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眠れる教室の美女

続けて投稿なり〜

目の前に気持ちよさそうに眠る優希の姿がある。


柚木はそんな優希の寝顔を横目に見つつ、後で彼に説明してやれるよう、まどろみかけていた頭を叱咤した。


黒板に羅列する数字と記号が、涙の滲む瞳に痛い。


さらさらと、教師の言うことをメモしながら、机に散った長い髪を指ではじく。


きちんと手入れされているらしく、根元から先まで艶のある髪がふわりと主のもとへ戻った。


黙ってれば女だな。


どこで覚えてきたのか、優希の化粧は完璧。


男の身長で色白で細身。さらに大人びた美貌を持つ優希は、さながらモデルのようである。


口を開けば男だけど。


柚木は一人称が俺、の麗しき友人を見て微苦笑する。


声はハスキーボイスだと言えば、女でも通りそうである。


優希は男にしてはやや高め、女にしてはやや低めな声をしているから、正直声でバレることはないと思う。


それにしても…


柚木は友人から目を逸らしつつ、ほっとため息をついた。


俺の右腕を枕にするのはやめてくれないか。


すやすやと寝息さえ聞こえてきそうな顔に眉根を寄せて、左人差し指でコツンと額を小突く。


柚木は左利きだから、右腕が塞がっていてもノートは取れる。


しかし起こすのは可哀想だからと我慢し続けた腕は、すでに臨界点を突破していた。


「んにゃぁ…」


甘ったるい声が隣から聞こえてきて、痺れた腕を転がる頭が刺激した。


男が出す声じゃねぇよな…


シャーペンの頭で優希の頬をつつくと、ぴぴゅぅと溜まった空気が細く開いた唇から漏れでる音がする。


ほんのりとオレンジのチークが載せられた頬がしぼんで、どんな夢を見てるんだか、口元に小さな笑みが浮かんだ。


ほんとにもう。


女なら無防備とも言えるあられもない姿で無邪気に眠る友人は、男だから無防備とは言わないのだろうか。


しかし女装をした優希の胸元は谷間さえないものの、どきりとするほど色っぽい白い肌が覗いている。


男だと知らない世の男どもなら間違いなく襲うぞ。


柚木は重い溜息をひとつ吐き出した。


何だかいろんな意味で俺も我慢の限界だ。


いい加減集中出来なくなって、柚木は優希の頭の乗る右腕を無造作に引いた。


ガンッ


「いデッ!」


紛れもない男の声が隣から聞こえる。


小さく呻くように頭を抱える友人は、何かを訴えかけるように柚木を見上げた。


「柚っちぃ〜…」


うぅぅと目を潤ませて見つめられても困る。


柚木はそんな優希には目もくれず、そろそろまとめに入りかけている授業に耳を傾けた。


「男なら泣くな」


そう冷たく言い放って黒板に目を移すと、優希は抗議することを諦めたのか、ぐすっと鼻をすすって押し黙った。


ちらりと横目で優希を確認すると、額にはくっきりと赤い跡。


どうやら先程ぶつけたときに出来たものらしい。


凄い音だったからな。


視線は黒板に固定したまま、柚木は優希の頭を撫でてやった。


ぴくりと僅かに優希の肩が揺れたが、それ以上の反応は返ってこない。


柚木はそんな優希に苦笑して、そのまま頭を撫で続ける。


こういうことするから誤解されるんだよな。


柚木は先日執行部の女生徒から、優希との関係を聞かれたことを思い出し、渋面を作った。


優希は親友だ。そして男だ。


確かに見た目的には問題ない…いややっぱり問題あるだろう。


それに、そもそもそういう趣味はない。


そう言い聞かせて柚木が優希を見ると、優希はどこかほわんとした表情であらぬ方向を見ている。


あ、やべ。やりすぎた。


柚木が慌てて優希の頭から手を離すと、優希は未だ夢見心地なとろんとした目で、黒板を見つめていた。


昔から、優希が拗ねたり怒ったりしたときには頭を撫でてやるのだが、いつからか柚木が頭を撫でるときだけ、どこか惚けたような顔をするようになっていた。


お前は犬か。


ぺしぺしとシャーペンで優希の頬を叩くと、優希はご満悦な様子でにっこりと笑い返してきた。


その笑みはどんな男でも落ちてしまうのではないかと思う程の、絶対的効果を持っている。


柚木は満面の笑みで返してきた友人に、ぞっとするものを感じ、ほんの僅かに腰を浮かせた。


「もしかして」


優希の顔が微笑みから、にやりとしたイヤらしい顔に変わって、その様子に柚木は嫌な予感を抱く。


「寝てる俺に欲情した?」


ゴスッ


「――…〜っ!」


頭を抱えて蹲る友人を見降ろして、柚木はさっさと席を立ちあがる。


ややフライング気味に立ち上がった柚木に、教室全体の視線が一瞬集まるが、それもすぐに散っていく。


柚木は適当に荷物をまとめると、未だ机につっぷする優希を放って、教室を出た。


段々怪しい方向へ…^^;

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