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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第二章 冒険者はじめました!
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第二十四話 風雅叫ぶ!

 ビッグバットを逃がしてしまってから、しばらく進んでいくと少し広い空間が見つかった。そこの天井を見るとさっき取り逃がしたやつらかは不明ではあるが、ビッグバット達が大量に潜んでいるのが確認できる。


 先程の小さい空間に比べると、今回の空間は入り口が広かったため、持っていた明かりの光が遠くへと届いていた。そのため、探索が苦手なマジシャン・カルテットの四人にも今回は発見ができたというわけだ。


「よーし、今度こそやるわよ。みんな、さっきの汚名を返上するわよ。」

「まぁ、汚名を受けたのはお前だけなんだけどな。」


ひゅん!


 風雅渾身の両手チョップではあったが、洞窟内の張りつめたガリューにはさすがに当たる事は無かった。


「なんで避ける?」

「むしろ、なぜ仕掛けてくる?」

「あんたが、私の逆鱗に触れたからでしょ。」

「それで、結局どうしますの?いきますの?いきませんの?」


 漫才を眺めていたみんなではあるが、あんまり騒ぐともちろんターゲットのビッグバットが逃げてしまうのだ。


「勿論いくわよ!おらー、みんな続けー!」


 そうして、勢いよく部屋に飛び込んだ風雅ではあったが、入った瞬間に違和感を感じた。どう説明するのが正しいのかはわからないが、圧倒的な嫌な予感。言ってしまえばそれは風雅の危機管理能力が発した警告、第六感のようなものである。


 まぁ、感じ取れたとして、対処できるかは別問題なのだが。


「ぎゃー!!!」


 突然やってきたのは足を伝って登ってくる無数の小動物の気配。そしてあっという間に飲み込まれそうになった・・・というか、ほぼ飲み込まれた。


「うぎゃー!!!!!」


 そして、次の瞬間。荒れ狂う暴風が風雅を飲み込んだ小動物を四散させる。特に、身体に登っていたくらい近かった個体は細切れになるほどに吹き飛んだ。


 そして、当然のように風雅を除くマジシャン・カルテットの三人も吹き飛び、ホワイトローズの四人も吹っ飛んだ。


---


「一応、無事でよかった、とは言っておきますわ。で・す・が、その後の行動はあり得ませんわ!」

「悪かったわよ。こっちも必死だったの。そこはわかって、お願い、てへ!」


 風雅は可愛らしい笑顔で謝ってみた。


「おう、気持ち悪いぞ。はったおしてやろうか。」

「いや、悪かったわ。それはわかってるの。でもさ、しょうがないじゃない。生理的に耐えられなかったの。」


 どうやら効果はないようだ。


 風雅の魔法暴走から時間にすると1時間程経っていた。というのも、吹っ飛んだ全員が結構な勢いで壁に叩きつけられてしまい、万全に治療しないといけない程の怪我を負ってしまったのである。


 要するに、風雅のお茶目な謝罪で許されるような状態では無かったのだ。


「まあまあ、今回は仕方ないとしましょうや。実のところ、ある程度はこうなるってわかっていて行かせましたので、私達ホワイトローズの責任でもあります。」

「それはいったいどういうことでしょう?」


 トッドの告白にシャイアスをはじめとしたマジシャン・カルテットの面々はハテナ顔になった。


「今回のもう一つのターゲットを覚えてますかね?それがフーガさんの群がった魔物ポイズンラットです。」

「ああ、そういえば、そうでしたね。」

「実は、ビッグバットがここへ逃げ込んで待ち伏せしていることから、私達はここにポイズンラットもいるんだろうなー、とわかっていたんですよ。」

「そこんところ、もうちょい詳しく教えなさい。」


 ポイズンラット、名前から察するといかにも毒で攻撃してくるネズミを想像するだろうが、その正体は毒を持っただけのネズミである。それがなんの強さになるのか、と疑問に思うかもしれない。


 しかし、弱い生き物であるネズミに取って、食べられるリスクがなくなるということが最大の武器になるのだ。


 ネズミ算式という言葉があるとおり、ほおっておけばネズミは再現なく増える。そして、食べられないなら数はなかなか減ることがない。野生では殺される意味がないのなら殺されないのだ。


 そして、奴らは数によって獲物をしとめる。一斉に飛びかかり、その数によって相手を封殺するというわけだ。


「しかし、それだけでしたら、ここにポイズンラットがいるとは限らないのではないでしょうか?」


 シャイアスが至極まっとうな質問をする。しかし、これに応えたのはトッドではなく風雅であった。


「共生しているのね。だから、ポイズンラットは脅威になる。そういうことね。」

「御明察です。いやー、フーガさんは頭が回りますね。」

「いや、それならいきなりあんな魔法使わないだろ。」

「しつこいわね。いや、うん、悪かったわ。もう、でもこれでおしまいにして。」

「そうだな。ちゃんと反省したみたいだし、ここまでにしよう。」

「それで話を戻すんだけどさ。要するに、ポイズンラットは他の生き物を囮にして狩りをする習性があるのね?」

「そういうことですわ。ですから、わたくしたちは最初から怪しいと感じておりましたの。レンは絶対に気が付いていましたわね?」

「あ、はい。ですが、お嬢様から知らせるなと言われていたものですから。」

「言いつけを守れてえらいですわ。」

「ちっとも偉くないわ!おかげでこっちはトラウマものよ!」

「あぁー、すみません!すみません!」


 風雅に頭をぐりぐりとげんこつで責められながら、謝るレンの姿はどことなくおかしくて、みんなに笑顔が戻ってきたのであった。


---


 その後はホワイトローズがビッグバットとポイズンラットの駆除方法を実演してくれた。


 まずは、音波爆弾と呼ばれる衝撃波を生み出す魔道具を使い、部屋の中の魔物を全て気絶させる。その後、一カ所に集めて、遅効性の毒物を降りかければ、駆除は完了とのことだった。


「あれだけでいいの?根こそぎ倒さなくていいわけ?」

「それもなかなか難しいのですわ。なにせ、どのくらいの群れなのかもわかりませんし。」

「ああやっておくと、ポイズンラットは結果的に根こそぎ駆除できるんですよ。ポイズンラットの遺体はポイズンラットしか食べませんからね。」


 つまり、気絶したポイズンラットが目覚めて住処へと帰る。そこで、毒の効果でやっと死亡する。ポイズンラットの毒を無効化できる他のポイズンラットはその遺体を食べてしまう。そうすると遅効性の毒が次の個体へ移り、またその個体が遺体になって毒を連鎖させる。そうやって、ポイズンラットは駆除するのが一般的なのだそうだ。


「俺達にはこういう知識も全然ないな。」

「全部力押しでしたもんね。」


 ガリューとミアはやれやれといった感じであったが、その原因となった女はケラケラ笑っているだけだった。


「正直なところでいいなら、それでなんとかなっていたのが逆にこっちとしては驚きですけどね。」

「不死の魔物も強引に退治したくらいですからね。」


 その言葉に今まで笑っていたシルヴィーの顔が凍る。


「今、なんておっしゃいました?」


 シャイアスへ詰め寄るシルヴィー。


「ええとですね。草原で不死化した狼の魔物を退治しました。」

「な!なんて危険なことを!信じられませんわ!!」


 シルヴィーが珍しいほどに取り乱す。


「そ、そんなにまずいことだったの?」


 さすがの風雅もちょっとたじたじになっていた。しかし、ホワイトローズの他の三人も、「え?こいつら正気なの?」という顔である。


「あり得ませんわ!素人が手を出したらどのようなことになるかわかっていますの?」

「いや、そうしないと、うちにいるゴブリンのギルがやばい状態だったのよ。」

「・・・そうなんですの?」


 ジト目になるシルヴィーではあったが、ミアとシャイアスがうんうんと頷くのを見て、一応ではあるが溜飲を下げた。


「そうだとしても迂闊であることは変わりありません。わたくしが注意したいところの二つ目はこういうところですわ。あなたたちは実力も発想力もあるがゆえに、危険を理解してなさ過ぎますわ。そもそも、パーティーに感知能力を持っている人がいないなんて論外です。」


 たしかに感知能力さえあれば、今回のビッグバットやポイズンラットに襲われたり、後手に回ることはなかっただろう。不死の狼のときも、もっと早く危険を認識できたかもしれない。


 しかし、そう言われてもマジシャン・カルテットには困った話だ。


「でも、私たち四人とも魔法使いよん?」

「ですから、『他のパーティーと組んで仕事しなさい』と言っているのですわ。」

「おぉ、なるほどね。」


 そう、要するに今日の大まかな話はそれだけなのだ。


 常識も知識もない。それどころか危険を察知することもできない。それは魔法使いが四人だからである。


 だったら、それを補えるパーティーと冒険をするようにしないといけない。そう、今日もホワイトローズのおかげで随分と助けられた。それを常にやればいいのだ。


「そうか、それもそうだな。」

「今までは安全なことしかしてませんでしたが、今後を考えると今から人脈は作っておくべきでした。」

「じゃあ、帰ったら一緒に冒険行ってくれそうな人たちを探さないといけませんね。」

「うーん、まぁ、でも問題はそう簡単じゃなくない?」


 喜ぶメンバーを余所に風雅は冷静であった。


「私たちって正直、組んでもらう程の魅力ってないわよね?」

「でしょうね。少なくとも今のままならなんの魅力もありません。」


 トッドは冷静に言葉を返す。


「攻撃力だけでしたら、みなさんはFどころかDランクでも勝てないかもしれませんが、それ以外はなにもありません。ぶっちゃけていいなら、ただの自動で動く砲台ってところでしょう。」

「返す言葉も無いわね。」

「ただ、それを活かさないといけない程の相手に挑むFランクやEランクの冒険者はまずいませんね。それくらいでしたら、今日のように堅実に狩れて金になり、感謝をされる魔物を退治した方がずっとましです。」

「私でもそう思うわ。実際、私たちも危険は少なくて済むように心がけていたし。」

「ですから、あなたたちに今日の冒険を体験させてあげたのですわ。あなたたちは実力はあります。しかし、他のどれもこれもなにひとつありません。これでは、いずれ大きな失敗をしてしまいますわ。それが、取り返しのつくことでしたら問題ありません。しかし、誰かを失ってしまってはもう取り返しがつきませんわ。」


 四人は真剣にうんうんと頷く。これが、酒場でただ聞いていた話なら、いやいやと笑い飛ばしていたかもしれない。しかし、わざわざ休日にまじめなシルヴィーが手間をかけて体験させてくれたのだ。それを笑い飛ばすほどの胆力は四人にはなかった。


「それでここからがまじめな話なのですけど、あなたたちには選択肢が二つありますわ。」

「一つは私でもわかります。感知系の能力を手に入れることですね。」

「それが出来るなら苦労はないような気もするがな。」


 ガリューはやれやれと手を降った。それはそうである。魔法使いで感知が出来るならそれはそれでいいのだろう。しかし、ただでさえ感覚の強化が難しい魔法使いでそんなことが出来るようになるにはいつのことかわからないのである。


「だとしたら、もう一個の方ね。一体どういうのなの?」

「『完全魔法』を覚えるのですわ。」


 完全魔法、風雅は引っかかっていた。どこかで聞いたことがあるような気がする。なんかカッコいい響きだが、どうにもイライラもこみあげてくる。


「ドクターの魔法論だな。」

「あっ!そうね、あいつが言っていたんだわ。えっ、それって有名なの?」


 そういうと風雅に全員の視線が集まった。


「有名というなら間違いなく有名ですよ。」

「『完全魔法とは最も効率的に発動させた魔法の完成系』とか言ってたけど、それってそんなに重要なの?」

「フーガさんくらいの頭があるなら、気が付きますわ。完全魔法の優位性とは何かをもう少し考えてみればわかります。」


 そういわれた風雅はマジシャン・カルテットの三人を見回す。しかし、残りの三人もどうやらそこまでは知らないようだった。


「一般的にはドクターの魔法論っていえば、最も効率の良い魔法を誰でも使えるようにってやつですよね?」

「はい、その基準を明確にしたもので、練習法なども確立していると聞いています。」

「重要なのは基本となる魔法を誰でも同じように使えることですわ。」


 そこで風雅は閃いた。そうか、誰でも最も効率の良い魔法を使える。つまり、誰が使っても同じ魔法が発動するんだと。つまりは、それが魔法の基礎に『なっていった』のだ。


「なるほど、なんでこのタイミングで冒険に誘ってくれたのかやっと理解したわ。」

「お役にたてて何よりですわ。」


 こうして、風雅にトラウマを与え、四人が未熟さを理解する冒険はとりあえず終わりを迎えたのであった。

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