第三十四話 シャイアスの日常と非日常
シャイアスは休みになるといつも向かっているとある店へと向かっていた。冒険者になってから、シャイアスは昔の自分は生活が偏っていたことを痛感していた。
商人の息子として、商業についての勉強、人との交渉術についての勉強、または物自体の知識の勉強、など様々なことを勉強して過ごすのが当たり前だったシャイアス。彼にとっては休みの日も勉強するのが常であり、他にやっていることはほとんどなかった。これについてはシャイアスの性格によるところもあるので、単純に大商人の息子だからというわけでもないのだが。
そんな日常を過ごしていたものだから、親の稼業を継がないと決まった時に、親は扱いに困っていた。シャイアスには間違いない才能がある。そして、努力も欠かすことはないとわかっている。だから、実家以外のどこかの店を渡して商売させるというわけにもいかない。そんなことをすれば、実家を超える店を作りかねず、兄たちが嫌な顔をするのは明白だ。また後継者争いでは長男、次男、三男より優秀となれば、揉め事になるだろう。
だから、全く関係のない冒険者になることを親から義務付けられたシャイアスなわけだが、そうなると自分にはなんの趣味もないことに気が付いた。
風雅には料理研究という趣味がある。どうやら、古今東西ありとあらゆる調味料や調理法を知っているようで、驚くような料理をいつも見せてくれた。シャイアスにとってはマヨネーズなどおとぎ話の錬金術のようだとさえ思ったほどだ。
ガリューは料理をするという趣味がある。そもそもの腕があり得ないほど高いおかげで、風雅が一度見せただけの地球の調理法や地球の調味料も簡単に使いこなす。かなり裕福な暮らしをしていたシャイアスが食に困らないのは風雅とガリューのおかげであるのは間違いないだろう。
ミアは奉仕活動という趣味がある。趣味といえるのかはあやしいが、休みの日だけではなく時間があれば聖神教会へと手伝いに行っている。ミアと一緒にいたいシャイアスも時々お手伝いにいくのだが、なかなか気持ちのいいものだなとは感じていた。神官もシスターも子供たちもみんな喜んでくれるのが嬉しかったのだ。これなら、ミアとはうまくやっていけるかもしれないと感じた下心がシャイアスにはあったというのは間違いないのだが、それはそれである。
そういったこともあり、シャイアスは趣味を見つけようと考えていた。そんなときに風雅から勧められた趣味は意外なものであった。
「商店の経営 シャイアスは休みになるといつも向かっているとある店へと向かっていた。冒険者になってから、シャイアスは昔の自分は生活が偏っていたことを痛感していた。
商人の息子として、商業についての勉強、人との交渉術についての勉強、または物自体の知識の勉強、など様々なことを勉強して過ごすのが当たり前だったシャイアス。彼にとっては休みの日も勉強するのが常であり、他にやっていることはほとんどなかった。これについてはシャイアスの性格によるところもあるので、単純に大商人の息子だからというわけでもないのだが。
そんな日常を過ごしていたものだから、親の稼業を継がないと決まった時に、親は扱いに困っていた。シャイアスには間違いない才能がある。そして、努力も欠かすことはないとわかっている。だから、実家以外のどこかの店を渡して商売させるというわけにもいかない。そんなことをすれば、実家を超える店を作りかねず、兄たちが嫌な顔をするのは明白だ。また後継者争いでは長男、次男、三男より優秀となれば、揉め事になるだろう。
だから、全く関係のない冒険者になることを親から義務付けられたシャイアスなわけだが、そうなると自分にはなんの趣味もないことに気が付いた。
風雅には料理研究という趣味がある。どうやら、古今東西ありとあらゆる調味料や調理法を知っているようで、驚くような料理をいつも見せてくれた。シャイアスにとってはマヨネーズなどおとぎ話の錬金術のようだとさえ思ったほどだ。
ガリューは料理をするという趣味がある。そもそもの腕があり得ないほど高いおかげで、風雅が一度見せただけの未知の調理法や地球の調味料も簡単に使いこなす。かなり裕福な暮らしをしていたシャイアスが食に困らないのは風雅とガリューのおかげであるのは間違いないだろう。
ミアは奉仕活動という趣味がある。趣味といえるのかはあやしいが、休みの日だけではなく時間があれば聖神教会へと手伝いに行っている。ミアと一緒にいたいシャイアスも時々お手伝いにいくのだが、なかなか気持ちのいいものだなとは感じていた。神官もシスターも子供たちもみんな喜んでくれるのが嬉しかったのだ。これなら、ミアとはうまくやっていけるかもしれないと感じた下心がシャイアスにはあったというのは間違いないのだが、それはそれである。
そういったこともあり、シャイアスは趣味を見つけようと考えていた。そんなときに風雅から勧められたのは意外なことであった。
「それならさ、ちょうどいいと思う仕事っていうか、あれがあるんだけどさ。」
「なんだその中途半端な物言いは。」
「いや、実はさ、シャイアスって交渉事とってもうまいじゃん。それを活かしてサラーサの街での揉め事を解決してるでしょ。」
「はい、今までも商店と商店の間に入って協定をまとめたことが何度かあります。」
これに関しては最初は偶然であった。たまたま立ち寄った店で商談して揉めていた二人の間に入り、妥協点を見つけて、商談を取りまとめたのだ。その後、商売の揉め事はシャイアスに相談すればうまくいくと評判になっていた。
「私としてはさ、それを続けてみたらいいんじゃないかなーって思っているの。」
「それも趣味ってことになるんですかね?」
「いや、ミアちゃん。さすがにそれは違うような気がするわ。でもさ、そうやって人と関わることをしていたらなんかやってみたいことが見つかるんじゃないかなってこと。」
「なるほど、シャイアスはちょっと家に引きこもり過ぎているもんな。」
「なるほど、そういうことでしたら、今後も前向きにそういった相談を解決してみようと思います。」
「うん、そうしたらいいと思うわ。」
それから、シャイアスはサラーサの街の商業組合を取りまとめた店にてそういった相談事を解決していくことになった。
そうして今日もその店にて、相談を二つほど片付けたシャイアス。今日はもう相談もないということだったので、ミアの様子を見に行こうと聖神教会へと向かった。
---
聖神教会前の広場につくと、シャイアスは妙な騒ぎが起きていることに気が付いた。
「なにかあったのですか?」
「なんでも、トロールが暴れているらしいよ。」
「いえ、それはあり得ません。それならもっと大きな音がしているはずです。」
「でも、みんなそんな話をしているよ?あー、でもそういわれると確かに妙だね。」
おそらくだが、トロールが何か騒ぎを起こしていることは事実だろう。しかし、暴れてるような事態にはまだなっていないと考えられた。無理はしないようにとはいつも風雅からくぎを刺されていたシャイアスではあったが、トラブルが起きているなら何か助けになるかもと騒ぎの中心へと向かったのである。
騒ぎの中心に到達したシャイアスの目に飛び込んできたのはトロールを庇うミアと冒険者、そしてそれらと対立する教会の護衛騎士であった。声をかけようとしたその時、護衛騎士たちがついに武器を抜いた。ここで止めなくては話し合いの機会はない、シャイアスはとっさに魔法を使って護衛騎士の武器を地面へと落とした。近くにある金属を操るという新しく覚えた魔法の一つだ。
「みなさん、ミアさんを守ろうとしてくれたのはありがたいのですが、それでは本末転倒です。まずは、きちんと話を聞きませんか。」
「シャイアスさん!」
その隙に双方の間へと入るシャイアス。まずはヒートアップしすぎた二組を引きはがさないと話し合いにならないと考えたのだ。
「双方、まずは状況の確認から始めましょう。その上で、そこのトロールをどうするのかを決める。その方がお互いのためではありませんか?」
「シャイアスがそういうんだったら文句はねえ。」
冒険者の方はシャイアスを信用してくれたおかげですぐに落ち着きを取り戻してくれた。その様子を見ていた護衛騎士も徐々に落ち着いてきたようである。
「わかった。それで良いならそうしよう。」
どうにか話し合いで解決できそうな空気にもどり、シャイアスも安堵するのであった。
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シャイアスはまず一人ずつ状況を確認していくことにした。
「我々はこの店でトロールが暴れているということを教会前で聞いて駆け付けただけだ。」
「ああ、そうしたら、ちょうど店主が店の中からやってきてトロールと揉めているのが見えたので、トロールを取り押さえようとした。」
まずは護衛騎士から話を聞いてみた。この話は事実であろう。なぜならば、この護衛騎士たちには嘘をつく理由が見当たらない。そこでシャイアスは次に店主の話を聞いてみた。
「そこのトロールは間違いなくうちの店で料理を買いましたよ。その後、うちの店の前に設置してるテーブルにいるのは見ました。」
この店は店の前にもテーブルをいくつかおいており、広場の様子を見ながら食事も可能となっている。トロールはそこで食事をしていたということだろう。
「それからしばらくして大きな音がしまして、様子を見に行くとトロールが使っていたテーブルが破壊されているのを確認しました。それからすぐに護衛騎士が来てくれたので状況を伝えました。」
この店主に関しても落ち着いているし、嘘をついているという感じはない。その様子に護衛騎士たちはシャイアスへと詰め寄る。
「どうだ。私たちが嘘をついている様子はないだろう。たしかに多少手荒が過ぎたとは思うが、そこのトロールは連れていく。問題ないな?」
表情の暗いシャイアスを見て、護衛騎士たちはこの主張は通るだろうと考えていたようだが、シャイアスはすでに全然別の問題を考えていた。
「いえ、トロールの彼からも話を聞かないと判断できません。といっても、もはやそれ以前の問題があるので、少し考えを巡らせていました。」
「それ以前の問題ってなんでしょうか?」
「ミアさん、護衛騎士のみなさんは店主からの通報でやってきたといったんですよね?」
「はい、そうでしたね。」
ミアは確認のために護衛騎士の方にも視線を送る。
「そのとおりだな。店主自体が来たわけではないが、そう聞いてやってきた。」
「それならタイミングがあいません。」
「タイミング・・・ですか。」
シャイアスは冷静に状況を説明した。
「教会の入り口からこの店までの時間が考慮されてないんですよ、今の話では。もしも、本当にトロールがテーブルを破壊したとして、その様子を見て誰かが通報にいったのだとしたら、護衛騎士が到着するのはしばらく後のはずです。しかし、話を聞くと破壊した音がしたほぼ直後に護衛騎士は到着しています。」
その説明を聞いて護衛騎士の一人がはっとした。
「そういえば、店に到着する直前に大きな音が一回したな。」
「店主、音がしたのは他にありましたか?」
「いえ、大きな音はテーブルが壊れた時だけだと思います。」
「だとするとテーブルはその時に破壊されたと考えられます。」
「一ついいか。よくわからねえんだけど、シャイアス。そうだとしてもそこのトロールがテーブルを壊してないかどうかはわからなくないか?」
冒険者の一人がシャイアスへと質問するが、ここまできたらそうはならないだろう。
「護衛騎士へ通報したタイミングは騒ぎの前です。こうなると護衛騎士の元に来た謎の通報者たちが騒ぎを起こしたと考えるべきです。そうじゃないなら、その通報者は未来を予言したとでもいうのですか?」
「あ、そっか。そういうことか。」
通報が先にあったにも関わらず、その後本当にトロールの使っていたテーブルが壊れている。そうなると、当然ではあるが、通報者がトロールをはめようとした可能性の方が断然に高い。
「この件はおそらくですが、トロールが街にいることを知った何者かが企んだ人為的な騒ぎです。教会の護衛騎士だけの問題ではありません。街にいる正規の騎士を呼び、ちゃんと調べた方がいいでしょう。」
「・・・どうやら、そのようだな。わかった。あとはこちらで責任をもって対応させてもらう。」
そういうと護衛騎士たちは顔を見合わせてから、トロールへと向き直った。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
護衛騎士たちは自分たちの行いを反省しトロールへと頭を下げる。その様子にミアはとても満足げにニコニコしている。その笑顔を見れて、シャイアスは幸せな気分になるのであった。




