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美女と平凡男子

興味を持っていただいてありがとうございます^^

こちらは一度『豆カン。』にも投稿させていただいているので、読んだことがある方もいるかもしれません。

読んだことのある方は、第二話からお読みくださいませ♪

「全てを力で押し通すなんてナンセンス」


すらりと長い足を組み替えて、優希(ゆうき)はそう呟いた。


長くさらりと肩に流れ落ちる黒髪は、光に照らされて薄く茶色の光沢を放っている。


「ここを使わないと」


にこりと不敵に笑いながら、コンコンと自分の頭を指差してみせる様は、世の男共を落とすには十分な威力があるに違いない。


柚木(ゆずき)は、はぁ、とため息をつくと、優希の微笑みに誘われて振り返った男共に同情の目を向けた。


こいつは男だ。


届かないと分かってはいても、心の中でそう呟かずにはいられない。


優希は女装趣味があるが、それはすでに女装の域を超えているといっても過言ではない。


時折、ほんとにコイツは男なのかと、付き合いの長い柚木でさえ考えてしまうほどだ。


「そうは言っても、力で押し通すことも必要だろ」


柚木は優希から視線を外して、窓の外へ目を向ける。


そこには初夏を思わせる新緑の木々が、大通りの両側に規則正しく並んでいた。


「そんなん言ってたら、女の子にもてないぞー?」


にやにやと笑っているのがガラスの反射で分かる。

いやガラスなんかなくても、大体コイツの行動は分かるのだが。


「柚っち、結構かっこいいのに。なんで彼女いないかなぁ。あ、何なら俺なったげよか?」


流し目をするな、気持ちわりぃ。

それに今はそんな話をしてるんじゃないだろう。


柚木は窓ガラスに映る自分を見た。


さっぱりと纏められた短めの黒髪に、細い銀フレームの眼鏡。

世界に三人どころか十人はいそうなくらい、平凡な顔をした男がそこには映っている。


こんなんのどこがいいんだか。


ふっと息を吐き出すと、顔にかかっていた髪がふわりと散った。


元々優希が女装をし始めたは、女にもてすぎて嫌になったからだと聞いている。


だから優希はゲイではないし、両刀遣いでもない。


女装をしてはいるが、普通に男だ。


男から言われたんじゃ、全然なぐさめにならねぇよ。


そう苦笑して、柚木はそれよりも、と話を無理矢理繋げた。


「それよりも、さっきの続き」


「あぁそうだったね」


優希はそう言うと、ごそごそと資料の山に埋もれてしまった紙切れを、一枚引っ張り出した。


紙には一番上に大きく、「大学祭について」と明記されていて、右端に正規文書らしく「執行部員各位」、とある。


柚木は執行部の部長をしているが、それもこれも全て、今この目の前に座る見目麗しい男、佐久間優希による画策の賜物である。


そんな優希は執行部副部長だ。


はぁ、と深く溜息をついて、柚木は優希からひょいと紙を取り上げた。


「去年までって、予算どれくらい出してもらってたんだったかな」


優希の方を見ずに呟いて、紙に再度目を通す。


そこには大学側から執行部に対し提示された、大学祭までの大まかな日程が書かれていた。


と言っても大まかなもので、この大学ではほとんどが生徒に委ねる形をとっており、それゆえに大学における一大イベントとして、この大学祭は生徒の中で重要な位置を占めていた。


優希はまたごそごそと机をあさり、一冊の冊子を取り出す。

『予算報告一覧』


「なんだか結構もらえるみたいだけど。やっぱ力で搾りとったりしないで、去年と同じくらいにしといたら?」


「そうだなぁ」


柚木はじっと紙に視線をやって、予算報告案提出の期限を確かめる。


それはもう一週間後に迫っていた。


正直、大学祭について、柚木は何も知らない。


大学祭の計画、実行が執行部の主な活動にあるにも関わらず、柚木はどこのサークルにも所属していないため、去年は家で過ごしていた。


―なんで俺なんだか。


予算案を真剣な表情で睨みつける優希を見て、柚木は小さく笑った。


優希との付き合いは長い。


小学校からの付き合いで、一度は中学で離れ離れになったものの、また何の運命か、高校で再会した。


そして大学、二人は同じ学部に入学した。


一緒に登校するときの、周りの視線が痛いんだよなぁ。


何もない空中に、その時の情景でも映っているかのように、柚木は視線を放る。


優希が街を歩けば誰もが振り返る。それくらいに目立つ。


それが美醜に関わる問題であるのは、疑いようもない事実である。


白くて細い指を顎に添え、ぶつぶつと何かと唱えている優希はどこをどう見ても女にしか見えない。


まさかこれが男であるだなんて、夢にも思わないだろう。


―俺も、騙されたしな。


ふっと口元に笑みを載せると、優希がそれに気づいたのか、ん?と小さく首を傾げた。


あぁ世の中の男はこの破壊力ある仕草に、どれだけ耐えられるだろう。


「ほんと、男に見えねぇよ、お前」


こんっと机の下で、優希のハイヒールを蹴ってやると、頬杖をついていた優希がばたんと書類の山に突っ込んだ。


「―…っ!何すんだよ、ばかぁ!」


ぐしゃぐしゃになった『予算報告一覧』を柚木に投げつけ、優希が顔を真赤に、殴りかかってくる。


あーあー化粧が崩れる、崩れる。


柚木は『予算報告一覧』を適当に皺伸ばしし、机に肘をついて、優希を見上げた。


「そうしてなきゃ男に見えない」


真面目な顔で優希を真正面から見据えて言うと、優希はきょとん、と柚木を見て、上げていた手をぴたりと止めた。


見る見る赤く染まる優希を見て、こういうとこも女っぽいよなぁ、なんて思ってみたりする。


「そ、それでほめてるつもりっ?」


かぁぁと頬を染めて、優希が長い黒髪を、顔にかぶせるように手でかき寄せる。


「さぁ、どうでしょう」


柚木はそれだけ呟いて、にこりと笑う。


優希はすっかり戦力を喪失したかのように、手を引っ込めて向かいの椅子に沈んだ。


それを確認して柚木は、横目で窓に視線を向ける。


外を見ると、すでに世界が暗闇に沈んでいた。


そろそろ帰らなくては、家に着くのが遅くなる。


すっと席を立つと、優希がそれにすぐ反応して机の上を片づけ始めた。


とんとん、とばらばらになった書類をまとめ、優希も同じように席を立つ。


簡単にまとめた書類の束を、優希が鞄に入れたのを確認し、柚木がすっと伝票を取ると、優希もおとなしくそれに従う。


会計を済ませ、扉を押して外へ出た。


空を見上げると、まだほんの少しだけ残った赤い空が、ゆっくりと藍色に染まるころだった。


「俺、やっぱり柚っちの彼女になりたいなぁ」


ぼそりと呟かれた言葉に、柚木は微かに苦笑する。


「ん、ありがと」


ぽんぽんと頭を撫でてやると、優希が少しはにかんで、俯いた。



空が完全な暗闇に姿を変えた。



柚木は優希の荷物を預かって、駅に向かって歩き出す。


寄り添うことも、手をつなぐこともなく、少し離れて歩く二人は、決して交わることはない。


それでも暗闇に並んだシルエットは、さながら愛し合う恋人同士のように



そこにあった。


BL…じゃないですよね?^^;

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