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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第一章 死んでしまって、異世界へ
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第十三話 VSホワイトローズ始まる

 三回戦はある意味では風雅の予想通りの展開であり、ある意味では予想外の展開であった。


 風雅の戦略ではマジシャン・カルテットが魔法使いを主軸にしたパーティーだと三試合目くらいでばれる予定であった。なので、それについては予想通りである。そもそも、ばれる前提でパーティー名もマジシャン・カルテットのままで登録したのだ。(別に大会用にパーティー名を偽装しても罰則がない)


 そして、ここからが予想外の展開となった。なにを血迷ったのか相手のチームが戦闘前にこう宣言したのだ。


「はっはっは!お前たちの秘密はわかっているぞ。レッド、そしてグリーンの加護持ちの魔法使いが隠れているな。それがお前たちのパーティーの強さの秘密だ!」


 びしっ!と指をつきつけ、かっこつけているのが向こうのパーティーのリーダーらしき騎士である。ミアはみやぶられたことであわあわしていたが、残りの三人は冷ややかであった。


(なんでそれがわかったことをばらすんだよ。あほなのか?)

(気が付いていないふりをして戦略を作ってこそ気が付いた意味があるのではないでしょうか・・・)

(勝ったな・・・)


「ふっふっふ。驚いて声も出まい。しかも、誰が魔法使いかもわかっているぞ。そこの戦士がレッド、神官がグリーンだろう。どうだ、あっているだろう。」


 まぁ、聡明な方は気が付いているだろうが、ホワイトローズの立ち話を立ち聞きしていたのは、この騎士である。シルヴィーたちが考察して見抜いたことをあたかも自分が見抜いたかのように宣言し、妙に強いと話題になりつつあるマジシャン・カルテットを粉砕する。そうすることでアピールポイントになると考えたのだった。


「あの・・・グリーンは私じゃありませんけど。」


 会場にはかなりのお寒い空気が流れたことはいうまでもない。ここまでの反応からミアが嘘をつくタイプでないことくらいは会場で観戦していた客たちも察していた。その子が違うとはっきりと言ったのだ。こんな恥ずかしいことはなかった。


「そ、そうか。ま、まぁ、だがおおよそあたっているだろう。」

「あ、こ、答えちゃまずかったのかな。」


 ここに来て、やっといっちゃいけないこといったのかもと不安になったミアが振り返って、三人の様子を見た。しかし、三人は落ち着き払っている。 


「そうだな。よくはねえと思うな。ま、どうってこともないとも思うけど。」

「ミアさん、大丈夫です。そのくらいでしたら、問題はありません。」

「あほはどうせ情報があっても活かせないんだから一緒よ。」


 散々な物言いである。しかし、この試合は負けないだろうという自信もあったので問題はないのだ。むしろ、二回戦の相手に魔法使いであることがばれなかったのは僥倖ともいえるくらいだったのだ。


「てめえら、馬鹿にしやがって!Fランクのパーティーがどんなものか思い知りやがれ!」


 そういえば、敵はここからはFランクだったんだと、ここでやっと思い出した風雅であった。


---


「こ、こんな展開を誰が予想できただろうか!マジシャン・カルテットの圧勝だ。」


 結果だけいうとマジシャン・カルテットは20秒ほどで勝利した。開幕に、四人全員で全力の魔法を一人ずつ叩き込んでやったのだ。相手のパーティーは魔法使いが二人だとよんでいた。だから、全員が魔法でいきなり攻撃してくるのに反応が出来なかった。


 ただ、これだけなら普通は対処できる。対処できなかったのは、マジシャン・カルテットの四人は魔法を調整し、威力を爆上げしていたからだ。魔法が着弾したと同時に、三人は失格となった。


 この大会は相手の選手を全員失格にできれば勝利となる。失格となる条件は四つある。一つ、気を失う。二つ、降参する。三つ、審判が戦闘不能と判断する。そして、四つ、身代わり人形くんが発動してしまうである。


 この身代わり人形くんこそが、この大会が安全である理由であった。この闘技場限定、さらにあらかじめ身代わり人形くんへの登録をすることによって、死亡する、あるいは致命的な攻撃を受けた場合には身代わり人形くんの身代わりスキルが発動。大会参加者の命を守るのだ。


 しかし、この身代わり人形くんは使える場所を作るだけでも相当にコストがかかる。しかも、身代わり人形くんを作るのも時間、お金がかなりかかるので、実戦には全く使えたものでなく、このような闘技大会で役に立つのが関の山という微妙な代物なのだ。


 話がそれてしまったが、四人の魔法が直撃した敵は三人までが身代わり人形くんが発動して失格となった。辛うじて、敵のリーダーの騎士は耐えた。騎士だけあって、さすがの防御力ではある。しかし、むしろ耐えない方が幸せであった。風雅たちが放った魔法は初期の初期ともいえるような魔法。いくらでも連発が可能なのだ。一人を失格に出来なかったことに気が付いた風雅たちは、今度は全員で一人を狙った。


 そして、直撃した先で魔法が起こした砂塵が晴れたときには、そこにぶっ倒れた敵のリーダーの変わり果てた姿があった。本来はダメージを肩代わりしてくれる身代わり人形くんではあるが、あまりに巨大なダメージを負った場合には無傷とはいかない場合もある。さらに、そういう場合には別の問題も発生している。ダメージを身代わりしきれなかったということは・・・


「しかも、これはオーバーキルだ!身代わり人形くんが壊れてしまっているぞ。なんということだ。これは大きな借金になってしまうぞ。」


 身代わり人形くんは壊れてしまっていた。身代わり人形くんは先程もいったが、作るのに結構なお金と手間がかかっている。これを破壊するほどのダメージを受けて負けてしまうと、その作成費を取られるのだ。そして、それはもうそこそこのお値段なわけで、FランクやGランクでは当然借金となってしまう。ちなみに、完全に壊れなければ修繕費は大会側でもってくれるので安心である。要は、相手との力量差もわからずに無茶をする、あるいは限界を超えるような無茶をする、といったことを防ぐためのルールなのだ。


「ま、隠さなくていいならこんなもんよね。」


 会場の盛り上がりとは、うってかわって風雅は冷静であった。正直、これくらいは出来るとわかっていた。さらにいうなら、実はここまではほとんど風雅たてた作戦どおりに進んでいたのだ。気になっていたのはたった一つ、魔法を隠さないようになったとき、どこまでその力が通じるのか。しかし、これは一回戦が終わったときに大体わかっていた。自分達の魔法は十分に強いものであると。そして、その作戦の総仕上げであるホワイトローズ戦が迫ってきていた。


---


「さあ、この大会で最大の注目の対戦はこの二組の対決で間違いないだろう!唯一のEランクチーム、当然ながらここまでは楽勝で進んできたぞ、ホワイトローズ。対するは、全く注目されてなかったところから快勝に次ぐ快勝を続けてきたマジシャンのみの異色パーティー、マジシャン・カルテット。観客の期待は最高潮だ!!」


 普通に考えれば、ネタも全部ばれてしまったGランクパーティーがEランクの有名パーティーに勝てるわけはない。だから、緊張しているのはマジシャン・カルテットのはずなのだが、実際には真逆であった。


「お嬢、気が付いてますよね。俺達は今、結構やばい状況です。」

「そうですわね。楽勝だと思っておりましたが、今はそうではないようです。」

「そうです。私たちは神官のお嬢を中心に、騎士、戦士、盗賊というバランス型です。最初、俺達は相手も同じ構成だと思っていた。だからこそ、経験で勝る俺達は圧倒的に優位がありました。でも、そうじゃありません。」

「相手は魔法使いが四人。もちろん、そんなパーティー聞いたことがありませんし、どのような強さを発揮するのかが未知数。そして、一番不気味なのが、この状況でも彼女たちに余裕が感じられることですわ。」

「なにかしらの秘策を用意していると思うべきですね。」

「それともうひとつ気になっていることがありますわ。先程の試合、どうみても彼女たちが使ったのは風の刃や火球などの初歩の魔法に見えました。しかし、威力はあり得ないほど強力でしたわ。そこはどういうことなのでしょうか。」

「加護持ちだからなのか・・・あるいはそれこそが秘策に繋がるのか。なにせ、開幕は先程同様の展開になるでしょう。あれは俺なら四発同時でも止められます。最初の攻撃を受け止めたらお嬢の魔法で強化を受けて、全員で突撃しましょ。なにせ、距離を詰める事が一番です。」

「わかりましたわ。みなさんも、聞いていましたわね?なにせ、油断だけはしないようにいきますわよ。」


 ホワイトローズの面々はマジシャン・カルテットを本当に油断のならない敵として認識し、本気で戦うことを再確認したのであった。


---


「それでは・・・はじめ!!」


 実況の声が響き渡り、試合が始まった。そして、ここから怒涛の展開が幕を開ける。


「ほらよ!」


 まず初手はガリューであった。炎の壁でホワイトローズの四人を閉じ込める。しかし、これにはほとんど意味は無い。


「どうやら、先ほどとは違う戦略でくるようですね。お嬢、今のうちに強化を。」

「わかりましたわ。」


 神官には味方の強化を行う魔法も多い。そこでまずはこの炎の壁がおさまるまでの間に、シルヴィーは魔法耐性と身体能力強化をパーティーメンバー全員に施していった。炎の壁は長時間維持できる魔法では無い。これはあくまでも目くらましの時間稼ぎのようなものだろう。おそらくは、炎の壁の後ろでは他の三人の魔法使いがなにかしらの大きな魔法を準備しているだろうが、それも何発かなら受けられる。幸いにもトッドは防御特化の騎士。最悪、トッドがそれで大ダメージを受けてしまったとしても、神官のシルヴィーならリカバリーも可能である。


 しかし、そうはならなかった。この炎の壁は囮だったのだ。次の攻撃は足元から、地面がうねるように動き、足に絡みつき、岩となって動きを止める。地の魔法『岩石錠』は発動に時間がかかるため、普通に使うとなかなか当てるのが難しい。発動したい場所を決めてから、そこに効果がでるにはタイムラグがあり動かれると当たらない。要するに、炎の壁はホワイトローズが移動しないために使われたのだ。


「なるほど、こうくるのか。お嬢、これは予想よりもやばい攻撃が来るかもしれない。出来るだけ早く破壊して体制を立て直しましょう。」

「わかりましたわ。なんとか解除してみせます。」


 神官はこういった敵からの魔法の解除も得意である。シルヴィーはなんだかんだいって優秀な神官でもあるので、普通に破壊すれば大変な岩石錠も1分も経たずに解除できるだろう。


 しかし、そんな時間を貰えるわけはなかった。炎の壁がおさまり、遮られていた視界の向こうには水の壁が出来ていた。そう、炎もあれば風もある、それならば当然あるのが『水の壁』である。ただ、水の壁はそこまで脅威になるものではない。維持は長時間出来るが、他の壁に比べると突破がたやすいからだ。普通に使えばではあるが。


「おおおぉりゃあああ!!」


 風雅の声が響き渡る。すると、水の壁がぐにぐにと動き始めた。いや、そんなはずはない。水の壁を操作するなんて聞いたことがない。そう思っていたホワイトローズの面々は、その直後にその理由を実感する。動いていたのは水の壁自体ではなかった。風の壁の応用、風の壁を地面低くに発生させるように調整し、水の壁の水を風の中で躍らせたのだ。要するに・・・局所的な台風である。


 舞い上がるような風に体中に打ちつける水。そして、体は地面にロックされて動けないため、上半身が振り回される。さすがに、この波状攻撃にはホワイトローズは後手に回らざるを得なかった。なんとか上半身を寄せ合い、体制を整え、シルヴィーが周りの全部の魔法を解除するのに集中できるように三人でフォローした。Fランクチームであれば、これだけで対処できずに終わっていただろう。しかし、そこはEランクチーム、この状態でもまだ冷静だった。


「10秒後に解除します。そうなったら、全員で突撃しますわ。いいですわね。」

「了解です。向こうはこれでこちらが弱っていると思い込んでいるでしょう。」

「神官がいるパーティーを甘く見ましたわね。」


 そう、実際にホワイトローズはほぼ無傷の状態である。魔法の解除と同時に、風や水によるダメージはあったものの、それはもうシルヴィーが治療済みだったのだ。そして、10秒後、魔法を解除された。岩も水も風も一気にかき消えた。

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