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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第三章 騒乱の街サラーサ
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第三十九話 領主の特別依頼

 ゴブリンの集落の買い物事情を改善させた翌日、別れの時がやってきた。


「こんかいはべんきょうになりました。これからのたびのけいけんにさせてもらいます。」

「はい、これからも大変なこともあるでしょうが、きっと私たちのように助けてくれる人間もいるはずです。」


 そう、トンダとの別れだ。彼はあくまでも旅の途中であり、サラーサの街にこれ以上滞在する理由はなかった。むしろ予定よりも長く滞在していたくらいだ。


 ちなみに見送りに来ているのはミアだけで、他のメンバーは冒険者ギルドで仕事を探している。というのも、数日の間はゴブリンの集落の問題とトンダの相手をしていたため、そろそろ冒険をしたいとみんな思っていたからだ。朝からよさそうな仕事を探しに行き、その間にミアが代表でトンダを見送ることになった。


「ワシはいままでにんげんにきょうみをもって、いろいろなとちをたびしてきました。ただ、このまちいじょうにいいおもいでができたまちはないです。」

「そういってもらえると嬉しいです。これからも旅を続けていくんですか?」


 トンダはしばらく考え込んでいた。そして、ゆっくりと答えた。


「いままではあてもなく、ただにんげんとあじんがいっしょにくらしているというはなしをたよりにたびをつづけてきました。でも、いまはいってみたいばしょができたんで、そこへむかおうかとおもいます。」

「へえー、どんなところなんですか?」

「きいたはなしがじじつなら、オーガとエルフがしゅうらくをつくっているということです。にんげんいがいでほかのしゅぞくどおしのしゅうらくというのはきいたことがないです。」

「それは珍しいですね。特にエルフは他の種族とはあんまり関わり合いにならないと聞いてますし。」


 しかし、事実であるなら、この組み合わせは非常に良いものだとミアには思えた。


 オーガはほとんどの者が物理系で、なおかつ戦士系になってしまう種族だと聞いている。常に最前線で戦うオーガには回復ができる神官がいないと辛く、獄稀に神官になれる素質をもつオーガはその集落にとっての救世主ともいえるほどだ。


 逆にエルフはほとんどが魔法系で、魔法使いか神官になってしまう。数少ない物理系もほとんどが感知系になるため、前線で戦える戦士が足りないのだ。


 その二つが共存しているというのであれば、それは理想の組み合わせなのかもしれない。ただ、エルフは他の種族とは関りを持たないことで有名な種族でもあり、そんなことがあるのかな?というものミアの偽らざる感想であった。


「ま、ほんとうかどうかはわからねえ。でも、このまちでのことがあって、そんなこともあるのかもしれないなっておもったんだ。」

「そうですね。本当にそんなところがあったら素敵ですよね。」


 実際、サラーサの街に来るまではトンダもそんなのは眉唾物だと考えていた。亜人を保護しなければならない人間ですら、ほとんどの街でそれはできていない。できている街でも亜人は冷遇されているのが基本であり、サラーサの街のように問題を人間と亜人で協力して解決するなんてところは見たことがなかった。


 しかし、このサラーサの街でのことがあり、トンダは考えを改めたのだ。たしかに珍しいことなのだろう。だが、種族が違うものどおしでも協力して暮らすことはできるのだということを確かに見たのだ。だったら、エルフとオーガだって協力しててもおかしくはない。だから、それを確かめに行きたくなった。


「よし、それじゃあワシはそろそろしゅっぱつします。さいごまでおせわになりました。」

「はい、お気をつけてー。」


 そうしてトンダはサラーサの街を晴れやかな顔で出ていくのであった。


---


 それはサラーサの街を出てからしばらくしてのことだった。トンダは道の途中で見たことのある人物に出会った。


「おや、あんたはたしか・・・」

「やあやあトンダ君。サラーサの街はどうだったかな?」


 トンダに話しかけてきたのはノリが軽い感じのある中年の男性だ。簡単に雰囲気を伝えるならちょい悪親父とでもいったらいいのか、そういう印象を受ける人物である。


「いやー、おすすめしてもらったかいがありました。ひじょうによいであいもあって、ゴブリンたちとのきょうぞんもみせてもらえました。」


 満面の笑みで答えるトンダ。その様子に中年の男性も満足そうだった。


「そうですか。それは本当に良かった。サラーサの街は案内してもらえたんですね。その話を詳しく聞かせてくださいよ。」

「おお、もちろんですとも。あ、そちらは?」


 トンダの目線の先には少し不機嫌そうな女性がいた。中年の男性の娘というには大人すぎるし、恋人や妹というには歳が離れているように見える若いが大人の女性だ。


「ああ、彼女は私の連れですよ。旅の供という感じです。」

「そうですか、よろしくです。」

「ええ、よろしく。」

「それでは、次の街へと向かいながらお話を聞かせてもらいましょう。」

「はい、わかりました。」


 そういって、歩き出したトンダ。その後ろ、荷物を取るのに手間取る振りをして、トンダとの距離があいたところで、二人は内緒の話を始めた。


「ねえ、予定と全然違う結果になってるみたいだけど?」

「そうみたいだねぇ。いやー、おじさんびっくりだわ。」

「びっくりだわって、あんたどうするつもり?」

「それはそれって感じ。あれだけ長期滞在してたってことは中を誰かに案内してもらえていたって可能性が高い。だったら、そっちの情報を貰えばいいのさ。」

「へえー、そっちも考えてはいたんだ。それならいいの。」

「ただ問題がないってわけじゃない。トンダを戦力としては使えないかもしれない。」

「そっちは問題ないわ。私の力なら強引に戦力に仕立て上げられる。」

「そうかい?まあ、なにせ予想のできない事態の一つや二つはあるものさ。」

「そう?じゃあ、もうすでに二つ起きているわけだから、これ以上は起きないでほしいわね。」

「良いじゃないの。そっちの問題もうまく利用できたんだから。」

「そうね。今のところは順調といえば順調よね。」


 どうやら女は少し機嫌を良くしたようだ。荷物を持ち上げ、トンダを追って進んでいった。その様子を見た中年の男性はつぶやく。


「やれやれ。問題は起こることはたしかに珍しくはない。ただ、問題は問題なんだ。そんな気楽でいいのかねえ?そんなんだと悪いおじさんに利用されちゃうよ。」


 先ほどまでの軽く親しみやすい顔ではない。邪悪、そうとしか表現できない笑みを浮かべていたことは一緒にいた二人が知る由もなかった。


---


 ミアがトンダと別れた後、冒険者ギルドへとやってくると、そこではなにやら騒ぎが起きていた。大きな声で何やら議論をしているようではあるが、その一方の声はいつも聞いているなじみの声である。そう、風雅だ。


「だから、それは危険すぎるって。考え直した方がいいわ。」

「しかし、これは正式な国からの依頼です。私としても何の理由もなく無下に断ることはできません。」

「領主さんだっておかしいと思わないわけ?」

「気持ちはわかるが、君は魔人の恐ろしさをわかっていない。魔人をなんの準備もできない場所で確実に倒せるのはジェイル、そしてガラリア殿しかいないのだ。」

「街の中なら倒せるみたいに言ってるけど、街の中だと被害が出るでしょうが。」

「それでも兵士の犠牲が出る可能性に比べたら低いという判断なのだ。わかってくれ。」

「あの・・・なにかあったんですか?」

「お、ミア、おかえりー。いやー、ちょっと熱くなってたのよ。そうだミアも聞いてくれる?」

「はい、私で良いのなら。」

 

 そこからざっとした説明がはじまった。


---


 トンダをミアが見送りに行っている間、風雅たちは冒険者ギルドへとやってきていた。今日その場で受注できる仕事は朝早い方が良いものが残っている。なので、まずは依頼を張り出している掲示板へと向かった一行ではあったが、今日はまだ一つも依頼が張り出されていなかった。


 そこで、通りかかったギルド職員に聞いてみたのだが、


「今日はどうやら一般の依頼は全てキャンセルになるそうです。」


とのことであった。話を詳しく聞くと、なんでも街の代表者である領主が冒険者ギルドへの特別依頼をするということになり、今日の冒険者たちはそのためにできるだけ協力してほしいということだった。その特別依頼のために他の依頼は余程の緊急性のあるもの以外は全てキャンセルとなり、緊急性のあるような依頼は既に受注されてしまっていたのだ。結果、掲示板には何も張り出すものがないらしい。


「そんなぁー。せっかく久しぶりに冒険したかったのにー。」

「こればっかりは仕方ないだろ。」


 むー、と膨れる風雅をなだめるガリュー。とはいえ、ガリューは風雅なら理由がはっきりすれば納得はするだろうとは思っていた。もうガリューは風雅の扱いに完全に適応してしまっていたのだ。


「でもさー、街の代表者が特別依頼なんていったい何を依頼するっていうのよ。」

「それははっきりとはわかりませんが、これだけはいえます。普通の事態ではないでしょう。」

「あ、これそんなに珍しいことなんだ。」

「はい、冒険者全員を押さえるような仕事となれば、とんでもない依頼料が発生します。さらに冒険者ギルドへの大きな貸しにもなります。余程の事がなければ、こんな事態ありえません。」


 シャイアスの態度を見るに、これは思っていたよりも緊急事態の可能性があるらしい。ぶっちゃけていおう。風雅はサラーサの街の代表者にあまり良い感情を持ってはいない。


 まず、ゴブリンの兄妹が巻き込まれた店主の恐喝事件だ。あの店は領主の御用達ということであったし、アルという騎士は領主の威を借り横暴な態度をとっていた。あれが、領主の指示だとしたら碌なもんではない。


 さらに、ゴブリンの集落の問題もある。買い物ができていない事情をちゃんと聴けば、あれくらいの対策は街側で手配できたはずだ。それをなにもせず、責任をゴブリン側へ全部投げかけたような対応をするような領主では碌なもんではない。


 結論、領主は碌なもんではない。というのが風雅の嘘偽りのない感想であった。


---


 しかし、実際の領主は想像していたような人物ではなかった。なんというか、酷く頼りない印象を受けた。


 風雅たちが冒険者ギルドに到着してしばらくしてのこと、領主であるムルシとギルド長であるリーナが一緒に冒険者ギルドへとやってきた。そこで今回の特別依頼についての説明があったのだ。


 内容としては、魔物の討伐に冒険者ギルドの腕利き、具体的にいうならCランク以上の冒険者、さらにドクターを派遣してほしいということだった。少し前にマジシャン・カルテットが他の冒険者たちと一緒に解決したハンマーボアの大量発生。あれが今回の件の引き金となっているらしい。


「あの後、野生動物の調査をしたのだが、このサラーサの街を中心に大量の野生動物がいなくなっていることが判明した。つまり、何者かが動物を集め、故意に魔物化させている可能性が高い。」

「故意に魔物化させるなんてことができるわけ?」

「可能だ・・・魔人ならな。」

「魔人ねぇ・・・」


 魔人という言葉に冒険者たちはざわつきはじめる。しかし、風雅はこの時点では魔人が何かは知らなかった。しかし、その言葉から推察することは難しくはない。魔物が命の危険にさらされたときに神の理から外れて力を得た動物であるならば、魔人は神の理から外れた人間を示していることは簡単に想像できるからだ。


「でも、仮に魔人がいるとしてもさ。なんのためにそんな腕利きの冒険者を駆り出したいわけ?」

「もしも魔人と戦うことになった場合に、損害をできるだけ出さないためだ。」

「いや、それなら騎士を使えば良いじゃないの。」

「何を言っているのだ?騎士はもちろん街の防衛に常駐する者以外は全員動員する。その上で、冒険者を借りたいのだ。」

「はあ?そんなことしたら街の防衛がすっからかんよ?」

「そこで君たちの出番だ。ランクの低い冒険者は街に散らばり騎士の代わりを務めてほしい。」

「いやいやいや、無理があるって。どういう評価なのかわからないけど、私たちはいったらならず者の集まりよ?」

「いえ、そんなことはありません。今の冒険者のみなさんなら大丈夫です!」


 リーナが自信満々で答える。あぁ、この人はまだ頭がおかしいままだったのかもしれない、それから風雅はミアが戻ってくるまでの間、領主とギルド長、二人の説得を続けるのであった。

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