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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第三章 騒乱の街サラーサ
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第三十五話 襲撃!

 ミアとシャイアスからの話を聞いた風雅は一つ気になっていたことがあった。


「それ、結局それからどうなったの?」

「騎士を呼んで状況をシャイアスさんが説明しましたね。私はトロールの彼、トンダくんと一緒にいました。」

「シャイアス、その後騎士たちとはどんなことを話したの?」


 やけにぐいぐいと話を聞きたがる風雅にガリューは少し違和感を覚える。


「さっきの話、そんなに気になるところあったか?」

「うん、いやちょっとね。」

「それからは騎士の到着を待ち、騎士や護衛騎士のみなさんと一緒にトンダさんから話を聞きました。」


 トロールのトンダいわく、テーブルは突然に衝撃波のようなもので壊されたそうだ。その証言は周りにいた人の数人から事実であることが判明した。


「へー、都合よく見ているやついてよかったじゃねえか。」


ズビシ!!


 久しぶりに風雅のダブルチョップがガリューへと直撃した。


「なにすんだ、てめえ!」

「お馬鹿ねー。周りの人に話を聞かれたらその証言が出るのは当たり前なの。街中に普段見かけないトロールがいたら、誰かが注目してるわよ。」

「そういわれるとそうだな。じゃあ、この騒ぎはどのみち解決してたってことか?」


 その問いにはシャイアスも顔をしかめていた。


「いえ、そうはなっていなかったでしょう。あの様子では問答無用で取り押さえられていたと思います。」

「そうなのよ。さっきから気になっていたのはそこなの。これさ、ミアやシャイアスがいたからお粗末な騒動みたいに感じるけど、本当はとんでもなく緻密に考えられているのよ。」

「そうなんですか?」

「そうね、ミアでもわかるように本当はどういう狙いでどうなるはずだったかを説明するわ。」


1.護衛騎士を先に呼んでくる


「これにどういう意味があったかわかる?」

「そういえば、たしかにわざわざこんなことする意味ないですね。」

「これがきっかけでシャイアスはおかしいってなったんだもんな。」

「・・・トンダさんと話をさせないため、ですね。」

「そうだと思うわ。というか、それ以外に論理的な理由がない。」


 もしも、あの場にミアがいなかったらどうなっていただろうか。おそらくはトンダは事情すら聞かれることなく、護衛騎士が連れて行ってしまったことだろう。


「でも、どうして護衛騎士さんたちはあんなに気が立っていたんでしょう。」

「大きな音を聞いたからよ。トロールが暴れているって通報を受けて、やってきたら大きな音がする。ちょっと焦っちゃうと思わない?」

「あ、なるほど!」

「そこまで聞くと全部計算ずくだったってことか。」


 さらに風雅とシャイアスの推測は続いていく。


「狙いはそれだけではないでしょう。おそらくあのタイミングで護衛騎士が来ていないのなら、店主がトンダさんに事情を確認していた。あの店主はトロールに特別な感情は持っていなかったので、おそらく何者かにテーブルを破壊されたという主張をまずは信じたでしょう。」

「そうなったら、周りの人に聞いたはずよ。他に目撃者はいませんかーってね。」

「しかし、あのタイミングで護衛騎士がやってきたのであれば話は別です。店主が自ら話を聞くよりも護衛騎士に頼むのが普通です。」

「そして、もうひとつ気になっていた違和感が生きてくるのね。」


2.トロールが暴れているというデマ


「私が広場の入り口で聞いた、トロールが暴れているという話ですね。」

「そんなのが重要なのか?」


 ガリューとミアは正直なところ、話についていくのでやっとである。


「もしもそんな噂がなかったら、たぶんだけど誰か名乗り出たはずよ。私見てましたけど、トロールがテーブルを壊したわけじゃありませんってね。」

「しかし、暴れていたという話が聞こえてきたらわざわざそれを証言しようとはしないでしょう。」

「どうしてそうなるんですか?」

「その人たちからすれば、こう思うからよ。『あ、このトロールは他のところで暴れてからここに来たんだ』ってね。そうなったら、わざわざここでは無罪ですっていうと思う?」


 テーブルを壊してすぐに護衛騎士がやってきたことがここでも活きてくる。その合算によって、このトロールはこの騒ぎよりも前にも何かやったんだと目撃者には勝手に思わせることができるのだ。


「あ、そうか。たしかにそうなっちゃうかもしれません。」

「こうやって聞くとそのトロールはただ単純に騒ぎに利用されたって感じじゃねーぞ。」

「そのようです。この件は明日ジェイルさんに別に相談しておきます。」

「そうしたほうが良いと思うわ。」


 こうして、ミアとシャイアスが巻き込まれたトロール騒動も一旦は落ち着いた矢先、今度は次のトラブルが舞い込んでくる。


「覚悟!!」


 冒険者ギルドの入り口から凄い速度で突撃してくる一人の剣士。他の冒険者たちが止める間もなく、その剣はまっすぐにマジシャン・カルテットへと向けられた。


ぼわん!


 しかし、その突撃は謎の膜によって受け止められる。その直後、風雅は迷わずに風の壁を展開し、襲撃者を弾き飛ばした。


「ぐはっ!!」


 その衝撃で吹き飛ぶ襲撃者。地面に倒れるも、すぐに体制を立て直そうとするが、起き上がることができない。身体が地面に縫い付けられているのだ。


「やはり、連携魔法は練習しておいて正解でしたね。」


 襲撃者を捕らえたのはシャイアスの魔法であった。


「そうね、とっさでもうまくいくレベルにしておいてよかったわ。」


 そして、襲撃者の首元には剣があてられている。この連携に加わっていないガリューは相手を逃がさないために取り押さえる役として突っ込んだのだ。


 カルテット・マジック『バブルカウンター』


 突然の襲撃や目では捕らえられない相手への備えとして練習した連携魔法。どうしても、感知系の能力が低いマジシャン・カルテットがドクターと相談しながら作った新しい連携魔法である。


 ミアがまず全員を囲うように『水膜』という魔法を使う。これは元々は敵の遠距離攻撃を受け止めるための簡単な防御魔法なのだが、これに強い粘性を調整魔法で付与したのだ。その結果、ある程度なら相手の突撃も止めることが可能になった。とはいえ、そこまで長い時間耐えることはできない。それでも、その間に風雅が反応できる時間は作れるようになったのだ。


 次に風雅が風の壁で敵を吹き飛ばす。これは確認して当てることが不可能だったので、周りを全部薙ぎ払える風の壁が採用された。そして、次はシャイアス、地面に落ちた相手を感知する『地の感知』と相手に岩をまとわりつかせて動きを止める『岩石錠』を発動速度特化の調整魔法で付与して準備しておき、吹き飛んだ相手を素早く拘束する。


 最後は、本来であればここまでの隙にため込んだ最大火力を場所や状況に応じてガリューが放ちとどめを刺すことになる。しかし、ここは冒険者ギルド内でもあるし、相手を問答無用で殺すわけにもいかないので、ガリューは相手を取り押さえにいったというわけである。


「・・・リニアか?」


 襲撃者を取り押さえていたガリューから思わぬ言葉が漏れる。


「なによ、知り合い?」

「あー、さっき言ってたやつだよ。」

「絶交を告げられたっていう子ですか?」

「そうだな・・・お前何やってんだ?これは冗談じゃすまねーぞ。」


 どうやら危険はないようだと判断したシャイアスが魔法を解除する。すると、がばっと起き上がった彼女はガリューにびしっと指を差した。


「うるさいバーカ!あなたが馬鹿なことしてるのが悪いんです!」

「いや、それで俺に迷惑かけるなら理解もできるぞ。でも、こんな場所じゃあみんな迷惑すんだろ。」


 ガリューの知り合いということで、今は少しガヤガヤと周りから見ている程度で済んでいるが、彼女が突撃した瞬間は一部の冒険者は禁止されているにも関わらずギルド内で武器まで抜いていた者が多かった。


「うるさい!うるさい、うるさい、うるさーい!あなたが全部悪いんだー!!」


 そう言い残し、彼女は嵐のように去っていった。その様子に風雅もミアもシャイアスも、よっぽどの事情があるのだろうということは察したので、無理に彼女は止めようとはしなかった。これについては後程、後悔することにはなるのだが、それは仕方のないことである。


「ガリューさん、騎士の見習いだったとお聞きしていましたが、まさか聖騎士の見習いだったんですか?」

「聖騎士?」

「えっ、聖騎士ってあの魔族と戦うための聖騎士国のですか?」

「あー、まあ、そうだな。」


 風雅は聖騎士というものがどういうものかは理解していなかった。しかし、シャイアスが彼女の服装を見て、そのことを察したのだろうということは想像がついていた。リニアと呼ばれた彼女は少々装飾が目立つ鎧を身に着けていたからだ。


「これはいったいなんの騒ぎです!!」


 そんな話を遮ったのはギルド長のリーナであった。どうやら職員たちが呼んできたようだ。どう説明したものだろうかと風雅が悩んでいるとガリューが先にリーナに答えてしまった。


「悪い。俺の昔の知り合いがギルド内で俺たちに突っかかってきて、それを撃退した。責任は全部俺がとる。申し訳ねえ。」

「ガリューさんのお知り合いですか・・・それでその方はどうしたんですか?」

「逃げた、というか逃がした。だから俺が責任を取るよ。そういうことにしてくれ。」


 その様子にリーナは少々困惑していた。冒険者ギルド内で武器を抜いて他人へと襲い掛かったとなれば、かなりの重罪となる行為である。しかし、それを襲われた側が責任を取ると言い出したら、少々困ることになる。正直、そんな勝手が許されないというのが本音だからだ。


「うーん、ギルド長としてはそういうわけにもいきませんよ。襲われた側は責任取るっていわれましてもね。」

「そういわずになんとかならねえかな。」


 ぐぬぬぬ、とリーナは頭を抱えている。こういうときに頼りになるのは風雅とシャイアスだ。


「リーナ、ちょっと相談があるんだけど良いかな?」

「良くありませんが、なにかありそうなのでどうぞ。」


 リーナもだいぶ風雅の扱いになれてきたようだ。


「まずあの子が持ってた武器なんだけど、訓練用の偽物よ。間違って怪我しないように刃の部分にも緩衝材が巻いてあったわ。」


 ほいっとリーナに剣を投げ渡す風雅。リーナも確認したが、たしかに見た目に反してめちゃくちゃ軽く、刃の部分には色合いがわかりにくかったがたしかに緩衝材が張り付けられていた。これならそうそう怪我をすることもないだろう。


「シャイアス、そっちはどう?」

「はい、どうやら床にも傷は残っていません。彼女も本気で暴れたわけではないようです。」


 襲撃者の子が倒れた床を調べていたシャイアスだが、岩石錠に本気で抵抗した様子でもないようだ。それなら、さすがに岩石錠とつながっている床は大きな傷が残ってしまっていたことだろう。


「どうかな、今回だけはなにかリーナが個人的にガリューに罰を与えるってことで収めてくれない?」

「うーん、そうですね・・・」


 リーナとしても実被害が無いのならそれでもよかった。後は、周りの冒険者たちがどう思うかが問題となる。しかし、そっちはもっと問題ないようである。冒険者たちはすでに完全に落ち着きを取り戻しているし、興味を持って見守っているほとんどの冒険者は『お、ギルド長は今回どうするんだ?また、マジシャン・カルテットがおかしなことをしてるけどどうするんだ?』といった野次馬的な感覚しかないのは明白である。


「はあ、それでは今回はお咎めなしとします。一応、ガリューさんは後日で良いので事のあらましを書類で提出してください。場合によってはその時に修繕費などを罰金とします。」

「おいおーい、それでいいのかギルド長。」

「ずいぶんとマジシャン・カルテットに甘くなったじゃねーか。」

「良いんです。これは責任者としての大人の判断です。」


 冒険者たちから野次も飛ぶが、完全に冗談の類である。その様子にガリューも少し安心したようだ。


「よっしゃあ、それじゃあ今日は宴会じゃ!私が奢っちゃるぞー!料理はガリューが何でも作ってくれる!」


うおおおおおおおおお!!


 冒険者たちから雄たけびが上がった。ああ、ここのギルドは変わったなぁとリーナはしみじみと思っていた。ま、良くも悪くもというところが少々辛いが、良くもが多いと信じていこう。


「すまねえな、フーガ。」

「いいのよ。ただ、後で私たちには事情は話しなさい。ここまできたら、無関係というわけにはいかないでしょ。」

「わかった、覚悟しておくよ。」


 そういって、ガリューはみんなのリクエストを叶えるために調理場へと向かうのであった。

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