表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

幸せの妖精

柚木と優希の過去編突入です

ため息を一回つくと、幸せの妖精が七人死ぬんだって。


そう言ったのは誰だったかな。


柚木は雑談に花を咲かせる教師に目をやって、持っていたシャープペンシルをことりと置いた。


最近はため息ばかりついている気がする。


それというのも優希がやたらと柚木に構ってくるからなのだが、一体どうしたものだろう…。


今日は優希とは会わないし、妖精を殺さずに済みそうだ。


ホッと息をついて、黒板に視線を移す。


何故か全然授業に関係ない単語が、上下式の黒板のうち一枚を埋め尽くしていた。


…もしかして、コイツはこれだけで授業を終わらせる気か?


柚木は眉をひそめて、時計を見た。


授業終了20分前。コイツならやりかねない。


周りを見渡すと、誰一人として教師の話を聞いているものはいない。


寝ているやつが多いが、起きているやつも別授業のレポートや予習をしている。


仕方ない。


俺が最後の傍聴者になってやるか。


黒板には数式の数々。


教師はそれを指差しながら、まだ学会では発表されてないんですよね。だからいつか言ってやろうと…等と言っている。


正直柚木にはどこが凄いのか分からない。


肘をついて重たくなってきた瞼を、柚木は無理矢理こじ開けた。


ヤバい、もういっそ寝ちゃおうかな…。


口を割る欠伸を噛み殺し、目をぱちぱちと数回瞬きする。


教師を見ると、教師は未だ授業をする気がなさそうだ。


柚木はそれだけを確認すると、腕を枕に突っ伏した。


教壇から聞こえてくる教師の声をBGMに、柚木は眠りの世界へと落ちて行った。



◇◇


柔らかな日差しが入り込む教室。


小さな机と小さな椅子を、これまた小さな部屋に閉じ込めて作られた空間。


そんな小学校低学年の教室で、一人の少女が皆の注目を一身に集めていた。


「佐久間優希です。よろしくお願いします」


ぺこりと下げた頭が上を向くと、そこには精巧に作りこまれた人形のような、美しい顔があった。


顎のラインに沿った髪の毛が、さらりと風に踊る。


教室の誰もが目を見張る中、優希は先生に指定された席へと移動した。


「よろしくね」


そう言って優希が腰かけた席は柚木の隣。


不覚にもドキリとしてしまった柚木は、顔を赤らめながら、


「よ、よろしく…」


と消え入るような弱々しい声で答えた。


ゆうきちゃん、て言うんだ…


ちらりと隣に視線をやると、ほんのりとピンクに染まった膝小僧が、ショートパンツから覗き、その少年のような姿が、また更に柚木をドキリとさせた。


女の子…だよね?


同じクラスの女子は皆髪を伸ばし、三つ編やポニーテールをして着飾っている。


しかし優希はそんな飾りさえ必要ないほど、可憐で、可愛らしく見えた。



(ねぇ、優希ちゃん、可愛くね?)



ざわざわと騒がしい教室に、ぽつりと落とされた声に、柚木はぴくりと反応した。


首を回してそちらを見ると、二人の男子がこそこそと優希を盗み見ている。


(今までにないタイプだよなぁ)


もう一人の男子も優希にちらちらと視線を走らせる。


同年齢とは思えないほど整った容姿に、やけにこざっぱりとした飾らない格好。


普通小学校低学年だと、大抵の女の子はスカートを履きたがるものである。


やたらとヒラヒラするそれは、服としての機能を果たしていないときもしばしば。


しかし優希は、そんな『普通の女の子』とは、明らかに何かが違っていた。


柚木は教室を見渡して、そんな女子たちを確認すると、もう一度優希に視線を戻した。


うん、やっぱり何か違う。


そこには他にはない、凛とした空気が佇んでいるようだった。


「ん?どうかした?」


不思議そうな顔をして、ふいに優希が振り返り、あまりに驚いて、柚木は目を丸くしたまま、びくりと固まった。


さらさらと風に舞う髪が残像のように優希を追いかけ、柚木の真正面で留まる。


光を反射した影がぴたりと止まると、柚木ははっと優希に焦点を合わせた。


「な、なんでもないよっ」


首を傾げる優希にカァッと顔を赤面させ、柚木はぶんぶんと首を振った。


優希は、そう?と呟くと、また正面を向く。


丹精な横顔は、何か難しいことでも考えているみたいに、僅かに眉を寄せている。


未だドギマギする心臓を手で押さえ、柚木はふひぃ、と情けない声を上げた。


わぁ、びっくりしたぁ。


優希と目が合うだけでも、体温が上がるような感覚がする。


きっと顔、真っ赤になってるんだろうなぁ。


柚木は自分の手のひらを頬にあて、そのひんやりした感触にうっすらと目を閉じた。


バクバクが止まんない…


情けないな、男なのに。


うぅ、と呻くと柚木も優希にならって正面を向いた。


緑色の板に、白い粉が文字を書いている。


あれ?


黒板の隅っこに、「ゆずき なおふみ」という文字を見つけて、柚木は小さく首を傾げた。


ぽつん、と書かれたその上には、「日直」の文字。


あ!


途端現実に戻された頭に衝撃を受けて、柚木はバカバカバカ、と自分の頭をポカンと殴った。


そうだ、忘れてた。今日日直じゃないか!


すっかり忘れていた事実に驚愕して、柚木はさらにもう一度頭を殴った。


学級委員長がしっかりしなくて、どうするんだ!


別に自分から立候補してなったわけではないのだが、普段忘れかけている学級委員長の役割を再度思い出し、顔をキリリと引き締めた。


一応クラス代表だし!


ふんっと鼻息荒く姿勢を正すと、視界の端に優希が映った。


愛らしく微笑んだ彼女は、どうやら柚木を見ているようだ。


柚木が疑問に思って、そっと首をそちらに振ると、


「君、おもしろいね」


くすり、と優希の桜色の唇がほころび、柔らかな光を湛えた瞳がゆっくりと細められた。


色素の薄い茶色の目は柚木を真正面にとらえ、その視界いっぱいに自分の顔が写りこんでいるのを見て、柚木はボッと顔を赤くする。


ほ、褒められた!?


高鳴る心臓に手を押し当てて、柚木はスーハーと深く息を吸い込む。


何だかやたら心臓がうるさい。

これじゃあ優希ちゃんの声がちゃんと聞こえないじゃないか!


「あ、ありがと…」


赤い顔を見られないよう、ほんの少しうつむいて、上目づかいに優希を見る。


優希はそんな柚木を見て、にっこりと笑うと、


「学級委員長、頑張ってね」


と、きゅっと柚木の手を握った。


「う、うん!」


慌てて握られた手をもう片方の手で握り締めて、柚木は大きく首を縦に振った。

過去編早すぎだってば!


なんて言わないでください;;

柚木を休ませたいんです…(女装美人とゴスロリータに追われ続けるって辛いと思うんですorz


三話ほど過去編が続きますが、今後の物語にもかかわってきますので、気長にお付き合いくださいませ^^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ