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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第三章 騒乱の街サラーサ
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第四十六話 ホワイトローズの戦い

 おかしな魔法を使い王国に属する街で破壊行為に及ぶ女。これだけでは相手は魔人なのか、それともただのテロリストなのかは判断できない。ただ、トッドとしては相手が魔人であることを祈っていた。


 その理由は相手がただのテロリストであるならば、この状況は自分の実力を理解しての行為になってしまう。しかし、魔人であるならば、そうとは限らない。魔人は突然に力を得ることになるため、その実力を過信するものも多い。そうなれば、状況を理解せずにこういった行動に出ているということも十分にあり得るからだ。


 ただ、最悪の可能性はどちらでもないこと。それもトッドは気が付いていた。


「なあ、ディウ。あれは魔人だと思うか、それとも人間だと思う?おじさんは魔人であってほしいんだけど。」


 ディウはホワイトローズのアタッカーにあたる女性剣士だ。しかし、あまり頭を使うタイプではない。


「わからんし、興味もない。簡単にいえば、考えるだけ無駄だ。お嬢はどう思う?」

「魔人ではあると思いますわ。そうじゃないならいくらなんでもタイミング良すぎますもの。」

「僕も魔人だと思います。うまく言えませんが、普通の魔法とは違う感じがします。」


 ここで迷っていてもどうしようもない。なにせ、戦略を決めないわけにもいかないからだ。今は相手も動いていないが、それも時間の問題だろう。


「とりあえず、相手は魔人として行動しましょうか。ディウ、人間だったらお前にどうにか一撃を狙わせるが、魔人となったらそうもいかない。」

「不死だとまずいからだな。大丈夫だ、それくらいはわかる。」

「まずはなんとしても時間を稼ぐことを優先しましょうや。詰め所の騎士や他の冒険者が来たら、状況は変わります。」

「了解いたしました。」

「ただ、できるなら相手が不死かどうかだけは探っておきたい。レンくん、悪いんだけど、一発で良いからあいつに攻撃を当ててみてくれ。」

「え、あ、はい。でも、それでいったいなにが?」

「それは後で説明するよ。ディウは前衛、俺が中衛につく。レンくんは様子を見て攻撃を試みてくれ。ディウ、無理だけはしないでくださいよ。」

「わかった。」

「それじゃあ、いきましょうや。」


 作戦も決まり、ホワイトローズは魔人らしき女と向き合った。


「あら、相談は終わった?じゃあ、もういいかしら?」

「待ってていただいたとは光栄ですわね。もう構いませんわよ。」

「そう、それじゃあいくわよ。」


 こうして、ホワイトローズの戦いが始まった。


---


 状況は良くも悪くも膠着していた。シルヴィーの強化を受けたディウとトッドは相手も魔法を受けても、なんとか耐えることができていたからだ。


「そろそろ諦めて、情報を教えてもらえないかしらね。」


 女が風の刃でディウを狙う。しかし、ディウはその攻撃をかわし、女へと肉薄する。


「おおおお!!」

「無駄だってわかっているでしょ。」


 まだ女が発動した風の魔法が残っているにもかかわらず、女の周りには風の防壁が一瞬で発動し、ディウは吹き飛ばされる。


 やっかいだったのは魔法の発動速度。普通の魔法なら発動するまでに時間がかかるような威力の魔法を瞬間的に発動してくる女の魔法はやっかいを極めた。


「はいはい、無駄よ。」

「うわああ!!」


 その後の隙をレンがつこうとするも、それすらも魔法によってカウンターを貰う始末。辛うじて、レンは魔法を避けることには成功したものの、危ないところであった。


 吹き飛んだディウにシルヴィーが回復をしている間はトッドが二人を守る。この攻防が幾度となく繰り返されていたが、状況はまずいものであった。


 この攻防は永遠に繰り返せるものではない。まずディウの回復には限界がくる。奇跡による回復は基本的には自己治癒力を高めているだけなので、ディウの体力がなくなると回復が不可能になる。レンも単独で動き回っているため、どこかで体力が尽きるかもしれないし、攻撃を貰うと耐久力の低いレンは一撃で戦闘不能もあり得る。そして、なによりもシルヴィーの魔力がなくなった時点で打つ手がなくなる。今の攻防を支えているのはシルヴィーの強化魔法あってこそなのだから。


 ホワイトローズは堅実な構成のパーティーである。そのため、こういう格上の相手にはなかなか有効な手を打つことが難しくなる。


「このままじゃジリ貧になる。」

「でも時間を稼ぐことが一番の目的なわけだし、それも仕方ないでしょう。」

「そうですわね。冒険者たちが来てくれるかどうかはともかくそろそろ詰め所の騎士たちは来てくれるはずですわ。」


 ただ、さっきからトッドは妙な違和感を感じていた。それがなんなのかはわからないのだが、妙な感じがする。


「ねえ、そろそろ諦めてくれない?何かを待っているみたいだけど、それって無駄だからさ。私はやらないといけないことがあるのよ。その情報だけくれたら見逃してあげるわ。」

「いったい、なにをいっていますの?」


 ああ、なるほど。トッドは気が付いてしまった。時間を稼ぐことはできていると思っていた。しかし、そうじゃない。時間を稼いでも仕方ないのだ。


「はめられたか・・・失敗したねぇ。」

「やっと気が付いたのね。」

「どういうことですの?」

「このお嬢さんの狙いはもう俺たちから情報を引き出すことだけだったんですよ。ここにすぐには援軍は来ません。」

「それはいったい・・・」


 そう、トッドは理解してしまった。この相手はこっちが戦えなくなるのをただ待っていただけだ。いつでもこっちを倒すことはできていたのだろう。


「おそらく、あの女には仲間がいます。すでに街に入り込んだ仲間がね。冒険者ギルドも騎士の詰め所も襲撃を受けているんでしょう。だから、助けはすぐに来ないんです。」


 どうするべきかをトッドは悩んでいた。本来なら撤退するべきだとは思う。ただ、この場で撤退をすると状況はなにもよくならない。なぜなら、すでに周りにはやられた騎士や冒険者たちがいる。ホワイトローズが撤退できても、そいつらが今度は標的になるだけだ。


 結果として、戦略はひとつしか取りようがない。無駄になったとしても、時間を稼ぐしか方法がない。ただ、そうにしたって、絶対にしないといけないことがある。


「お嬢、申し訳ありませんが、三人で撤退してください。ここは俺が時間を稼ぎますんで。」

「そんなことできませんわ!!」

「それが一番効率的なんですよ。わかってくださいな。」


 女の目的とやらはわからないが女は情報が欲しいだけのようだ。だったら、一人残っていれば良い。トッドとしてはシルヴィーだけでもなんとか安全なところへと逃げてもらわないわけにはいかない。ただ、シルヴィーだけ逃がそうとしても絶対に納得しないだろう。だとしたら、こうするしかないのだ。


「大丈夫ですよ。冒険者ギルドへ行って応援を呼んできてもらえば良いんです。きっとなにかしらの妨害がありますが、冒険者たちと一緒ならなんとかできることもあるでしょう。」

「トッド・・・わかりましたわ。」


 もしかしたら、トッドには会えないかもしれない。それを覚悟して、シルヴィーは撤退することを決める。


 しかし、そんな覚悟はあの女が全てぶち壊した。


「スーパー竜巻キィーク!!」


 上空から雄たけびと共に飛来するあの女。自身の全面に風の壁を纏い、その状態のまま反対方向への爆風を推進力にして突撃する風雅。


「なに、こいつ?」


 女もまた風の壁を使って防御する。戦士であるディウの突撃すらも簡単に吹き飛ばしていた女の風ではあったが、風と風の対決であるならば、加護を持っている風雅はそう簡単には負けなかった。


「どおおおおりゃああああ!!」

「こ、この力は!な、なんなのこいつは?」


 咄嗟に女は突風を使い、後ろへと逃げる。抵抗がなくなったことで風雅は地面へと突き刺さる勢いで着地し、周りを吹き飛ばした。


「風雅、参上!!」

「フーガさん!あなたどこにいましたの?」

「いやーごめん。わけあって家にいたの。ドクターからの連絡で急いできたのよ。」


 もちろんだが、都合の悪いことはわざわざ説明したりしない。それが風雅流なのだ。


「どんなわけか知りませんけれども、初日から遅刻するってどういう了見ですの?」

「そこはごめん、まじでごめんね。ただ、ほら、さぼっていただけってわけじゃないのよ。冒険者ギルドを助けてきたわ。」

「冒険者ギルドは大丈夫でしたの?冒険者ギルドは襲撃を受けているものかと思っていましたわ。」

「いや、襲撃っていうか、閉じ込められてたのよ。結界・・・なのかな、私が外から魔法をぶつけたら壊れたんだけど、中からはなかなか開けられなかったみたい。今、急いで準備して向かってきてくれているわ。」


---


 風雅は正門に向かう前に状況を把握するために、まずは冒険者ギルドに立ち寄ることにしていた。この辺りはさすが用心深い風雅といったところだろう。すると、冒険者ギルドの周りが何やら騒がしかった。


 その理由は近づくとすぐにわかった。冒険者ギルドがすっぽりと透明な膜のようなものに覆われていたのだ。


「フーガさん!ちょうど良いところに。」

「リーナ、これはどうしたの?」

「正門へ向けて腕利きの冒険者さんたちを送り出した途端、この結界に閉じ込められてしまったんです。この結界は内向きに作られているようでこっちからは破るのに時間がかかります。」

「その口ぶりだとこっちからは壊せるわけ?」

「はい、結界はそういうものなんで。そっちから魔法をぶつけてみてください。」

「わかったわ。やってみる。」


 そうして、風雅が中級魔法『竜巻』を結界に叩き込むと結界は見事に砕け散った。


「さすがあねさんです!」

「やっと出られるぜ。」

「フーガさん、無事でよかった。連絡が付かないので心配していたんですよ。」

「ごめんごめん、ちょっとわけありでね。」


 もちろん、都合の悪いことはわざわざいったりしない。それが風雅流である。


「それよりも正門が心配です。私たちも急いで向かいますが、フーガさんだけでも先に行ってもらえますか?どうやら、相手は風を操る魔法使いタイプのようなんです。」

「おっと、それは私が一番適役ね。わかった、急いで向かうわ。」

「無理はしないでくださいね。Dランクパーティーも全滅したようです。」

「まじで?じゃあ、今はどうなっているのよ。」

「なんとか、ホワイトローズの皆さんが時間を稼いでくれてます。」


 どうやら、結界の中と外では魔道具は妨害されて通信はできなかったようだ。しかし、戦いを目撃した市民が冒険者ギルドに情報を届けてくれたようで、冒険者ギルド側は対処の準備を進めていた。


「そりゃ、急いで行ってあげないとね。」

「こちらも対魔法用の装備を整えてあるので、急いで向かいますが人数が人数です。」

「わかった、先に行ってる!」


 こうして、風雅だけが一足先にホワイトローズの援軍へと向かった。


「無理だけはしないでくださいねー!!」


 リーナの声が空に響き渡った。


ーーー


 風雅の援軍によって状況はかなり好転した。女が魔法を発動させるのに対して、風雅はそれをきちんと見破ることができていたからだ。


「風雅さんはあの魔法に対処できますのね。あの魔法の発動速度はいったいなんなんですの?」

「うーん、あれは魔法を発動させているわけじゃないわ。」


 女の魔法の正体は持続的な魔法。風雅は風の流れから女がずっと風を操っている状態なのを見破った。瞬間的に魔法を発動させているのではなく、ずっと発動させている魔法を瞬間的に操っているだけ。ただ、この発想は風雅にもなく、魔力消費量を度外視するのであれば、なかなかに面白い戦略ではあった。


「じゃあ、あの魔法は長続きはしないんですかね?」

「わかんないわ。私たちとはそもそも魔法へのアプローチ自体が違う可能性もある。あれ、そもそも魔法じゃないかもしれないし。」

「とりあえず、対応できるならなんでもいい!!」


 女にディウが突撃するのにあわせてカウンターの魔法が飛んでくるが、さらにそれに合わせて風雅の風が相手の風を相殺する。その隙にディウは女の目の前まで肉薄する。ここまで間合いを詰められたのは初めてだ。


「ああ、うっざいわね!!」


 しかし、ここはぎりぎりで暴風によってディウが吹き飛ばされる。さすがにゼロ距離になると風雅も援護は間に合わない。


 だが、ここで初めてのことがもう一つ起こる。


「いった!なによ!」


 後ろに回っていたレンが女の肩へと投げナイフを命中させることに成功したのだ。女の背中からはかなりの血が流れていることが確認できた。それを見たトッドがディウへと叫ぶ。


「ディウ!その女は不死じゃない、首をはねろ!!」

「わかった!!」


 突撃するディウ。その身体にはシルヴィーが最大出力で結界を発動させており、今までの女の魔法であれば、十分に正面から受けても突撃が成立するはずである。このために、わざわざ結界を使わずに戦っていたのだ。


 ただ、誤算であったのは、力を隠していたのは女の方も同じだったことだろう。

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