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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第一章 死んでしまって、異世界へ
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第一話 死んでしまって、異世界へ

 立花風雅たちばなふうがは戸惑っていた。


 それもそのはず。先程まで飛行機の中で眠っていたはずなのに、起きたら突然ギリシャとかにありそうな神殿の中にいたのだ。何を言っているのかわからねーと思うが、風雅も何をされたのかわからなかった。


「なんてお決まりのボケを考えている場合じゃないか。」


 どうやって運ばれたのかはわからないが、普通ではないだろう。なにせ風雅がいたのは飛行機の中なのだから。座っていた椅子から、とりあえず立ち上がろうかと思ったところで大きな声が響き渡った。


「あぁ!立花風雅死んでしまうとはなにごとなの!」


 知らんがな、風雅は心の底からそう思った。


 声が響き渡ったあと、しばらくノーリアクションを通していた風雅だが、その前に慌てたようすで一人の女性が現れた。本当にいきなり現れた様に風雅には見えた。


「あー、こほん。ごめんなさい。ちょっとふざけすぎました。」

「うん、とりあえず腹立ったから一発いい?」

「何の一発?あ、ちょっとまって、拳振り上げてこっちに近づかないで、わかったわ。お姉さんが悪かったわね。死んだ人間を前に不謹慎だったわ。だからちょっと待って、ほら待ちましょう。ね、悪いようにはしないから。」


 残念ながら静止の声は届かず、風雅はお姉さんの前まで来ていた。


「一つだけ確認。」

「はい!何でしょうか!!」

「私はほんとに死んだの?」

「はい!その通りです、マム!!」


ズビャシ!!!


 お姉さんの頭にチョップが突き刺さった。


---


「あー、悪かったわよ。でもさ、こっちだって人が死んだっていうのに冗談で返されたのよ。腹も立つ出しょ。もう、いつまで泣いてんのよ。話が進まないでしょ。」


 あれから20分ほど経過していた。お姉さんはチョップのショックで泣き崩れ、まともな会話が成立していないまま、もうこれだけの時間が経過していたのだ。


「じゃって、じゃって、わたひ、ちょっぷにゃんてしゃれたことないのに。かみしゃまなのに。」

「わかった、わかったって、あなたは神様で、私は死んじゃったのね。そこだけはわかったわよ。私はそっから先の話がしたいわけ。」

「うぐっ、ひっぐ。」

「あー、めんどくせー。帰っちゃだめかしら。」


 そういうとはじめて女神さまは反応を見せた。


「だ、だめです!なんのために呼び出したと思っているんですか!」

「しらねーよ!!こっちはそれが聞きたくて待ってんのよ!!!」

「ひいっ!!すみません。すみません。」


---


「やっと落ち着いたわね。」

「はい、私は風の女神。気軽に女神さんって呼んでくださいね。」


 泣き止んだ女神が落ち着きと風格を取り戻すのに、さらに10分ほどかかりはしたものの、やっと話が進みそうだった。


「そんで、その女神さんは何しに来たわけ?」

「えっとですね、すごく簡潔にいうならあなたをスカウトに来ました。」

「どういうことよ?」

「まず風雅さんは乗っていた飛行機での事故にあい亡くなりました。24歳の短い生涯です。」


 改めて確認したが、風雅は飛行機事故で亡くなった、それは事実らしい。風雅自身もこの奇妙な空間と、自分の身体の妙な感覚もあり、それを納得した。


「それにしても飛行機で事故にあうとは思ってなかったわ。」

「はい、非常に残念ですよね。それについては本当にお悔やみ申し上げます。」


 うん、その前に某有名RPG風に私の死をいじっていたよね?と思ったが、ここでつっこみを入れると話がまた進まねーんだろうなと察した風雅は空気を読んでおいた。


「それで、スカウトっていうのは結局どういうこと?」

「はい、あなたには素晴らしい才能があるので、是非とも別の世界に来てほしいんです。」

「これってよくラノベにある異世界転生ってやつ?」

「いえ、そのままの姿で行ってもらうことになりますので、異世界転移の方が正しいですね。」

「あっそう。」


 風雅は少し考えた。まず、この話に裏はないだろうか。不信なところはあるっちゃある。まず、風雅が選ばれた理由。才能とはなんなのかの説明がない。さらにいうと断った場合にどうなるのかもわからない。さらにいうなら、飛ばされた異世界での生活がどういうものかもわからなければ、そもそもどんな異世界なのかもいわれない。


 結論、こいつはやべぇにおいがプンプンするぜ。


「いくつか質問してもいいかしら?」

「どうぞー。」

「まず、私にある才能ってなに?」

「私の加護が受けられまーす。」


 女神さんは満面の笑みで答えた。ジョークではないらしい。


「えっと、それはどういう風に凄い事なわけ?」

「神様の加護が貰えるなんて凄い事でしょう。」

「あのね、それなら私じゃなくても良くないかっていってんの。」

「あ、そういうことですね。加護は波長の合う方にしか与えられませんので、それが才能ってことです。」

「なるほど、それでなんのメリットがあるのよ?」

「風の魔法が使いやすくなります!!」


 ドドーン!みたいな効果音でもなりそうなくらい胸をはり、自信満々に答えてくれたのはありがたいが、正直、魔法がわからないし、使いやすくなるっていわれてもさっぱりだ。


 ここまできて、風雅はやっと悟った。


(この女神はあほなんだわ。)


 説明されてないことが多すぎて裏があるのかと思った。違う、この女神はあほだから説明しなきゃいけないことがわからないだけだ。そうか、それならまずはじっくりと話し合いだ、風雅は聞きたい事を聞いていこうと決めた。


---


質問1「私が行く世界ってそもそもどういう感じなの?」

「剣と魔法の世界です!そのかわりですが、もちろん魔物がいます。」


質問2「魔法ってなに?」

「私たち神が人間に貸す力のことです。私からは風の魔法を貸し出せます。」


質問3「加護があると魔法がどうかわるの?」

「神が願いを聞き取りやすくなります。魔法は神から力を借りるものですから、その方が断然楽です。魔力の消費も少ないし、制御もしやすいし、強い魔法も早く貸し出せる(習得できる)ようになります。」


質問4「この誘いを断るとどうなるのか?」

「私が困ります!」


ズビャシ!!!


---


20分後


「新しい命に生まれ変わることになります。デメリットはありません。」


質問5「そもそも、なんであんたが困るのよ?」

「あ、あんた呼ばわりは流石に私、傷つくんですけど・・・えっ話を進めろって?もう待ちくたびれた?あ、もうチョップはやめてください。やめてくださいっ!!!イエス!マム!!私が失敗したことがばれてしまうからであります!!」

「ほう、そこをもう少し詳しく。」


 急にしどろもどろになる女神。なるほど、私にその異世界とやらでなにか尻拭いをさせたいことがあるってわけね。風雅はそう判断していた。していたが、女神からの答えはその斜め上にあった。


「実は・・・風雅さんが亡くなったのは不幸な事故なんです。」

「うん、それはさっきも聞いたけど?」

「いえ、ですから・・・あのですね。落ち着いて聞いてください。」

「うん、私は落ち着いて聞いてるけど、むしろあなたに落ち着きがないように見えるわよ。」

「つまりですね・・・風雅さんは本当なら亡くならないはずの方だったっていうか・・・それを私がうっかりしちゃったていうか・・・」

「あぁ!そっち!!」

「はい、そっちです。」

「なーんだ、私てっきり異世界であなたの尻拭いをさせられるものかと思ったわ。」

「いえいえ、異世界は出来るだけ楽しんでもらえればと思って必死に選ばせてもらいました。」

「そうよね。私そういうラノベ大好きだし、そういうRPGも大好きだし、実はちょっとわくわくもしていたのよ。」

「そうですよね!いやー、どういう世界が気に入ってもらえるかと悩んだんですよ。たまたま私の加護が受けられる方で良かったです。そうじゃないなら、他の女神に頭を下げに行くところでした。」

「そうかそうか、その前に頭を下げないといけない人がいるよね?」


ガシッ!!


「あ、あの、なんで頭をつかむんですか?あっ!やめてください!!あああああ!!!痛い!痛い!痛い!ギブッ!!!ギブアップです!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!やめてくださああああぁぁぁいぃぃ!!」


 それは見事なアイアンクローだった。もちろん、こんな仕打ちを受けたことのない女神は頭を押さえて暴れまわったが、風雅は死にもの狂いで離さないように抵抗した。人生の全てをかけたアイアンクローなのだ。そんな簡単に外せるものではない。


「おい、お前。私がここまでつっこんで聞かなかったら、ごまかすつもりだったろ。何がスカウトじゃ。はったおすぞ。」

「すみません!!!すみません!!申し訳ありませんでした!!!」


ギシギシギシ・・・・・・・


「あー、そんな仕打ちを受けていたのに、私が死んだのをなにごとなの!とかほざいてたんだ。思い出したら血管きれそうだわ。」

「すみません!!許して!!和ませようとしたちょっとしたジョーク!!!ジョークだったんです!痛い痛い痛い!!頭が割れちゃう!!割れちゃいますって!!」


 風雅は賢い女性だったので、話が進まなくなりそうなのが面倒だと判断し、この辺で許してやることにした。


「私はあんたの不手際で死んじゃった。そういうことでいいのね?」

「ひゃい!その通りです!!」

「それでなんかわからんけど、私はそのまま死後の世界にいくとあんたには不都合があったわけね。」

「はい、大神にとんでもなく叱られると思います。寿命に合わない魂はチェック対象なので・・・」

「異世界にいったらそれは解決するんだ。」

「異世界にいった時点で新しい運命が上書きされるので、ばれることはほぼないはずです。」


 この時点で風雅が抱いていた疑問はほぼ解決していた。つまり、ここで新しい人生を貰えるのはただのラッキーであり、地球での人生をだめにされたお詫びのようなものだということだ。さらに自分好みを世界を選んでくれた上に、一つ能力をくれる。悪くない条件に思えてくる。


 しかし、風雅はそれだけで満足するような女ではないのだ。


「わかった。それじゃあ、異世界行きは了承します。」

「ほ、ほんとですか?やったー!!」

「ただし、条件を追加させてもらいます。」

「・・・私が出来ることの範囲でお願いします。」


 女神はとても困った顔をしていたが、風雅はあえて無視した。


「ひとつ、読み書きを含めて言語に対する補助が欲しいわ。」

「それは元々補助する予定だったので大丈夫ですね。」

「ひとつ、移動や買い物が便利な田舎過ぎない所、なおかつある程度魔物が大人しい地域で、王族とか貴族みたいな人が独裁的に統治はしていない街に送って欲しいんだけど、出来る?」

「随分と具体的ですね。それくらいなら出来ると思います。でも、なんでそんな条件を?」

「あんたは配慮が足りない神みたいだから、これくらい条件を付けておかないと、とんでもないことになりそうだからよ。最初の街はどうやっても長居することになるわ。そこが商業的に不便だと生活が困るし、移動が不便だと次の街に行きたくなったときに困る。異世界にいっても魔物にすぐに殺されるのは嫌だから最初は安全な地域の方が良いに決まっている。人間的なトラブルもごめんだわ。誰か一人だけ威張っているような街へいくのは嫌でしょ。」

「ほへー、凄い頭が回りますねぇ。」


 女神は本当に感心していた。逆に風雅は頭を抱えていた。この女神は本当に大丈夫じゃねーなと。


「後は、住む家が欲しいんだけど可能?」

「ちょっと待ってくださいね。条件に合う街を検索中です。・・・あ、はい、この商業都市ならいけそうですね。」

「気候条件が極寒とか雨期がずっと続くとかないでしょうね?」

「だ、大丈夫です。日本に近い四季がある住みやすい土地です。」


 絶対にそこまで考えてなかったなこいつ、と思ったが、もうそろそろ諦めの境地に達していた風雅は深く気にしなかった。


「それで家は?」

「えっと、死亡した人が持ち主の家が残っているのを見つけましたので、そこの所有権をあなたに渡します。」

「オッケー。じゃあ、後はひとつね。」

「ま、まだあったんですか。」

「当然でしょ。1年分くらいでいいから生活費ちょうだい。」

「あ、確かにいきなり生活始めるとなったら先立つものが要りますね。えっとお金か。どうしようかな・・・小銭でも良いですか?」

「別にそりゃ構わないけど。」

「じゃあ、お賽銭がありますので、そちらにいったときに受け取れるようにしておきますね。」


 こんなものかな?風雅は今のところは必要そうなものを注文できたとは思っていた。いたのだが、後になにか思い出すかもしれない。そこでダメもとで最後のお願いをしてみた。


「最後にひとついい?」

「これ以上はあげませんよ。これでも大盤振る舞いなんですから。それにさっき後一つっていいましたよ。」

「いや、もう欲しいものはないんだけどさ。いざとなった時に元の世界の物がどーしても欲しくなったりしたら作り方とかでいいから教えてもらえないかなって思って。」

「それなら私を祭っている教会に来て、欲しいものを日本語で書いて掲げてください。そちらの世界で作っても大丈夫そうなものならレシピを書いて送り返します。」

「ありがと、それでいいわ。」

「それじゃあ、あちらの世界に送りますね。」


 女神の身体が光り出し、風雅の足元に魔法陣が描かれる。


「新しい人生に幸多きことを祈っています。」

「まぁ、それなりに頑張って生きてみるわ。今度は長生きしてやるんだから。」


 風雅の新しい人生が始まる。

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