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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第一章 死んでしまって、異世界へ
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第三話 魔法を教わる

「ということで、この方が風の女神様の加護を持っているフーガさんです。」

「はーい、紹介にあずかりました風雅でーす。」


 役場のお姉さんに連れられて風雅がやってきたのは冒険者ギルド。道すがらに聞いた話だとここで魔法を教わることが出来るらしい。


 これは女神さんのサービスなのかはわからないが、この街サラーサの冒険者ギルドは新人の育成にとても力を入れている珍しいギルドであった。そのため、商業以外でのもう一つの目玉となっており、新人の冒険者は余裕があるならサラーサに行くべし、と言われるくらいの高評価を受けていた。


「はじめまして、フーガさん。でも、残念なことに今は魔法を教えることが出来るスタッフが一人もいないんですよ。」


 そう答えてくれたのはギルドの受付をしているお嬢さんだ。役場のお姉さんよりかはどうみても年下なので、お嬢さんでいいだろう。


「えー!でもでも、加護持ちの方なんてそうそういませんよ。一日でも早く魔法を教えてあげた方がいいでしょう。」


 なんとかお姉さんは交渉をしてくれているようだが・・・いや、ただごり押ししているだけではあるが、一応風雅の為に頑張ってはくれているようだった。


「魔法を教わりたいっていう新人さんは少なくありませんし、教えることが出来るほどの魔法が使える方なら普通に冒険者として働いた方が稼げますからね。なかなか人材確保は難しいんですよ。」

「いや、そこをなんとかしてくださいよ。」

「だっていないものはいないんですからしょうがないでしょう。」


 このやりとりで一番いたたまれなかったのは風雅であった。風雅は知っている。こういった行動が店側に与えるめんどくささを。風雅は元社会人。こういうのはいけないのである。


「あー、お姉さん、頑張ってくれてるのはありがたいんですけど、あんまり無茶はいっちゃだめですよ。」

「むむむ、でもでも、ほんとに加護持ちは珍しいんですよ。」

「確かに珍しいですが、いないってほどじゃないですよ。」

「なんでですかぁ。私は初めて見ましたけど?」

「だって・・・そちらの方も加護持ちでしたもの。」


 そういって、ギルドのお嬢さんは風雅たちの後ろで座っていた一人の男を指さした。男はぼさぼさの金髪で、軽装ながらも鎧を身に着けている。一目見ると前衛で戦う戦士に見えた。


「そこにいる方は最近冒険者登録をされた方で、火の女神様の加護持ちなんですよ。」


 それを聞くと、金髪の男はのっそりと立ち上がり、風雅たちの元へとやってきた。


「声もでかいし、話は聞こえてた。そっちの目つきの悪いねーちゃんも加護持ちなんだって?」


 目つきの悪いねーちゃんとは風雅のことだろう。風雅はスタイルは普通だが、割と高身長であり、後姿なら相当にいい女っぽい雰囲気を持っている。しかし、目つきが相当にきつく、美人・・・ともいえないがそれなり、といった見た目をしている。そもそも、喋り出すとあんな感じなので、いい女判定は元々難しいのだが・・・


「そうみたいね。さっき神官さんに教えてもらったから。」

「そうかい。それなら、俺が魔法を教えてやろうか?」

「ガリューさんいいんですか?フーガさんはあなたとは違う風ですよ?」

「俺はそんなの気にしねえさ。」


 この金髪の男はガリューというらしい。風雅としては願ったりかなったりではあるが、いくつか気になることはあった。


「ねぇ、どうして風だと困るの?やっぱり教えづらいとかあるのかな?」


 その質問には風雅以外の三人全員が驚いていた。あ、やっべぇぞ、と思ったが、聞いちゃったものはしょうがない。これは恐らく常識というカテゴリーに含まれる質問だったのだ。こういうあまりに常識とされているようなことを質問し過ぎてしまうと変な奴認定されるか、ど田舎もん認定されてしまう。風雅としてはどちらも避けたいところではあるが、もう今回は仕方なかった。


「フーガさんはかなりの田舎から出てきたので、こういった確執をご存知ないのでしょう。」

「あぁ、なるほどな。田舎とかだと結構協力し合っているところはあるな。」

「魔法使い自体が貴重ですもんね。」


 どうやらなんとかなったらしい。


「魔法使いってやつはそれぞれの神様から力を借りてる。だから、自分の神様こそ一番だって考えるやつが多い。つまりは・・・そういうこった。」

「あぁ、なるほどね。ちょっとした宗教戦争的な感じなんだ。」

「そこまで本格的でもないが、別の魔法使いの助けを好んでやるっていうのは少ないかもな。」


 そうなると、このガリューは変なやつか、裏があるかの二択だな。まぁ、ここまでの話からすると後者一択だろうと風雅は考えた。


「それで、教えてくれる条件はなに?」

「おっと、意外と聡明なねーちゃんだったか。教える条件は一つ。俺の頼みを聞いてほしい。」

「いいわよ。た・だ・し、私に出来ることだけよ。それと、犯罪っぽいことはだめ。いいかしら?」

「おいおい、俺をどんなやつだと思ってんだ?頼み事は、もっとシンプルさ。」


---


 ギルドでのやり取りの30分後、二人はギルド内にある初心者向けの魔法練習場へとやってきていた。魔法の練習をしていると、その魔力に反応し魔物がやって来る場合もある。そのため、初心者の魔法を訓練する施設は町の中に用意されていることもあるのだが、サラーサの冒険者ギルドのものはかなりの広さもあり、そこそこの魔法ならここで練習ができるようになっていた。


「魔法を使うにはまず準備段階がある。まずはそこからやるぞ。」

「はい!先生!」

「いや、俺別に先生じゃねーから。まあいい。まずは手を前に突き出せ。」

「グー!!」


ゴスッ!


「殴んな!!なんだ!一々ボケを挟まないと死ぬ病気か?」

「いやん、そんなに怒らないで。」

「あほか!しばくぞ!!平手な、平手で前にこうやって手を突き出せっていってんだよ。」


 ここに来るまでの間に風雅はガリューと仲良くなっていた。風雅は基本的に遠慮はしない。自分のやりたいようにやる。だからこそ、人と打ち解け合うのが早かった。もちろん、それだけでは苦しいものがあるが、風の女神に気に入られるような娘だけあって、風雅は空気を読むのもうまかった。このくらいなら許されるなという距離感を見つけるのも早く、結果として人と仲良くなるのが非常にうまかった。


「こう?」

「そうだ。そうしたら、手のひらに力を思いっきりこめるイメージで集中しろ。」


 教わった通りにやっていると1分もたたずに手のひらが熱くなっていくのを感じた。


「なんか手が熱くなってきたんだけど?」

「早いな。そうしたら、今度はその熱さが身体に戻ってこないイメージで手のひらに集めてみろ。」


 教わった通りに続けているとどんどん熱さがましていった。


「ねぇ、これ大丈夫なの?」

「よし、それじゃあその熱さを手のひらから前に押し出すつもりでどんといけ。」


 教わった通りに風雅は前へと熱さを押し出すイメージをこめる。


「どーん。」


ブファ・・・


 間抜けな風雅の掛け声と共に大した勢いではないが、風が手のひらから噴き出した。それを見た風雅はテンションマックスになる。


「こ、これ魔法?」

「あ、いや、これは魔法の準備だな。」

「もう魔法使えるの?」

「あー、あと一歩で使えるな。」

「いっやほう!!」

「・・・テンション高過ぎねーか?」


 風雅が落ち着くまで少しかかったが、次の段階、つまり本当に魔法を使うところまでやってきた。


「いいか、ここでさっきの現象、そして魔法について説明するぞ。」


 魔法とは女神たちから力を借りるもの。そのために人は身体の中に流れる魔力を使う。さっきの訓練はいわば、その魔力の流れを感じ取る修行だった。魔力の流れは人によって感じ方が違うらしく、ガリューには身体の中を波がうっているように感じるとのことだった。


 ここまで来たら後は、女神たちが力を使う形を再現できれば、それが魔法ということになる。そのための方法が詠唱だという。


「風ならまずは風の刃からだな。風の刃を使いたいってイメージしてみてくれ。」

「わかったわ。」


 すると風雅の頭に何やら言葉が浮かんできた。


「えっと・・・『風よ、切り裂く武器となれ』・・・?」


ヒューン


 唱え終わると同時に風雅の手から風の刃が飛び出した。


「これ魔法!?」

「ああ、それが魔法ってやつだ。」

「うっしゃああああ!!」

「いやだからテンションおかしいって。」


---


 しばらくの間、風雅は練習場を駆けまわり的に向かって楽しそうに覚えたばかりの魔法を放っていた。最初のうちは「落ち着けよ、まだ教えなきゃいけないことがあるんだからよ。」と止めようとしていたガリューではあったが、しばし様子を見ていて無駄だと判断したので、まったりと待っていた。


 そして、風雅が大人しくなってガリューのところへ戻ってくるのに1時間ほどかかった。


「それで、次はどんな魔法を教えてくれるの?」

「いや、俺は風の魔法はほとんど知らんから、教えられるのはそれくらいだ。」 

「あれ?でもなんか教えてくれることがあるっていってなかったっけ?」

「あぁ、それじゃあ次はあの的に向かって、『風の刃』とだけ唱えてみてくれ。」

「ほいほい、『風の刃』」


 すると詠唱されていないのに、ちゃんと風の刃は発動して、的へと命中した。


「これが魔法の2段階目だな。」


 魔法は最初は詠唱する事で身体の中で勝手に魔法へと魔力が変換されて発動する。しかし、実戦だとこの魔法の発動方法では物理攻撃とは比べものにならない隙が生まれてしまう。そこで、次の段階として、魔法を詠唱で何度か使い慣れて来たら、イメージを強く固めるための魔法名のみを唱える方法で発動させるように練習していくのだ。


「あれだけ魔法使いまくったんだから、もう自然にイメージは出来ていると思ってな。やっぱり一発で成功したな。」

「でもさ、あれくらいの詠唱なら大丈夫じゃない?」

「中級と分類されているものだと20秒くらいかかるぞ。」

「そりゃだめね。」

「だめだろ。」


 うんうんと二人で頷きあった。


「それでだ、これが最後の段階だ。」

「おっとまだ上がありましたか。となると・・・完全な無詠唱ってとこね。」

「その通り。そこまで出来て魔法は本当の意味で習得ってことだ。」


 最後の段階が無詠唱。今までの詠唱が魔法をオートマで使う方法だとすると今度の無詠唱は完全なマニュアル操作になる。身体の中での魔力の練り方や放出する瞬間のイメージ。それらをまるで身体を動かすが如く自然に行えるようにならないといけないのだ。


ヒューン


「あ、できるわ。」


 風雅はあっさりと風の刃を習得してしまった。


---


 風雅の魔法習得が無事に終わった後、二人は冒険者ギルドの中にある食事処へとやってきていた。


「かんぱーい!」

「ほい、乾杯。」


 そう、これこそがガリューが出した頼み事だった。


「今日の夜まで訓練に付き合ってやるから、夕飯を奢ってくれ。」


 風雅は一年分の生活費を持っている小金持ち状態なので、これくらいであったらなんの問題もなかった。身分証のお布施が浮いたことを考えると、これでも今日使う予定だったお金は使い切れないだろう。


「いやー助かったわ、ガリュー。それに身分証の契約も試せたことも良かったわ。」

「それはこっちも同じことだ。実は明日に初仕事が決まっててな。俺も試してみたかったんだ。」

「あぁ、それでこんなこと引き受けてくれたのね。」

「後はあれだ。受付の娘さんが困っているみたいだったからな。」


 身分証による契約。これが冒険者における依頼の基本的な清算方法になる。お互いの身分証に契約を刻み込むのだ。今回の場合ならば、風雅は夜まで魔法を教わることを依頼、それに対してガリューは報酬として夕ご飯を奢ってもらう。お互いの同意があれば、それで契約完了。夜になり身分証が依頼達成をお知らせした時点でガリューは契約完了、報酬が貰える状態になり、今度は風雅が夕ご飯を奢らないといけない。


 これらの契約に違反すれば犯罪になる場合もあるし、契約を破ったのがどういう状況でどういうものだったのかも記録される。つまり、冒険者はギルドと契約を交わし、その依頼条件を達成すれば身分証がそれを証明してくれるのである。これにより数を指定しての討伐などの証明が必要な依頼も簡単に管理できるようになっているのだ。


「そういえばさ、結局加護ってどの程度意味があるわけ?」

「フーガは最初からいきなり魔力の流れを感じ取れたろ。」

「ええ、そうね。」

「あそこまでに丸一日ってとこだ。」

「うっそ!そんなにかかるの?」

「詠唱しての魔法が発動するのに三日、それを魔法名発動まで持っていくのに七日くらいだな。」

「うっわぁ・・・」

「そんで、完全な習得になると十日以上はかかるだろう。それに・・・」

「それに?」

「ローブや杖が必須になる。それが普通の魔法使いだ。女神様の洗礼を受けた装備を着て使うのが普通なんだ。」


 あー、想像していたよりも地味ながらも結構ありがたいかもなー、と思った風雅であった。

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