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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第二章 冒険者はじめました!
29/90

第二十八話 結論、ドクターは良いやつ

 この世界では調整魔法のような世界を動かすかもしれないような発見は最近では発表されたことなどない。その理由は自分だけが知っているほうが都合が良いから、その一言に尽きる。


 それが常識のこの世界で、冒険者の街として有名なサラーサで突然冒険者が新しい魔法の秘密を見つけ、わざわざそれを発表したという、あり得ない内容の知らせを受けてドクターは驚愕した。


 驚愕した理由は三つ。ひとつ、イメージするだけで魔法に影響があるというとんでもない内容であったこと。ふたつ、検証した結果、それが真実であるという結果がでたこと。みっつ、それをわざわざ発表した冒険者がいること。


 特に三つ目が衝撃的であった。この世界に自分以外に世の中に情報を広めることの意味を知っているものがいるのかもしれない。そのことに胸躍る自分がいることを恥ずかしいと思いつつも、ドクターはその冒険者たちに会いたくてたまらなかった。


 もしかしたら、ただこの発見の意味がわからない愚か者なのかもしれない。もしくは教会の回し者で、自分の完全魔法理論をぶっ壊す目的なのかもしれない。だが、もしも、自分と同じように考えるものであれば、自分の知識を分け与えてやろうと考えていた。


---


 数日後、早速サラーサにやってきたドクターは件の冒険者の情報を集めた。どうやら、本当にまだ駆け出しの冒険者らしく、調整魔法を使って闘技大会で優勝し、Fランク冒険者資格を取ったような冒険者とのことだ。


 この辺りは冒険者ギルドで簡単に教えてもらえた。というか、多くの人が嬉し気に教えてくれるのだ。ドクターは自分が変人であることは理解していたので、大体は警戒されることはわかっている。しかし、この冒険者ギルドの連中はマジシャン・カルテットという冒険者たちのことは語りたがって仕方ないのである。


「姉さんたちは本当にすごい人たちなんだぜ。特に酒にはめっぽう強くて俺たちは全員いつもつぶされちまうんだ。」

「そうそう、それにさ、珍しい酒を見つけてくるのがうまいんだよな。最近では、このラガーって酒がこのギルドの名物、ひいてはサラーサの名物になってるぜ。」


 そういって、差し出されたのはキンキンに冷えたお酒であった。見た目はエールのようだが、ここまで冷やしているのは珍しいかもしれない。そう思って飲んでみたところ、非常にうまい。冷やしていることでこの酒のうまさが引き立っているのがわかる。なるほど、この酒は冷やさないといけないお酒なのだとドクターは理解した。


「いや、そういうことを聞きたいわけではない。だが、それでもあえていおう。うまい酒だ。実に素晴らしいな。」

「だろ!話せるねーおじさん。」

「うむ、せっかくだ。この酒でも飲みながらもう少しマジシャン・カルテットについて教えてもらってもよいかな?」

「おう、もちろんだとも。」

「はい、お待たせでーす。」


 どうやらつまみを買いに行ってきた他の冒険者が戻ってきたようだ。揚げ芋のようだが、細切りに切りそろえられており、しかも赤と白の2種類のソースが添えられている。


「ほう、揚げ芋なのにしっかりと料理されているとは珍しいものだな。これはサラーサの名物なのかね?」

「ふっふっふ、それも姉さんの発案したものなんですよ。」

「そのフーガという冒険者は元料理人なのかね?」

「あー、その辺は聞いたことないなぁ。でも、姉さんはあんまり料理はしてるの見たことはないかも。」


 とりあえず、両方のソースで味わってみるドクター。どちらのソースも特徴的でなかなかうまい。これなら結構いい値段がするのではないだろうか。


「これは高い料理なのではないかね?普通にレストランで出てくるようなものに感じるが。」

「いやー、なんでも手間はかかるけど原価は安いらしくって、一般的な揚げ芋とあんまり変わらないんですよ。」

「原価はともかくこのアイデアなら普通にもっと金が取れそうだがね。」

「なんかお店の人の話だとフーガさんがそれは止めたらしいですよ。」

「情報を統括するに、そのフーガという女性はなかなかの豪傑ようだ。ますます興味がつきないね。」


 この時点でドクターは、風雅が想像する限り最高に自分の理想に近い人物であることを予想していた。会うのがますます楽しみになっていた。


---


 その後しばらく冒険者ギルドにはいたものの、その日はマジシャン・カルテットはやってこなかった。冒険者たちの話だと稀にそういう日があるらしい。残念ではあるが、おかげで多くの話を聞くことができたのでドクターとしては満足であった。


 特に今、目の前にいるギルド長を名乗る女性。最初こそ、マジシャン・カルテットを探るドクターを怪しんで声を変えてきていたが、事情を説明したところ、むしろ色々と答えてくれた。


「そのときドカーンと隕石みたいなすごい魔法が炸裂したんですよ!いやいや、あんなすごい魔法みたことないです。」

「なるほど、魔法使いたちが協力するというのを見たことがない。だが、理屈にはかなった攻撃だな。なにより驚くのはその魔法をただ作るのではなく、絶対に当たるようにしたということだろう。」

「そうなんですよ!あのコンビネーションは本当にほれぼれしましたねぇ。」


 ここまで色々な話を聞いてきたが、フーガという女性を悪く言う人はお酒関係以外では一人もいなかった。ただ、酒癖は相当に悪いらしく、とんでもない騒ぎは起こしており、「ウワバミの狂乱」とか名付けられているとのことだ。


 しかし、それ以外の評判は信じられないくらいに良い。最近ではゴブリンを保護して雇っているという話も聞いた。差別や偏見も持っていないということなのだろうか、ドクターは風雅の評価をさらに上げていた。


 さらに驚いたのは、地図を作っているという話だった。地図を作るだけならまだあり得るのだが、それを騎士団へ売り込み、街の人たちに提供するように進めているというのだ。これについては冒険者たちもかなり驚いていた者が多い。


「そこまでやったなら、普通は案内料を取って生活資金の足しにするよな。」

「騎士団に売っても一回金になるだけだもんな。」


 それについてはドクターが逆に解説してやった。


「このサラーサでそんな地図が必要な冒険者はどのくらいいると思うかね?」

「どのくらいって・・・Gランクの冒険者か、あるいはFランクの初期組くらいじゃねえかな。」

「そのとおりだな。それではそんな冒険者のうちどのくらいがわざわざEランク、もしかしたら今後はそれ以上になるかもしれない冒険者に案内を頼むと思うかね?」

「あー、それはゼロっすね。」

「そのとおりだ。だから、地図なんて誰も作らないし、そんな情報をわざわざまとめるものもいなかったのだな。しかし、彼女はそれをまとめた。どうしてかな?」

「どうしてって・・・なんででしょうね?」

「その発想がないのが君たちと彼女を分ける差ということだ。地図にして誰もが知ることとなれば、この情報に価値はあるかな?」

「そりゃ、価値はありますよ。試作品見せてもらいましたが、それは細かく作られてましたよ。」

「そっちの価値の話ではない。金銭的な価値の話だ。」

「あぁ、それはもうほぼありませんね。」

「そうなれば、新人の冒険者でもその地図を入手しやすいとは思わないかね?」


 そこまで聞くと周りの冒険者たちもようやく理解した。つまり、風雅の地図作りは後の新人冒険者たちのための行動だったということである。


「でも、姉さんたちは一体なんのためにそんなことをするんです?」

「そこまでははっきりはわからん。だが、憶測ならば可能だ。他の行動などと併せて考えるに彼女はこのサラーサ全体の発展を願っている。」

「全体・・・ですかい?」


 サラーサの街が発展したところでマジシャン・カルテット、ひいては風雅にどんなメリットがあるというのか?冒険者たちはほとんど理解できていない。しかし、ドクターは理解できていた。


「理解できていないという感じだな。そもそもの話ではあるが、自分の持っている情報を他人に共有することのメリットはわかっているかね?まぁ、そこが理解できていないのだろう。他人に情報を共有すれば、その情報を自分よりも活かしてくれる可能性が生まれる。」

「は、はあ?」

「先ほどの揚げ芋を例えにしようか。切り方にも色々あった芋だが、一つとりあげよう。そうだね、くし形の大き目な切り方、あの芋が一番うまいと感じた別の揚げ芋店が、あの形の芋だけに特化した店を作ったとしたらどうだろうか。ソース、味付けもくし形に合うものだけを選び作り上げる。そうすれば元々の店よりもくし形の揚げ芋に関してはうまいものができるのではないかな。」


 うんうん、たしかにと周りの冒険者たちも納得している。


「この発展こそが他人へと情報を共有するメリットだな。そしてフーガとしては何もせずに自分が発見した料理が発展したものが食べられることになる。どうだ、とても素晴らしいことに感じないかね?」

「でも、地図の場合はどうなるんでしょう?」

「そうだね、あのような地図があったら新人冒険者の生存率があがるだろう。そうなれば、あの地図をもっと完成させていこうと考えるものがきっと現れる。地図に金銭的な価値がないのであれば、情報はもっと集まってくるだろうね。誰だって、冒険者に死んでほしいと考える者はいないだろう。」

「あー、なんとなくわかります。自分が危険な目にあった場所が書いてなかったら、ここ危なかったよ、とかって実際に姉さんたちに教えました。」

「そうだろう。この面白いところはだね、誰もが教えあわないのが当たり前なら、誰もこんなことはしないというところだ。しかし、誰かが始めたら、その行動に共感するものが出てくる。そして、これらの情報は正直なところ、知っている冒険者にとっては何の意味もない情報だということだ。先ほども言ったが、情報はより活かしてくれる人間に届いた方が価値がある。つまり、この情報は誰にとって必要となるかな?」

「新人冒険者とか、後は戦えない人たちとかっすね。」

「そういうことだ。つまり、フーガが知っていても仕方ない情報になったときにこれを知りたい人に勝手に引き継げるようになったわけだ。そうすることで、この情報はいつまでも意味を持ち活きてくる。」

「でも、それだと姉さんたちにメリットありますかい?」

「直接的にはないだろうね。しかし、今後この情報で生き延びた冒険者が後に自分を助けてくれるかもしれないだろう。または、サラーサ自体の評判があがり、住みよい街へとなっていくかもしれない。仮になにもかえってこなくてもいいのだよ。フーガにはもう要らない情報になったときも後の人が使ってくれればいいというだけの話だ。そして、この世界にはそういう助け合いがとても少なくなっている。彼女はそれを壊そうとしているのだろうね。」

「そう聞くとなんかめちゃくちゃ壮大な話に聞こえてきますが。」

「壮大だよ。だが、彼女はそれを続けそうだ。いやはや、本当に興味深いよ。」


 この日、冒険者ギルドにいた冒険者たちは少しだけ考え方を変えただろう。それこそが風雅のやりたかったことであり、ドクターが望んでいたことである。


 そして、ドクターはこの日とても上機嫌で帰っていった。


 それから数日、マジシャン・カルテットの様子を観察していたドクターは自分の知識を分け与えるにふさわしいと判断した。それと同時にマジシャン・カルテットの危険性を理解してしまった。魔法使いとしての常識と呼べるものが何一つ備わっていなかったからである。


 そうして、ドクターはまずは完全魔法を教えることにした。あの頭の良いフーガという女性ならば、一般向けの講習会を見せればすぐに興味を持ってくれると確信していた。すぐに王都にある自分の研究所へと連絡し、サラーサでの講習会を準備した。


 そして、絶対に4人を招くために大量の金貨も用意して、夜道で待ち伏せし誘いをかけた。この素晴らしい出会いににやける顔を必死におさえ、この後の展開を予想していた。


 彼女たちならば、必ず自分に教えを乞うために頭を垂れてくるだろう。


 絶対的な自信をもって、4人と離れた後に大笑いした。


---


 確定的な未来は現実となり、講習会が終わると同時に、風雅はドクターへと声をかけていた。残りのメンバーも引き連れて頭を下げる。


「私たちに魔法を教えてください!!」


 ドクターの戦略は見事に成功したのであった。

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