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字融落下

字融落下 ―林檎飴の予感―

作者: 莞爾

「林檎飴」

 そういって右手に持ったりんご飴を、ベンチに腰掛けている僕に向かって彼女は差し出す。髪を結い上げて浴衣を纏う女性が多い中、彼女はパンツスーツ姿で髪を垂らしている。

 川辺に向かって備え付けられたベンチから見える景色は、火照りの鎮まった夏の夜と熱に浮かされた祭りの屋台の灯が見える。それはこの川の堤防に沿って並んでいた。

「一口食べる?」

 言葉を繋いで僕に促すが、彼女の住む地域での祭りは僕に馴染みがなく、疎外感を感じていた。さらに言えば僕は祭り全般に馴染みが無い。少し歩き回っただけでいやに疲れてこうしてベンチで座っている。

 林檎飴は齧りかけで赤い下弦の月のようだ。僕は林檎飴の食べ方を知らない。要らないと伝えるため、彼女の顔に視線を移動させる。


 ばっ。と、彼女の頭が破裂した。


 実のところそんなことはなく。ベンチに座る僕の眼球と、前に立つ彼女の顔を直線で結んだ視線の向こうで打ち上げ花火が大きく開いたのだ。

 夜の空に音を置き去りにして拡散する彼女の肉片、脳漿、頭骨。夏の夜を彩る彼女の欠片。

 無音の中。破裂したように見えた彼女の顔、花火によって陰が浮き出て黒く塗りつぶされた輪郭にしばらく声もなく驚いていた。後から訪れる爆発音に腹を揺らされて僕は意識を持ち直す。

 林檎飴を差し出したまま僕の様子を伺う彼女。目の前にある赤く濡れたように光る林檎飴も、彼女の一欠片のように見えて少し戸惑う。しかし、要らないと伝えることが不吉なものを呼ぶ起因となる予感がして、僕は林檎飴を一口齧る。

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