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白ウサギのアルハー

作者: 加藤貴敏

白ウサギのアルハーには、4匹の兄が居ました。

アルハーは4匹の兄と比べ、とてものんびり屋でした。

朝起きるのも1番遅い、歯磨きを終えるのも1番遅い。

朝ご飯を食べ終えるのも、服を着替えるのも、学校へ行く支度をするのも、全部1番最後でした。

ある日、お父さんウサギが釣りから帰ってきて、釣った魚を夕食に出した時、のんびり屋のアルハーが取ったのは、1番小さな魚でした。

それを見兼ねてお母さんウサギは言いました。

「のんびりしてると、損をするわよ?」

しかしアルハーは兄達を見ても、むしろ笑顔を浮かべてこう言いました。

「お兄ちゃん達が嬉しそうに笑ってる方が、僕も嬉しい」

するとお母さんウサギは嬉しくなり、「優しい子ね」と、アルハーの頭を優しく撫でました。


長男のロンはせっかちな性格でした。何をするにも1番でやりたがります。

ある日ロンが間違えてアルハーの服を着てしまった時も、アルハーは何も言いませんでした。

それに気が付いたお母さんウサギはアルハーに言いました。

「気付かせてあげるのも大事なことよ。どうして言わなかったの?」

ロンはすでに学校へ向かうのにお家を出てしまっていましたが、それでもアルハーは慌てず、こう言いました。

「ロン兄ちゃんが着たいと思って選んだなら、それでいいと思ったんだ」

お母さんウサギは心配そうに微笑むと、頭を優しく撫で、アルハーを学校へ送り出しました。

ある日、学校の給食を食べている時にロンは自慢げに言いました。

「オレは将来、シェフになるんだ。アルハーの夢は?」

「僕は・・・」

アルハーは答えられませんでした。

のんびり屋な上に将来なりたいものもない。

そんなアルハーに、ロンは言いました。

「のんびりでもいいけど、将来の事を考えたら1秒だって無駄には出来ない。だからいつも将来の事を考えるべきだ」

そう言うとロンはせかせかと、誰よりも早く給食を食べ終えました。

学校が終わり、5匹の兄弟は一緒にお家に帰ります。

横断歩道の前で立ち止まり、みんなは信号を見上げます。

道路には馬や牛などが行き交っていて、万が一ぶつかってしまうととても大変です。

やがて道路の信号は点滅し、赤になるといよいよ歩行者信号が青になります。

そして道路の信号が赤になった時、ロンは誰よりも早く横断歩道に飛び出ました。

しかし次の瞬間、ロンは駆けてきた牛にぶつかってしまいました。


病院のベッドに座るロンに、お母さんウサギは言いました。

「道路の信号が赤になっても、ちゃんと右と左を見なさいって学校で習ったわよね?」

「ごめんなさい」

包帯が巻かれたロンの頭を優しく撫でると、お母さんウサギはロンを抱きしめました。

それからお母さんウサギがアルハー達を連れて病室を出ますが、やっぱりアルハーは1番最後でした。

心配そうにロンを見るアルハーに、ロンは照れ臭そうに言いました。

「ちょっとせっかち過ぎた。目の前の事も見ないとだめだな」

「でも、夢があるロン兄ちゃんは、僕の憧れだよ」


次男のヘリンは兄弟の中で、1番欲張りでした。

お母さんウサギがポテトサラダを作ると、ヘリンは兄弟の中で誰よりも多く取りました。

そのせいで1番遅いアルハーは、兄弟の中で1番ポテトサラダの量が少ないのです。

しかしアルハーは何も言いませんでした。

その日の夜、洗い物をしながら、お母さんウサギは言いました。

「大人になったら、誰も分けてはくれないのよ?」

するとアルハーは少し考えて、こう言いました。

「ヘリン兄ちゃんが沢山食べられるのは、僕が分けてあげてるからだよ」

お母さんウサギはますます心配になりましたが、嬉しそうに微笑むアルハーの頭を優しく撫でると、黙って洗い物を続けました。

ある日、アルハーはヘリンに聞きました。

「ヘリン兄ちゃんの夢は何?」

「オレは、そうだなぁ、社長だな」

「何で?」

「そりゃあ1番給料が高いからさ。アルハーは?」

しかしまた、アルハーは答えられませんでした。

そんなアルハーに、ヘリンは言いました。

「お金も食べ物も、沢山あった方がいいに決まってる。のんびりでもいいけど、貧乏じゃしょうがないからね」

ある夜、アルハーは明日の遠足の支度をしていました。

他の兄達はもう支度を終え、寝ています。

遠足のしおりに書いてある持ち物リストを見ながら、アルハーは満足の出来る支度を済ますと、ようやくベッドに入りました。

そして朝が来ると、ヘリンはアルハーのリュックを見て驚き、言いました。

「アルハー、そんなに少ないお菓子でいいの?」

「うん。必要な分は入れたよ」

「おいおい、ヘリンのリュックが大きすぎるんだろ」

そう言って笑うと、ロンは誰よりも早く洗面所へ行って歯磨きを始めました。


兄弟をひとりずつ抱きしめると、お母さんウサギは5匹を遠足へ送り出しました。

大きなリュックを背負っているヘリンは、最初はロンと一緒にいました。

しかしリュックが重たいせいか、少しずつみんなに抜かれていきます。

そして最後にはアルハーの隣まで来てしまいました。

するとアルハーと一緒に居る羊のハンナ先生は言いました。

「そんなに大きなリュックじゃ大変でしょうに」

しかしヘリンは言いました。

「大丈夫だよ、食べちゃえば軽くなるんだから」

「けど、お昼ご飯を食べるのはあの丘の上よ」

それから先生達と子供達は丘を登り始めました。

1番乗りで丘の上に着いたのはロンでした。

後に続いてクラスのみんなが丘を登っていきます。

そしていよいよ残されたのは1番後ろのアルハーとヘリン、ハンナ先生です。

しかしそんな時、石ころを踏み外して、ヘリンは転んでしまいました。

「ヘリン兄ちゃん」

「いたた・・・足、くじいちゃった」

ヘリンをおんぶし、ヘリンのリュックを持ち、ハンナ先生は言いました。

「欲張り過ぎちゃだめよ?」

「うん・・・ごめんなさい」

お母さんウサギが作ってくれたお弁当も食べ終え、いよいよお菓子の時間です。

しかしヘリンは困った顔をしました。

そんな様子を見て、アルハーは聞きました。

「どうしたの?」

「沢山ありすぎて食べきれないや。これじゃ、帰りも重たいままだよ」

それを聞いて、ハンナ先生は言いました。

「お母さんのお弁当の事まで考えてなかったのね」

「やっぱり、欲張りなのがいけなかったよ」

するとアルハーは笑顔を浮かべて言いました。

「ヘリン兄ちゃんが欲張りなのはいいことだよ」

「どうして?」

「いっぱい持ってるって事は、沢山の人に分けてあげられるってことだから、ね?先生」

「そうね。ヘリン、みんなに分けてあげて?」

「うん!」

それから、しばらくして足もだいぶ良くなったヘリンは笑顔で、アルハーと丘を下っていきました。


とある日、お家のお庭で育てているニンジンを収穫するお母さんウサギを、5匹の兄弟は手伝っていました。

そこでロンは得意げに言いました。

「ニンジンは真っ直ぐ真上に引っこ抜くのが1番早いんだ」

すると三男のマシューはロンの真似をして、ニンジンを真上に引っこ抜きました。

しかしその隣で、ヘリンは言いました。

「捻りながら抜いた方が、土と離れやすいよ」

するとマシューはヘリンの真似をして、ニンジンを捻りながら抜きました。

ニンジンの収穫を終えると、次は種まきです。

ミミズのエサを撒いてから、水を撒いて土を湿らせた後に、ロンは言いました。

「種を蒔いたら、少しだけ土を被せるだけでいいんだ」

マシューはロンの真似をして、一粒の種を置くと優しく土を被せました。

しかしその隣で、ヘリンは言いました。

「蒔いたらギュッて押した方が、水を撒いた時に種が流れないでしょ」

するとマシューはヘリンの真似をして、一粒の種を置くと土を被せてギュッと押しました。

そこにお母さんウサギがやって来て言いました。

「ヘリン、ギュッてしなくてもいいのよ。水は優しく撒けば種は流れないわ」

「え、そうだったんだ」

手持ちの種を1番早く撒き終えたロンはせかせかとお家に戻っていき、手持ちの種を1番多く持っていたヘリンもお家に戻っていきました。

最後に残ったのはやっぱりアルハーでした。

アルハーはロンとヘリンの話を鵜呑みにせず、お母さんウサギから聞いたやり方を続けていました。

そんな時、お母さんウサギはアルハーに聞きました。

「マシューに、ヘリンの話は間違いだと言わなかったのはどうしてかしら」

するとアルハーは少し困った顔で言いました。

「2人の話を聞いて迷ってたのに、話をするのが3人になったらもっと迷っちゃうと思って」

お母さんウサギは、少し困っていました。

三男のマシューは、周りの目ばかりを気にする、自分に自信の無い子だったのです。


とある日、アルハーとマシューは友達のオポッサムのジャリーと一緒に、昆虫採集に出掛けました。

道すがら、ジャリーは穴を掘ってカブトムシの幼虫を捕まえて食べました。

ジャリーが笑顔で美味しいと言うと、それを真似してマシューも穴を掘り、カブトムシの幼虫を捕まえます。

それからジャリーが木に登り、樹液を木の皮で掬って舐めると、マシューも木に登り、木の皮で樹液を掬います。

大きな木の根っこに座り、一休みしている時、アルハーは聞きました。

「ジャリーは、将来何になりたいの?」

「ボクはね、虫が好きだし、昆虫コレクターかな。アルハーは?」

「僕はまだ分からないんだ」

するとマシューはアルハーに聞きました。

「それはどうして?」

「だって、確かに将来の事を考えるのは素敵だと思うよ。けど僕は、将来よりも今が幸せかどうかの方が気になるんだ。今が幸せなら、今の積み重ねで出来る将来もきっと幸せだと思うから」

するとジャリーは大きく頷き、虫かごの中に居る捕まえたイモムシを見て笑顔を浮かべました。

「好きな事で出来た将来は、きっとすごい楽しいよね」

「マシュー兄ちゃんの夢は?」

アルハーもお母さんウサギと同じように、マシューの自信の無さに気付いていました。

しかしアルハーの質問には、マシューは空を見上げて笑顔を浮かべ、こう言いました。

「今はまだ分からないけど、好きな事で出来た将来、ボクも作りたい」


とある日、明日のテストの為に、5匹の兄弟は予習勉強をしていました。

教科書とノートを1番早く片付けたのはやっぱりロンでした。

しかしロンは四男のヨーゼも勉強を終えていた事に驚きました。

そんなロンに、ヨーゼは得意げに言いました。

「予習なんてしなくたってオレは平気さ」

次の日、テストが終わり、採点結果が返ってくると、ヨーゼは50点でした。

お家に帰り、5匹はテスト用紙をお父さんウサギに見せました。

ロンは80点、ヘリンは90点、マシューは70点、アルハーは40点でした。

お父さんウサギは最初に、アルハーのテスト用紙を見て、何も言わずに小さく頷きました。

何故なら、アルハーは解答欄の半分以上を、そもそも書いていなかったからでした。

お父さんウサギは次にヨーゼのテスト用紙を見て、言いました。

「ヨーゼ、もしかして予習しなかったのかい?」

「うん。オレは予習しなくたって点数取れるからさ」

「ロンとヘリンの方がいい点じゃないか?」

するとヨーゼは得意げに言いました。

「予習してない人の内じゃ、オレは高得点さ」


次の日、クラスに転校生がやって来ました。

カメの転校生、ヨーローはアルハーのようにのんびり屋でした。

そのお陰で、アルハーとヨーローはすぐに仲良くなりました。

それから給食を食べ終わった後、ハンナ先生はクラスのみんなに言いました。

「それじゃあみんな、ボランティアを勉強する課外授業で、何をやるかを決めましょうね」

ハンナ先生が老人ホームへ行きたい子は手を挙げてと言うと何人かが手を挙げました。

次に公園のお掃除をやりたい子は手を挙げてと言うと、アルハーは手を挙げました。

そして次の日、公園に集まった子供達の中にはアルハーとヨーロー、ヨーゼが居ました。

アルハーとヨーローを見て、ヨーゼは言いました。

「2人はのんびり屋だからな、お掃除はオレに任せなよ」

すると付き添いで来た、熊のモリア先生は言いました。

「みんなでやるのがボランティアだぞ?」

しかしヨーゼは得意げに言いました。

「でもオレお掃除得意だから、すぐ終わっちゃうさ」

それから子供達は公園をお掃除し始めました。

子供達の中で、やっぱり1番遅いのはアルハーとヨーローでした。

それに比べて、ヨーゼはゴミ拾い、花壇の雑草抜き、ベンチの拭き掃除と、子供達の中でも沢山働きました。

そんなヨーゼを、モリア先生は褒めました。

しかしその後、モリア先生はこう言いました。

「見てごらん。アルハーとヨーローがお掃除した花壇を、すごいキレイだろ?」

ヨーゼは言葉が出ませんでした。

モリア先生の言う通り、ヨーゼがお掃除した花壇よりも、アルハーとヨーローがお掃除した花壇の方がキレイになっていたのです。

それからモリア先生は言いました。

「もちろんヨーゼの働きはすごい。でもね、大事なのは誰がやるかじゃなく、何をするかなんだよ」

「どういうこと?」

「例えのんびり屋で、お掃除に時間がかかっても、こんなにキレイにお掃除してくれた方がお花も喜ぶだろ?花壇をキレイにするというのはお花の為にやる事だ、仕事が出来る事を自慢する為にやる事じゃない」

ヨーゼは落ち込みました。

改めて自分がお掃除した所を見ると、ゴミも拾い残しがあり、ベンチも細かい所までは拭かれていませんでした。

ヨーゼは悲しくなり、涙を浮かべました。

するとそんな時、アルハーが来て言いました。

「ヨーゼ兄ちゃん、ありがとう」

「え?」

「ヨーゼ兄ちゃんが他の所をやってくれてたから、僕は花壇をずっとお掃除出来たよ」

するとヨーゼはアルハーに気付かれないように涙を拭いてから、笑顔を浮かべました。


とある日、お母さんウサギはお庭で本を読んでいるアルハーを見つけました。

お母さんウサギはアルハーがどうしてそんなに優しい子なのか、気になってました。

そこで、お母さんウサギは聞きました。

「アルハーの、将来なりたいものは何かしら?」

するとアルハーは言いました。

「将来の事は考えなくてもいいかな」

「それはどうして?」

お母さんウサギが聞くと、アルハーは笑顔を浮かべて言いました。

「僕、優しい心が持てればそれでいいから。心がキレイだったら、それだけで何があってもうまくいくから」

それからお母さんウサギはアルハーの頭を優しく撫でると、一緒に本を読み始めました。




おしまい





読んで頂きありがとうございました。



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