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怪我  ブラウド様目線 

遅すぎてすみません。

 霧の出る魔草を探して彼女と一緒に登山。

 彼女の体力は本当にすごい。

 普通のご令嬢ならここまで付いて来られていないだろう。


「ブラウド様!これは?………あれはどうでしょう?」

「これは違いますが魔草なので持ってかえりましょう。あれは家の庭でもとれるのでとらなくて大丈夫です」


 彼女はニコニコしながら、これは?あれは?と目新しい草を見つけては俺の所に持ってきた。

 可愛い笑顔に俺がどんなに愛しく思っているかなんて彼女は知らない。

 ニコニコ笑顔の彼女は本当に楽しそうだ。

 二人きりならキスの1つでも、過ってくりだしてしまいそうに可愛い。

 ………そう、俺達は二人きりではない。

 諜報部員が付いて来ている。

 姿は見えないが二人きりではない。

 二人きりではないんだ!

 でも、これはジェイスが言っていた通り、デートだろ!

 ジェイスは最近ラブラさんと仲が良いみたいで………いや、たぶんラブラさんが何か企んでいるのに騙されて加勢しているのだろう。

 ラブラさんは独特な考え方で自分の思い通りにしてしまいそうな不思議な雰囲気があるから………

 

「ブラウド様?」


 いつの間にか目の前に居た彼女と暫く見つめあって驚いた。


「すみません!ボーッとしてました」

「………退屈ですか?」

「それはないです」


 彼女は安心したようにニッコリと笑った。

 ヤバイ。キスしたい。

 俺の欲望が溢れだしそうだ!


「ブラウド様、あそこから霧の壁が出来てます」

「じゃあ、近くにあるかもしれませんね」


 彼女は躊躇わずに霧の壁に歩みを進めた。

 その時、俺は彼女の足元に地面が存在しないことに気がついた。


「ナル‼」


 手を伸ばして抱き寄せたが浮遊感に襲われた。

 体制を無理矢理変えて自分が下になるように彼女を抱き締めた。

 落下するなかで、木の上に落ちているのが解る。

 背中いてぇ。

 次に来たのは地面。

 彼女は俺の上だが怪我をしていないだろうか?

 彼女の心配の後に激痛が体を駆け巡った。

 これはあばら骨何本かいってる気がする。


「………うっ………ブラウド様?ブラウド様!」


 彼女が慌てて俺の名前を呼んでいる。


「ナル、怪我は?」

「大丈夫です‼………ブラウド様は?」


 涙を瞳にいっぱいにした彼女の頬に手を伸ばす。

 腕は彼女を抱き締めていたせいか、動きそうだ。

 

「大丈夫。諜報部が側に居たはずだから、直ぐに見つけてくれますよ。」


 安心して欲しくて言った言葉に彼女の瞳から涙かこぼれ落ちる。


「誰か来ないと動けないぐらいヤバイの?……私のせいだよね」


 何時もと違う砕けたしゃべり方で彼女が自分をせめる。


「違うよ。自分が勝手に………勝手にやったことだ………」


 彼女の絶え間なくこぼれ落ちる涙を指でぬぐい、俺はゆっくりと体を起こした。

 驚く彼女の唇に自分のを重ね、彼女がさらに驚いたのを見ながら体を戻す。

 死にそうなほど痛いが、彼女の涙は止まった。


「イタタタタ…………ハァー………すみません。ですが、泣いてほしくない。まだ泣く気ならまたしますよ」


 彼女は真っ赤な顔で俺の胸に顔を埋めてしまった。

 可愛い。

 ってかやっちまった。

 嫌われたか………

 

「ブラウド様の馬鹿‼」

「………俺が、手を出さない方が良かったですか?」


 彼女は諜報部員が一目置く実力者だ、俺が手を出さなければ落ちる事も無かったかも知れない。


「違うの!ありがとう。だけど、一番怪我をしてほしくない人に怪我をさせちゃった………自分が許せない」

「………自分はナルを助けられて、満足しています」

「………馬鹿」


 そんな時だった。

 崖に成っている上から声がした。


「姫様~主~大丈夫っスか?」

「早く来て!ブラウド様を助けて‼」


 彼女の声に俺の抱えている諜報部員のノズチが俺のもとに降り立った。


「主!大丈夫ッスか?………治癒魔法かけた方がいいッスか?」

「……治癒魔法使えるのか?頼む」

「うっス!じゃあ、息吸ってくれッス」


 ノズチの言葉に息を吸い込んで俺は叫んだ。


「いぎゃゃゃゃゃゃゃゃ………」


 尋常じゃない痛みに失神しそうになるのを必死に絶えた。


「ブラウド様~‼」


 彼女がまた泣き出してしまった。

 悪びれるそぶりも見せずにノズチはニコニコしながら言った。


「俺、治癒魔法使えるけど苦手なんッス1時間ぐらいかけて治癒するのが普通なんッスけど俺、長時間魔力練れないから一発で魔力入れるんッス!たまにこれやって死ぬヤツいるんッスけど主が死ななくて良かったッス!」


 コイツ、後で殺そう。

 俺は殺意を浮かべながら意識を手離した。







 次に目を覚ますとベッドの上だった。

 右の傍らには彼女が規則正しい呼吸で寝息をたてている。

 看病してくれていたのだろう。


「叔父上、目が覚めましたか?」


 左の傍らにはジェイスが本を片手にイスに座っていた。


「あまりカーディナルを悲しませないでくださいよ叔父上」

「………すまない」

「好きな女を守る為に……なんて格好つけすぎですよ」

「………」


 俺が言葉につまるとジェイスは苦笑いを浮かべた。


「カーディナルは面倒臭い女ですよ?」

「彼女を悪く言うな」

「………目が覚めたなら俺はこれで、カーディナルはもう少し寝かせてあげてください。ずっと泣いていたから泣きつかれて、さっき漸く寝たんですよ」

「………」


 ジェイスはヒラヒラと手をふると、部屋を出ていった。

 そんなジェイスを見送ってから、そっと彼女に視線をうつす。

 彼女の真っ赤で長いツインテールにゆっくりと手を伸ばし、一束手に取る。

 絹のような艶のある髪。

 愛しい人。

 そんな彼女を悲しませてしまった。

 それでも、彼女を守れたことに安堵してしまう。

 ゆっくりと掴んでいる彼女の髪にキスをおとす。

 眠っている彼女に何をしているんだ………いたたまれない。

 彼女の頬に残る涙の跡に少しだけ優越感を感じながら彼女の頬にふれると、彼女のエメラルドのような瞳がゆっくりと見開かれた。


「………ブラ…ウ…ド様?」

「泣かせてしまってすみませんでした」


 俺は彼女の頭を優しく撫でた。

 次の瞬間、彼女の瞳からまた涙が溢れてこぼれ落ちた。


「ブラウド様~」


 彼女は感極まったように俺に抱きついた。

 俺は彼女が泣き止むまで背中を撫でることにした。


「ごめんなさい。私のせいで怪我までさせてしまって………」

「気にしないで下さい。ナルが無事で良かったです」


 俺は彼女の頬に流れる涙を拭った。

 その瞬間、彼女の顔が真っ赤に染まった。

 可愛い反応に思わず彼女の唇に自分のを重ねようとしてしまった。

 

 ガタンガタン……「ゲブゲフ」


 突然の物音は天井裏からだ。

 諜報部員達は本当にいい仕事をする。

 俺はゆっくり彼女の頭を撫でる事でキスがしたいと言う欲求を押さえ込んだ。


「………泣かないで下さい。自分は大丈夫ですから」

「………」


 彼女は心配そうな顔ではあったが涙は止まったようだった。

 俺は苦笑いを浮かべて彼女の頭を撫で続けたのだった。


いろいろやらかしちゃいました(合掌)

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