第十話 最後の希望?
時刻はすでに昼を回っていた。あれから三人で必死にメンバーを探してみたものの、その成果はほとんど何もない状態であった。
とりあえず、大会にだけでも参加してくれるメンバーがいないかとも考えたが、その後の冒険者の活動を考えると、ここで妥協するのは最悪の結果となる。残りのメンバーはFランク以上でパーティーを組んでいないソロじゃないといけないことになり、探すのはほぼ絶望的になる上にFランクの仕事は4人でないと受けられないことが多い。逆に詰みの状態になりかねないのだ。
三人は遅めの昼食を取りながら、残されたわずかな時間を活かす為の作戦会議をしていた。
「私たちのパーティーって何が悪いと思う?女性が二人いて、結構男としては魅力を感じると思うんだけど、全然うまくいかないのよ。」
「まぁ、ウワバミが女でも恐怖しかねえからな。」
ズビャシ!!
「いって!!あー、でも今のは俺も悪いから許すわ。断られる理由がそればっかりでおかしくなってた。」
「楽しくお酒飲むのが悪い事なんですか?」
「いや、そこは悪くないんだ。量の問題なんだ・・・」
ミアは特に不思議そうな顔をしていたが、ガリューはうまく説明できなかったのか、説明をあきらめた。
「そんなことはどうでもいいのよ!そこは解決出来るのよ。その方法も女神から受け取っているの。」
「それをアピール出来る日があれば問題なかったんだけどなあ。今日の夜にそれを披露できても時間切れなんだよ。」
「そこが問題なんですよね。」
女神たちに教えてもらった方法なので間違いはないだろう。しかし、今日の夕方に受付が終了してしまうので、今日の夜にこの問題が解決しても手遅れなのだ。
「ついでにいうと、俺達は絶対に前衛を加えないとパーティー的にまずい。そこもネックなんだよなぁ。」
そう、実をいうと神官でパーティーに加わりたいという方は数名いたのだ。もちろん、その目的は二度とあのような酒宴によるトラブルを起こさないように私に監視させてほしいといった内容ではあったが、いるにはいたのだ。しかし、このパーティーに神官が加わっても困る。そこで、やむなく断らせてもらった。
「そういえばさ、ちょっと疑問だったんだけど、防具の問題がないなら私たちと前衛の職業をやっている人たちってどこが違うのよ?」
「ああ、そういえば、フーガはあんまりそういうの詳しくないんだったな。」
「そそ、田舎暮らしの農民だったからね。女神様が、加護があるから冒険者になってみないってお告げをくれるまではそんなものに興味なかったし。」
これは風雅が無知なことを隠すために作られた設定である。女神さんの異世界新生活お助けメモに、いざとなったらそういっとけ、と書いてあったのだ。
「俺達の体の中には魔力があるのはもうわかっているよな。それを戦士たちは魔法とは違う形に使っている。」
魔力とは前衛職でも、魔法使いや神官でも、どちらにせよ体の中には存在する。しかし、それを魔法として体の外へと操り放出出来る人間は限られている。それが、魔法使いや神官になるのだ。というか、聖神様の魔法を使うというだけで、神官は言ってしまえば魔法使いである。
要は、魔力を操れる人が魔法使い。出来ない人は前衛職になる。しかし、この世界の前衛職は単に修行を積んだ戦士というわけではない。戦士ならば、素手で岩をもくだくパワーがある。盗賊ならば、身の危険を察する第六感を有している。狩人ならば、はるか遠くを見渡せる眼がある。騎士ならば、馬車に突撃されてもはじき返す肉体がある。
それはどうしてそんなことが可能なのか。答えは単純。魔力を肉体の強化に当てているからだ。戦士ならば、腕力に。盗賊ならば、感覚に。狩人ならば、視力に。騎士ならば、頑強さに。魔法使いはその肉体の強化を魔法という形で使うため、どうしても前衛職には勝てなくなっていく。
「まぁ、最初のうちはたしかに戦士と戦える魔法使いもいるさ。でも、徐々にその差は歴然になっていく。」
「なるほど。つまりどうしても私たちには騎士系のタンク職がいないと厳しい訳ね。」
「タンクってまた酷い言い方だな。でも、まあそういうこったな。」
「あの・・・でも魔法使いでもすごい身体能力持った方もいますよね?」
「ああ、それはミアも知らないのか。じゃあ、それも説明しとくか。」
実際に、Aランクの冒険者パーティーにいる魔法使いはとんでもない身体能力を有するものもいる。単純に大砲役しか務めない魔法使いもいるが、危険な冒険をするときにはやはりカバー必須の魔法使いは足手まといになりかねないのだ。
そこで、魔法使いも身体能力を強化できないかと研究した者がいた。その結果わかったのは魔法使いでも身体能力は強化出来る。しかし、これが結構手間なことなのだ。
そもそも、前衛の職業は自分たちが得意な分野を修行していくことによって、体が勝手に魔力をそういった方向へと強化するように使っていく。つまりはオートでそういう風になっていくということである。
しかし、魔法使いはそうはならない。魔法使いは魔力は全部コントロールするものなのだ。だったら、魔力を一時的に身体強化にあてることが出来るのではないか?そこから、長い研究期間があり、ついに魔法使いも身体強化が可能であるということが実証された。
「じゃあ、魔法使いでも大丈夫じゃん。」
「そんな単純な話だったらいいんだけどな。」
「まあ、そうなってないのは今の冒険者ギルドを見れば一目瞭然なんだけど。」
その話が本当ならば、魔法使いはどう考えても優遇されているだろう。しかし、そうはなっていない。つまりはそういうことなのだ。
魔法使いの身体強化は他人に教える事がほぼ不可能であった。前衛職は教えるもなにも勝手に出来るようになる。だが、全てをコントロールして実行しないといけない魔法使いにとって、体の感覚を人に説明するようなことは不可能である。しかも、魔力が流れる感覚は、風雅が魔法を覚えたときにガリューが説明した通りで人それぞれ感じ方が異なる。
つまりは、自分で出来るようになるしか方法がないのだ。しかも、その制御は困難を極める。例えるならば、それは車のオートマとマニュアルなんて差ではない。飛行機でのフライトをオートパイロット有りと無しでやるくらいの差があるといえるだろう。
戦闘中に自分で魔力を制御し、その上でどこかで身体強化をオフにしてから魔法を発動するところを探さないといけない。そんなことができるというか、そもそもやろうと思う魔法使いは稀有であった。先程の例えでいうならば、飛行機でオートパイロットが使えずにずっとフライトしている間、後ろではハイジャック犯が襲い掛かってくるのを対処しなければならない。そんな状況が戦闘中の身体強化を使う魔法使いの状況なのだ。
「ただ、Aランクの魔法使いにはそれをやるやつが実際にいる。だから、確かに不可能ってことはないな。」
「ま、その辺はとりあえずいいわ。今の状況には関係ないし。」
「それもそうですね。」
「結局は前衛職、可能なら戦士か騎士あたりがいないと色々めんどくさいことになるっていうのは理解してくれ。」
「結局はそうなるのかー。」
自分達の置かれた状況は確認できたものの、何も解決には向かっていない三人は結局いいアイデアも出ずに最後の勧誘へと向かうのであった。
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夕方になり、いよいよもう締め切りの時間が迫ったころ、ガリューとミアは待ち合わせの場所である大会の受付へとやってきていた。
「あとはもうフーガさんが見つけてきてくれている事を祈るしかありませんね。」
「そうだな。だめだったとしても、仕方ないさ。元々は俺が諦めていたことだったんだ。」
風雅との出会いがなければ、そもそも一度は諦めた大会に出てみようなんて思わなかったことだろうし、ガリューとしては仕方ないと思っていた。
そして、しばらくして風雅はやってきた。しかも、フルプレートメイルを纏った騎士を連れていた。これはまさか!と期待した二人ではあったが、妙な違和感に気が付いた。そう、風雅の表情が明るくないのである。もしも、騎士の勧誘に成功したのであれば、もっとこう喜び勇んでやって来る。風雅はそういう女である。
これはもしかして、なにかしらをやらかして、騎士に補導されているのでは?そんな考えが二人に駆け巡る。しかし、そうではなかったようだ。
「あー、ちょっと私の判断では仲間にしていいのかわからないメンバーがやってきました。そこで、ちょっとガリューにも判断を手伝ってほしいと思います。」
「お、ということは一応はメンバー候補ってわけだ。」
「やっと見つけたメンバーなのに何がだめなんですか?」
「それは・・・私の口からは説明しづらい。ちょっとわけがあってね。とりあえず、ミアはそこで待っててね。」
「あ、はい。よくわかりませんが、それじゃあ、受付の準備しておきますね。」
ミアから少し離れたところにガリューと騎士を連れて三人で集まった。
「それで、一体にこいつの何が問題なんだ?」
「それがね・・・ああ、そうだ。その前に兜取って。」
「はい、了解しました。」
兜の下から出てきたのは、かなりのイケメンであった。彼の名前はシャイアス。家は金持ちのボンボンではあるものの、彼は四男ということもあり、立派に長男、次男、三男が成人したため、もう家督が回ってくることもないだろうということになり家を出ることになった。
「おう、お手本のような嫌な奴だな。」
「いや、それがそうでもないのよ。家から出る時に渡されたのはこのフルプレートメイルとちょっとしたお金だけ。しかも、このサラーサで冒険者になるってことを義務付けられたらしいわ。」
「はい、親としては兄たちに関わる仕事に私がつくのは困るので商人よりも冒険者になってほしいと。しかし、私に死んでほしいわけではないし、それならばこのサラーサでまずは冒険者の基礎を作りなさいということらしいです。」
聞いたところ、ガリューにはどこかに問題があるようには思えない。サラーサはそういう街だし、親が商人ならば、商業都市であるサラーサの冒険者事情に詳しくても不思議はない。
「それがね、シャイアスの親が冒険者ギルドに根回ししちゃったみたいなのよ。」
シャイアスも後で知ったことなのだが、シャイアスが冒険者ギルドに来る前日、シャイアスの両親は息子を心配するあまり、明日くるフルプレートメイルの新人は自分の息子だということ。危険の少ない、新人の仲間から始められるようにとお願いしに来たのだ。
そんな面白いニュースが冒険者ギルドで流れないわけがない。結果としてシャイアスは金持ちの息子であることがバレバレの状態で冒険者ギルドで仲間を探すことになってしまった。
そして、さらなる不幸がシャイアスを襲う。それは・・・イケメンであるということだ。金持ちの息子でイケメン。悪い事を考える女性冒険者たちは多かった。シャイアスは引く手数多の人気物件にはなったものの、本人としては気持ち悪いレベルの好意をいきなり向けられるのだ。それで、うまくいくわけはなかった。
その後、よろしくと頼まれていた冒険者ギルド長がぶち切れるという騒ぎが起こり、シャイアスへ女性冒険者から声をかけるのは禁止という命令が出る事になった。
「それでこいつはもうほとんど誰も声がかけられないような腫物扱いらしいわ。」
「お、おう。ちょっと同情するわ。さっきは悪い事いったな。」
「いえ、とんでもありません。私の事を理解していただきありがとうございます。」
そういって、深々と頭を下げるシャイアス。礼儀も正しい、良い青年だ。ガリューは真剣にそう思った。
「あれ?だとするとフーガはどうやってこいつを勧誘したんだよ。声かけちゃまずいわけだろ?」
「それは私から声をかけさせていただきました。是非、フーガさんのパーティーに加えていただきたいと。」
「彼、女性がいるパーティーに入りたいんだって。」
「女性で迷惑しているのにか?」
もしも、男性のみのパーティーに入ったらどうなるだろうか。今後も女性冒険者に声をかけられ続けるだろう。今、声をかけるのを禁止なのは、シャイアスのナンパ目的でパーティー勧誘する冒険者を退けるためだ。だが、パーティーが決まってしまえばナンパで声をかけること自体は禁止できない。つまり、面倒がこの先も続くことだろう。
しかし、女性の仲間と一緒にいる冒険者に声をかけるのは難易度があがる。パーティーの中の男女はカップルという可能性も低くはなく、その目の前でナンパは勇気がいる。
「しかも、皆様であれば私に遠慮しないし、特別扱いもない、そういった人格の持ち主であると判断させていただきました。」
「そこまでの話はわかった。それはいいとしよう。だが・・・それだけじゃないよな。」
そう、ここまでなら風雅も二人が納得するのはわかっていたはずだ。ここで最後のシャイアスを仲間にする最大の問題点が明らかとなるのであった。




