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幸せの妖精(3)

過去編最終章です

柚木は職員室を飛び出した勢いもそのままに、運動場へと躍り出た。


元々得意ではない運動だが、急かすような不安のせいか、いつもより息が上がっている。


優希…


どうして気づいてあげられなかったんだろう。

ただ優希がそこにいるだけで浮かれて、自分は何も見てなかった。


柚木は額に滲む汗を手でぬぐい、一目散に優希がいるであろう運動場の端を目指して走る。


そこには沢山の生徒が輪を作り、何かを熱心に見つめているようだ。


もしかしたら優希が…!


疲労で落ちてきたスピードを、さらに上げる。


こんなに走ったのは生まれて初めてかもしれない。


柚木は今までの短い人生を振り返り、自嘲気味に笑った。


ここまで必死になったことはなかったから。


今まで何事も争わず、人が言うままに生きてきた人生。


別に学級委員長だってしたくてしたわけではない。


ただクラスにしてくれる人が誰もいなくて、友人に勧められたから。


僕じゃなくてもよかったんだろうけど、僕がやれば誰も争わなくて済むから。


そういえば優希が来てから少し変わった。


柚木は優希が転校してきたその日を思い出し、微苦笑する。


人形みたいな、綺麗な子。


それが第一印象。


女の子だと思った。


優希はそれくらい可愛らしくて、完璧だった。


自分の事を言い出せないって、どんなに辛いことだろう。


唇をぐっと噛み締めて、柚木は小さく俯いた。


空気のように生きてきた柚木には、ほんの少し、その気持ちが分かった。


誰かがこれをしたいと言ったら、自分は違うのがしたくても、それに従った。


それは当然のように存在したから、今まで気にも止めなかった。


だけどどこかで、やっぱりこれがしたい、という気持ちも働いていて。


優希はそんな柚木の気持ちを知ってか知らずか、必ず柚木の意見を聞いてきた。


そんな当たり前の出来事が、柚木には凄くうれしくて。


「優希…っ!」


柚木は眼前に迫ってきた生徒の輪に、大きな声で呼びかけた。


そのままの勢いで生徒の群れに飛び込み、優希の姿を捜す。


放り出されるように中心に飛び出すと、そこにはうずくまるように体を縮めた、優希がいた。


「優希!」


柚木は再度呼びかけながら、慌てて優希の傍へと駆け寄った。


近くには各教室に配布されているボールがぽつんと落ちていて、どうやら今までドッヂボールをしていたらしいことが伺えた。


優希は柚木の声にゆっくりと顔を上げ、突然目の前に現れた柚木に目を見開いた。


「柚っち?」


声がかすれ、頬には幾筋もの涙の跡が見えた。


柚木はそんな優希の姿を見て、きゅっと拳を握りしめると、恐る恐る優希の頬に手を伸ばした。


指先に玉を作った涙を、下から上へ拭い取っていく。


そんな柚木の行動に、優希は戸惑いの表情を浮かべながら、また、


「…柚っち?」


と問いかけてきた。


「どうかした?」


優希の声に柚木は首をぶんぶんと振ると、頬に乗せていた指を力なく降ろした。


「ごめん」


ぽつりと小さくつぶやく声に、柚木は更に言葉をつなげる。


「…優希が男でも、関係ないから」


喉がカラカラに乾き、急激に水分を奪われていく感覚がした。


掠れた喉から出てきた声は、自分でも驚くほどに小さく弱々しく、優希に聞こえただろうか、と不安になるほどだった。


柚木はしばらく視線を左右にふらりふらりと振り、意を決したようにまた優希を見つめた。


優希は何の事だか分らない、とでも言うように、ぽかんとしている。


分からなかったかな。


柚木はそう思い、すっと小さく息を吸い込んだ。


「優希が男だからって、嫌いになんか、ならないよ」


はっきりと、明瞭に、今度は確実に聞こえるように。


柚木はゆっくりと息を吐き出して、優希の反応を待った。


すると、その言葉にしばらく目を丸くしていた優希の頬が、徐々に赤く染まり、ついには耳まで真っ赤に染まった。


視線は躊躇いがちに横にそらされ、膝をもじもじと落ち着きなく動かしている。


あれ…?


柚木は何だか予想外な反応に首を傾げた。


トイレ…?


トイレに行きたくなったのだろうか。


柚木はそんな安直な考えで困ったように優希を見つめた。


優希は未だ柚木から視線を外したままである。


そんなとき、突然今まで遮断していた周りの生徒たちの声がざわざわと聞こえ始め、優希しか見えていなかった瞳に、他のものが色彩を持った。


「柚が優希にコクったぁぁぁー!」


一人の生徒の声が、柚木の鼓膜を打ち、それと同時に優希がぴくりと体を揺らした。


赤い顔をさらに赤くして、優希は顔を隠すように俯いた。


「え?」


身に覚えのない柚木は優希を見て、周りの生徒を見渡した。


コクった?僕が?優希に?


困ったように首を傾げる柚木の耳に、周りで囁くように会話する女子の声が聞こえてくる。


「男でも関係ないって!」


「こういうの、ぼーいずらぶって言うんだって!お姉ちゃんに聞いたもん!!」


ぼーいずらぶ…ボーイズラブ!?


柚木はその意味を察し、さっと顔を赤くさせた。


「ち、ちがっ!違うっ!コクったんじゃない!!」


その言葉に、さらに群衆は盛り上がる。


「またまたぁ、照れちゃって!」


冷やかすような言葉に柚木は優希を困ったように見た。


優希は顔を赤く染めたままである。


やばいやばい、やばいよっ!

告白したことになってるー!!


柚木はパニック状態に陥り、うあぁあああーと訳も分からないうめき声を上げた。


優希も優希だよ!

男が男にコクる訳ないじゃないかっ!


世の中の同性愛者全員を敵に回すような言葉をぶつぶつと呟きながら、柚木はその場で頭を抱え込んだ。


このままでは僕が優希に告白したことになってしまう!


てかなんだ、皆優希が男って知っているのか…?


パニックによって様々な思考が入り乱れる中、柚木は小さく唸り声を上げた。


「優希ちゃんはいかがですかっ?お返事は!」


クラスの物好きが拳をマイクに、優希へと迫る。


周りを取り囲む生徒たちのひゅうひゅうという掠れた口笛と、はやし立てるような野次。


さながらアナウンサーのその生徒を前に、優希はもじもじと柚木を見つめ、頬をピンクに染めた。


「あの…はい。僕も好きです」


………はい?


柚木は頭を抱え込んでいた腕を外し、ぎょっと優希へと視線を移した。


相変わらず、優希の頬はピンク色に染まり、視線はうつむき加減である。


その恋する乙女のような少年を前に、柚木は困惑の表情を向けた。


…今なんて…?


す…す…?


「柚木くんのこと、大好きです」


柚木は泡を吹いて仰け反り、予想外な展開に卒倒した。


柚木くんのこと、大好きです。


頬を染めた少年は、確かにそう言った。


柚木は遠くなる意識の中、かくん、と首の力が抜けるのを感じた。


ぼーいずらぶって言うんだって!


先ほどの女子の声がぐるぐると柚木の頭の中を巡る。


ぼいーずらぶ…ぼーいずらぶ…


男が男を愛し、愛され、愛し合う…男が男を…


NOOOOOOOOOOOOO!!!!!


急速に霞む視界の中、優希は今まで見たどんな表情よりも美しく笑っていた。


大変遅くなりました;;


レポートやら企画用のイラストやら、色々とかぶりまして、遅くなってしまいました…


何だか今回はすごいことになってますね

いやはや作者も驚きです(何で!?


実はまだ泣いてた理由が書いてないっていうね

予測範囲外

多分予想ついてるんじゃないかなーと思うのですが

この謎については次話持ち越しってことで!


ちなみに雪の過去も書かなきゃなんですけどねぇ

さてさてゴスロリータは何故に柚木を好きになったのか!?


これは少ししたら書きますねー

(次回予告どころか未来予測みたいになってる、このあとがき…)


そうだ、そのうちブログに柚木、優希、雪を使って「勇者バトン」やってみようかな、と思っております

もしかしたら番外編としてコチラにも載せるかもしれません


よろしければご覧くださいませ♪(ブログには表紙HPからいけますよ^^)


ではでは読んでくださってありがとうございましたー♪

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