第十一話 ついにそろったマジシャン・カルテット
シャイアスを仲間に入れていいのかどうか。その最大の問題がここで暴露された。
「こいつ、ミアにひとめぼれなんだって。」
「・・・あんだって?」
「だから、ミアが好きになったんだって。昨日楽しそうにお酒を飲んでいる姿に惚れたんだと。」
「・・・頭がおかしいのか?」
「いえ!ミアさんはとても素敵な女性です。私によって来る女性はみんなお酒を飲むと乱れて人に迷惑をかけるようなことも平気でやっていました。しかし、ミアさんは本当に美味しそうにお酒を飲むだけでなんと素敵だったことか。」
あー、色々な女性に言い寄られ過ぎて、ちょっとおかしくはなっているんだな、ガリューはなんとなく察してしまった。そして、風雅の方を見ると、風雅もそれを察してはいるようだ。つまり、シャイアスの問題点とはこれだったのだ。
「わかった。それが本気というなら、俺はパーティーに入ることを許そう。ただし、条件がある。」
「はい、一体どのような条件でしょうか。」
「お前がやられた立場ならわかると思うが、絶対に無理な誘いはするな。」
「了解しました。」
「お前がちゃんとした奴だってわかったら、なんなら俺や風雅で後押ししてやっても良い。だから、まずは焦らずに仲間になることから始めろ。守れるか?」
「わかりました!」
「それともうひとつ、一緒のパーティーにいれば良い所も見えるが、悪い所も見える。もしくはミアが別の奴に惚れることだってあり得る。そういったことがあっても、我慢できるか?」
「それは確かに仕方のないことですね。考えたくはありませんが、それも受け入れます。」
二人は真剣なまなざしを交わし合った。そして、ガリューが風雅に向き直って、笑顔になった。
「いいんじゃねえか。こいつを入れてやっても。節度がないようなことはしないだろ、大丈夫そうだ。」
「そ、ガリューもそう思ってくれたならよかった。私も良い子だとは思ったんだけどね。やっぱり私の判断だけじゃね。」
「よし、それじゃあ、今日からお前も仲間だ。よろしくな、シャイアス。」
「はい!よろしくお願いいたします!」
シャイアスは元気よく深々と頭を下げた。
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その後、受付の準備をしてくれていたミアと合流し、シャイアスを仲間に加えたことを伝えて、受付を完了させた。時間としては本当にギリギリの受付になってしまったが、これでなんとか大会には出場出来る。
そして、この後はどうしようかという話になった。これからシャイアスの実力を見るというアイデアもあるにはあったが、時間が遅すぎる。それなら、いっそ明日にでもゆっくり見せてもらった方が良いだろう。
そこで、パーティーが揃った記念に歓迎会の意味を込めて、懇親会でもやろうということになった。
「パーティーがそろったパーティーね。」
「はい、そういうことですね。」
風雅のダジャレはミアの天然に流されていた。ガリューはつっこみの手間が省けたことを喜び、シャイアスは今からでもいじるべきなのかを悩んでいたが、なにも出来ないままスルーとなった。
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そして四人が集まったのは風雅の家だった。冒険者ギルドでやろうかとも思ったが、二日続けて騒ぎを起こしたこの二人にシャイアスが加わったとなると、ギルド長が横やりを入れてきて台無しになるかもしれない。今日くらいは邪魔されずにということで、風雅の家でパーティーをする流れになったのであった。
「すげえな。商業都市サラーサで家持っているってどんだけだよ。」
「正直、私もびっくりしました。」
「私の実家でもサラーサに家を持ってはいませんね。」
そう、風雅は全然気にしていなかったが、サラーサは商業の中心都市であり、そこで生活したいと望むものはかなり多い。さらに冒険者ギルドの関係で宿も年中いっぱい。かなり宿代も高めに設定されており、新米冒険者たちの一番の悩みは宿代なのだ。
そこで、家を持っているというアドバンテージはとんでもないものであった。女神に無理を言った価値は十分にあったというわけである。
「三人とも宿暮らしだったんだ。あー、それなら三人とも明日からうちに来たら?元々は冒険者やっていた親戚のうちを譲ってもらったから個室も四部屋あるのよ。」
その発言に三人は目を丸くした。それもそのはずである。その三部屋を寝床としてだけ貸し出せば、それだけでも相当な儲けになるのだから。
「あの・・・貸し出せばお金稼げますよ。」
「えー、でも知らない人に家にあがられるの嫌だし。あんたたちなら信用できるしねー。」
「こっちには正直メリットしかないんでいいんだが、ほんとにいいのかよ。」
「うーん、じゃあガリューは料理係、ミアは掃除係、シャイアスは雑用係ってことにしましょう。私は何もしない。どう?」
「どのようなことをするのかわかりませんが、それでも私たちがだいぶ得をしていると感じます。本当によろしいので?」
「いいわよ。というか、元々パーティーが作れたら、みんなで住みたかったから。」
「じゃあ、お言葉に甘えるか。」
「よーし、それでは男子二人は早速パーティーのために買い出しにいってきたまえ。雑用係のシャイアスくんはガリューの荷物持ちだー。」
「かりこまりました。」
「今日は俺が飯代は驕るわ。今後の宿代がただになった思えば安いもんだしな。今後はちょっと相談しよう。」
「おう、よろしく。おいしいの期待してるわよ。さて、ミアと私は掃除だ掃除。今日は一緒にやりましょ。これからも別にミアだけでやる必要もないから。ミアが中心にやってくれたら良いからね。」
「はい、わかりました。精一杯がんばります。」
そうして、四人はパーティーの準備へと取り掛かるのであった。
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その日の夜遅く、掃除も終わり、ガリューの料理の準備も終わり、ちょっと遅めにはなってしまったものの、冒険者パーティーの門出となる懇親会が始まった。
「かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!」」」
テーブルには所せましと豪華な料理が並んでいる。一般家庭で食べられるような庶民的なものから、レストランでないとお目にかかれないような凝った料理まで、それはそれは見事な出来栄えであった。
「ガリュー!今日ほどあなたと同じパーティーで良かったと思ったことはないわ!!」
「褒めてくれてるんだろうけど、それはそれでちょっとへこむわ。」
「いえ、これは本当に素晴らしいものです。実家でお世話になっていたレストランよりも美味しいくらいですよ。」
「た、食べたことのない料理がいっぱいです。」
「おう、ま、これだけは自信がある。これからも任せてくれや。」
三人はそれはそれは食いまくった。ガリューも良く食べる方ではあるが、三人はその勢いを軽く凌駕していった。
そして、当然だが飲んだ。飲んで飲んで、飲まれることはなく、それでも飲んで。女性二人はいつもの如く飲みまくった。そして、意外だったのはシャイアスである。なんと、シャイアスも飲みまくったのだ。
その理由は・・・大体想像の通りである。
「シャイアスさんも一緒に飲みましょうよ。お酒はお嫌いですか?」
「いえ、勿論大好きですとも!」
「よーし、よく言った。そこの碌に付き合わん金髪にも聞かせてやってくれ。」
ミアはお酒が好きなのだ。風雅のように酔っぱらって騒ぐのが好きなのではない。お酒が単純に好きなのだ。自分の好きなものは他人にもすすめたくなるのは心情である。だから、シャイアスは簡単に巻き込まれることになった。ガリューは、骨くらいは拾ってやろうとつまみになりそうな料理のおかわりを作りに行った。
そして、リビングに戻って来たときに異変に気が付いた。異変というのもおかしいが、シャイアスは二人と対等に飲み続けても全然へっちゃらなのだ。いや、もしかしたら顔や態度に出にくいタイプかもしれない。惚れている女性の前で無理してても困る。仕方ないので、ガリューは少し助け船を出してやることにした。
「おい、シャイアス。あんまり、無理すると明日がきつくなるぞ。」
「御心配には及びません。私もお酒は強い方ですので。」
「そうだ、そうだ。シャイアスはお前とは違うんだぞー。」
「はいはい、大丈夫ならいいんだ。」
「実は冒険者ギルドに来てから、お酒をやたらと飲ませようとする女性に絡まれることが多くてですね。お酒に強くならなければどうなっていたことか・・・」
どうやらイケメンにはイケメンの悩みがあるらしい。ガリューは最初イケメンにちょっと嫉妬もしていたが、自分には想像すらもできない悩みの数々に同情し始めていた。やっぱ、普通が一番だな、というのがガリューの結論となった。
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宴もたけなわになったころ、改めて全員自己紹介をしようということになった。特に、新人のシャイアスについては得意なことやどんなことが出来るのかは必須の情報だ。
「ということで、最初はシャイアスからいってみましょー。」
「はい、わかりました。」
そう元気よく返事をすると、シャイアスがみんなの前へと出てきた。
「えっと、もう知っているとは思いますが、私はシャイアス。それなりの大きな商人の家に生まれた四男です。兄たちがみな成人したのをきっかけに冒険者を目指すことになりました。子供の頃から身体は資本だとそれなり鍛えられて育てられたので、冒険者としてもなんとかやっていけると思い、この道を選ばせてもらいました。」
「いえーい、まじめー。はい、みなさんなにか質問はありませんかー?」
「そういうのもいいのか。じゃあ、得意な武器とかはあるのか?見たところ鎧しかもってなかっただろ。」
「あの鎧は父が最後の手向けに送ってくれたものですね。かなり高価なものではありますが、着て動くにはそれなりの筋力が要ります。」
「あの大きさですもんね。」
「それで得意な武器なんですが・・・すみません。私、あまり武器は得意ではなくって使わないんです。」
武器を使わずにどうやって冒険者をやっていくつもりなのだろうか?ミアは気が付いていないようだったが、風雅とガリューは少しいぶかしんだ。
「武器を持たずにどうやって冒険者やっていたのよ?」
「はい、魔法を使って魔物を退治しておりました。」
「「魔法?」」
それは綺麗なハモりであった。二人は冷や汗が止まらなくなった。やべえ予感がする。予感というかここまでくると確信的なのだが、聞かずにはいられない。
「もしかしてとは思うが、お前、魔法使いか?」
「あ・・・はい。そうでした。最初にご説明を、と思っていたのにすっかり忘れていました。私は加護付きの魔法使いなんです。」
さっきまでの楽しいムードはどこへいったのか。二人は頭を抱えた。ミアは相も変わらず美味しそうにお酒を飲みながら、どうして三人が暗いムードになったのか不思議がっていた。
「あの・・・なにか問題なのですか?」
「いえ、わかっています。みなさんは魔法使いをよく思っていないのでしょう。募集のお知らせを書いた張り紙は確かに読んだんです。前衛職を優遇とありました。みなさんは盗賊、戦士、神官。騎士や戦士を増やし、前衛よりのパーティーを組みたかったのは重々承知です。しかし、魔法使いも悪いものではありません。まずは私が役に立つかどうかを・・・あの、お二人は本当にどうなさったのです?予想していたリアクションと違うのですが。」
「違うの、そういうことじゃないのよ・・・」
「こんな奇跡があっていいのかよ。いや、もうしょうがねえんだけど。」
今度はシャイアスが頭にハテナマークであった。しかし、その疑問はすぐに解決する。
「違いますよ。フーガさんはグリーンの加護持ち。ガリューさんはレッドの加護持ち。私はブルーの加護持ち。みんな魔法使いです。」
「なんとお!!そ、そのような奇跡的なパーティーがあり得るのですか?」
「あるのよ・・・ここに。」
「ちなみにお前・・・何のマジシャンなんだよ。」
「私はイエローです。つまり・・・これで全部の種類の魔法使いが揃ってますね。しかも、加護持ちで。」
「やったあ。お揃いですね。」
「そうね、お揃いね。はははは・・・・・・・」
「どうするんだ、これ?」
ガリューはどうするんだと言っているが、風雅的にはここまで来たらシャイアスを追い出そうとはこれっぽっちも思ってはいなかった。一度は仲間と認めた人を、こちらの都合で追い出すなんて女が廃る。
「ま、こうなっちゃったものは仕方ないわ!シャイアス、それにガリュー、ミア。」
「はい!」
「おう。」
「はい。」
「私たちは魔法使い四人のパーティーになりました。しかし、全員が加護持ちの全て違う種類の魔法使い。これはなにか特別な縁によって集まった、そう思いましょう!ポジティブシンキング!!」
「ポジティブでなんとかなるもんか?あー、でも、ちょっと面白くなった気はするわ。」
「そうですよ。私たちならなんとかなりますよ。」
「私も微力ながら精一杯、粉骨砕身の覚悟で頑張らせていただきます。」
そして、風雅は杯を掲げて高らかに宣言した。
「今日が私たちのパーティー、『マジシャン・カルテット』の旗揚げじゃー!」
勝手に名前を付けてしまった風雅ではあったが、三人は誰一人として突っ込みをいれることはなかった。風雅がそう名付けたのであればそれでいい。四人はもう一度、杯を掲げ合い、パーティーの始動を乾杯で喜び合うのであった。




