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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第二章 冒険者はじめました!
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第二十五話 風雅、駄々をこねる

 マジシャン・カルテットにとって苦い経験となった冒険から数日。ついに、ドクター主催の講習会が始まる日となった。幸いにもそこまでには目標としていた地図の作製も終わり、この講習会に集中できる状態を作り出せていた。


 しかし、一つだけ懸念材料もある。それは、当日までドクターからは何の連絡もなかったことだ。はっきりいってしまえば、今日、マジシャン・カルテットは何をやらされるのか全く分からない状態なのである。


 ただ、会場についた4人はそんな不安を一発で吹き飛ばされることになる。


「すげぇ人だな。」

「ドクターさんって本当にすごい方なんですね。」

「ま、これだけの人が興味を持っているくらいの人ではあるわけだ。」


 風雅は少しドクターのことをなめていたようだと反省した。会場はとんでもない人であふれていたのだ。入り口では騎士たちが検問を行っているし、一般の参加者はここで入場料も取られているようだ。


 風雅がイメージしていた講習会は魔法を覚えたい人達が集まるだけの、お勉強会のようなものだった。しかし、これはどちらかというとお祭りに近いものがある。実際、子供連れも多く、ただドクターという有名人を見に来ただけという感じの人も多かった。


 そして、ドクターが良いやつなのかもと思うこともあった。入場料はそれほどに高価というわけでは無い金額だったからである。さらに、子供連れでやって来た親子を見ると、子供の入場はただのようである。凄まじい大金をぽーんと風雅たちに渡すだけあり、お金には困っていないのかもしれないと風雅は感じとった。


 これほど多くの人が集まったのもその金額設定があってのことかもしれない。そういう意味ではドクターはこういう催し物も何度もやって慣れているのだろう。


(だったら、もっと事前に私たちにもちゃんと段取りの連絡しようよ・・・)


 風雅は渋い顔をしながら、入場口へと差し掛かった。


「おや、マジシャン・カルテットのみなさんですね。ドクターからお聞きしております。みなさんは、入場料は要りません。ただ、簡単な身体検査はさせていただきます。」

「はいよー。あ、そうだ。ドクターからはメインステージが始まる時間に来てくれたら良いっていわれてるんだけど、ほんとにそれでいいわけ?」

「そのあたりは、私たちも存じておりませんね。検査の間に誰かに確認させます。」

「うむ、よきにはからえー。」


 風雅はいつもの様子で騎士たちと話しているが、それをジトーと見ているのはガリューである。


「なんていうか、お前は怖いもの知らずだな。騎士って普通の人はもっと怖がるものだけどな。」

「うーん?なんで?」

「そうだな・・・そう言われると、なんでだろう?」

「実力と権力を恐れるからではないでしょうか。そして、恐れられるのも必要なことなのですよ。それがないと、人々への抑止力になりませんからね。」


 頭を捻るガリューを余所に受付してくれた騎士が答えてくれた。しかし、ガリューは頭を捻ったままだった。しかし、検査もあるので、すぐにガリューも元の様子に戻っていったのであった。


---


 検査も無事に終わり、予定についても確認が取れた。マジシャン・カルテットの出番はメインとなる講習のところのみ。しかし、その講習については最初から出ていてほしいとのことだった。


「私たちは調整魔法を見せるだけじゃないんですね。」


 ミアは不思議そうだったが、風雅は理由がわかっている。


「そっちはむしろ私たちへのサービスだと思うわよ。本来だったら、その講習は別料金がかかるけど、私たちはただで受けられるってことだし。」

「なるほどー。ドクターさんは変な方だと思いましたが、優しい方でもあるんですね。」

「ま、たしかに様子はかなり怪しかったが、どうやら最初の印象よりかは良い奴みたいだな。」


 それについてはガリューだけでなく、全員が納得するところである。しかし、一つ油断できないところもある。


「ですが、私たちを完全魔法の普及のために利用する可能性などもあるのではないでしょうか?」

「シャイアスの考えももっともだと思うわ。でも、たぶんそういうことじゃない気もしてる。」


 つまり、シャイアスの危惧しているのはこういうことだ。


 調整魔法よりも完全魔法が優れているということを証明するために、マジシャン・カルテットに恥をかかせるような難題をふっかけてくるのではないか。さらに、自分達に完全魔法を強要してくる可能性もあると考えていた。


「と、いいますと、どういうことでしょうか?」

「うーん・・・そうね。もしも、今日の講習会が物凄く普通に進んでいったら、最後に私が我が侭いうのを許してくれる?」

「なんだそりゃ?」

「その場合はおそらくだけど、私の予想が当たっていると思うの。だから、任せてほしい。」


 三人はよくわかっていなかったが、理由はあるのだろう。こういうときには風雅に任せておけばいい。三人は経験からそれを学び取っていた。


「ま、いいんじゃないか。なにか考えはあるみたいだしな。」

「それは今は説明できないんですか?」


 そういうミアも別に風雅に反対する様子はない。ただ、単純にそれなら今言ってくれれば良いのでは?と思っただけのようだ。


「この段階だとみんなよくわからないと思う。これはたぶん『感覚』の問題だから。」

「そうなんですね。フーガさんに考えがあるなら、それで私は構いません。」


 シャイアスにも異議はないらしく、この件は風雅に一任されることになった。


---


 それからは、祭りのようになっている会場を一通り回ってみる事となった。昼過ぎになるメインの講習会までには時間もあるし、どこかで昼ごはんも済ませてしまいたいところだ。


 午前中も講習はあるのだが、子供向けの魔法とは何か?という本当の基礎的講座らしく、魔法が使える人が見る者ではないらしい。むしろ、魔法が使えるかどうかを子供や、今まで魔法に興味を持たなかった人たちが試してみたりするための講習なのだそうだ。


 適当に歩いていると、やけに人だかりが出来ている出店を発見した。どうやら、揚げ芋のお店のようだ。


 この会場の中に出店できているのは基本的にはサラーサの街にある人気店になる。ドクターが選んだわけではないが、ドクターが信頼できる所へ依頼して、厳選してもらったお店たちというわけだ。


「ここって最近話題のすごいたくさんの種類の揚げ芋があるお店ですね。」


 あまり食べ物に興味がないミアでも知っている程のお店らしい。


「おう、俺も何度か食べてみたけど、どれもかなり美味い。一つ一つの完成度が高く、オリジナリティもある。あの値段で商売しているのが不思議なくらいだ。」


 料理が得意なガリューも絶賛するこの店。その特徴が先程ミアも言っていたが、沢山の種類の揚げ芋だ。


 本来この世界の揚げ芋はただ芋を適当に切って、油であげただけのもの。味付けも基本は塩のみというのが普通である。しかし、この揚げ芋屋はわけが違った。


 一般的なざく切りのものあるのだが、その他に細切り、薄切り、くし形、さらにポテトチップスのような極薄切りと形状だけでも様々なものを用意している。


 そして、そこから好みの味付けを選べるのだ。普通の塩もあるが、数種類のハーブソルトも選べる。


 さらに、ソースをつけることもできる。ケチャップ、チリソース、マスタードソース、極めつけはここでしか食べられないという特性の白いソースがある。どのソースも素晴らしい出来で、この店の人気は今、サラーサ一ともいえるほどになっているのだ。


「へー、ここそんなに人気になってたのね。」

「おや、食べ物に詳しいフーガさんにしては珍しいですね。」

「いや、ここまで話題になっているとは思わなかったわ。元はどこにでもある揚げ芋なわけだしね。」

「ここの揚げ芋はもう別の料理と思った方が良いですね。私も以前は揚げ芋は料理という程のものではないと、勝手ながらに思っていました。しかし、ここのものはレストランに出てきてもおかしくありません。」

「シャイアスがそういうなら、よっぽどなんでしょうね。たしかに、元々の腕も良かったから、おすすめしてみたんだけど、こんなに成功しているなら嬉しい限りだわ。」

「おすすめしたというのは・・・どういう意味でしょうか?」


 シャイアスの疑問は大きな声によって遮られることになる。


「あー!フーガさんも来ていたんですね。どうぞ、どうぞ!お先に用意しますので、こっちに回ってください。」

「あら、モイちゃんこんにちは。すっごい繁盛してるのね。私、驚いちゃったわ。」

「そうなんですよ!前回フーガさんが来てから、話題になってきたみたいで爆発的にお客さんが増えちゃいまして。あ、でもフーガさんはいつでもVIP扱いで優先しますので、いつでもお店に来てくださいね。」

「りょーかい。また寄らせてもらうわね。じゃあ、せっかくだから、みんなで食べましょ。」


 揚げ芋屋の娘であるモイと親しげな風雅。その様子に残りの3人はついていけてはいない。


「フーガさん、この揚げ芋屋さんと仲が良いんですね。お知り合いなんですか?」

「お知り合いなんてもんじゃありませんよ!フーガさんは大恩人です!」


 モイのテンションに押し負けるミア。ずずいっと前に出てきたモイに少々びびっているミアではあったが、質問を続けた。


「あの、フーガさんは何をしたんですか?」

「あ、答えちゃっても大丈夫ですかね、フーガさん?」

「いいわよ。その子達、私のパーティーメンバーだし。」

「おお、そうなんですね。これからはこちらのみなさんもVIPとさせていただきます。質問の答えとしましては、この揚げ芋のアイデアはフーガさんが出してくれたものなんですよ。」

「この揚げ芋のアイデア全部か?」

「はい!おかげで我が家の家系はホクホクですねー。」

「芋だけにってか。」

「おぉ、フーガさんうまいですね。」

「いや、うまくはないだろ・・・」


 風雅たちのやり取りに呆れるガリューではあったが、スルー出来ないこともあって、もう少し突っ込む。


「いや、このアイデアがあったら、お前で店やったらもっと儲かったんじゃないか?」

「私も同感です。このソース一つでも凄い価値がありますよ。」


 シャイアスも同意見のようだが、当の風雅はどこ吹く風であった。


「そんなの面倒じゃん。私は自分の好みのポテトが食えればそれで良いのよ。だから、わざわざ一番腕があって、こだわってポテト作っている店を探したの。そこに、私のアイデアを実現してもらっただけよ。」


 要するに、風雅はただ地球で食べていたようなフライドポテトが食べたかったのだ。しかも、気軽にいつでも食べられるようにしたい。そこで、自分のアイデアを真剣に聞いてくれて、尚且つうまいポテトを揚げられる店を探し歩いたのだ。


「ほら、あれよ。ラガーのときと同じことよ。専門家に作ってもらえたら、それを買うだけで済むでしょ。」

「お前は欲がないなぁ。」

「食欲なら一杯あるわよ!」

「それは・・・たしかにそうかもしれませんね。お酒の欲も強いです。」

「いやん、そんなに褒めたらだめよ、ミア。」

「たぶん、褒めてはないと思うけどな。」


 そんなことを話ながら、モイに連れられてお店の裏へ回ると、そこにも風雅の知り合いが待っていた。


「おや、フーガちゃんじゃない。」

「お、おかみさんも来てたんだ。」


 そこにいたのは先程も話に出たラガーを扱う酒蔵の奥さんであった。


「そうなのよ。うちのラガーもおかげですっかり有名になったから、この催しでも販売できることになってね。私はこの揚げ芋屋につきっきりなの。」

「たしかに、この芋にはラガーが欲しくなるわねー。よーし、みんな、飲むわよー!」

「いや、飲まねえし、飲ませねぇよ。この後、仕事だっつうの。」

「はぁ?ここで飲まないでいつ飲むの?飲むわよ、私は。」

「いえ、さすがに今回はだめです。仕事には責任が伴います。」

「そんな・・・あの素直なシャイアスまでもが私の敵になるの?」

「敵ってことじゃないと思いますけど・・・ちなみに私も反対です。」

「いやよ!」

「いやじゃねえよ。」

「いーやーよー!!」

「諦めろ。」

「いぃぃーやあああぁぁぁー!!!!みんながいじめるー!!!」


 駄々をこねる風雅ではあったが、ここは全員の総意で、絶対に飲ませないということになり、風雅は泣きながら揚げ芋を食べることになるのであった。

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