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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第三章 騒乱の街サラーサ
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第四十四話 ガリューとリニア

 騎士詰め所に、その連絡が来たのは少し前のことになる。正門にて魔人が現れたという冒険者たちからの知らせ。今サラーサの街に残っている騎士たちは多くはない。しかし、騎士たちはすぐに正門に全戦力を集中し、魔人退治へと向かう準備をしていた。


 そいつが現れたのは、魔人退治の準備が終わり、出撃する騎士が集結しているときであった。整列した騎士たちの正面に立つ一人の中年男性。


「おやおや、騎士のみなさんがこんなにも大人数でいったいどこへ向かうつもりなのですか?」


 おどけた様子で近づいてくる中年男性に騎士たちはなんの警戒心も抱いてはいない。騎士は基本的に市民をないがしろにしたりはしない。


「すまないが緊急事態なのだ。詳しくは説明できないが、用事がないのであれば今は家にいたほうが良いぞ。」

「それはそれはご丁寧にどうも。ただ、こんな場所にタイミングよく現れたおかしな親父を近寄らせたらだめですよ。」

「なにをいって・・・・」


 刹那、怪しい中年男性の近くにいた騎士たちが吹き飛ばされる。それはまるで爆弾が破裂したかのような衝撃であった。全身に鎧を身に着けた騎士たちが20メートルから30メートルは吹き飛ばされる。吹き飛ばされた騎士は集まっている騎士の6割にもおよび、吹き飛ばされた騎士たちは意識を失ってしまったのか、そのまま動けないものも多い。


「魔人が攻めてきていると報告をもらっているのでしょう?どうして、魔人が一人だけだと決めつけるんです。そんなことだから取り返しのつかないことになる。」


 くっくっくと邪悪に笑う中年男性、いやもうそう表現するのは間違っている。騎士詰め所にもまた魔人が攻めてきてしまったのだ。


---


 魔人が現れたという知らせを受け、詰め所から飛び出してきたリニアが見たのは絶望的な光景だった。騎士の8割は既に戦闘不能、残った騎士たちも戦意を喪失しつつあったからだ。


 リニアは詰め所に残る最低限の人員への指示をしている段階であった。その間に出撃する騎士たちを先に表に整列させていただけである。つまり、リニア自体も出撃の準備は整っており、知らせを受けてから表に出てくるまでにそれほどの時間が経っていたわけでもない。


 しかし、状況はその僅かの間に大きく変わってしまっていたのだ。まだ諦めていない騎士が魔人へと飛び掛かる。だが、その剣が魔人に当たることはない。しかも、カウンターで軽く腹を殴られただけで、騎士は吹き飛んでしまう。


「ただ闇雲に突っ込んできても無駄だとわからないもんですかねぇ。おや?」


 今度は油断したのは魔人の方だった。最初の騎士は囮、その後ろに三人の騎士が波状攻撃を仕掛けにいく。


「「「うおおおおおおおぉぉ!!!」」」

「はい、残念。」


 またしても謎の爆発が起きて、三人は最初の騎士たちのように吹き飛ばされてしまった。


「あの攻撃は一体?」

「リニアさん!申し訳ありません、魔人の急襲により騎士はほぼ全滅です。」

「そのようですね、あの魔人は私が戦います。その間に回復できそうな騎士から順番に治療してください。」

「わかりました!」


 こういう戦いには卑怯も正々堂々もあったものではない。リニアはまだ油断している魔人へと突撃、腹を一刀両断しようと薙ぎ払った。しかし、その刃は空を切る。魔人はすさまじい速度で後ろへと移動していた。


「おやおや、あぶないところでした。その一撃は食らってしまうとおじさんでも真っ二つになるところだ。」

「さすがは魔人というところでしょうか。おかしな能力を使うようですね。」


 魔人は魔物とは大きく違うところがある。魔人は基本的には巨大化することはない。それは人間は自分たちの強さを大きさだと考えることがないからだ。それならば魔人はどういう特徴を持っているのか。魔人が持っているのは何か一つ特徴的な特殊な能力である。


 魔人には神が設定している魔法に対しての制限が破壊される。つまり、どんな魔法でも魔力さえあれば使うことができるようになる。そのため、魔人は何かオリジナルの魔法を有しており、それが特殊な能力のように見えるのだ。


 リニアは見習いとはいえ、聖騎士学校の首席候補の一人。魔人との戦いも経験しており、魔人との戦いはこの特殊な魔法を使った固有能力を見極めることが重要であると知っていた。


「おっと、魔人と戦ったことのあるような人は今はいないって聞いていたんですけど。これはおじさんピンチかもしれないねぇ。」

「戯言を・・・」


 こうして、リニアと魔人の戦いが始まった。


---


 ここまで騎士を圧倒していた魔人は思いがけない苦戦を強いられていた。


(こんな使い手がいるなんて聞いてなかったんですけどね。いやー、困った困った。)


 逆に、リニアとしてもここまで強い魔人とは戦ったことがなく、手をこまねいている状況である。


(この魔人はかなりの経験を積んでいる。私でもかなわないかもしれない・・・)


 リニアとはどのくらいの強さなのだろうか。強さでいうなら聖騎士はBランク冒険者並みとされている。リニアは学校に在籍中とはいえ、その最上位であるため、強さでいうならBランク冒険者とは互角の強さがある。


 Bランクと聞くとそれほどではないような気もしてしまうが、それは間違いである。冒険者の強さは最高でBだからだ。Aランク冒険者はBランクの中で国に認められた百のパーティーに与えられる特別なランクであり、数年に一度入れ替え制で任命される。Sランクとはその入れ替え枠を潰さないために永久Aランクになったパーティーのことをいう。つまり、強さだけでいうならBの中にピンキリあれど、B相当であるというのはある意味で世界で上位クラスの実力があるということになる。


 そんなリニアですら、この魔人をすぐには討伐できなかった。しかも、なかなか相手の実力を見極めることすらできていなかった。わかったことといえば、相手はどうやら前衛タイプではなく魔法タイプであろうということだけ。


 リニアは長剣を両手持ちする基本的な攻めの騎士スタイル。得意な戦術は足の速さを活かした突撃と離脱。先ほどから隙をみて、魔人の懐までは踏み込めるのだが、それを察知すると魔人がそれを超える速度で逃げてしまう。ただ、それほど長い距離は移動できない様子ではあった。


 また、騎士たちがやられた爆発も食らったのだが、リニアの防御力であれば、大きなダメージにはならなかった。あれはおそらくだが、弱い敵を倒すための技なのだろうとリニアは判断した。


 ただ、不可解なこともある。魔人はリニアとの距離を保ってはいるものの、遠距離攻撃を仕掛けてくるような様子はない。攻撃してくるにしても、こちら踏み込んだのに対して近接での徒手空拳による攻撃だけだ。一撃一撃が重く鋭いものの、それはリニアには脅威と感じるほどではなかった。


「一体何を狙っているの?」

「うーん、なんだろうね。今はただ君との戦いを楽しんでいるだけじゃない。」


 易々と情報を教えてくれるようなタイプではない。ただリニアには考えられる目的は一つだけあった。時間稼ぎである。そう、正門にいる魔人がここにいる魔人と同じレベルなのであれば、Dランク以下しかいない冒険者は碌な時間を稼ぐこともなく全滅する。つまり、リニアはできるだけ早くこの魔人を倒す必要を強いられていた。


 もう何度目かになる突撃。リニアはここで勝負に出ることにした。踏み込むと同時に剣を薙ぎ払うものの、今回も斬撃が当たる前に魔人は後ろへと逃げてしまう。しかし、今回はリニアもその動きについていった。踏み込む際に、どうせ一撃目は当たらない前提で、次の移動の準備を予めしておいたのだ。


「あなたも連続で移動はできるのかしら?」

「おっと、これは油断したかな。」


 最後まで軽い口を叩く魔人に容赦なく、リニアは剣を振り下ろした。肩から腰ほどまでをかなり深くざっくりと切り裂いた感触があり、リニアは勝ちを確信した。それこそが魔人の狙いだとは思わずに。


「はい、残念でした。」


 いくら魔人といっても身体をほぼ真っ二つにされてダメージがない魔人などはいない。これがこの魔人の能力かとも思ったが、リニアは別の可能性に至っていた。しかし、その思考は一瞬にして遮られる。


ズドン!!


 先ほどまでとは全く違う轟音と共に爆発が起こる。一度食らったときにはほとんどダメージにならなかったことでリニアは完全に油断していた。そう回避が不可能な攻撃であるならば、もっとリニアはその攻撃を警戒するべきだったのだ。


 リニアは位置が近すぎたこともあって横ではなく縦に吹き飛ばされた。意識が途切れそうになるのを必死になんとかし、着地をしようと試みる。しかし、魔人は全く油断をしていなかった。


「あなたくらいの使い手なら、きっとまだ耐えてますよね?」


 高く飛び上がった魔人はリニアにとどめの一撃を叩き込んだ。リニアはそのまま地面へと激突し、動けなくなってしまった。


 辛うじて意識を保っていたリニア。なんとか、なんとかしてこの魔人の秘密を伝えなくてはいけない。しかし、声すらも出すことができない。そんあリニアに絶望は容赦なくやってくる。


「おじさんは油断とかしたくないの。申し訳ないけど、とどめをきっちり刺させてもらうよ。」


 こんな日が来ることは覚悟はしていた。だから、死ぬこと自体は仕方ないと割り切ることもできる。ただ、死を目前にしたリニアにとっての後悔はたった一つ。兄であるガリューと仲違いしたまま死ぬことになるということ。


(それだけは嫌だ!)


 振り下ろされた拳を何とか避けようと身体に力を込めるが身体は全くいうことを聞いてはくれなかった。しかし、拳はいつまで経っても、リニアには振り下ろされることはなかった。


「おい、うちの妹になにやってんだ?」

「こいつ、いつの間に!」


 ガリューは最悪になる前になんとか詰め所へと来ることができたのだ。新たな敵が現れたことで魔人は二人から距離を取った。その隙にガリューは素早くリニアを回収する。


「おい、リニアを頼む。後は俺が何とかする。」

「な、何とかするって、この人は聖騎士と同レベルの達人だぞ?たかが冒険者に何ができる?」

「あいつくらいは倒せるよ。」

「くらいとは、また舐められたものだねぇ。おじさんかなしいよ。」


 ガリューは今までとは違う両刃の大型剣を構える。この剣を封印した理由はただ一つ。剣士である自分との決別のため。しかし、過去と向き合うと決めたガリューは本気で戦うためにこの大型剣を持ってきていたのだ。


 ガリューは正面から突撃した。その動きはリニアと比べても遜色ない速さ。あの大型の剣を担いでのその動きは魔人としても予想外であった。


 ただ、魔人もそう簡単にはやられない。リニアの時と同様にすぐに距離を取ろうと後ろへと高速移動をする。


(ふぅー、あぶないあぶな・・・)


 魔人の思考はそこで強制停止させられる。ガリューはもう一歩踏み出す勢いだけで魔人の動きについてきたのだ。


「そんな馬鹿なことが!」

「おうりゃあああ!!」


 ガリューの大型剣が魔人の肩から腰までを切り裂き真っ二つに切り裂いた。騎士たちから歓声があがる。


「やったぞ!!」

「なんだあいつ、すげえぞ!!」


 魔人をあっさりと倒したガリューに騎士たちが浮足立つその時、切られた魔人がにやりと笑う。


「どうしてどいつもこいつも油断しちゃうかね?」

「さあ?どうしてだろうな?」


 魔人は爆発を起こしてなんとかするつもりだったようだが、その目論見はガリューによって崩れ去った。


ドゴオオン!!


 先ほどとはまた違う轟音がこだまする。爆発の中心には右腕と頭しか残っていない魔人が黒焦げになっており、その頭をガリューがわしづかみにして持ち上げていた。


「お前の魔法は空気を操ってんだろ?圧縮した空気を使った魔法、それがお前の能力だ。」

「ど、どうしてそれが?」

「同じ発想を見せてくれた仲間がいたんでな。さっきリニアを倒すときの音がヒントになった。」


 そう、この魔法は風雅も使うことができた。空気を圧縮したことで生まれる力などこの世界では研究されていない。だからこそ、この魔人もオリジナルの戦い方として使うことができていたのだ。ただ、異世界から来た風雅には普通の魔法でもこのくらいの現象は再現できていたのだ。


「攻撃も移動も空気の圧縮を使ったもの。ただ、あんまり強くしすぎると身体が持たないもんな魔人の魔法は。だから、相手がどのくらいで倒せるのかを探っていた。今のは本気だったんだろうけどな。」

「い、一体何をしたんだ。」

「圧縮した空気は危険なんだよ。ちょっとした火で大爆発することもある。」


 魔人の魔法が発動する直前にガリューは魔人の魔法に自分の魔法をぶつけて、魔人の魔法を利用しての攻撃を仕掛けていたのである。その結果、魔人の魔法は発動できずに大爆発してしまったのだ。


 この勝負はどうみてもガリューの勝ちのように見えた。しかし、まだ魔人の目は死んでいなかったのだ。

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