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異世界クロスオーバー物語《ストーリー》  作者: 宮糸 百舌
【マジシャン・カルテット】 第一部 第一章 死んでしまって、異世界へ
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第九話 裏技実践編

 再びやって来たのは共同墓地。なんとなく察している方もいるとは思うが、今日もなぜか神官のみなさんは激務に追われて、墓地の悪霊退治が出来そうにないということで、風雅たちがまたしてもこの仕事を引き受けることになったのだ。


「ということで、今日は先程説明した魔法の裏技を試してみたいと思います。はい、拍手!」

「はーい。」


ぱちぱちぱち・・・・


 ミアはノリノリであったが、ガリューは今一つ乗り気ではなかった。というのも、未だに風雅の教えてくれた魔法の調整とやらに疑問を持っていたからである。


---


 夢の中で女神たちと会った後、風雅はすぐに冒険者ギルドの訓練場で教わったことを試しにいった。すぐに二人に教えてあげたかったが、証拠を見せないと二人も信用しないだろう。そこで、まずは自分の魔法を調整できるのかを試してみようと考えたのだ。


 使える魔法はまだ三種類しかないので、実験は捗らないかとも思ったが、その予想は大きく外れることになる。


 まず、風の刃。これだけでも何種類もの調整が可能であった。単純に速度アップさせればそれだけで威力は桁違いに上がった。さらに、薄さをイメージして切り裂くことをイメージすると切断しづらいもの以外であれば、貫通力が劇的にあがり一撃で練習用のターゲットをいくつも切り裂きぶちぬいた。強く重くをイメージすれば岩を砕くほどのパワーがあり、思いっきり強く重くイメージしたら飛ぶ力がなくなり手に装備するような刃まで作れた。


(なるほど、風で切り裂くことを逸脱しないのであればなんでもできる程に柔軟だわ)


 風の壁でも試してみたが、回転力をあげれば触れたものを弾き飛ばしたりできる。風の量を増やして防御の層を厚くするようなことも出来る。ただ、こちらの方は回転する風が壁になる、という原則を壊すことが出来ないため、炎の壁のように前にだけ張る、といった使い方は出来なかった。


 ここで風雅は気が付いた。眠りの風を調整してもおそらくは濃度と範囲を変えられる程度だろうと。つまり、魔法はシンプルなものほど調整に幅が出来る。効果を逸脱出来ない縛りがある以上、そういった魔法の方が改善の余地があるということだ。


 そして風雅は昨日あった不自然さの理由に一つの仮説を立てた。それを検証するために今日も共同墓地の悪霊退治に二人を誘ってみようと決めたのだった。


---


 今日は風雅がメインで悪霊を退治していた。しかも、風の刃一発でどんどんと悪霊を消していくのだ。


「す、すごいです。昨日はほとんど効果がなかったのに・・・」

「あぁ、これはどうやら本当みたいだな。」


 ここに来る道すがらに二人には魔法の実験をするという旨は伝えてある。さらにいうなら、実は既に訓練場にで魔法の調整は実演してみたのだが、ガリューはそれを見ても今一つ信じていなかった。


 一般的には魔法は個人差があるもので、同じように魔法を使ってもその個人個人で多少効果が異なる。ただ、それを意図的に調節するなんて話は聞いたことがなかったのだ。


 実践してみろい!と風雅にいわれて多少挑戦してみたものの、ガリューはほとんどその効果が実感できていなかった。しかし、その一方でミアの水弾は色々な形や威力を発動しており、ガリュー自身も良く分からない状態になっていた。


 そこで、時間も遅くなってしまったので、一旦練習は中断。墓地へと仕事にやってきたわけだが、ここで風雅が悪霊退治を今日は任せてほしいと提案したのである。そして、その結果がこの一撃での悪霊退治というわけだ。


「ふっふーん!どうよ、すごいでしょ。」

「当然だが、ネタがあるわけだろ?」

「ま、そういうことよ。実はね、これは昨日のミアがヒントになったのよ。」

「私ですか?」


 昨日のミアの水弾はなぜか悪霊を一撃で倒していた。それを思い出した風雅はもしかしたらと思ったのだ。あれも調整が行われた魔法なのではないかと。


 だとすると、どういう調節が行われていたのか。そこが問題になる。悪霊への特化攻撃?いや、そんなものをわざわざイメージしていたようには思えない。ミアは自然にそういう風に調節していたのだと考えるべきだろう。だとしたら・・・何が重要なのか。


 思いついた答えは一つ。聖神様への信仰心であった。つまり、魔法にはそういったことも付与できてしまう。悪霊に効果が高いのは聖神様の魔法であり、その魔力をイメージし魔法にその効果をのせる事が出来ていたのではないか。風雅はそう結論した。


 そこで実験したのが今日の悪霊退治だったのだ。結果は大成功。風雅は聖神様の魔力をのせた風の刃をイメージし魔法を調整。見事一撃で悪霊を倒せる風の刃を作り出したのであった。


「というわけよ。どう?魔法を調節できるって話は本当でしょ。」

「こんなこと誰も知らないと思います。フーガさんはほんとにすごいですね!」

「・・・なあ、ひとつだけいいか?」

「なによ、怖い顔して。」

「顔は元々怖いんだよ。いや、ここはまじめにいこうか。こんな方法、どうやって知った?はっきりいって、こんなのは普通じゃねえ。魔法も知らなかった素人がいきなり思いつくわけがない。お前はなにもんだ?」

「その質問を待ってました!!」


 ガリューはいたってまじめだったが、風雅はその上をいく。そう、どこかでこの質問をぶつけられることは風雅としては予想済み。だって、さすがにこんなの独学で閃きましたではおかしいものね。ちゃんと、答えを用意しておくのが風雅クオリティなのだ。


「実はこれ、女神様に教えてもらったのよ。」

「はあ?どういう意味だ。」

「言葉通りよ。実はね、この加護があるっていうのも女神様に直接教えてもらったの。」

「そんなの信じられません!!だって、女神様と直接お話しするなんて、各女神様を信仰する教皇クラスの方じゃないと出来ないはずです。」

「そりゃ、呼びかける時の話でしょ。こっちは勝手に話しかけられるのよ。」

「いやいやいや、まてまて。ちょっと頭の整理がつかねえ。」


 風雅の突然の告白に二人はあきらかに混乱していた。しかし、その一方で二人とも同じ事を考えていた。たしかに、女神様から聞いたのであれば、この裏技も納得ができると。むしろ、それ以外の方法でこんなことを知る方法なんてないのではないかと。


 とはいえ、それはそれ。風雅がいきなり女神様に声をかけられました、とかいっても当然だが信用できるわけがないのが通りである。


「当然そうなるわよね。そこで、女神様に相談しました。仲間にだけでも女神様の存在を信じてもらう方法はありませんか?とね。そして、もらったのがこちらです。」


 じゃじゃーんという効果音がなりそうな勢いで風雅が掲げたのは綺麗な緑の宝石が付いたペンダントであった。それを見た二人はというと・・・目を見開き、顎が外れそうなほど口をあけて驚いていた。無理もない。


 これは女神様が本当に神託を与えた印として必要があると判断した場合にのみ与える秘宝中の秘宝。通称『女神の証』と呼ばれるアイテムである。しかも、この秘宝についた宝石にはその神託を与えたものの名前が刻まれるのだが、そこにはちゃんと風雅の名前が刻んであるのだ。これは間違いない本物であった。


「ちょっ、おまっ、こんなもの簡単に出すんじゃねえ!!!どれだけ価値のあるもんかわかってんのか?」

「値段がつくものではありませんが、これを受け取るために人生を捧げる者の多い秘宝なんですよ!!」

「えっ?そんなになの?あー、それは悪いことしちゃったわ。はい、これどうぞ。」


 そういって、差し出したのはガリューとミアの名前が入った赤い宝石の女神の証と青い宝石の女神の証であった。


「なぁミア。俺にはなんかおかしなものが見えるんだが気のせいか?」

「い、いえ・・・私にも見えます。」

「いや、神託をもらったときにさ。水の女神様と火の女神様もいてね。私たちの加護持ちの魔法使いが一緒にいるでしょ、よろしくね、って挨拶にきてくれたのよ。そこでさ、なんか私に風の女神がさっきのペンダントを頼んだのを見ててさ。ほら、二人が信用してくれなかったら困るからさ。証拠が欲しいっていったら作ってくれたのよ。そしたらさ、折角だから、加護持ちの二人に私たちからもプレゼント作ってあげるーっていう感じのノリでこう、さくっと作ってくれたのよ。」

「「そんなノリで作っていいのかよ!!!」」


 二人の絶叫が共同墓地へと響き渡った。


---


 翌朝、三人は冒険者ギルドに集まっていた。いつもであれば、夜に食堂で馬鹿騒ぎの流れではあったが、昨日は女神の証を見た二人があまりの衝撃に疲れ果ててしまったようで、そのまま解散となってしまったのだ。


「ということで、今日は魔法が調節出来るって前提で色々なことをやってみましょ。他にも試してみたいことを思いついているのよ。」

「了解だ。もうさすがに疑ってはいねえ。ただ、まだちょっと整理が出来てないところがあるから今日はおかしくても大目に見てくれ・・・」

「あの証ってどうしたらいいものなんですか・・・昨日から周りの人が強盗にしか見えません・・・」

「あんなもん、どうせ貰い物なんだし、なくなったって困らないわよ。」

「そういう割り切り方はまじで尊敬するよ・・・」


 二人はまだまだぐったりのようだ。こんな調子で大丈夫かいなと風雅が心配になっていたところで、思わぬ人物に声をかけられた。


「あら、これはこれは。どうやら人数が集まらなかったようですわね。まあ、当然と言えば当然ですけど。あなたたちのような騒ぎを起こすパーティーにわざわざ入りたがる人なんていませんものね。」


 一昨日に文句を言いに来たシルヴィーであった。


「お、おはようシルヴィー。」

「って、なに普通に挨拶してますの!・・・とはいえ、挨拶を受けた以上はお返しいたします。おはようございます、フーガ。」


 この娘は本来であれば相当良い子なんだろうし、仲良く出来んもんかいなと思った風雅ではあったが、今は残念ながら因縁をつけられている状態。これを解決するまではちょっと難しいかなと結論づけた。


「ふーんだ、とりあえずは一人は増えたわよ。」

「なにを悠長なこと言ってますの?受付は今日の夕方締め切りですわよ。そんな様子であと一人はどうするつもりです。」

「あんだって?」


 風雅はガリューへと向き直った。風雅が聞いた話では大会は五日後のはずである。すると、ガリューが首を捻りながら答えた。


「あー、受付は参加者のチェックがあるから、大会の五日前だったわ。悪い、この数日のインパクトが強すぎて完全に忘れていた。」


 ガリューは素直に頭を下げてきた。下がった頭の位置はちょうど良かったので、一発ズビャシ!!と撃ちこんでから、シルヴィーへと向き直った。


「ちょっと手違いがあっただけで、今日中になんとかするから大丈夫よ!」

「いや、完全に忘れていたって言いましたわよ。さすがにごまかされませんわ。というか、わたくしが言わなかったらどうするつもりでしたの?」

「そんときはそんときだ!」

「そんなことだから、酒場でのトラブルが起こるんですわ。もっと行動を顧みなさい。はあ・・・まあ、いいですわ。折角なら最後の一日あがいてみなさい。それでは、ごきげんよう。」


 シルヴィーはそれはそれは優雅に食堂を去っていった。そして、風雅はガリューへと詰め寄った。


「おうおうおう、こいつはどういうことでい、あんちゃんよ。」

「なんだそのノリは?いや、大会の規定の問題があったのをすっかり忘れていた。」


 この大会はルーキーの支援のための大会であり、参加できるのはEランクの冒険者までである。しかし、その割には賞金は高めになっており、強さを偽っての出場をしようとするものがいてもおかしくない。そこで、参加受付は大会の五日前になっており、そこから出場者の経歴の調査がはじまるのだ。


 冒険者としてはランクが低くとも、前職が国のお抱え騎士だったとかだったら素人ではない。そういう場合には出場を断られたりしてしまうのだ。


「そんな理屈はどうでもいい。問題は私たちの時間がなくなったということだけだ。」

「えっと、じゃあ今日の予定はキャンセルですね。」

「そうするしかないわね。」

「まあ、やれるだけやってみようぜ。」


 しかし、三人はすっかり忘れている。このパーティーは魔法使い三人という非常にバランスが悪い編成であること。さらにいうなら、分類の違うマジシャンが組んでいる前代未聞のパーティーであるというマイナスがあることも。


 そしてなによりも・・・冒険者ギルドではもう悪名が広まりきっていることを三人は理解していなかったのだった。

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