リハビリにて
瞬くと、見下ろす並木が陽を受けて、想いおもいに輝いていた。
「しかしいい天気だな」
空は見上げられないくらいに眩い。
病院の屋上。
日差しは強いが昨日の雨で冷やされた風が心地良い。
「しかし暇だなぁ」
遠くから一組の親子がこちらに向かってくるのを延々と見守りながらそんなことを言う。
「しっかしなぁ」
ギブスで固められた足を気遣いながらケンケンしてフェンスを背にすると、隣で一言も発しないミヒロを見て、聞いてる? と訊いた。
「さっきからしかしばっかり」
彼女はどういうわけかこの退屈極まりない空間が満更でもないようで、口数は少ないながらも穏やかな表情で長い黒髪に春風を受け続けている。
「でもさ」
「言い方変えただけ」
すかさず突っ込む口調が楽しげで、だから怒る気にもならずに嘆息する。
「なんだかなぁ」
「Aトウカイでた」
「どうしたもんだろ」
「バックスBニー」
「…何も言えねぇ」
「キタJマか」
そんなやり取りを一通り終えると、お互い、そっぽを向きながら零れそうな笑いを抑えたりした。
「確かにあなたは怪我をした。足の骨を折り、手術までした大怪我よ。それも自宅の階段を踏み外して下まで落ちるなんて極まりないアホな方法で」
語尾の、で、でこちらに向き直ると、ミヒロはあまり真剣でない眼差しで睨みを利かせてくる。
「本来ならとっくに愛想を尽かしていてもいいくらいだと思う」
「思う。けど?」
「思うけど…」
彼女は青空を仰ぎ、大げさに考えるそぶりを見せた後、
「この空に免じて許してやっか」
とカラカラ笑った。
「なんだそれ」
「なによ」
「なんだよ」
多分これはまったく無意味な会話なのだろう。
そんなことをぼんやりと思いつつ、でもこれはこれでどこかで大切なものなのかもしれない、なんて考えが頭に浮かんできた。
ひどくゆっくりとした時間が過ぎる。
働き詰めだった一週間前の殺伐とした空気が嘘だったかのように、穏やかな空間に身を置いている。
不安がないわけではない。
でも、今は自分の置かれた状況を受け入れ、楽しむべきではないか。
どこまでも突き抜ける青空を仰ぎながら、そんなことを考えた。