第十五話 全てが終わって、大宴会
大会は終わり、会場では大宴会が行われていた。発案したのはいうまでもないが風雅である。
「それではここに大会を制し、Fランクへと昇格した未来あるパーティーを祝して・・・乾杯!!」
「かんぱーい!!!」
会場はかなりの熱気に包まれており、特にマジシャン・カルテットの四人はそれぞれ多くの人に囲まれていた。
風雅の噂を知り、一緒に酒を飲もうとする者もいれば、ガリューの噂を聞き、料理を頼む者もいた。ミアの噂を真に受けて、酔いつぶれたふりをする者もいたし、シャイアスの見た目に引かれて集まる女性も多かった。
まぁ、なにはともあれ、マジシャン・カルテットは無事に疑いを晴らすことに成功し、Fランク冒険者となったのであった。
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「じゃあ、正直に答えるわね。女神様よ、風の女神様に聞いたの。聞いたっていうか、教えられたのよ。」
「はっ、何を馬鹿なこと・・・なんだと!」
オーブは全く反応を見せない。つまりは虚偽ではないということになるのだ。
会場のざわつきは一気に最高潮になった。
この理由を勿論風雅は知らなかった。女神との会話はこの20年程おこなわれておらず、それぞれの教会は今、女神に見放されているのではないか、という話にまでなっているということを。そして、女神と話できる存在がこの世界においてどれほどの特別な意味を持つのかなんて全然知らなかったのだ。
以前にガリュー達から各教会の教皇クラスしか女神とは会えないというのを、風雅は教皇クラスならいつでも会えると勘違いしていたのである。なぜなら、風雅はいつでもあえるわけだし。
そこからはとんでもない展開が待っていた。会場ではまずジェイルの名のもとに緘口令が発動された。
「今日、この会場にて知りえたことを他言する者は重罪とする!!」
ぶっちゃけていうと、これは当然の処置であった。そもそも、こんなところで発表していい内容ではないのだ。
その理由はいくつかあるのだが、最大の理由は宗教戦争に利用される、というところにある。
女神と対話した存在、風雅の場合ならば風の教会はなんとしてでも自分たちの教会に取り込みたい存在である。そして、逆にいえば、他の教会はなんとしてでも風雅を風の教会には入れさせたくないということになるのだ。
幸いだったのはこの大会はルーキー戦であり、冒険者の関係者以外には注目度が低かったことだろう。冒険者たちは宗教戦争に興味があるものはほぼおらず、これを言いふらしても得がないこともよくわかっていた。
ただ、この展開を面白くないと思っていた人物がたった一人だけいた。
風雅である。
風雅としては、この爆弾発言の後は、きっとこうなると思っていたのだ。
「そんな言葉信用できるか!ええい、この者達をひっとらえろ!」
「ふっふっふ!ならば見るが良い!この証が目に入らぬかー!!」
と、かっこよく女神の証をばばーんと突き出す。ということがやりたかったのだ。
しかし、現実は非常である。魔族の関係者だと疑ってしまったジェイルは、オーブの反応を見て即座に謝罪。女神と会話を許された人物を無下に扱うなどということはあってはならないのだ。
その落ち込んだ様子を見ていたミアはおろおろとし、シャイアスは不思議がって、ガリューは、
(どうせくっだらないことで悩んでるんだろうなぁ・・・)
とお見通しだった。
その後、しばらくはざわざわしていたものの、徐々に会場は静かさを取り戻していった。そして、落ち着ききったころに、風雅たちの元から離れていたジェイルが戻って来た。
「お待たせいたしました。あなた方の容疑は完全に晴れました。今後困ったことがありましたら、私、ジェイルになんなりとご相談ください。これでもこのサラーサを守護する騎士団の団長をやっておりますので、多少の無茶は聞けると思っております。」
「それはどうもありがとうございます。」
深々と頭を下げて挨拶するジェイルに風雅もきちんとお辞儀を返した。
「ただ、今回の件の特殊な事情もあり、この件は私の上司にあたりますサラーサの管理者にも内密とすることとなりました。従いまして、要件がある場合には直接騎士の詰め所に来ていただかないといけないでしょう。そこはご迷惑をおかけします。」
「大丈夫よ、基本的には頼るつもりはないから。冒険者をやりたくて、わざわざこの大会で飛び級合格を狙ったのよ。そんな権力とかに頼らないわ。」
これについては四人で話し合ったことでもある。女神の声を聴いたという優位性を活かせば冒険者としては楽になるし、なんなら教会に売り込みにいってもいい。でも、そういうのはなしにしようと決めたのだ。
「そうですか。しかし、くれぐれも無理はしないでくださいね。あなたは大きな価値のある人物なのですから。」
「そう?ま、私はなにもしてないから、全然実感ないんだけどね。」
「あなたのような方だから女神はお会いになられたのかもしれませんね。」
「そんなことはないと思うけどね。あ、そうだ、せっかくだからさ、一個だけ頼んでも良い?」
「いや、この流れで結局頼み事をすんのかよ。」
「うっさいわねー。今後に必要なことなのよ。」
ガリューからのつっこみが入ったが、そんなことはどうでもいいのだ。風雅にとってはこれだけはやっておいた方が良いと判断した事があった。
「この魔法の調整をどうにかして世間に公表して。」
「なっ!そ、そんなことをして良いのですか?この会場にいたものはともかくとして、これはあなたたちにとっては大変な優位性になるのですよ?」
「いいのよ。私たちは世界を守る英雄になりたいわけじゃない。ただ、冒険者として楽しく暮らせればいいの。ただね、もしこの技術によって英雄が生まれてくれたなら、その人たちが多くの人を救ってくれるかもしれない。そっちの方が重要よ。そもそも加護がない人にはこれほどの効果はないんだから私たちの優位が変わることもないしね。」
「しかし、女神様から教わった方法を軽々しくお伝えするなど・・・」
「ええい、まどろっこしいわ!この証が目に入らぬかー!!」
そういって、風雅は女神の証をジェイルへと突きつけた。
もちろん、会場は一転してさらなる大騒ぎとなったことは言うまでもない。
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「まさか、あそこで女神の証まで出すとは思わなかったわ。」
「悪かったわよ、あんなに大騒ぎなるなんて思ってなかったから。」
「お前・・・相当に常識が偏ってんな。」
「ま、それはもう認めるしかないわね。これからもうまく手綱を握っといてよ。」
「かぁー、めんどくせぇ。」
大宴会のさなか、風雅とガリューはちょっとした隙を見つけて、人のいないところへと移動していた。ガリューは今後のことを少し話しておきたかった。なにせ、ここからは冒険者ギルドでは良い意味でも悪い意味でも有名になる。
この会場に来たのは冒険者の関係者ばかり、つまり女神の話は知っているものが多くなる。いくら緘口令が発動されても最初から知っているのだから意味は無い。そして、ウワバミの件がある。風雅たちは既に悪い意味では有名だ。
「最悪、このサラーサを離れるっていうのもありだぞ。」
「そこまでしなくていいわよ。なるようにしかならないわ。」
「お気楽だねぇ・・・ま、そのくらいの方がいいんだろうけど。」
「なによ。有名なのは嫌なの?」
「うーん・・・どっちかっていうと嫌かもな。でも、本音いうとお前と知り合ってから毎日が面白いよ。だから、気になるけど、それでもいっかって気もする。」
「だったら、それがなによりよ。」
「そうか?」
「そうよ。」
「じゃあ、そういうことにしておこう。」
二人は笑いあった。なんというか、馬が合う。二人はそんな感じだ。性格も似ていないし、きっかけがなかったら話すことすらなかっただろう。しかし、それでも同じパーティーになった。それが、二人はなにか楽しかったのだ。
「そうだ、今日くらいは一杯くらい付き合いなさいよ。」
そういって風雅はガリューへと酒瓶を突き出した。
「こんなところにも酒を持ってきたのかよ。ま、たまにはいいか。ほんとはよ、師匠によっぽどの時以外はあんまり飲むなって言われてたんだ。」
「それって魔法の師匠?」
「いや、剣の・・・っていうか、騎士のだな。何時如何なる時も戦えるようにあれってな。」
「ふーん、でも禁止じゃなかったんだ。」
「ああ。本当に祝いたいことや本当に悲しみたいことがあるならそのときは我慢するなって言われた。ただ、本当に悔しいことがあったときには絶対に飲むなとも言われたな。普段は禁止にはしなくていいけど、酔わないくらいにしとけって言われてた。」
「なら、今日はOKじゃない。」
そういった風雅は満面の笑みだ。受け取ったガリューも晴れやかだった。
「あぁ、そういうこったな。乾杯。」
「ふふっ、乾杯!」
瓶をうちあう音がカキンと冷たい夜に響き渡った。
「あー、いいないいな。私も一緒に飲みたいなー。」
その声に二人が振り向くとそこにはミアとシャイアスが立っていた。
「すみません、お二人がこっそり抜け出すのが見えたので、ミアさんを誘って追ってきてしまいました。」
「あぁ、すまねぇ。俺がちょっとフーガに今後どうするのか聞いておきたかったんだ。」
「どうするって・・・冒険するんですよね?」
あまりにも素直なミアに二人はおかしさを堪えきれなかった。大笑いする二人を見て、残りの二人も笑い出す。このパーティーはそんな感じでゆるーい絆で結ばれているのだ。
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マジシャン・カルテット(ウワバミ二匹を含む)が闘技場で大宴会をしている。その絶望的な知らせがリーナの元へ舞い込んできたのは彼女が朝食後の紅茶を楽しんでいる時であった。
前の二回は被害が大きかったとはいえ、ギルド内での出来事。文句を言われても問題にはなりにくかった。しかし、今回は公共の施設である闘技場。しかも、闘技場で宴会と慣れば、今までとは規模が違う。
リーナは絶望していた。最悪の場合、自分が捕まることになったとしても、あのフーガとかいう冒険者を殺すしかない、彼女はそこまでの覚悟をして現場へと赴いたのだった。かなりしつこいようではあるが、リーナはおかしくなっていたのである。
そして、闘技場は死屍累々・・・といえばそうなのだが、状況は少し以前とは違うものであった。なぜなら、みんな倒れているように見えるが、苦しんでいる様子はなく、むしろ血色の良い顔ですやすやと眠っていたからだ。
「こ、これは一体どういうことなのでしょうか?」
首を傾げるリーナや他のギルド職員たち。どういうことかを探ろうとするが、周りは眠っている人だらけ。
「リーナ様!起きている男がいますよ。」
「なに!どこよ!」
そこには、すやすやと眠る冒険者たちを後目に一人で会場の片づけをする男がいた。よくよく見れば会場はすでに綺麗になっており、眠っている冒険者も一カ所へ運ばれているようだった。男は最後の片づけとして、使われた食器を集めて洗浄しているところのようだった。
「なにしているのですか、ガリューさん?」
「お、ギルド長じゃねーか。おはようございます。」
「はい、おはようございます。いや、じゃなくてですね。これは一体どういう状況なんですか?」
「全員飲み過ぎで倒れているだけだ。あー、正確にいうなら飲み過ぎた後に飲んだ薬?ま、薬でいいか。薬の効果で眠っているだけだな。」
リーナはますます混乱していた。
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「つまり、ミアさんが酔い覚ましを作れるようになったと。」
「そういうことだな。その副作用らしくて酒を身体の中で浄化している間は眠りが強くなるんだ。俺達で一応試してみたんだよ。害があっても困るしな。」
ガリューは一人でやるのも面倒になっていたので、ギルド職員たちにも会場の片づけを手伝ってもらいながら、リーナに事情を説明していた。
「ということで、これからはあいつらと飲んでも酔いで倒れる奴は出ないとは思う。ただ、かなり起きにくくなっちまうから、そこはギルド職員でカバーしてやってくれ。」
「はっはっは!それくらいでしたらお安い御用です。今までの被害に比べたらそれはもういくらでも任せとけってなもんです。」
「お、おう。それならいいけどよ。」
この解決策のおかげで、風雅たちはギルドでお酒を飲むことを禁止されるという最悪の事態は避ける事ができた。そして、ギルド長から恨まれるということもなくなった。
ただ、ひとつだけ問題だったのは、問題が起きないとわかった風雅はこの日からギルドの食堂を酒を飲む人たち以外には最高に居心地の悪い魔境へと変貌させていってしまう。
とはいえ、それはこのときのガリューには全く関係のない話なのであった。




