第十二話 特訓しまして、大会スタート
時は流れ、大会当日。四人は対戦の組み合わせのトーナメント表を確認しに来ていた。
「えっと・・・出場したのは全部で60パーティーか。って随分多いわね。」
「この大会は危険が少ないからな。Gランクで今から冒険者になろうって連中は結構出場している。」
「確かに、ランクはGがほとんどですね。」
「あの・・・でも、一つだけEランクもありますよ。」
「あーはいはい、大丈夫よ。それは知ってるから。どーせ、白薔薇でしょ。」
「白薔薇・・・そうです、ホワイトローズですね。あ、お知り合いですか?」
「知ってるっていうか、私たちを潰すためにわざわざ出場を決めた変な奴よ。」
「わたくしのどこが変だっていいますの?あなたたちの方がよっぽど変だと思いますわ。」
突然後ろから声をかけられた四人。声の主はお察しのとおりでシルヴィーであった。今日はちゃんとパーティーメンバーも一緒である。
「あ、あなたは締め切りのことを教えてくれた親切なお姉さん。あのときはありがとうございました。」
「い、いえ、あれはそういう意味ではありませんわ。えっとですね、ああもう!調子が狂いますわ。」
丁寧にお辞儀してお礼をいうミアにシルヴィーもたじたじであった。その隙に風雅が攻勢をしかける。
「あなたたちも大変ね。こんな大会に連れてこられて。お姉さん同情しちゃう。」
風雅はとりあえずシルヴィーを無視して、パーティーメンバーの方へと声をかけた。正直なところ、風雅からするとわざわざ新人を潰す為に本当にパーティーを連れてくるなど恥もいい所である。こっちが犯罪者とかなら理解も出来る。しかし、こっちは酒場で少々騒ぎを起こした程度なのだ。
「わたくしを無視しない!それとわたくしのパーティーはみんなあなたたちの悪行を知っていますので、同情で付いてきてくれているわけではございません。」
「そうなの?」
「ええ。どうせ、断っても出場するというまで出ようと誘われるだけですので。」
「ほらみろ。」
「おだまりなさい!冗談に決まってますわ。」
「ええ、冗談ですよ、お嬢。でも、格下の大会に出る以上は優勝しないと、彼女の言う通りで本当に恥になります。」
「そ、それはわかっていますわ。」
「それならいいんです。それだったら、こんなところで喧嘩をふっかけている場合ですか?」
「そうね。ちゃんと準備しないといけません。フーガさん、それでは大会でお会いしましょう。せっかくでしたら、勝ち上って来てくださいね。とても良い対戦表になっていますので。それでは、ごきげんよう。」
そう言い残して、ホワイトローズの四人は去っていった。最後のシルヴィーの捨て台詞が少し気にはなったので、トーナメント表を確認しなおしてみる。
「どうやら、あの嬢ちゃんとは準々決勝であたっちまうな。つまり、三位に入賞しようと思ったらEランクパーティーに勝たないといけねぇってわけだ。」
「それはまた劇的なところであたっちゃうわね。それでわざわざ声かけにきたのか。」
「しかし、その分序盤は楽ですね。二回戦まではどうやってもGランクしか当たりません。三回戦でもFランクは一つしか当たる可能性があるところにはいません。」
「いや、私たちもGなんだから油断はできないわ。油断せずに一試合ずつ確実にいきましょう。」
「はい、私も精一杯がんばりますね。」
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さて、この大会までの五日間ではあるが、もちろん四人は遊んで過ごしていたわけではない。
まず、仕事を受ける事をやめた。宿代を稼がないといけなかった事情があったため、出来るだけ仕事を探していたわけだが、風雅の家に全員が集まったことにより、その問題は解決。今後はともかくとして、まずはこの大会までの五日間は修行をして過ごそうということになった。
そして、基本的にやったことは三つある。
一つ、基礎魔法の調整修行。風の刃、火球、水弾、石の礫の四つ。簡単にいえば、ただそれぞれの属性の物体を前に飛ばすだけ。これが一番調整が効くのは風雅が実証済みなので、これを必殺の魔法へと昇華させていく。というよりも、これを活かすしか戦術がないのだ。新しい魔法を無詠唱で使えるところまでいくとなると、流石に加護持ちといえど五日間では二つ三つが限界になる。しかも、魔法に詳しいものならば、それがどんな魔法か知っていることになるのだ。それくらいならば、調整魔法という誰も知らない魔法の方が有効だと風雅が判断した。
二つ、フェイク職業の疑似連係。こちらはどうみても、騎士、戦士、盗賊、神官という組み合わせである。最初から魔法使い四人だなどと思われることはない。そもそも、魔法使いが他の魔法使いと組むことも珍しいのだから。しかし、この勘違いされている職業の役割を全く見せないとどうなるだろうか。そう、さすがに相手も警戒してしまうことだろう。そこで、そういったことに詳しいガリューを中心に、フェイク職業での戦い方を勉強し、連係を形にしていった。
三つ、切り札を作る。運が良ければ当たらずに済むかもしれないが、ホワイトローズ対策は絶対にしておくべきだろう。ミアやシャイアスにはやる気がなくなってもいけないので、ホワイトローズのことは隠したが、なにもしないままで大会に出場していいわけではない。そこで、風雅が思いついた切り札を作成してみることになった。
そして、四人はみっちりと修行を積んできたのである。
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「さて、続いての試合はウォーリアーズ対マジシャン・カルテットの対決だ!どちらもランクはG。果たしてどのような試合となるのでしょうか!」
ついに始まった一回戦。相手はどうやら戦士四人で編成されたごりごりの前衛パーティーのようだった。
「ある意味ラッキーなのかしら?」
「たしかにあちらもバランスは良くないですからね。」
前衛四人はたしかに魔法使い四人よりはましなパーティーかもしれない。しかし、バランスの悪さはどっこいどっこいだろう。
「まぁ、どうやっても連係の幅は減る。こっちとしてはやりやすいさ。」
「そうね。それじゃあ、とりあえずは作戦通りにやりましょ。」
最前列にシャイアス、その後ろに風雅、ミアを護衛するようにガリューが残る。対して、敵は四人が横並びで突っ込んでくる気、満々のようだ。
「それでは・・・はじめ!!」
実況の方がかけた合図と同じに相手四人が突っ込んでくる。それに対してこちらもシャイアスが突っ込んでいった。しかし、敵はシャイアスには目もくれず横をすり抜けていった。
「はっ!馬鹿じゃねーのか。そんな重い鎧をつけて、この大会に出るなんてよ。」
「しかも、武器も持ってないって何しに来たんだよ。お前は最後だ。味方がやられるのをそこで見てな!」
シャイアスは追いかけようにも重い鎧があだとなり、動きの速い戦士四人に追いつけそうにはなかった。そう、作戦通りに敵はミアへと誘導された。
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「敵が前衛主体の場合はシャイアスは相手にされないわ。たぶん無視される。」
「それはどうしてですか?」
「Gランクの前衛職でそのフルプレートメイルを破るのは困難だからよ。相手はあなたとは最後に人数差を使って抑え込もうとするはずよ。」
「なるほど、審判に戦闘不能と判断されれば無傷でも失格ですからね。」
「倒せなくても動けなくされたら終わりか。たしかにそっちの方があり得そうだな。」
「だからあえてそこに罠を張るわ。いい、ミアへはおそらく三人突っ込んでくるはずよ。一人は私を足止めに来る。そこで・・・」
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「神官を守ってどこまでやれるかな!」
「悪いな、一対三だぜ!」
「もらったああ!!」
三人がミアへと突っ込んでくる。たしかに、Gランクの神官は援護こそすれ、戦闘力はほぼ皆無なのが一般的である。一般的に見ればガリューは圧倒的に不利な状況に見えた。
「ほらよ。」
腕を薙ぎ払ったガリュー。そこには炎の壁が作られており、三人はもろに炎へと突っ込んだ。魔法使いがいるとわかっていたのであれば、このような突進はあり得なかっただろう。しかし、ガリューは魔法使いには見えないのだ。
「あっち!!あっちいい!!」
「ぐおおおお!!」
「なんだよこれ!!!」
身体を焼かれ、もだえ苦しむ三人。そして、その背中に強い衝撃を受けて、三人は倒れ込んだ。三人の背中には大きな石がぶつけられていたのだ。シャイアスが放った石の礫である。
三人はもろに礫を食らい動けないほどのダメージを受けていた。見た目こそ普通ではあるが、速度強化に密度強化された石の礫は普通のものとは比べものにならない。しかし、外から見ればシャイアスが強引に石を投擲して三人を仕留めた様に見えたことだろう。なにせ、シャイアスは魔法使いに見えないのだ。
「おっと、武器を持っていない騎士は完全におとりだ!!最初から炎を出す道具を仕込んで足止めからの挟撃を狙っていたようだぞ!!」
実況の人も見事に勘違いしている。そういえば、この大会は道具の使用に制限はなかったのだ。当然、ガリューが加護持ちのレッドマジシャンと思われるよりも、炎を生成する魔道具でも持っていたと思われてしかるべきであった。
「さて、これで四対一だけど・・・続ける?」
「・・・まいった。これは無理だな。」
「そ、賢明で助かるわ。」
正直、敵の動きはガリューに比べるとそこまででもなかった。こうしてみるとガリューは剣士としてもそこそこの修行を積んでいるのは間違いない。特訓でその動きに慣れてしまった風雅にとっては一対一なら目の前の剣士を倒せる自信もあった。ただ、そのためには魔法が必須であり、出来るだけ戦略を隠したい風雅にとっては、この降参はかなりありがたい選択となった。
「おっと、決着のようだ!これは戦略をきちんと練った差が出てしまったのか。勝者はマジシャン・カルテット!!」
まずは一回戦を突破した。
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続く二回戦ではあったが、これも楽勝であった。
相手のパーティーは狩人がエースで、残りが狩人への接近を妨げるという編成のパーティーだったのだが、ここでもシャイアスのフルプレートメイルが地味に役に立つ。
ミアの護衛には風雅が残り、敵の前衛三人へはシャイアスとガリューが突っ込んだ。普通であれば、近づく前に攻撃されるのだが、シャイアスの鎧には鎧どおし用の矢ですら、全く傷がつかなかったのだ。さすがは金のかかった装備である。
結局は向こうの前衛は三人とも狩人の護衛をするしかなく、シャイアスとガリューは二人でその相手を務めた。
この戦略、一見するとこちらはガリューが危険に見える。しかし、神官がいるパーティーに見えているため、ガリューが怪我をしたのであれば、風雅と交代して後ろで傷を癒すつもりだ、と勝手に考えてくれていた。
その結果、狩人の狙いをミアに固定させることに成功した。そう、まずはミアを倒さないと相手のパーティーには勝ち目がないのだ。
狩人はガリューを狙いつつ、ミアを狙えるタイミングを探していた。そして、隙を見つけた狩人は必殺の一撃を放つ。狩人は確信した、この射撃は避けられない!と。
しかし、これは風雅の狙い通りであった。見えにくいように調節した風の壁によって守られていたミア。矢はミアには届かずに弾かれ、その様子に驚いているところを風の刃で逆に狙撃された。
狩人を失った相手のパーティーは結局シャイアスを倒すことが不可能を判断し降参したのであった。
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「妙ですわね。いくらなんでもあり得ませんわ。」
「そうですね。俺もそう思います。あれはどう見てもあの編成でたてる戦略じゃあない。そもそも、一つ気になっていることがありますよ。」
絶対に負けられないシルヴィーは一回戦、二回戦とマジシャン・カルテットの試合を、従者でありパーティーメンバーのトッドと共に見ていた。そして、そこに漂う違和感に気が付いていた。
「パーティー名、ですわね。」
「そうです。最初はマジシャンに対する何かしらのアンチテーゼを持ったパーティーなのかと思ってました。しかし、どちらかというのであれば、あれは魔法使いを主軸にした戦い方です。」
「わたくしの予想ではガリューさんはレッドマジシャンでしょうね。」
「一回戦で見せたあれはどう見ても炎の壁でしょうし、それは当たりでしょう。ただ、あの感じを見るともうひとりはいそうですね。」
「狩人を倒した魔法使いがいる、そういうことですわよね?」
「そうです。恐らくはあの神官でしょう。彼女は風の壁を使って矢を防ぎカウンターに出た。そんなところだと思います。」
「別の色のマジシャンが同じパーティーだなんて、さすがは常識外れのフーガさんが作ったパーティーですわね。」
「とはいえ、厄介なことにはかわりませんよ。なにせ、そんなパーティーと戦うことはレアです。さらにいうのであれば・・・」
「二人はあの格好だから加護持ち。油断はできないということですわね。」
「そうです。なんだ、意外と冷静じゃないですか。」
「当然ですわ。絶対に負けるわけにはいかないんですもの。」
マジシャン・カルテットを考察していた二人。そして、その考察を盗み聞いているものがいることに二人は気が付いていた。気が付いてはいたが・・・その正体に気が付き、あえて見逃していた。




