがもうわかっているからだ。


「近づくことさえできれば、わたくしが解除の奇跡をかけられますわ。」

「問題はあの女もそれはわかっているでしょうから、近づくとむしろお嬢が狙われることでしょうね。」

「そうなると、どうしましょうね。シャイアスさんはどう思いますか?」


 合流したシャイアスも一緒になって考えているのだが、すでにシャイアスには考えがあった。


「ガリューさんをどうにか足止めしましょう。奇跡をかけるまでに手間取ると失敗の危険性が高まります。まずはガリューさんの動きをおさえ、素早く解除がかけられるようにするべきです。」


 考え方はシンプルではある。しかし、それがなかなかに難しい状況ではある。


「いや、そう簡単にいいますが、それをどうやってやるおつもりですか。それこそ誰か戦士タイプが近寄ったらあの女はそれを利用しますよ。それにガリューさんから攻撃される心配もある。」

「当然の疑問です。それもすでに解決しています。」

「おっと、そこまで考えてましたか。いやー、申し訳ない、シャイアスさんならそこまで考えてるか。それで、どうするんで?」

「私がガリューさんを取り押さえますので、その瞬間に解除をかけてください。」

「シャイアスさんでも、あの魔人の術は防げないと思うんですけど・・・」

「大丈夫です。任せてください。」


 こうして、ガリューの救出作戦が始まった。


---


 グリエラは自分が追い詰められていることはわかっている。目の前にいる冒険者が正気を取り戻したら、もう逃げることすらも難しい。正気を失っている自分の術にかかっている状態で、攻撃を避け続けることしかできていない。


 そして、周りの冒険者たちが回復していることにも気が付いていた。なぜならば自分が術をかけて裏門の陽動に利用したトンダがいるのを見かけたからだ。自分の術の攻略法も気が付かれていることだろう。そうなると、もうグリエラの狙いはひとつしかない。


(どうにかこの男を引きはがしたら、残っている魔力を全部使いきって、大量の相手に術をかける。その混乱に応じて逃げるしかない。)


 グリエラは自分では風の術は作り出せないが、風の術を受けることでそれを貯めて使える能力がある。グリエラは逃げるために必要な風の術だけはちゃんと残しておいてあった。ただ、それを今やろうとすれば、術の制御に集中する間にガリューにやられるのは目に見えている。つまり、グリエラには術を発動するわずかな時間が必要になっていた。


 このとき、グリエラにとってのチャンスが訪れる。全身鎧の騎士が近づいてきたのだ。ガリューとの戦いの中でも周りには気を付けていたグリエラ。どうしてもやばい状況になったら危険を承知で空へと逃げるつもりだったからだ。


(ずいぶんと凄い鎧みたいだけど、そんなものじゃ私の術は防げない!)


 二人に突っ込んでくる鎧騎士。おそらくは、この冒険者を援護するつもりなのだろう。あの全身鎧ならば、冒険者の攻撃に誤爆してもダメージを受けることはないと思ったというところだろうか。グリエラはその騎士に向かって術を放った。


 黒い魔力は鎧の騎士に命中する。しかし、ここでグリエラの予想外のことが起こった。鎧の騎士は何事もなかったかのように進み続け、そしてガリューを羽交い絞めにしたのだ。


「今です!!」

「わかっていますわ!!」


 すぐに解除がガリューにかけられる。何が起こったのかはわからないが、狙いを理解したグリエラはすぐにその場を離れ、空へと逃げるために準備する。ガリューが正気に戻る前に逃げ出さないとやられる可能性が高い。攻撃を受けても致命傷でないなら治療もできる。そう思い、空へと逃げだすために風の魔力を引き出しグリエラは空へと飛び立とうとした。


「目的は達成できたし、悪いけど逃げさせてもらうわよ。じゃあね!」


 こうしてグリエラは空高く飛び上がったのだが・・・そのまま地面へと叩きつけられてしまう。


「いったい!」

「逃がしませんよー。」

「案の定逃げるだけの力は残してましたね。」


 これはトッドの読み勝ちであった。ガリューを元に戻すときに逃げてしまう可能性を考えたトッドはミアにグリエラの妨害をお願いしたのだ。ミアは水膜によるドームを作り、グリエラを中へと閉じ込めていた。風の術のストックが十分に残っていれば、膜に穴をあけて逃げることもできたかもしれない。しかし、加護持ちのミアが粘度マックスで作った水膜はただ空へ飛びあがる程度の風の力では突破することはできない。まるで餅のようにぐいーんと伸びた水膜は空まで飛びあがっても千切れることはなく、グリエラを再び地面へと引き戻したのである。


 その隙に取り押さえたガリューにシルヴィーが素早く解除をかけることでガリューが正気に戻った。


「おう、シャイアス・・・じゃねえな。なんだこりゃ?」

「ガリューさん、説明は後です!こちらへ来てください!」


 声の方に振り向くと、そこには鎧を着ていないシャイアスが立っていた。これは『金傀儡』という地の魔法の一種。本来は地面の中にある金属を集めて攻撃や防御に使う、あるいは敵の武器や防具を落とす、といった使い方が主となる魔法だ。


 王化した魔物と戦った時にシャイアスは自分のもろさを痛感した。アダマンタイトという最高級の鎧があるにも関わらず、その中身が攻撃に耐えられないとかもったいにもほどがある。そこで、シャイアスは魔力をアダマンタイトの鎧に流し込み『金傀儡』で鎧を操りつつ、『人形作成』で作ったゴーレムを中に入れて動きをコントロールできる遠隔操作人形を作り出したのだ。


 このアダマンタイトの人形の強さは想像よりも上で、王化した猪とパワーで勝負させても圧勝するほどであった。しかも、中のゴーレムはどれだけ壊れてもすぐに修復できる。さらに、その状態でシャイアスは遠距離攻撃で援護もできる。ある意味では、シャイアスにとっては理想の魔法ともいえた。


 そして、今回はさらに別の面で役に立つことになる。鎧の中にシャイアスはいない。そのためグリエラの術を食らったとしても、もちろん何の影響も受けたりはしない。


これで戦況は完全に決したといえる状況になった。仮に、グリエラが恐怖の術を放ったところで、その瞬間に多くの冒険者は持っている解除の水を飲み干すことで回復できる。できなかったものも、もう事情を知っているので、暴れることもなく神官からの解除を待つだろう。もはや、グリエラに打つ手はないところまで来ていたのだ。


「あー、これだけはしたくなかったんだけど・・・仕方ないわ。」


 そう呟くとグリエラの周りにはとんでもない魔力が満ち始めた。脱出できないと水膜に閉じ込めてしまっていたことで、こちらもグリエラに近寄れない状況だったため、術の発動を止めに行くことに遅れてしまう。


「あの・・・なんかやばい感じしますよね。」

「最後の手段を残していたってことか。」

「えっと、水膜解除しますか?」

「いや、もう遅いでしょう。あの風には簡単には近寄れません。」


 水膜はまだなんとか持ちこたえてはいるが、その中の風はとてつもない勢いであり、どのみち数秒で水膜は破壊されるだろう。


「これは私を殺そうとした魔物の魔力。最後の手段にため込んでいた、制御もできないまっすぐ飛ぶだけの竜巻よ。こんな街中で使ったらどれだけ被害者が出るかわからないから、使わないつもりだったけど、私も死にたくはないから。」

「別に投降してくれたら、それでよかったんだけどな。」

「それもごめんね。」

「じゃあ、しょうがねえ。」


 軽い口を叩いてはいるが、どうするべきかをガリューは悩んでいた。あの魔法を止められるかどうかと聞かれると正直、無理かもしれなかったからだ。


「ガリューさん、悩んでいる場合ではありませんわ。あの魔法を止められるとしたら、あなたたち三人しかおりません。そんなこともわかりませんの?」

「・・・それもそうか。悩んでても仕方ねぇ。シャイアス、その人形を核にして受け止めるとしよう。それに俺が炎で援護する。ミアは、受け止めきれなかった風が周りに被害を及ぼさないように水の壁なり水膜なりで防いでくれ。」

「わっかりました!」

「了解です。」


 指示に従い二人が動く。ミアは水の壁でこの闘技場を囲み、シャイアスは人形を一回り巨大化させていく。おかげで鎧は各パーツが離れてしまい、普通の鎧のようになってしまったが、このくらいの大きさがないと竜巻は受け止められないだろう。


「あとは、シルヴィーたちは・・・」

「もう、冒険者たちはこちらへ集めさせてますわ。万が一の場合はここだけでも守ればいいように、ですわよね。」

「さすがだな。万が一の場合の結界は頼む。」

「ま、それだけをするつもりはありませんけどね。」


 どういうことなのかガリューは理解できなかったが、残念ながら時間切れのようだった。グリエラは竜巻を召喚し終えてしまったようだから。


 こうして、サラーサの動乱と呼ばれるこの戦いの最終局面がはじまったのである。


「どうあがいてももう無駄よ!!」


 正面から攻める竜巻。それを正面から受け止めるのはシャイアスの巨大人形。足元は岩石錠によってどうにか固定。そしてアダマンタイトの鎧の効果、強い対魔法の力によってなんとか竜巻で人形がいきなりバラバラになるということは避けられた。しかし、人形のがりがりと竜巻によって削り取られ、それをシャイアスはなんとか再生させて受け止めている。


 ただ、風の勢いも凄まじい。人形の上半身が後ろへと倒れ掛かる。


「そうはさせねえよ!」


 ガリューは火の中級魔法『炎熱砲』にて人形を支援する。炎熱砲はただ炎をまっすぐな直線に放つ魔法だ。この炎の勢いによってなんとか人形は上半身も後ろに倒れることはなくなった。そして、火の魔法によって熱を帯びることで魔法耐性がさらにあがり、風をなんとかはじき返す状態にはなっていた。


 とはいえ、問題がないわけではない。この攻防は本当にぎりぎりのところでなりたっていたからだ。シャイアスとガリューのどちらかの魔力がなくなったら、その時点で終わるのは間違いないし、こんな魔法を使いっぱなしの状態が長持ちはしない。対するグリエラはこの魔法はストックしていたものなので、どのくらい持つのかも全く分からない。


(こりゃあ、やばいか?)


 ガリューに最悪の考えが浮かぶその時、ガリューとシャイアスに魔力があふれてくる。驚いて後ろを振り向くとそこにはシルヴィーがいた。


「冒険者のみなさまの魔力を注いでいますわ。これでしばらくは大丈夫でしょう?」

「ははっ!そんなこともできるのか。やるじゃねぇかシルヴィー!」

「お褒めにあずかり光栄ですわ。後はもう根競べですわね。」


 一方のグリエラにはまだ余裕があった。自分に絶望を与えた魔物の力をグリエラは知っていたから。このまま根競べを続けたとしても、勝つのは自分だと疑ってはいなかったのだ。


「ねえ、このまま続けてても無駄よ。私は必ず勝つわ。」

「そうだとしても、それはあきらめていい理由にはなりません。私は最後まで抵抗させてもらいます。」

「そう、まあ、私も諦められなかったから生きているわけだし、頑張ってみたらいいわ。」

「そうね、いわれなくても私はいつだって頑張ってきたわ。」


 突如、グリエラの後ろの大穴に詰まっていた瓦礫が吹き飛ばされた。そして、中から勢いよく飛び出してくる一つの影。


「みんなー!状況を教えてくれー!!」

「フーガか、お前無事だったのかよ!風の魔法は使うな!!!そいつは風の魔法を吸収するらしい!」

「オッケー!把握!」


 ここでこの状況を打開する策を誰よりも速く見出したのはミアであった。ミアが風雅に向かって叫ぶ。


「フーガさぁん!私の代わりに風の壁で周りへの被害を押さえてもらえますかぁ!!」

「おっと、なにかよくわからないけど、とりあえず任せなさいな!!」


 風雅は指示に従い、空に浮かんだままで水の壁の内側に風の壁を作りあげた。それを見届けたミアはガリューとシャイアスの援護に入る。


「よーし、これで決めちゃいますよー。シルヴィーさん、私が魔法を発動させたらその瞬間に私たちの前に全力で結界をお願いします。」

「よくわかりませんけど、わかりましたわ!」


 どうやら、ミアにはなにかしらの策があるようである。

 

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