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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第二章 冒険者はじめました!
28/90

第二十七話 調整魔法の欠点

 魔力をどのくらい消費しているのか。マジシャン・カルテットの四人は全く考えたことがなかった。というのも、加護をもらえている四人は他の人に比べると相当魔力の量は高かったからだ。


 さらにいうなら、四人の調整魔法は強力であったため、それほど魔法を連続で使用することもなかった。だからこそ、魔力の消費量など全く考えていなかったのだ。


「結論から言おう。速度重視の火球の魔力消費量は170、威力重視の方は180もの魔力を使ってしまっている。魔法を覚えてすぐの人間なら3回も使えば魔力はすっからかんになるな。ガリュー、君なら今の魔法をどのくらい使えるのかね?」


 少し悩んでからガリューが答える。


「10回は使えないと思うが、そこまでこんな高火力のやつを連続で使ったことがないな。」

「そうだろうね。君たちはとても慎重だ。それほどの力を持っていながら驕りが少なく自分たちにとって無理のない冒険を心掛けている。そのため今まで限界まで魔力を使うような危険なことをしたことはないだろう。それでいい。無理などそうそうするものではない。」

「ひとつ気になることがあるのですが良いでしょうか?」

「なにかなシャイアス?」

「ドクターさんはとても落ち着いているようですが、この結果を予測しておられたのですか?」


 シャイアスの指摘はもっともであった。実際に講義を聞いている多くの人たちはざわざわとしていたし、かなり驚いている人も多い。しかし、ドクターは冷静そのものだった。


「ここまでとは思わなかったが効率が悪いということは知っていた、というのが正確な答えだろうね。実は調整魔法のことを知ってからすでに実験を行っている。そのときの結果がこれだな。」


 ドクターが合図を出すと、モニターにデータが表示された。そこには20人程が実際に調整魔法の火球に挑んだ姿とそのときの威力、速度、魔力消費量が映っている。


「私の助手たちにも調整魔法に挑戦してもらった。残念ながら私自身は調整魔法を使うことができなかったのでね。話が脱線するがどうやら完全魔法に慣れすぎてしまうと身体が勝手に調整を拒んでしまうらしい。いや、どちらかというなら頭で作ったイメージよりも完全な魔法のイメージが強すぎて調整が不可能になると言ったほうが良いだろうね。まぁ、それは致し方ないことだろう。さて、話を戻すぞ。調整魔法だが、その中でも威力を重視して、なおかつ使用するにあたって現実的な速度を維持したものを目指すとなると、大体は同じところへ落ち着くことがわかった。その場合の魔力消費量は大体60まであがってしまう。」

「結構あがってますね。でも、調整魔法が誰でも使える可能性があるってことでもあるんですよね?」

「なかなかに良い指摘だ、ミア。そのとおり、君たちが考えた調整魔法は魔法における『ブレ』と考えられていたものを論理的に解明したものであり、私のような余程の人間以外なら誰でも使えることが証明できた。しかし、同時に調整魔法は問題があることも証明してしまっている。」

「こんなに魔力の消費量があがったらたくさん使えないですもんね。」

「それだけだと60点というところだな。フーガはもうわかっているだろう?」

「えぇ、魔力消費量の上昇と威力の上昇が釣り合っていないんでしょ。」


 その答えを聞くとドクターは満足げに頷いた。そして、20人分の威力と魔力消費量のみがアップになってモニターへと映し出された。


「魔力消費量は6倍ではあるが、さすがにこのまま威力も6倍を期待することはできないだろう、それは最初からわかっていたことだな。その大きくなった魔力を前に飛ばすのだから当然速度を維持する魔力量も大きくなる。だが、実際にはそんなものではないほど威力は伸び悩んでしまった。見ての通り平均でいうと3.2倍というところだな。この威力だが、速度も0.8倍まで落ちてしまっている。」

「ちなみにさっきのガリューが使ったのはどのくらいだったの?」

「あぁ、計測は終わっているかな?」

「はい、終わっています。少々お待ちください。」


 助手が返事をすると画面にガリューの使った火球のデータが追加された。


「威力が9.3倍で、速度は0.8倍ですね。大体予測通りです。」

「うむ、ありがとう。これを見てどう思うかね、フーガ?」

「効率って意味で言うなら話にならないわね。」

「君は本当に賢くて話が早い。そのとおりだ、いくら威力や速度をあげられたとしても、これでは魔力がすぐになくなってしまうだろう。だが、同時にわかったこともある。」

「威力が必要な時には必殺技的に使えるってことでしょ。」

「そのとおりだ!いやいや、本当に君を助手にできたら私の研究はもっと捗るだろうね。理想的な答えをもらえてうれしいよ。」

「つまりは・・・それが私たちをわざわざこの講義へと招いた理由ってこと?ずいぶんとお節介なのね。最初にあったときは変な奴だと思っていたけど、やっぱり良い人だったのね。」

「うーむ、それについてはなんとも返事がしがたいな。ただ、私は変な人間なのは間違いない。しかし、それを言うのであれば君もまた同様に変な人間だ。」

「なんかそうみたいね。私もちょっとわかってきてるの。」


 二人はうんうんと頷きあっているが、他の3人や会場にいる人たちはなにを言っているのかよくわかっていない。


「私はさ、調整魔法だけを使えてれば、それで問題ないって思ってたんだけど、そうじゃなかったってことよ。」

「それはなんとなくわかってきました。要するに、このままだと私たちはどこかで魔力切れで困ることになるかもってことですよね?」

「それは問題の一つの側面に過ぎないわ。もっと大きな問題があるのよ。」


 ドクターだけがうんうんと頷いている。だが、ギャラリーも含めて多くの人は全く理解ができていなかった。


「もっと大きな問題は私たちの魔法が常識外れで多くの人にとっては理解の外にあるってことなの。」

「それを利用して大会で優勝したのにですか?私も大きな問題には感じませんでしたが。」

「シャイアス、それは争うために使うならそうだと思うわ。でもさ、私たちって冒険者と争うことって稀有でしょ。むしろ、協力し合うことのほうが遥かに多くなると思わない?」

「それはそうでしょうね。あ、そういうことですか!」


 シャイアスは気が付いたようだ。この調整魔法最大の欠点ともいえることに。


「そうよ、他のパーティーと組むときに使うなら調整魔法は最悪の魔法なの。今の魔法は基本的に完全魔法のことを指してる。つまりさ、例えばガリューが、『レッドマジシャン 使える魔法 火球 火の壁』って書いて他の冒険者と組むとするでしょ。そのときにさっきの火球をイメージして組むような人はいない。イメージされているのは完全魔法の火球だし、求められているのもそれなの。」

「なるほどな。そして俺たちは絶対に他のパーティーと組まないと戦えない。感知する能力を持っている仲間も攻撃を受けてくれる仲間もいないからだな。」

「そうよ、今はまだいいかもしれない。でも、いずれそれが問題になることは明白だわ。そして、それに誰よりも早く気が付いたお節介がいたのよ。」


 そういって、風雅はドクターを指さした。


「そう、ドクターよ!」

「君はなにかと演技がかった動きが多いな。そこまでわかっているのであれば、逆に完全魔法がなんのためにあるのかもわかっているだろう。」

「もちのろんよ!」

「もう少し真面目にできないものかね?まあいい。では、答えを聞こう。」

「そもそも完全魔法は魔法使いが他の人とパーティーを組めるように作ったものってことでしょ。」

「完璧だ!本当に君が助手になってくれれば私の研究は大きく進むこと間違いなしだな。いやいや、さすがは調整魔法などという発見をした忌々しい娘だ。さすがだ、さすがという他にない。」


---


 そこからはドクターの講義が続いた。そもそも完全魔法とはドクターが魔法使いたちのために作り出したものである。


「ひと昔前のことを知っている冒険者もだいぶ減ってしまったな。それ自体はとても良いことだ。なにせ、あのくそみたいな状況が過去のことになったということだからだな。ひと昔前では魔法使いのいるパーティーと組むことは危険だと言われていた。もちろん、魔法使いを傭兵として補充に雇うものなどいるわけがない。その理由とは当たり外れが酷いからだ。」


 ひと昔前の魔法使いたちはある意味で調整魔法を使っていた。どんな威力、どんな速度、どんな魔力消費量でも魔法と認めれたからである。つまり、火球をひとつとっても様々な火球が存在したのだ。


 これによって多くの問題が発生する。例えば、威力を重視した魔法使いの後に、魔力消費量を重視した魔法使いと組んだらどうなるだろうか。


「前回の魔法使いならば、この魔物を一撃で倒せたはずと期待する。しかし、実際には今回雇った魔法使いはその魔物を倒すことすらできないかもしれない。逆も考えてみたまえ。前回雇った魔法使いは何時間でも戦闘についてこれたが、今回の魔法使いは数発使えば疲れたので休憩が必要だと主張する。こんなことが当たり前に起きていた。それが以前の魔法使いというものだ。これでは話にならないと誰でもわかるだろう。」


 この状況をなんとかしようと動き出したのがドクターであった。ドクターは魔法自体には需要があることは理解していた。つまりは、魔法使いに当たり外れがある状況さえなくなればなんとかなると考えたのだ。


「そこで作り出したのが完全魔法というわけだな。どの魔法使いでも同じ魔法を使うことができるのであれば、イメージによる齟齬は発生しない。つまり、誰でも魔法使いを雇いやすくなり、魔法使いがいるパーティーとも共闘しやすくなる。ただ、こうなると絶対に私にはしないといけないことがあった。なにかわかるかな?」

「誰もが納得する、そして誰もが真似したくなるような魔法を作ることよね?」

「そうだ!それができないのであれば、こんなものはただのエゴである。自分の魔法こそが最高であると信じる魔法使いたちを説得させるほどの完全な魔法が必要だった。そして、私はブレの大きな要素となる三つを釣り合わせた魔法を探るようになった。」


 それから十数年、ようやく一般的な魔法として知られているものの全てを網羅した完全魔法を国の機関へと提出したドクター。そして、魔法使いの冷遇に対して打つ手を見いだせていなかった国もまたこの完全魔法に飛びついたのであった。


「このように完全魔法は出来上がり、今では魔法の習得とはこの完全魔法を覚えてこそということになっている。ここまでの道のりは本当に長かったものだ。」


 ドクターは感慨深そうに天を見上げていた。そして、急に風雅に向き直った。


「それをぶち壊そうとしたのがフーガの見つけた調整魔法というわけだな。しかし、それは誤解だった。いや、誤解ですらなかったというのが正しいな。」

「そうですね、私たち、そもそも完全魔法というものをほとんど知りませんでしたから。」


 のほほんとミアが答える。その様子にうんうんとドクターが頷いている。


「どうやらそのようだな。普通ならばあり得ない話だが、加護持ちならばそうでもないのだろう。なにせ、誰かに習うことなく魔法が覚えられるのだからな。」

「実際に俺たちは基本の魔法しか使えないが、これは誰かに習ったものじゃないな。」

「そう、つまりはただただ新しい技術を発見し、それをみなに伝えようとしてくれただけだった。はっきり言う、これができる人間はこの世界にはもうほとんどいない。非常に残念なことだがね。」


 これについては薄々風雅は気が付いていた。この世界に地図がないのもそのためだろう。この世界では基本的に自分が得た情報は他人には漏らさないという文化がある。


 その情報は金や武器になると考えるのが一般的だからだ。だから、魔法を教わるにも基本は金銭などとの交換でしかあり得ない。だからこそ、このドクターの講義は非常に多くの人が見に来ているということなのだ。


 だからこそ、ドクターはマジシャン・カルテットに目をかけていた。調整魔法という知識を世界に広めようとする風雅たちを評価していた。


 そう、ドクターにはこのサラーサで講習会を開こうと思うまでにいたるには、とある思惑があったのだ。

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