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俺が気持ち悪くて仕方がない

作者: クヤ

 「こんにちは」

 

 彼女、ヒロインのそんな何気ない挨拶を聞くだけで、心が弾みだす。

 彼女は確かにかわいい。貴族社会からしてみれば絶滅危惧種のような素朴な可憐さだろう。

 自分の婚約者は、どちらかというと正統派貴族令嬢なので物珍しく感じても不思議ではない。

 だが俺は婚約者を愛していたはずだ。

 ちょっととげとげしい態度も、意外と押しに弱いところも、気が抜けた時だけ見れるほっとするような表情を。

 だが、なぜ彼女に会うたびにこの感情を感じる?

 近くに居れば自然と目に追うようになった。

 彼女の周りにいる男たちを見ると、黒々しい感情が湧いてくる。

 俺はどうしてしまったというのか、俺はおかしい。

 おかしいことが分かるのに、自分が止められない。

 婚約者の不興を買うことが分かっている。常識的におかしい。

 きもちわるい。

 まるで自分ではなくなってしまったようだ。

 子爵家の次男である俺は、公爵家の一人娘である婚約者にふさわしい人間であるために、学園でも努力を重ねてきた。

 本来、俺のような人間とは住む世界が違うはずの婚約者。

 たまたま領が近く、たまたま同年代であったから遊び相手として俺は頻繁に公爵家に預けられていた。

 父と公爵がどういうわけか知己を得ていたことも大きかったろう。

 どうやったら、公爵とマブダチになるんだ父よ。

 そして、婚約者と仲良くなるのに時間はかからなかったし、お互いに恋心を抱くようになるのも自然なことだったのかもしれない。

 だがどう考えても身分が釣り合わない。

 俺は諦めていた。婚約者も諦めていた。

 だが何の間違いか俺は婚約者と婚約することに成功してしまった。

 運が良かったとしか言いようがない。

 公爵家の親族は最近権力者たちと婚姻を結ぶことが多く、これ以上力を持つ婚姻は貴族界では許されない空気だった。

 そしてそこにぽつんといた。たまたまいた。

 娘となかがよく。お互いに好き合っており、娘と一緒に勉学に励んでいたために公爵家としての教養を備えており、なおかつ結婚しても影響力など雀の涙の子爵家の次男が。

 かくして俺たちは婚約した。

 そう俺は婚約者が好きだった愛している。

 だが、俺はヒロインへと心が傾きつつある。

 そしてまた今日も、彼女とお近づきになるために談笑を始めていた。

 その時である。婚約者の寂しげな横顔が目に入った。

 そのほほには、何かが通った跡があった。

 もう駄目だった。俺は俺ではなかった。

 ヒロインに心惹かれる気持ちを無視して、俺は婚約者の元へ近寄ると、「すまない」そういってその場を後にした。

 

 そして自分を信じられなくなった俺は、初めて学院を休んだ。

 寮に用意された自分の部屋から、一歩も出ないことを決めた。

 簡単に言うと引きこもりになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮の部屋には様々な人が見舞いに来た。

 だが一人たりとも部屋に上げることはなかった。

 心配してくれたみんなには悪いが、俺は自分ではない自分が恐ろしい。

 ヒロインが来た時や、婚約者が来た時にはぐらついたがどうにか意志を貫いた。

 どちらか片方でも迎え入れてしまえば俺はきっとまたダメになる。

 貴族でよかった。食事を運ばせることも手紙を持たせることも、部屋の中で完結することができる。

 そしてそのまま一か月が過ぎた。

 教師には、病欠をすることを伝え、忘れるためにもと莫大な課題を要求した。

 教師たちには悪いことをしたと思うが、それで金をもらっているのだからせいぜい頑張ってもらいたい。

 すでに、見舞いに来るのは婚約者だけになっていた。

 俺の人望なんてそんなものだ。

 だけど婚約者だけは来てくれた。俺を、ひどいことをしていた、している俺を心配してくれている。

 俺は安心した。彼女が俺を見限っていないことを。

 そして婚約者が好きだと言える自分に。

 婚約者は返事もしない俺に、扉の前からその日の出来事を報告してくれた。

 だんだんと、学院の空気が悪くなっているらしい。

 それも当然か。俺以外にも、ヒロインに首ったけになっていたものが多く、なおかつ婚約者が幼少からいるような身分の高いものばかりだ。

 ここまでくれば何かがおかしいと気づきそうなものだが、俺以外に脱出に成功したものはいないようだ。

 その俺ももう一度、ヒロインの前に立てばどうなるかはわからない。

 婚約者の声も暗い。いや、精一杯いつも通りに振舞おうとしているが、長年連れ添ってきた俺には通じない。

 俺は久しぶりに声を出した。

 

 「大丈夫か?」

 

 彼女は驚き、今度は本当に明るく大丈夫だと言った。

 声を発しただけで喜んでもらえることに、俺の心は温かくなった。

 それから俺は扉越しではあるが、彼女と会話をするようになった。

 いや、できるようになったが、正しいのかもしれない。

 

 そしてまたひと月が経った。

 教師たちにバカみたいに課題を出させていたせいか、もう勘弁してくださいと泣きが入った。

 採点するのも楽じゃないしな。そう思ったのだがどうやらすでに全課程をだいぶすぎるほどまで終わってしまったらしい。

 通りで最近、自由論文系や、自由工作系などに縛りを加える方向の課題が多かったわけだ。

 体を動かさねばならないものがあったが、引きこもる前までのそれで問題ないだろうとのことだった。

 こういう時いつも思うのだが、貴族って楽だな。

 すでにいつも婚約者が来る時間なのだが、現れない。

 もしかして俺は嫌われてしまったのだろうか。

 心に絶望が忍び寄ってくる。

 その時メイドが扉を開けて、駆け込んできた。苦言をとそう思ったのだが、その顔の余りの必死さにとりあえず水を出して言いたいことを言わせた。

 

 「坊ちゃま!大変でございます!」

 

 お前が大変なのは見てれば分かるんだよ。あと坊ちゃまいい加減やめろ。引きこもりにそんなことを言う権利はないので黙っているが。

 

 「アイリス様がっ」

 

 吐けっアイリスがどうしたというのか!今更だがアイリスという名が婚約者の名である。

 泡吹いてねえでとっととしゃべれ!

 胸倉掴み上げてしぇいくしてやったら、そのまま気絶しやがったので時間がもったいないとベッドに投げ捨てると、アイリスを探しに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしには婚約者がいる。

 少し前まで、周りにいるこの男たちと同じように、ヒロインの取り巻きとなっていた婚約者が。

 幼いころから共に育ち、でも身分の差から結ばれることはないだろうなと思っていたら、うっかり婚約していた婚約者が。

 私を放って、他の女のご機嫌取りをしていたことにもちろんわたしは怒っていた。

 いつものようで何かが違うそんなあいまいな笑顔でのらりくらりと言葉をかわしてしまう彼。

 ある日ヒロインと楽しそうに談笑する彼を見て、不意に悲しくなってきて涙を落としてしまった。

 慌ててふき取ると愕然とした表情の彼がいて、私に近寄ると耳元で「すまない」とだけ言って去って行った。

 その日から彼は引きこもった。

 

 当然連れ出すためにわたしは彼の部屋に行ったが、彼はメイド以外を決して部屋に入れない頑なさであった。

 むしろ一声すら発さない。

 ほんとはその部屋にいないのではないかと疑うほどである。

 しかし日々、大量の課題が運び込まれ、そして、解答されて出てくるを見るに中にはいるらしい。

 仕方がないので、扉の前から話しかけることにした。

 彼は取り巻きになる前は、要領が良かったために、結構な彼を心配する人間がいたがわたしのために遠慮してもらった。

 ひと月もたつといい加減疲れてきたが、これはどちらかというと、最近の学園内の空気のせいである。

 わたしが扉の前で話し始めると、何やら作業していた音がぴたりと止まり、いそいそと扉の前へと移動する気配に気づくとむしろ話すことは楽しくなっていった。

 だけど声のどこかに疲れがにじんでいたのか、彼の声を久しぶりに聞けた。

 

 「大丈夫か?」

 

 声の調子でわたしのことが分かるとは、さすがわが婚約者である。

 本人には絶対に言ってあげないけれど。

 彼の声を聞いて、元気が出てきたわたしは大丈夫だといった。

 そして彼は安心したような声音で「そうか」といった。

 彼の声を聞いただけで、こんなに元気になってしまうわたしはなんてちょろいのかと自嘲しながら、やっぱり彼のことが好きなんだなあと再確認した。

 それからはなんと彼の方から話しかけてくれるようになったのである。

 大いなる進歩だ。

 まだ扉の向こうからではあるのだけれど。

 

 そしてまたひと月が経とうとしていた。

 少し前から教師に泣きつかれていたのだけれど、最高学府の教員なら給料分きっちり働けとけつを叩いていたのも既に限界だったらしい。

 無言で彼の課題提出物を差し出すと、見なさいと促された。

 しぶしぶ、確認してみるとちょっと意味が分からなかった。

 どういうことかと教師に聞くと、既に教育課程のすべてが終わってしまっているのだとか。

 それでもと課題を急かされるので、時間稼ぎもかねて冗談で誰もできないとされている賞金付きの数学問題を証明しろと渡すと、時間がかかったものの普通に返ってきたそうな。

 これを受けて教師たちは戦慄した。その後さらに冗談であったら便利だけどむりだろという魔道具の設計をさせてみたらしい。

 いたって普通に完成した。メイド曰く最近のは難易度が高くて面白いといっていたそうだ。頭が痛い。

 昔から頭がいいとは思っていたがこれほどだっただろうか。

 よくよく考えてみると符合する出来事がぽろぽろと脳内を駆け抜けていく。

 実家で勉強している私の隣で応援していただけのはずの子供が、いつの間にか同程度の教養を身に着けていたりだとか。

 公爵家の婿として、努力は怠れないとか言って、教科書全ページ丸暗記していたりだとか。

 木の高さってどれくらいだろうと、習いもしない三角関数ではじき出していたりとか。

 私は考えることをやめた。わたしの旦那さまってすごい。

 

 よって、無言で教師たちの肩を叩く。あんたら頑張ったよ。

 もう正直に言って。課題とかなくても卒業できるようにしとけよ、な。

 課題がなくなれば外に出てくるかもしれないし。

 

 そして今日も、彼のところへと行こうとしたらヒロインとその取り巻きに呼び止められた。

 なんでも話があるらしい。

 私以外にも彼らの婚約者や友人のいくらかが集められておりこれからいったい何が始まるのだろうと、好奇心に駆られた者たちで思った以上に大騒ぎになっていた。

 

 「少し聞きたいことがあるのだ。実はだなヒロインがどうにも最近いじめにあっているらしく。その容疑者を集めさせてもらった」

 

 何を言っているのだろうか。頭が理解を拒否した。

 いじめとは何だったのか。

 

 「まず初めにパーティでドレスが引き裂かれた件についてだ」

 

 「あ、それうちのせいやわ。ごめんなあ。いきなり駆け寄ってこられたからアクセの留め金に引っかかってもうてなあ。こうびりびりっと」

 

 「認めるのだな」

 

 「そりゃあ。別にうちのせいでもないけれど。破いてしまったのはうちやしなあ。あの後代わりのドレス送っといたけど届いた?」

 

 確かに駆け寄ったほうが悪いですね。うん。それでも代わりのドレスを送るなんてできた人だわ。

 

 「次に、彼女のアクセサリーがなくなった件についてだ」

 

 これは誰にも心当たりがなかったそうで、ざわざわとしている。

 

 「クリスティーナ君のしているそのペンダントだ!」

 

 「えっこれは殿下が下さったのではないですか?」

 

 「知らん」

 

 クリスティーナさんは狼狽している。くれた人間に弾劾されているとか意味が分からないだろう。

 当然だ。

 

 「最後に周りのものを使って彼女へと嫌がらせを繰り返したアイリス!」

 

 最後はいやがらせですか実際にあったんですかね?

 既に頭が痛いのですが。

 

 「アイリス!」

 

 「わたくしですか!?」

 

 予想外だ。いやたしかに話があるとわたしも呼び出されましたし。

 

 「証拠もある」

 

 「わたしぃアイリス様に命令されて仕方なくぅ」

 

 なんて頭が軽そうな。そもそも、

 

 「どちら様ですか?」

 

 おかしいですね私の交友関係の中に、彼女はいないのですが。

 

 「見苦しいぞ!素直に非を認めよ!」

 

 「あら、さすがに知らないことはどうやっても認められないのですが」

 

 

 「貴族として恥ずべき行い。許すまじ!貴様らは婚姻が破棄される、実家にてそれ以外の沙汰を待つがいい」

 

 婚姻が破棄……。えっ?

 

 周りの叫びも何もかもが頭に入らない。

 なぜ。どうして。そんなこと。

 私の心は、散り散りに千切れてしまいそうだった。

 彼が了承したのだろうか。

 最近の彼はおかしい。引きこもってしまうほどに、でも、だからって、そんな。

 そんな、ことが、ある……はずが……。

 ないと言えるのだろうか。

 混乱した頭は、それがあり得ないと言い切れないとわたしに伝えてくる。

 嫌だ。とても嫌。

 私の彼。

 私がわがままを言うと困った顔をして、結局ほだされてしまう彼。

 無理やり手をつなぐと、ムズムズと恥ずかしげに、でも、決して自分から振りほどこうとしない彼。

 私に向けられる優しげな横顔。

 嫌だと声を出そうとした。彼は私のだから。絶対に誰にも譲りたくないから。

 

 その時ふわりと温かい何かがわたしを包み込む。

 

 「勝手に人の婚約、破棄しないでくれますかね?彼女は俺のなので」

 

 そこには彼がいた。

 私の婚約者の彼が。私は彼の腕の中で、そのぬくもりに、体温に、臭いに、涙が流れた。

 

 「情けない男でごめんよ。また、泣かせてしまったね」

 

 彼はいつもそうするように私の涙を拭った。

 

 

 

 

 

 部屋を脱出すると、近くにいる人間を片っ端から締め上げて目的地を探した。

 メイドがあれほど慌てていたということは、それなりの騒ぎが起きている、或いは起きそうなはずだから、数人も締め上げれば情報が入ると判断した。

 寮で締め上げた連中は何も知らないようなので早々に開放し、学内へと向かったそこで耳にしたのはヒロインとその取り巻きがアイリス他数名を連れて、ホールへと向かったという。

 嫌な予感しかしなかった。

 不思議とあれほど心奪われそうなヒロインへの感情は沸いてこなかった。

 ただアイリスが心配だった。

 

 ホールの扉をくぐる前に、全力疾走で乱れた息を無理やり整える。

 たまたまポケットに入っていた薬も使った。体にいいとは言えない。

 

 ホールで俺が目にしたのは、なぜか了承もしていない婚約破棄を勝手にされていて、アイリスが崩れ落ちそうになるところだった。

 俺は慌てて彼女を後ろから支えるように抱きしめると言った。

 

 「勝手に人の婚約、破棄しないでくれますかね?彼女は俺のなので」

 

 そう彼女は俺のものなのだ。絶対に手放してやるものか。

 いやだと言っても逃がさない。

 この数か月でその思いは強くなった。

 こんなに情けない俺も、彼女がいればきっとまともな人間でいられる。

 腕の中の確かな温かさをもう二度と忘れない。

 

 「情けない男でごめんよ。また、泣かせてしまったね」

 

 彼女は泣いていた。

 感情が高ぶりやすい彼女は、昔よく泣いていたものだ。

 しかし、最近彼女を泣かせたのはいつも俺だった気がする。

 情けなくて、本当にすまない。

 

 「ホープ!ヒロインに嫌がらせしていたそいつを庇うと言うのか!」

 

 「彼女がそんなことするわけないじゃないですか。そんなに暇じゃありませんよ」

 

 なにを言っているのだろうかこの王子は。

 

 「証拠がある!」

 

 「どこに?」

 

 特に証拠になりそうなものを持っているとは思えないんですが、だって手ぶらじゃないですか。

 

 「そこの女生徒だ」

 

 言われて見やればなんというか頭が軽そうなというか、お前らの取り巻きで見た記憶があるんですが、それは。

 

 「わたしぃアイリス様に命令されて仕方なくぅ、ヒロインさんに嫌がらせしてましたぁ」

 

 意味が分からない。分かる人間がいるのだろうか。

 アイリスの様子を見る限り知り合いでもなさそうなアレに証言能力があるとでも?

 しかし、何故か男連中はそれを擁護すかのようなことを言う。

 改めて外側から見てみると、寒気しか感じない。

 俺もあそこにいたのか。

 

 「ホープ君。ヒロインのこと疑うの?ひどいわ……」

 

 改めてみてみると確かにかわいくはあるけど、何故こんなのと彼女を天秤にかけようとしていたのだろうか。

 何故かすさまじい非難を浴びる俺。

 あいつら一体なんなんだ。頭がおかしくなっているとしか思えない。

 

 「疑う?俺はアイリスがそんな無駄なことはしないと知っているだけだ」

 

 彼女はやるなら徹底的にやるはずだ。こんな半端な逆境に立つなんてありえない。

 心も壊れてない癖に嫌がらせを受けたなんて信じられるわけがない。

 せめて猛禽の噛みあとぐらいは体にあるはずだろう。

 

 とりあえずこいつらに話が通じないことは分かった。

 処分とか沙汰とかなんだかんだ言っていたが、彼らがしていることは国を割ることだと思う。

 だって公爵令嬢、辺境伯令嬢、侯爵令嬢たちを侮辱しているのだから。

 彼女たちが親に泣きつくと国の半分以上が国に敵対することが目に見えている。

 仮にも王太子のくせにこんな浅慮なまねをしたのだから、暗殺されても文句は言えまい。

 彼女たちを人質に取られる可能性もあるから公爵邸に連れて行こう。

 実家にてとか言っていたが無事に実家に帰りつけるとは思えない。

 

 慌てて出てきたから、装備が心もとない。

 課題終了になるまでに出ていた課題のアイテムが少々といったところか。

 時間との勝負か。

 

 「お互いに証拠がないようなので、殿下のおっしゃる通り実家にて沙汰を待つことにいたします」

 

 俺は彼女たちを促し退出することとする。

 

 「ねえホープ。なにがどうなっているのかしら?」

 

 「分からないが、ここに居ても無駄ということはさっきの問答で分かっただろう」

 

 「これからどうするの?」

 

 「荷物を取りに行っている暇はない。急いでここを脱出するぞ」

 

 「なあ、それうちらもついて行ってええか?」

 

 「ええ、そのつもりです」

 

 「あんがと。ほらクリスティーナもいつまでも呆然としてんとしっかりしい」

 

 「殿下がぁ殿下がぁ」

 

 「こらあかん。完全に折れてまっとる」

 

 「そういうのは後にしましょう。ついてきてください」

 

 そう言って俺は、公爵領まで逃げ出すために考えを巡らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしたのホープ?」

 

 「いや少し昔を思い出していてね」

 

 「昔?」

 

 「ああ、学園大脱走しただろ?」

 

 「あれは大冒険だったわね。今でもたまに夢に見るわ」

 

 「大変だったからな」

 

 「大変にしたのはホープでしょう?舌をかまないように猿轡渡されたのは初めてだったわ」

 

 「仕方ないだろう?ホープレイMKⅡを使うのが一番だったんだから」

 

 「ええ、結果的に間違いなく正解でしたけどね」

 

 ホープレイMKⅡ。昔から理論実証用に主に廃材からコツコツ作りあげ、学園の貸倉庫でほこりをかぶっていたあれ。

 乗員四名最大速度は何キロ出るんだったか、公爵邸についた時は俺以外全員気絶していたな。

 最初は、乗務員に気を使ってそれなりの速度で走っていたが、こちらの考えすぎであればよかったのに暗殺者が襲い掛かってきた時に、その縛りを捨て去った。

 急激な加速による圧倒的な速度と車体に刻まれた魔術式により発生した空気のバリアによって何物にも害されないようになったそれで、立ちふさがったすべてをなぎ倒した。

 あれは楽しかった。アイリス以外はあっという間に意識を飛ばしてしまったが。

 つらい時間は短い方がいいだろうとそのまま飛ばしてその日のうちに公爵領へと到着したのは笑い話だ。

 

 そして公爵達とともにクーデターの準備をしていたら、殿下含む彼らが粛清されたと報告が入った。

 ヒロインが何かしていることは俺にも予想がついていたが、それがなんであるかはわからなかった。

 だから王都は奴の手に落ちたものとして準備していたのだが、どうやら俺が課題で作ったありとあらゆる魔法を防ぐという無茶振りの結果完成した魔道具によって、その何かは防がれそのまま粛清されてしまったそうだ。

 オートで影響範囲内で人体に外部から干渉するすべてを無効化する仕様だったためか、それが起動したことに気が付いた者たちによって、彼らは打ち取られた。

 如何をしている時間はきっとなかっただろう。発動するとえげつない魔力を急速に消費してしまうから。

 できたものの使い道は絶対にないと思っていたものに、意外でもないが使い道ができた。

 そして調べを進めて、色々不味いことが分かったので王都から謝罪の使者が現れて土下座していった。

 なんでも、異性にだけ効果のある発見されていなかった洗脳魔法が使われていたらしい。

 影響範囲や出所を調べているところだそうで、クーデターはやめてくださいお願いしますということだった。

 とりあえず術式の原本をもらって、反抗魔法を完成させたので一安心。

 これでもうあんな気持ち悪いことにならなくて済むと、本当に安心した。

 

 そんなこんなで他にもいろいろあったけど俺とアイリスは予定通り無事結婚することができた。

 

 「どうかした?」

 

 彼女を見つめていると、視線に気がつかれたようだ。

 

 「君は今幸せかい?」

 

 「ええ!」

 

 満面の笑顔で彼女はそういった。

すまない。

読んでわかったと思うが、会場を脱出するところまでで、書きたいことは書ききってしまったんだ。

すまない。

蛇足を書いてたら思った以上に話が膨らみそうになってしまったので無理やり〆たんだ。

すまない。

いつか連載物にしてきちんと書くかもしれないがそれは今じゃないんだ。

すまない。


こんなのでも楽しんでもらえたならよかったと思う。

最近連載物が書けなく、というか途中でだれてしまうものが多すぎてね。もう。

応援もらえるときっと多分励むので、感想なんか書いてもらえるとうれしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 子爵令息 マジ勇者! ヒロインざまぁ♪
[良い点] 面白かった!
[一言] あぁ、言い方が悪かったですね。 細部というより、ヒロインに回りの人間が寝取られて(?)いく過程の追記や、最後のざまぁを会話を挟みながら描写を増やしてぶん投げ感を減らす、のようなことです。 …
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