33.雫に濡れたスライム
湧き水で傷を洗って、もう一度ちゃんとした手当を施したものの、やっぱりクリスの状態は良くなさそうだった。
包帯を肩にぐるぐると巻いて壁にもたれるクリスは、かなり辛そうだ……。
「クソッ……悪い、オレのせいだ。スカウターなのに、一度通った道だからって油断した」
「シーロだけの、せいじゃ……ない。俺の、力不足……だ」
「……オメーは喋んな。少しでも体力を温存しとけ」
「……あぁ」
どうしよう。このままじゃクリスが危ないかもしれない。
でも5階からじゃ外に出るだけも時間がかかるし、モンスターだって出る。
怪我人のクリスを運びつつ、盾役を欠いたメンバーで戦って……どう考えても厳しい。
どうしよう……どうしたら……。
「……ぅ……」
『ん、フェリ? どうしたの?』
すぐ側に立っていたフェリを見上げると、今にも泣き崩れてしまいそうな青い表情をしていた。
「ぼく……かば、って……」
あ、しまった!
クリスはフェリを庇って傷を負ったんだ……フェリは絶対に自分のせいだと思ってる。
すぐに声を掛けてあげなきゃいけなかった!
『フェリは悪くないんだよ! これは誰のせいでもないから!』
「で、でも……ぼくが……いた、から……」
本当にフェリのせいなんかじゃないのに!
でも、いくらボクがそう言ったところで何の慰めにもならないよぉ……。
ボクがおろおろしていたら、ハッキリと通る声が響いた。
「――フェリ、君のせいじゃない」
大きな怪我を負っている人間のものとは思えないぐらい、きっぱりとした声だった。
「で、でも……」
「何度でも言うよ。君のせいじゃない」
「ぼく、が……無理に、ついて……来なかったら……」
「連れて行くと、判断したのは俺だ。メンバーを守るのが……俺の、役目だ」
クリスの声が、少しずつ弱くなってきている。
やっぱり怪我がキツいんだと思う。
「ぼく、でも……ちゃんとした、仲間じゃ、ない……です……亜人、だし……」
「関係ない……フェリは、れっきとした……なか、ま……だ…………」
そこでクリスの声が途切れる。
クリスはとっても真剣に、フェリのことを考えてくれていたんだ。
半ば押しかけ状態のポーターだったのに。
意外なことに……次に口を開いたのはシーロだった。
「当たり前だろ」
「……え……?」
「オメーはオレらのパーティーに入った。仲間になった」
「で、でも……ぼくが、弱いせい……で」
「パーティーには役割ってモンがある。それに弱いってんなら、そこのセシリアだって似たようなもんだしな」
弱いって言われても、セシリアは何も言わなかった。
ただ、少し困ったように笑ってた。
「敵の攻撃から仲間を守るのはクリスの役割だ。だから、お前を庇うのは当たり前なんだよ」
「……」
フェリは、とても戸惑った顔をしてる。
出会って数日の、大して役に立たない子供の、亜人の自分を……仲間だと言ってくれること。
命がけで守っても、当たり前だと言ってくれること。
そういう言葉を、上手く受け取れないんだ。
「……ねぇ、フェリ君。私たち、仲間だよ」
「ぁ……」
「だからさ、一緒に考えよ? ここから、みんなで無事に帰る方法。……ね?」
「は……はい……」
大粒の雫がボクの体を濡らしていった。
でもそれは温かかったから……ちっとも気にならなかった。




