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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第一章 死んでしまって、異世界へ
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第四話 初仕事

 魔法を教えてもらった翌日、風雅はまたしても冒険者ギルドにきていた。しかし、今日冒険者ギルドにやってきたのは、昨日とは違う理由だった。


「ガリュー、おっはよう!」

「おう、朝からテンションたけーな。」

「冒険者としての初仕事だしねー。」


 あれから二人は夜遅くまで色々な情報交換をしていた。正確にいうなら、風雅が新しい世界で生きていくために、ガリューを使っての情報収集をしていたというのが正しいのかもしれない。


 そこで、まず聞いたのはこの世界での冒険者は四人一組が基本であるということだった。


「へぇー、そうなんだ。」

「ああ、はたから見てるとなかなかわかんないが、そうなっているらしい。だから初心者冒険者の最初の仕事はまず四人の仲間を集めることになるな。」


 これについては仕事を与える立場であるギルド側の管理の問題だということだった。簡単にいえば、どのパーティーも四人と決まっていれば、それに見合った仕事内容を判断しやすい。このくらいの仕事なら一つのパーティーで充分、このくらいなら三つのパーティーが必要、といった具合だ。


「それと初心者が少ない人数でも仕事が出来るという無茶を止めるためなんだと。」

「あぁ、上級者のパーティーもみんな四人ってなったら説得しやすいもんね。」

「そういうことだろう。それなら規則ですから、みんな従ってますよーで片付く。」


 そうなるとどんなパーティーを組むのが正解なんだろうか?風雅はちょっと考えてみる。前衛、後衛、回復が一人ずつ。まぁ、ここまでは鉄板だろう。そうなるとあと一人は・・・盗賊のような索敵や危険回避の役割だろうか。


「ねぇ、パーティーってどういうのが鉄板の組み合わせなのかな?」

「一概にはどれがいいかなんてないだろ。ただ、前衛が一人もいないっていうのは厳しくねえか?」

「回復役とかはいなくてもなんとかなるもんかい?」

「うーん、一応魔法薬もあるしな。神官がいたら安全ではあるな。あとは長期間の行動が可能になるってくらいだろ。」


 そこからも色々話してみたが、結論としてはタンクは欲しいが、後はそれぞれのパーティーなりの敵の倒し方を作れているならバランスとかはそんなに重要でもない、ただし、ダンジョンにいくなら索敵や感知に優れた盗賊系の仲間が必須になる、ということに落ち着いた。


「ところでさ、ガリューは明日に仕事入っているんでしょ?」

「おう、簡単な魔物狩りだな。」

「それは一人でも受けられるの?」

「あー、一人では受けられねえ。」


 ギルドの仕事は基本的には四人パーティー用になっている。それは安全面も考慮しているので、どうにもならないのだが、一部に例外が存在する。それが、初心者向けの安全な仕事である。


 今までの多くの経験から、この内容ならば死人は絶対に出ないだろうというレベルの仕事のみ、最低人数は二人からにはなるが、四人じゃなくても受けられる仕事が発生するのだ。


「それじゃあ、ガリューはどーすんの?」

「どうしてもの場合はギルドの職員を雇って仕事を受けられるんだ。今回はそれを使っていく。」


 いつまでも仲間が出来ないと仕事が受けられない。仕事がないと報酬が生まれず、ご飯を食べることもできなくなってしまう。そこで、一人の冒険者であっても、報酬の半分を支払うことで冒険者ギルドの職員を臨時のメンバーに借りられるシステムがあるのだ。


「そうなんだ、ねぇガリュー。良い話があるんだけど・・・聞かない?」

「なんとなく何を言うのかはわかっているが・・・聞いてみようじゃねーか。」


 そうして二人は今日一緒に仕事に行くことになったということだ。ちなみに報酬はどうせギルドの職員に半額払う予定だったので、そのお金をそのまま風雅が貰えることになった。


---


 そうして二人はでかいリヤカーを引いて、街の近くにある草原へとやってきていた。今回の仕事の内容は食材として人気の高い魔物『ビッグチキン』を三体持って帰るというものだ。


「ビッグチキンは人よりもでかい鶏だ。魔力によって変化した動物が魔物っていわれるわけだが、こいつは本当にただでかくなっただけで、ほとんど害はない。」

「それで初心者向けの仕事として人気なのね。」

「食材としては人気だから報酬も初心者向けにしてはなかなか良いしな。ただ、逃げ足が速くって遠距離攻撃か足止めが必須になる。」

「ちなみに襲ってくるとかはないわけ?」

「聞いたことはねえな。人間が近づくと、ほぼ確実に逃げるらしいぞ。」


 風雅は思った。なるほど、これは安全な仕事だと。おそらく初心者に関わらずこの仕事は冒険者にとってはおいしい仕事のはずだ。しかし、こういう仕事は初心者にちゃんと回すようにギルドが管理しているのだろう。


---


 そうしてしばらく探しているとやっと一匹のビッグチキンを発見した。しかも、運の良い事に昼寝をしているようだ。


「よし、あれを狙おう。」

「オッケー。それでどういう作戦でいきますかい?」

「近づくまで起きないようなら俺が剣で首を落とす。途中で起きてしまった場合は俺が魔法で攻撃する。」

「私は?」

「お前は魔物狩りしたことないんだろ?最初は任せておけ。最後の一体になったらやらせてやるから。」

「そっか。それもそうね。じゃあ、最初は楽させていただきまーす。」

「ないとは思うが、もしも俺に何かあった場合にはフォローしてくれ。そのために最低二人で仕事は受けることになっているんだ。」

「具体的にはどうする?助ける?逃げた方が良い?」

「あー、ビッグチキンにやられることはないだろうから、別のやばい魔物が出てきた場合には逃げてくれた方が良いだろうな。そんで助けを呼んでくれ。俺が逃げろっていうから。」

「了解!」


 作戦を決め、早速行動に移った。ガリューは慎重にビッグチキンに近づいていく。風雅はリヤカーの側で待機だ。ビッグチキンまで10mと迫った時、寝ていたビッグチキンはビクッ!!と急に起き上がった。


(おおう!あの反応を見ると、近づくものを感知しているのかもしれないわね。それでなかなか捕まえられないんだわ。)


「コケー!!!!」


 ビッグチキンが勢いよく逃げ始める。しかし、それを許すほどガリューは甘くなかった。ガリューの手のひらに野球のボールのような形の火の塊が出来上がる。



「おおぅりゃあ!!」


 掛け声と共にその火の塊を逃げるビッグチキンへと投げるガリュー。火の塊はビッグチキンの後頭部へと命中し、頭を吹き飛ばした。


「うっし!」


 ガリューが風雅の元へと戻って来た。ガリューは得意そうな笑顔だ。しかし、逆に風雅はしかめっ面になっていた。


「どうしたフーガ?なんかあったか?」

「いやー、たぶんあかんだろうなって。」

「なにがだ?っておい!」


 風雅はガラガラとリヤカーを引きずりつつ、倒したビッグチキンへと歩いていく。そして、ビッグチキンの死体を見てため息をついた。そして、後ろから追いかけてきたガリューへ


ズビャシ!!


「いってえ!!なにしやがる!!」

「このばかたれがー!」

「あん?どういうことだよ。」


 たった一日の付き合いではあるが、ガリューは風雅が案外賢い娘であることは理解していた。つまり怒っているのには理由があるのだ。まぁ、チョップに理由はないだろうことも理解していた。


「この仕事の目的は何?」

「ビッグチキンを三体納品する事だろう。」

「そうよ、『食材用』のビッグチキンをね。」


 そこでやっとガリューも気が付いた。火の女神の初期魔法である火球ではあったが、加護持ちのガリューが使えばそこそこの威力がある。つまり、頭を吹っ飛ばした余波で体の方の肉にも被害が出ていた。しかも、火による被害なので、これでは表面部分は食材には使えないことになる。さらにいうと首の下あたりはほとんど焦げており、これも食材としてはマイナスポイントになってしまうだろう。


「細かい事をいうなら血抜きするにもこんな火の通った部分があったらやりにくいでしょう。」

「フーガの言う通りだな。これは納品できねぇ・・・」


---


「ということで、もぐもぐ、作戦を、もぐもぐ、変えましょう。」


 二人はビッグチキンのモモ焼きをむしゃむしゃしながら午後の作戦をしていた。


「食うか喋るかどっちかにしろよ。」

「それにしてもこれ美味いわね。ガリュー、あんたコックになれるわ。」

「それはどーも。唯一の趣味なもんで。」

「それであんな保管道具まで持ってきてたんだ。」

「あぁ、余裕があるなら俺も持って帰ろうと思ってたんだ。」


 先程のビックチキンはもう納品には適さないので、その場で無事だった部分をガリューが解体。保冷効果がある保管庫をリヤカーに積んできていたので、詰め込めるだけ詰め込み、残りをその場で昼ごはんへとガリューが調理したのだった。


「それで、作戦っていうのは考えているのか?」

「うん、もぐもぐ、私が、もぐもぐ、風の刃で、もぐもぐ、捕まえるわ。」

「いや、だから・・・あぁもう食ってから話せ!」


---


 夕方の冒険者ギルド、二人は無事に三体のビッグチキンを持ち帰ることに成功していた。そして今は依頼主がそのビッグチキンの査定をしているとこだ。


「これは素晴らしい状態ですな。無駄な傷は少なく、しかも『生け捕り』にしていただけるとは。」


 依頼人は大層満足してくれたようであった。


「こんな良い状態のビッグチキンは珍しいですよ。草原から運ぶとなると、保存が悪いものも多くなりますが、まさか生け捕りにするなんて。」


 ギルドの職員たちもほめてくれていた。おかげで調子にのりやすい風雅はニコニコ顔だった。


「見たところ、お二人は戦士と盗賊ですかな?余程うまい罠を作れるのでしょうなぁ。」


 この勘違いも仕方ない。本来は魔法使いは洗礼を受けたローブが基本。それに対して、風雅は軽装のマント姿、ガリューにいたっては胸当てなどを付けた鎧姿なのだから。


「あ、違います。私たち二人とも魔法使いです。」

「俺がレッドマジシャン、フーガはグリーンだ。」


 そういうと依頼主や周りにいた人たちが少しざわついた。そう、異なる魔法使いが協力することはかなり珍しいからだ。ちなみにレッドは火の初級レベル、グリーンは風の初級レベルの魔法使いの呼び名である。


「それは珍しいですな。しかし、それでどうやってこんな良い状態のビッグチキンを?」


---


 しばらくして見つけた二体目のビッグチキン。今回も都合よく昼寝をしているのを見つけられた。というか、普段は高速で動き回っているようなので、見つけられるのは寝ているやつだけなんじゃないだろうか?と風雅は考えていた。


 前回はガリューだけだったが、今回は二人で近づいていく。そして今回も10mくらいまで近づくとビッグチキンが勢いよく起き上がった。


「コケー!!!」


 逃げ出すビッグチキン。しかし、今回はそうなることは予想済みである。


「そらよ!!」


 ガリューが手を薙ぎ払うとビッグチキンの前方を塞ぐように炎による壁が出来上がった。初級の魔法『火の壁』である。


 炎に突っ込むわけにもいかず、ビッグチキンは急ブレーキをかけて止まる。その一瞬を風雅は見逃さない。


「いっけー!」


 覚えたばかりの風の刃でビッグチキンの足を切り落とした。そして素早くビッグチキンに近寄る風雅。


「安らぎを与える風をここに、『眠りの風』」


 最初は抵抗していたようだが、動くことが出来ず顔面に催眠ガスを当て続けられたビッグチキンはついに眠ってしまった。その間に出血がひどい足はガリューが血を焼き止めていた。


「凄いな、そんな魔法いつの間に覚えたんだ?」

「なんかね、相手を殺さないで無力化するにはどうしたらいいかって考えていたら詠唱が頭に浮かんできたのよ。」

「あー、俺もたまーにあるな。これも加護持ちならではかもしれねえ。」

「まぁどうしてもなら首絞めて気絶させただろうけどね。」


---


「といった具合です。」

「その俺とお前の会話の再現必要か?」

「えー、だって臨場感が伝わるでしょ。」

「あっそう。」


 二人のやりとりを聞いていた依頼人が笑っていた。


「お二人は別のマジシャンなのに仲がよろしいんですな。お互いに得意な部分を活かすと魔法使い二人でも面白い事できる。いや、良い土産話も出来ましたし、この状態の良さも加味して、報酬はうんと上乗せさせていただきます。」


 結局依頼人は最初に約束していた額の二倍近い報酬を出してくれた。これは大成功と言える結果だろう。

 

「お、やったね!」


 イエーイとハイタッチを求める風雅。


「おう、やったな。」


 パーンと良い音がギルドに響き渡った。こうして風雅の冒険者としての初仕事はかなり良い出来で終えることが出来た。


 しかし、この日の物語はこれで終わりではなかったのだ。この後、サラーサの街の冒険者ギルドを巻き込む大変な事態を引き起こしてしまうことを、この時の二人は知る由もなかった。

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