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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第三章 騒乱の街サラーサ
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第三十七話 風雅のゴブリンお悩み相談室

 風雅のマナー講座からしばらくして、風雅とガリューは揚げ芋を作っていた。周りには大勢のゴブリンたちが押し寄せており、二人の揚げ芋は大人気となっている。


 どうしてこんなことになったのかというと、ゴブリンの子供たちに風雅がお願いをされたからである。


「ねー、えらいおねえちゃん。」

「いや、私は別に偉いわけじゃないけど・・・いったいなんじゃらほい?」

「おねえちゃんはあげいもってつくれる?」

「揚げ芋?ええ、作れるわ。サラーサの街で流行ってるやつってことよね?」

「うん!一回で良いから食べてみたかったの!」

「あー、作ってほしいのか。別に作ってもそりゃいいんだけど、今日の目的が果たせなくなっちゃうのは困るわね。」


 困った様子の風雅を見て、その子供の親と思われるゴブリンが飛んできた。


「き、気にしないでください!子供のいうことですから。」


 若干怯えが入っているのが風雅には気になったが、あえて無視して話を進める。


「あー、いや料理は苦手じゃないから良いんだけどね。ドクター、ガリュー、ちょっといいかしら?」


 二人を呼び寄せる風雅。そして、ドクターにお願いをする。


「悪いんだけどさ、ドクターはみんなをお願いしてもいい?ゴブリンの子供たち、サラーサの街の揚げ芋が食べてみたいんだと。」

「ふむ、別にこちらは構わんが・・・君自信がゴブリンの集落を見て回りたいのではないのかね?」

「ま、そうだったんだけどさ。なんか怖がらせちゃったみたいだし、お詫びがてらにね。」

「了解だ。そういうことなら別に構わないよ。」

「可能なら、問題点をピックアップしておいてもらえない?」

「珍しくまじめだね。それも別に構わないのだが、またお節介をするつもりかな?」

「なに他人事みたいにいってんの。ドクターもお節介したいほうでしょ。」


 そういわれて笑みがこぼれるドクター。少々不気味ではあるが、風雅たちには慣れたものだ。


「吾輩にそのような評価を下すのは風雅だけだな。良いだろう、問題点はピックアップしておこう。」

「ありがとん。よし、それじゃいくわよガリュー。」

「いやいや、俺への説明は?」

「アゲイモツクル、アナタテツダウ。」

「いやいやいやいや、俺の拒否権は?」

「そんなものはない!!」


ビシっ!!


「いったい!!」

「たまには反省をしろ。」

「レディーを殴るとはどういう了見じゃ!!」

「うっせえ!レディーとして扱われたいなら、こっちを人間として扱いやがれ!!」

「なんだとこの野郎!そこまでいうなら仕方ないわ。芋の皮むきはやってやるわよ。マヨネーズも私が担当してあげる。」

「ほう、珍しいな。じゃあ、俺は味付けと芋を揚げるだけで良いんだな。」

「良しとしてやろう。あ、他のソースはどうするの?」

「そっちは適当に時間の合間でやるわ。味に飽きるまではいいだろ。じゃあ、とっととはじめるか。あ、最初は準備も手伝うわ。」

「はいよー。じゃあ、ある程度量ができたら揚げ専門でよろしくー。」


 いつの間にか普通にガリューは揚げ芋を作ることになっている。しかも、それに対してはなんの違和感もないようだ。ドクターはその様子に笑いをこらえることができなかった。


---


 そして、そこからの広場は宴会場となっていった。揚げ芋はずっと作られ続けているが、それに乗じてゴブリンの料理人たちも集まり、様々な料理が作られていった。


 ゴブリンの料理は肉や魚が中心のようだ。野菜はあんまりでてこなかった。というのも、ゴブリンたちには畑を作るという文化がほぼない。せいぜいが主食の芋を作るくらい。後は、自然になっているものを収穫するので十分なんだそうだ。


 ただ、サラーサの街が近いここではそれはできないので、サラーサの街に買いに行っているそうなのだが、それでも野菜はほとんど買ってこないようだ。倉庫にもほとんど芋以外の野菜はなかった。


「うーん、ゴブリンの食にはこだわりってものはあんまりなさそうだな。」

「なによ、料理好きとしては不満?」

「そうだな。ちょっと任せてもいいか?俺、あの料理アレンジしてくるわ。」

「ほいほい。もう結構みんなも食べたし、落ち着いてきてるから一人で何とかするわ。」


 そこからはガリューの独壇場である。肉の焼き方、魚の下処理、料理に合ったソースの作り方など、ゴブリンの料理の基本は変えないが、それでいて簡単に料理の味を劇的に向上させていく。見ている料理人たちはその技術の凄さに驚き、そこからは貪欲に技術を学ぼうとガリューの動きにくぎ付けとなっていった。


 そんなガリューには大きな不満があった。食材に限りがありすぎることだ。


「なあ、なんでこんな野菜が少ないんだ?栄養的にも問題あると思うし、味付けやつけ合わせにも困るだろ。ソース作るにも材料になる物が少なすぎる。」

「すみません。それについては事情がありまして・・・」

「事情ってなんだよ?」

「実は、サラーサの街での買い物がうまくいっていないのです。」

「買い物がうまくいかないってどういう状況だ?」

「いや、本当にこの集落は買い物がうまくいっていないようだ。集落を自警団に一回り見せてもらったが、必要なものが足りてなさすぎる。」

「おう、ドクター帰ってきたのか。」


 出発してから二時間ほど経っていただろうか、ドクターをはじめとした見学組が帰ってきたようだ。


「一回り集落を案内してもらいましたが、衣料品や医療物資、生活必需品までありとあらゆるものが全く足りていませんでした。」

「正直、ゴブリンの基準で見ても足りてないと思う。」


 あんまりはっきりとは悪いといわないシャイアスやゴブリンであるギルがそういうのだから、本当によっぽどなんだろうなとガリューも理解する。


「そんなにこの集落は貧乏なのかよ。たしか周辺地域の整備で賃金は十分もらっているって聞いてたが。」

「いえ、お金はあるんですが・・・そのですね。」

「ああ、それがさっきいってた買い物がうまくいってないってやつに繋がるのか。」

「はい、これについてはどうしたらいいのかわからずに困っている状況でして。」

「私たちも移動しながら話を聞いたんですが、そのことをフーガさんも交えて相談したいなと思って戻ってきたんです。ゴブリンの長も呼んでもらいましたので、相談に乗ってあげましょう!」

「こういうのはミアは好きそうだな。」

「はい!困っている人を助けるのはシスターの務めですから!!」


 ふんす!とミアの鼻息が荒くなった。


---


 風雅も料理を止め、集落へとやってきた全員が再び合流した。それからあまり時間も経たないうちにゴブリンの集落の長という見た目は壮年のがっしりしたゴブリンがやってきた。長というからにはもっとよぼよぼとした感じのものがくるかと思っていたのはマジシャン・カルテットの四人だ。


「なんていいますか、思っていたよりもお若い感じですね。」

「はい、ゴブリンでは最も働けるものが長となるのが通例ですので。もっとも普通のゴブリンの生活だと老人となれるゴブリン自体が少ないのですが。」

「ああ、なるほど。そういう問題もあるんですね。申し訳ありません、嫌なことを聞いてしまいました。」

「いえいえ、お気になさらずに。私の名はガイア。このゴブリンの集落の代表をしております。今回は我々の相談に人間の立場から意見を貰えるということでよろしくお願いします。」

「はい、よろしくお願いいたします。」

「そちらの代表はなにやら恐ろしいお嬢さんと聞いていましたが、いやはやそんなこともないようで安心しました。」


 その発言に思わず噴き出したのはガリューであることはいうまでもない。むっとした風雅ではあったが、相手に悪気がないことくらいはわかっているので、ここは大人の対応を見せる。


「いや、その恐ろしいお嬢さんはあたしのことよ。あと、ごめん。そっちは話しやすいから代表者と話したいんだろうけど、今回は色んな意見を自由に言えた方がいいから、こっちは全員話すわ。申し訳ないけど、そういうことでお願い。」

「なるほど、わかりました。確かにその方が良いかもしれません。不慣れではありますが、そういたしましょう。」


 こうしてゴブリンの集落におけるお悩み相談が始まった。


「まず、基本的にこの集落は必要なものが全く足りていない。医療物資などが特にひどく皆無である。」

「食料品についても少なすぎると思います。いくらサラーサの街があるとはいえ、倉庫の中の食料はあまりに種類が偏っていますし、量も少ないです。この規模の集落ならもっと蓄えをしておくべきです。」


 ドクターとサリアの意見なので、ここは間違いないだろう。これに対して、ガイアに聞いてみたところ、実際に物資は足りていないという自覚はあるようだ。


「はい、実は集落が立派になるにつれ、徐々に人数が増えていったのですが、それに比例してサラーサの街での買い物がうまくいかなくなっているのです。」

「それがよくわかんねえな。買い物ってうまくいかないことあるか?」

「いや、ワシはわかる。ちがうしゅぞくにはきびしいのがにんげんだ。」

「そういう面もあるのは間違いないとは思うわ。でも、それだけじゃないかもしれないって私は思うのよね。」


 風雅はこの集落に来て、気になっていたことがあったのだが、それがもしかしたらこの買い物がうまくいかない問題に関わっているのではないかと考えていた。


「今のままだとさ、正直判断が難しいんでいくつか質問するわね。」

「はい、どうぞ。問題解決になるのでしたらなんでも答えましょう。」

「まず、街にどういう風に買い物に行っているのかを教えて。」


 そこから聞いた情報を統合するとこのような感じになった。


1・ゴブリンたちの代表20人程が買い物に出かける。

2・集落の倉庫にある芋の蓄えに不安を感じたと時に買い物に行く。

3・ついでに他に必要なものや他の野菜なども買いに行くのだが、結局芋しか売ってもらえない。

4・お金は集落全体で余っている状態であり、支払いに問題はない。

5・問題はこの10年ほどで徐々に酷くなっていった。以前は問題なく買い物ができていた。


「後は、本当に最近なのですが、サラーサの街の代表より注意を受けました。ゴブリンには買い物に来てほしくないという苦情が寄せられている。改善が見られないなら、買い物に制限をかけるか、我々に支給されるお金を減らすということをいわれました。そこから、真剣に問題解決を考えていたのですが・・・」

「単純に態度が悪い・・・なんてことないわな。」

「いえ、それも考えて、このように丁寧な言葉遣いなども学びました。」

「ああ、なるほど。たしかにこんな態度だったらそれはないな。」


 たしかにガイアのような態度で失礼を感じる店員はいないだろう。ガリューとしてはこの程度のことしか浮かばないが、ゴブリンの集落にいるゴブリンたちもこれ以上はなにも浮かびはしなかったのだろう。しかし、あの三人は違った。


「ずいぶんと静かですけど、みなさんは何か思いつきました?」


 ミアは途中からあまり発言をしなくなった、風雅、ドクター、シャイアスの三人に話を振ってみた。


「うーん、そうね。はっきりとこれだ!っていうわけじゃないわ。ただ、問題のいくつかは見えてきたわね。シャイアスはさすがにわかるわよね。」

「はい、私も気が付きました。ある程度はこれで解決はするのではないかと思います。」

「完全な解決のためにはしっかりとした契約が必要だろうがね。信頼できる相手に心当たりはあるのかね?」

「ええ、幸い私は食道楽なもんで。食料品関係はどうにでもなると思うわ。」

「では、日用品などは私が担当しましょう。こちらも商人の息子として信頼できる相手に心当たりがあります。」

「では、それらを試してみて、後はどうなるのかを経過観察するとしよう。ガイア君もそれで異論ないかね?」


 どうやらこの三人にはこの状況を解決できる方法が思いついているようである。ガイアとしては願ったりかなったりの状況であるため、是非ともお願いしたかったのだが、その前にひとつどうしてもお願いしないといけないことがあった。


「異論はないのですが、その・・・説明だけお願いできませんでしょうか。」


 それに関してはミアもガリューもギルもサリアも同じ思いであった。

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