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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第三章 騒乱の街サラーサ
39/90

第三十八話 これにて一件落着

 ゴブリンの集落を訪れてから数日後、ゴブリンの集落にある食糧庫は埋め尽くされていた。多くの種類の野菜、このあたりでは入手しづらい海の魚、様々な調味料など、取り急ぎ必要そうなものはそろっている。


 さらに、傷薬や風邪薬、胃薬や頭痛薬といった軽い症状に効く痛み止め、そして大量の包帯などの医療物資も一通りそろえることができた。


 この結果に一番驚いていたのはトンダである。トンダの経験上、風雅たちのアイデアくらいではとても亜人への差別を払拭できるだろうとは思わなかったのだ。


「あんなことでこんなにうまくいくもんなんだなあ。」

「いやはや、本当にそうですね。私も驚いています。」


 ガイアもまさかこんなに早く問題が解決するとは思っていなかった。あの時、この人間たちならば相談にのってくれると判断したのは正解であったと自分の決断を褒め称えていた。


---


「ゴブリンたちが買い物を断られるのは別にゴブリンだからってわけじゃないわ。ただ、ゴブリンたちがありがたくない客だからなの。」

「はい、店からすると超短期的な売り上げにはなりますが、中期、長期的には全くメリットを感じない客になってしまいます。」


 まず、ゴブリンたちの買い物がどうしていけなかったのかを説明してほしい。そういわれた風雅たちの返事がこれであった。しかし、そういわれても、この言葉が今一つ理解できない。


「しかし、たくさん商品を買って帰るのですから、店としてはありがたいのではないのですか?」

「違うわね、売り上げ的にはありがたいわ。でも、店としてはありがたくはないのよ。」


 うーむとほとんどのものが頭を抱えている。風雅の言葉はまるで頓智のようにみんなには感じられた。悩んでいる様子を見たドクターがわかりやすいように説明を始める。


「最大の問題は店の評判が落ちるということだ。ガイア、君たちゴブリンはどうやって店を選ぶのかね?」

「基本的には金額が安いところを探しているはずです。我々ゴブリンはあまり質というものこだわりませんので。」

「なるほど、わかりやすい選択基準だ。しかし、実際には人間はそれだけでは店を選んだりしない。店という文化がないゴブリンにはそこが理解できていないのだよ。」

「しかし、金額以外でなにを基準に店を選ぶというのですか?品質の違いによって値段が変わるのは私にも理解はできますが、他は何で選ばれるというのです?」

「ミア、君なら何を基準に店を選ぶかね?」


 突然話を振られたミアはびっくりしたが、ふーむと頭をひねって考えてみる。


「例えば、家から近いとかでしょうか?」

「なかなかいい答えだ。そういった要素も店を選ぶ基準になるだろう。ガリューならどうかな?」

「品ぞろえの良さとかか?」

「なるほど、料理にこだわる君らしい答えだ。それもまた判断の要素として相応しいだろう。」

「他の例をあげるのであれば、入ってみたいと思う店構えだったから、店員が気に入ったから、商品以外のサービス面で優れているから、そこでしか手に入らないものがあるから、などなど店は選んでもらうための魅力を様々に用意しています。」

「シャイアスはさすがに専門家といった知識だ。さて、ガイア。ここまでは理解できているかな?」

「あ、はい。大丈夫だと思います。」


 ガイアが周りのゴブリンたちに確認をするが、周りのゴブリンたちもこの話はちゃんと理解できているようだ。しかし、ここまできても、なぜ自分たちが店に迷惑とされているのかはまだわかっていないようだ。


「ここまでの話を逆に考えてみて。ここまではプラスの要素を話してきたわ。でも、店は逆に選んでもらいにくくなるマイナスの要素もあるってことなのよ。例えば、さっきの全部逆転させるわ。家から遠い、自分の欲しいものがない、店が汚い、店員の態度が悪い、サービスがよくない、どこでも買える商品しか置いてない、そんな店は他のどれかが優れていても選ばれにくい店になってしまうわ。」

「あ、そういうことか。」

「ガリューは気が付いたみたいね。あなたたちゴブリンたちの大量買いってさ、この店のマイナスになってしまうことを引き起こしているのよ。」


 ゴブリンたちは決まった日に買い物に来るわけではない。そして、大量の商品を買い占めていってしまう。それにより、店はその日、最悪の環境になってしまう。


 まず、商品が少なくなる。どこでも買える商品すらも品切れの店になってしまう。芋はサラーサの街ではかなり人気のある主食にもおかずにもなる食材である。そのため普通ならどこの店でもあるのに、その店は売り切れになってしまうのだ。


 さらにサービスや店員の対応も悪くなる。当然だろうがその大量の商品を買ってくれた客、つまりゴブリンたちの相手をする必要があるからだ。他のことをする余裕がなくなり、ゴブリンたちが帰った後もなかなか他の仕事をする体力は残らないだろう。


「さらにいうなら、お店も相当汚してしまっているはずよ。あなたたちは服の汚れに無頓着すぎるわ。ゴブリンの文化としてはそれでいいんだろうけどさ、人間の店に買い物に行くには良くないと思うわよ。」

「そ、そんなことも重要なのですか?」

「そうよー。人間はさ、清潔さによって相手がどのくらいゆとりのある人なのかを判断しているところもあるの。自分の清潔さすら維持できないのはゆとりがないって思われるの。あ、そうはいっても、ここのゴブリンたちはそんな感じしないわ。でも、それはしばらくあなたたちと接したから理解できるだけ。最初はこの集落貧乏なのかなって思ったもの。」


 これに関しては文化の違いだ。ゴブリンたちは身なりの綺麗さなどで相手のことを判断することはない。そもそも、一般的なゴブリンにとっては水こそが貴重なものなのだから。わざわざ洗濯に大量の水を使うようなことはしない。もしも、常に身綺麗にするゴブリンがいたらそれが逆に悪目立ちすることだろう。


「ここまで理解できたなら簡単よ。要するにゴブリンたちが店に嫌がられるのはゴブリンだからじゃないの。店にとって迷惑な客であるからなの。」


 おぉー!とゴブリンたちから歓声があがる。ここまで丁寧に説明したおかげか理解できずにおいていかれるゴブリンはほとんどいないようだ。


「しかし、そうなったら私たちは一体どうしたらいいのでしょうか?」

「ここまできたら少しは自分たちで考えてみてはどうかね?なにかしらのアイデア一つでも良い。考えずに答えを求めるのは卑怯というものだよ。」

「あ、はい。そうですね・・・まずできることとなると・・・買い物係の格好を綺麗にする、とかでしょうか。」


 ガイアの提案にドクターは拍手を送る。


「その通りだ。問題は一気に解決しなくてもよい。より良い方向へ向かうためにどうするのかを考えることこそが重要になる。」

「ありがとうございます!」

「では、そこで話を聞いていたミアはどのような意見を持っているかな?」

「え、私ですか?うーん、そうですねぇ・・・」


 いきなり話を振られたミアではあったが、以外にも良いアイデアを出すことになる。


「買い物係をもっと減らしてみてはどうでしょうか?」

「ほう、それはどういった考えからかな?」

「トンダくんも心配していた通りなんですけど、やっぱり人間たちの街に大量のゴブリンの客は、それだけで単純に嫌がる人もいるのかなって。」

「なるほど。店の嫌がることを減らすという意味では一理ある。ただ、もちろん別の問題が生じることは理解しているかな?」

「はい、買い物係が大変になるってことですよね。」

「そのとおりだ。今も無駄な人員を割いているとは思えない。だとするなら、不用意に人数を減らすことは不可能だ。」

「うーん、そうですかあ。」

「そこであきらめてどうするのかね?問題はわかっていて解決策もわかっている。しかし、その解決策に新しい問題があるのが今の状況だ。だとすれば、どうしたらいいかね?」

「あ!新しい問題の解決策を考えるんですね。」

「そのとおりだ。」


 ミアは嬉しそうだ。そしてドクターは満足そうだ。しかし、ミアはこれ以上のアイデアはすぐには出てこないようである。


「ドクターはなにか解決策のアイデアはありますか?」

「無論だ。フーガ、君の知り合いに条件を満たせそうな店はあるのかね?」

「モチのロンよ!」

「それは肯定かね?否定かね?あー、いや、愚問であった。肯定だろうね、その表情は。」

「そういうこと。ということで、ガイア。三人くらいでいいわ。買い物係を選んでちょうだいな。」


 全く話についていけていないのはガイアだけではない。ミアもガリューも、トンダやゴブリンたちも全員ついてはいけていない。


「あの・・・たった三人で買い物するんでしょうか?」

「そうよー。あ、もちろん私は行くから四人ね。」


 たった四人では荷車よりも人数が少ないのに一体どうするつもりなのだろうか?しかし、ドクターと風雅の顔は自信に満ち溢れており、なにかしらやってくれるのは間違いない、そう確信させるものがあった。


---


 それから数日で実際にこれほどの結果を出したわけなので、さすがはドクターと風雅というところなのだが、別段に難しいことをしたわけではなかった。


「はーい、フーガちゃん。こんなおいしい取引を回してくれて本当にありがとうね。ゴブリンのみなさんもこれからは末永く御贔屓にしてくださいな。はい、じゃあこれが納品書とかかった金額の内訳ね。」

「どうもありがとね。急なお願いだったのにこんなに早く対応してくれるとは思わなかったわ。」

「そりゃあ、儲けられる良い仕事だもん。」


 風雅と仲良くしゃべっているのは、サラーサの街でも有数の商品流通経路を持っている商店として有名なフィル商店のまとめ役であるフィル。彼女は珍しい商品の仕入れや大量注文に答えやすいことで人気を博しているフィル商店のオーナー兼仕入れ担当という凄腕の女性だ。


 そんな女性と風雅になんの接点がと思われるだろうが、風雅は地球の料理を再現するために通常では求められることの少ない食材を探すことが多かったのだ。そうしているうちにコミュニケーションお化けの風雅がフィル商店を紹介されるのは時間の問題であり、仲良くなるのもそう時間のかかるものではなかった。


 渡された納品書をガイアへと見せる風雅。その様子を見て、フィルはニコニコしながらガイアのチェックを待っている。


「どう?サービス料も貰っているけど、それでもだいぶ値段は抑えさせてもらったつもりなんですけど。」

「いつも店で買うよりも安いくらいです。本当にこれでよいのでしょうか?」

「全然問題ないですよ。余ったお金は最初の契約通りで医療物資や日用品を見繕いました。シャイアスさんが紹介してくれた商店から買い付けてきましたので、品質は問題ないと思いますよ。」


 風雅の提案したのは前払いによる発注。そして、商店側にゴブリンの里への納品を頼む。ただそれだけである。


 芋を荷車に二つ、その他の野菜を一つ、魚などのこの辺りでは入手の難しい食材を一つ、衣類や生活用品を一つ、といった具合に発注し、納品はゴブリンの集落に直接持ってくるように依頼したのだ。


 ゴブリンにはそこまで買い物に対するこだわりなんてない。だったら、人間に品を選んでもらった方が楽だし、トラブルにもなりにくい。

 荷車を持っていく必要もない。大量の買い物は確定しているので、商品をゴブリンの集落まで持ってきてもらったほうが、むしろ店にとってもやりやすいし、そのくらいのサービスは問題なく依頼できる。

 わざわざ店にあるものを買い占める必要なんてない。ゴブリンは上客なのだ、ゴブリンのために商品を用意してもらえばいい。

 ゴブリンたちはお金には困っていない。だったら、金額を先払いすれば、商店も安心して仕事ができる。さらに利益は商店側が調整できる。うまく安くて良い品を仕入れられれば利益は大きくできるし、店としても頑張りがいがある仕事になるだろう。

 店にお金を持っていかれる心配もほぼない。契約書なんて面倒なものも『身分証』の機能で契約してしまえば、安心安全に前払いができるというものだ。


 ここまでくれば後の問題はひとつ。買い物係が発注に行くときに綺麗な恰好を保つだけだ。風雅は街でゴブリン用の洋服も用意し、サラーサの街に行くときは綺麗にして、これを着ていくように指示した。そうして、人間と会うときには格好の綺麗さが重要な要素であることをゴブリンたちはしっかりと学んだのである。


 風雅とドクターの活躍により、ゴブリンの集落の買い物問題は無事に解決することになる。そして、このお節介がこの後にとんでもない出会いをもたらすきっかけになるのだが、それはまだまだ遠い未来の話である。

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