表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウンドスケープ -52kHz-  作者: 鷺野由紀
1/6

プロローグ -入国-


 歩いて来たのは、花の無い道だった。


 吹き荒ぶ砂風に塗り潰されたようなボロの外套に、物を容れるためだけの皮の鞄。ズボンは黒くて夜の色。荒地を踏むのは灰の靴。

 どこを取っても味気なく、みすぼらしいとの言葉が似合。……自分のことを「セン」と呼ぶ少年に対する第一印象は、この国の誰をとっても概ねそのようなものになることだろう。

「何処から来た某だ。出自を申せ」

 入国を取り締まる兵士が、少年の前に槍を翳して問う。それに交差させるように、もう一本の槍を翳した兵士が続けた。

「出自の分らぬ不審者を我が国に入れる訳にはいかぬ。ましてや貴様のような恰好の者は、特に」

 年季の入った厳しい顔は、ともすれば家庭に帰ってもそのままではないのかとさえ思われる。

 しかし、目の前の少年の怖じた様子がないのに、もしかしたら自分の顔はそんなに怖くないのではないかと、この兵士はバカげた希望を浮かべた。

「……そんなに怖い顔をなさらなくても。僕はヘンリース領からやって参りました、センという者です。財務大臣殿宛の書簡を持って参りました、エリシャ・ヘンリース卿の使いです」

 すぐに打ち砕かれた希望を心の墓に埋めながら、厳つい兵士は驚いたような顔を浮かべた。

 彼の驚きを代弁するように、並び立つ若い兵士が言葉を上げた。こちらは、得心のいったような顔で。

「――ああ、なるほど。お前さんのことだったか、魔法卿の愚痴係ってぇのは」

「……僕は別にそんな風には思ってないのですけど」

 苦笑いを浮かべる少年をよそに、兵士たちは槍と頭を潔く下げた。別に敵意があったわけでもなし、自分たちが他所の国の使者に礼を欠いたのは理解していた。厳つい男が代表して詫びる。

「失礼した、使者殿。改めて、貴方の入国を許可しよう。

 楽園国エリシラ、その中央へ。……ようこそ、いらっしゃった」


 敬礼する兵士たちの背後から風が吹く。

砂漠の大気に、複雑で壮麗な花々の香りを溶かす風が。




初めて作品を投稿します。鷺野由紀です。

小説自体は同人方面で別名義で書いてました。

わからないことも多いので、不備や問題点あればご教示くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ